Movie Review!-ナ行

ナイト・ウォッチ/NOCHNOY DOZOR
ナイト・オブ・ザ・リビングデッド
ナイトクローラー
ナイト ミュージアム
ナイト ミュージアム2
ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密
ナイトメア・アリー
ナイトメア・ビフォア・クリスマス
ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密
ナイブズ・アウト:グラスオニオン
ナイル殺人事件(2022年版)
9 〜9番目の奇妙な人形〜
NINE
長ぐつをはいたネコ
失くした体
ナショナル・トレジャー
ナショナル・トレジャー/リンカーン暗殺者の日記
ナチョ・リブレ 覆面の神様
ナバロンの要塞
ナポレオン
ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女
ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子の角笛
ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島
21グラム
28日後...
28週後...
2001年宇宙の旅
2012
ニック・オブ・タイム
2分の1の魔法
ニュー・シネマ・パラダイス
ニュールンベルグ裁判
ニンフォマニアック Vol.1
ニンフォマニアック Vol.2
ネイバーズ
ネオン・デーモン
ネバーエンディング・ストーリー
ネバーランド
ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅
眠れる森の美女
ノア 約束の舟
ノーカントリー
ノートルダムの鐘
NOPE/ノープ
野のユリ
ノマドランド


邦題
満足度
感想
ナイト・ウォッチ
NOCHNOY DOZOR
6
光の種族と闇の種族の闘いを描いたロシアのダークファンタジー。
ロシア映画というよりはハリウッド映画のような見せ方には面白みも感じるけど、まだちょっと荒削りというか安っぽい印象も受ける。しかしダークなビジュアルなどは低予算と思えばかなり上手くできているかな。ただ世界観はよく耳にする手合いのものだし、ストーリー的な新鮮味は乏しかった。確かに序盤に後半への伏線が張られているし、構成もそんなに悪くはないんだけど…。
そうそう、“不幸の女”は話のクライマックスかと思ったら違ったんだね、てっきりそう思ってたんで「私なんて呪われろ!」と聞いた時にはコケそうになったけどw 本当のクライマックスはその後か。3部作構成なので、主人公とその息子がどうなるのか、続編も観たいとは思いました。
ナイト・オブ・ザ
リビングデッド

(1968年制作)
8
父の墓参に来た兄妹だったが、生ける屍が忍び寄り兄が殺されてしまう。妹のバーバラは這う這うの体で近くの民家に逃げ込むが…。
ジョージ・A・ロメロの映画監督デビュー作にしてゾンビ映画の原点ともいえる作品。“生ける屍”のことを日本語字幕では「ゾンビ」と表示していたりするものの、言語ではタイトルの様に別の呼称で表現しているね。それはともかく人を襲って食らう生ける屍という“ゾンビ”のイメージを強烈に印象付けるには十分な作品だった。妙なカットのつなぎやピンボケもあったりして基本的に低予算映画の臭いがプンプン匂うものの、全編白黒という画面がいい意味でクラシカルなホラー風味を醸し出している。低予算な感じが逆にいい味になっている印象ですな。
ゾンビの集団に包囲された家に人間が立てこもるのがメインプロットだけど、その人物構成は皮肉が効いている感じ。リーダーシップを発揮する黒人、利己主義気味な白人のオヤジ、話の分かる若者たち、心神喪失した女、けがをした娘とその母…。ラジオやテレビから伝わる危機的状況の中、正しい選択とは何なのかという葛藤が当時のアメリカの空気を風刺しているように感じられて興味深い。特に黒人のベンの扱いは、ラストにゾンビと誤認されて射殺され焼却処分されるという…、60年代のアメリカでこれは痛烈だよなあと思った。
ナイトクローラー

(2014年制作)
8
ロサンゼルスの事故や犯罪を撮影するフリーランスのカメラマンとなった主人公は、毎夜刺激的な映像を求めて活動するが…。
ここまで倫理観に共感できない主人公というのも珍しい。刺激的な映像を得るという目的にブレが無い。その行く末に見える彼の自己顕示の膨張が空恐ろしく感じられるが、そのために起こす数々の倫理的に逸脱した行為に迷いがないというのは、まさに本当の意味での確信犯と言って差し支えないだろう。
そんな彼のキャラクターを冒頭の1シークエンス(盗んだ金網をスクラップ屋に売るまで)で表現してしまう演出の手際の良さが良いね。他にも彼の“狂っている”という表現には枚挙にいとまがないが、静かで、的確だ。ジェイク・ギレンホールの演技は見事だけど、役者としては演じ甲斐があるだろうな。観ている側としてはとにかく主人公に共感できないのだけれど、そういったキャラや演出が故にグイグイと画面に引き込まれた。しかも彼は劇中で社会的制裁を受けないというのが、作品として一貫してていい。
狂っているのは主人公だけではない。彼の映像を買うニュース番組のディレクター(レネ・ルッソ)も同類だろう。むしろ“悪”とは何かを考えた時には、金を与えることで彼に対する追認と社会的承認の快感を与えているといえるだけに、彼女の方が“悪”ではないかと思う。さらに言うと、そのような映像に視聴率という見返りを与えている大衆こそが最も“悪”かもしれない。
先にも書いた通り主人公は社会的制裁を受けなかった。それが大衆の下世話な欲求の裏返しであり、大衆によって承認された存在なのだという事実を突きつけられているようで、そこが最も居心地悪く感じる要因なのではないかと思った次第。
ナイト ミュージアム
(2006年制作)
7
どんな職も長続きしない主人公が次に選んだ仕事は自然史博物館の夜警。しかしその博物館では夜ごと展示物が動き回るという秘密があった。
子供心には特にこういう空想をすることがあるけど、実際に目の当たりにすると楽しいもんですな。一応親子の話を入れてテーマみたいなモノはあるけど、でもやっぱりアイディア先行型の作品なので後付けした感じはする。その辺は“ベン・スティラー映画”ということでこういうもんだろと納得してしまうけどね。兎にも角にも、動き回る展示品に振り回されるベン・スティラーが可笑しいのです。
あとはルーズベルト大統領に扮したロビン・ウィリアムズとのやりとりや、ミニチュアの西部開拓カウボーイとローマ皇帝とのやりとりも爆笑とはいかないまでも思わずニヤっとしてしまうところはある。猿とのどつき合いも面白かったw ま、でも大人向けというよりはやっぱり子供向けの映画の枠からは出ないが。
しかしオーウェン・ウィルソンはクレジットなしなのに目立つ役だったなあ。まあ、仲良しベン・スティラーの作品だもんねw
ナイト ミュージアム2
(2009年制作)
7
夜な夜な博物館の展示部が騒動を巻き起こすコメディの第二弾。
舞台がスミソニアン博物館(夜の警備が無人過ぎる気がするが)になってスケールも大きくなっている。だけどストーリー展開は「これがこんな具合に動きだしたら面白いだろうな」というネタを強引に羅列したようなパーツの細切れ感が残っているかな。なので話の繋ぎ部分で勢いが弱まってしまっていまいち興奮が続かない。まあ、それでも一つ一つのネタはそれなりに面白いけどね。
今回の悪役は古代エジプト王のカームンラー。ハンク・アザリアがベン・スティラーとの掛け合いを楽しんで演じている様で良い。ダース・ベイダーがゲスト出演するのは嬉しかったけど、顔見せ(声も発しない)程度だったのはファンとしては残念かなあ。小さい人形のジェデダイアとオクタヴィウスが「300」ばりのアクションを見せるシーンは爆笑したw(でもほとんど効かないw)
逆にジョナ・ヒルとジョナス・ブラザーズの場面は、彼らの知名度からすると日本人(特に観客層の子供)には難しいか。ベン・スティラーとジョナ・ヒルの掛け合いなんて、コメディ畑の先輩後輩の共演で興味深いんだが。
ナイト ミュージアム
エジプト王の秘密
(2014年制作)
7
夜な夜な博物館の展示部が騒動を巻き起こすコメディの第三弾。
今回の舞台は大英博物館!世界最大の博物館だし、さぞ派手な展開に…と思ったらそうでもない。話に絡む新キャラの数も控えめで、むしろ賑やかさで言えば2の方があったかもしれない。けど、シリーズの完結編としては1作目のネタも絡ませて原点回帰した感じもあり、悪くないかな。そういう意味で、公開前に他界したミッキー・ルーニーとロビン・ウィリアムズがシリーズの幕引きにちゃんと出られたことは、感慨深いものがある。
特にテディを演じたロビン・ウィリアムズは、主人公・ラリーとの別れの言葉"Smile my boy. It's sunrise."がどこか画面のこちら側に語りかけてくるような錯覚をしてしまって…、なんか泣けてくるよ。笑うさロビン。ありがとう。
ところで本作では驚きのカメオ出演が。展示物のランスロットがロンドン市街を駆け回り、たどり着いた先の劇場で…まさかのアーサー王を演じるヒュー・ジャックマン(本人役)とご対面!「これはニセモノで…」と色々説明する様子がおかしいし、ウルヴァリンのポーズをしたシーンで一瞬劇伴が「X-MEN」の曲の様になるのもご愛嬌。遊んでるねw あとは定番のドタバタな感じの話だったけど、ジェデダイアとオクタヴィウスの小さい冒険はいつも通り面白い。“イペンポ”ってw 通風孔での「手をつないでくれ」もアドリブだったそうだけど、このコンビは実に良い感じです。それだけに、エンディングで博物館の外から眺めるラリーの気持ちの様にシリーズが終わるのは少し寂しさもあるかな。
ナイトメア・アリー
(2021年制作)
7
1939年の米国。遺体と家を焼き旅に出た主人公・スタンは巡回中のカーニバルで働くことになる。そこで読心術を学んだスタンは、2年後には上流階級相手のショーを行えるまでに読心術師としての名声を得ていたが…。
オタク監督のギレルモ・デル・トロ監督といえばファンタジーやSF要素、そして独特なクリーチャーのデザインセンスで作家性が確立しているけど、本作はそういう部分は控えめな純然たるノワール作品。まあホルマリン漬けの赤ん坊の造形や、カーニバルの見世物小屋のデザインには“監督らしさ”が垣間見えるかw でも考えてみれば舞台となる1940年前後という時代も監督が好きそうな設定ではあるかな。今までの作品も20世紀の初頭から中盤までが舞台のものが多かったし。いずれにせよ、ジャンルが違っても「やっぱりギレルモ・デル・トロ印だなあ」と思える作品になっているところはさすが。
ストーリーは一人の男の成り上がりの背景と没落を描いたドラマだけど、“幽霊ショー(Spook Show)”を行うことによる罪が話の軸になっている。主人公がかつて読心術を学んだ相手は“幽霊ショー”の罪悪感からそれを封印し、一方で主人公は相手の心理を利用する“幽霊ショー”で荒稼ぎしていく(いわば詐欺)という対比で構成されていて、それがために主人公は因果応報の結末を迎えることに説得力が与えられている。でもそれ以上にこの話が皮肉なのは、序盤で単に当時の見世物小屋的なカーニバルという舞台背景の説明かと思っていた“獣人ショー”が、実は主人公の顛末と直結していたことだね。このオチにはゾクゾクしたなあ。ラストで獣人ショーを持ちかけられて「ああ…それが自分の宿命だよ」と語った主人公の悲しみとも安堵とも取れるような表情は、それまでに父を死に追いやり、幽霊ショーによって多くの老人の心の隙間につけ込んできた男の背景と心情に裏打ちされたとても深い表情だったと思う。
そんなわけで映画のラストには大変ゾクゾクさせられました。でも2時間半という尺は…正直言って観ている間は長さを感じたかな。観終わってみれば「この男の顛末を語るには必要な長さだったのだ」とは思うけれどね。
ナイトメア・ビフォア
・クリスマス

(1993年制作)
9
ハロウィン・タウンのカボチャの王様・ジャックは、代わり映えしないハロウィンの繰り返しに虚しさを感じていたが、ひょんなことからクリスマス・タウンに迷い込んでしまう。
ティム・バートンのデザインセンスが色濃く表れた世界観が観る者を引き付けるが、陽気さと不気味さが絶妙な按排で両立しているジャックのデザインはとても素晴らしい。他の脇のキャラクター達にしても、いずれもすごく個性があって良い。そして何より、クレイアニメーションという古典的な人形劇をして、ミュージカルに仕立ててしまう演出力。ヘンリー・セリック監督の演出とダニー・エルフマンの曲が、生き生きと歌い踊り回る人形たちを見事に描き切っているよね。
その一方で、ハロウィン・タウンの住人達は、お化けや化け物の町のセンスらしく意図を勘違いしたまま不気味さの漂うハロウィンっぽいクリスマスに突き進んでしまうわけだが、そこは完全にファンタジーなようでいて人間の町では軍隊が出てきたりする。そのへん、妙に現実感というか生々しい感じもして、個人的にはちょっと違和感もあるかな。とはいえハロウィンの住人がクリスマスを乗っ取ることは“畑違い”であったということを自覚したジャックは一時誘拐したサンタクロースと和解するわけで。そういう異形の者を愛でながら「人それぞれなんだ」というテーマが見えるあたり、ティム・バートンの作品って感じですな。
ところで、この映画でひどい目にあったサンタクロース。ブギーに殺されかけたとはいえ…その正体を踏みつぶすとは、露骨な復讐でビックリ。怒らせると怖いなw でも最後はハロウィン・タウンに粋なプレゼントをしたりして、やっぱりいい人だ。
ナイブズ・アウト
名探偵と刃の館の秘密

(2019年制作)
9
ベストセラー作家の富豪が死んだ。自殺とみられたその事件だが、匿名の依頼によって"紳士探偵"ブノワ・ブランが調査に乗り出す。
豪華な屋敷で起きた殺人事件。容疑者となった屋敷の関係者。犯人の動機は怨恨?遺産?それとも不幸な事故の偽装? そして名探偵登場。
アガサ・クリスティーのミステリ作品を彷彿とする"探偵モノ"だが、それでいてそのジャンルの"お約束"という観客の期待を裏切らない範囲で予想を裏切っていくスタイルが至極痛快。オーソドックスな導入から始まり、容疑者の自己弁護的な証言を見せて「これは『藪の中』でもやるのか?」と構えさせたと思ったら、犯人の偽装にまつわるコメディチックな展開になり、さらには遺産絡みで登場人物の思惑が錯綜…。ここまで二転三転されると先が読めないが、すべて冒頭からの筋道や伏線が明快に張られているので気持ちいい。作品の雰囲気は20世紀前半のミステリー小説なのに、舞台は現代だし話の背景にアメリカの移民問題が含まれているのも今日的。しかもこれを監督がオリジナル脚本として作り上げたというのだから恐れ入る。観客としてライアン・ジョンソン監督の手の上で見事に転がされつつ、楽しませてもらった。
探偵役のダニエル・クレイグは今や定着したジョームズ・ボンドのイメージが強いが、紳士然とはしているものの南部訛りだったり、横にいる(わけありの)助手に証拠隠滅されたりと、どこか抜けた感じがイメージとのズレを起こしていて興味深い。まあ実際には靴の血痕から目をつけていたということなので、見るべきところは見ているのだが、超人的な探偵ではないのが良いね。そしてクリス・エヴァンスも彼のイメージをうまく利用した役どころで面白い。キャプテン・アメリカという強烈なイメージが背景にあり、エヴァンスが演じるランサムの「看護師を助ける」という行為が見る側の中で「善意か悪意」かに無意識のブレを生ませる。結局のところ真性のクズ野郎なわけだけど、そういう“観る側の期待”を逆手に取った演出が、この作品の場合は鼻につかない範囲でとても効果的に効いていて面白いと思ったのです。
ナイブズ・アウト
グラスオニオン

(2022年制作)
8
"紳士探偵"ブノワ・ブランの活躍を描いたシリーズ第二弾。手の込んだ招待状で招かれた一行がギリシャの孤島で殺人事件に遭遇する。
現代が舞台だけどやっぱり描かれるのはオールドスクールな探偵モノ。でも前作から変わらぬ軽妙なストーリー展開は、観る側を飽きさせずに楽しませてくれます。舞台は絶海の孤島というベタなクローズドサークル…かと思いきや、部外者が一人背景をうろついているじゃないかw そういうノリが面白くて好きですよ。
探偵モノであるので観客は自然と犯人探しの行方が気になるわけだけど、伏線とそれっぽい見せ方にも映像的なウソを重ねて“イメージ”と“実際”を意図的に変えて見せている部分には、「あーそうだったのか」と思いつつも「ちょっとズルいな」と感じる部分もあったかな。それでも“犯人の誘導”とそのイメージだと言われたらそうなので、まあ作品のスタイルと言われたらアリだとは思う。謎解きよりはキーマンであるジャネール・モネイ演じるアンディ(ヘレン)の立ち回りの「実は…」の部分がこの映画最大の仕掛けだし、個人的には探偵モノとしては前作のほうが楽しませてもらえていたかもしれない。今作も面白かったけどね。
エドワード・ノートン演じるハイテク企業の創業者にして億万長者というマイルズ・ブロンのキャラクターは類型的なものだけど、“それっぽい言い回しをしているだけで実はバカ”というのがイジワルな脚本だなあとは苦笑してしまった。水素爆発を「ヒンデンブルク」と表現するのはもちろんあの飛行船事故のことだけど、米国ではやっぱり常識なのだね?
ナイル殺人事件

(2022年制作)
8
アガサ・クリスティの名作小説をケネス・ブラナーが監督したミステリー映画の第2作。
前作の感想で「ぜひとも『ナイル殺人事件』のブラナー版も観てみたいと思えるクオリティでした。」と書いたのだけど、その期待に応えてくれる作品だったね。原作の「ナイルに死す」については未読ですが、デヴィッド・スーシェのドラマ版は観ているのでトリックも結末も知った上での本作の鑑賞です。どちらかというとケネス・ブラナーならどういう味付けの演出をしてくるのかという興味の方が強かった感じです。そして観たわけですが、クラシックな舞台設定は変わらないけどどこかモダンな雰囲気が現代的で、作品としてはドラマ版よりもちろん派手だしドラマチックに感じる。前作「オリエント急行殺人事件」から地続きの続編としてブラナー監督のケレン味が効果を発揮しているからだろうね。「ブラナーが監督するとシェークスピア劇の様だ」という意見も目にしたけど、それもまあ分かるw 登場人物の設定や役割に関しては若干の変更はあれどノイズにならない範疇で再構成しているし、もちろん根幹となるトリックや結末は変わらない。
「愛ゆえに」という大テーマで話を貫いているわかりやすさも良かったな。この「愛」という点については、この事件に関係する登場人物だけならともかく、さらにポアロの過去にまで言及しているのがブラナー監督の味付けってやつですね。ポアロの愛の喪失を描くことでキャラクター達とテーマ全体の統一感を出し、併せて(前作でもかなり立派だと話題になった)ポアロの髭の形の理由付けにも使うとは上手いこと考えたもんだと関心しました。
ラストにその髭を落としたポアロの姿が描かれるけど、これはどう解釈すべきかな。素直に受け取るなら過去の愛に区切りをつけたとも取れるけど、ブラナーのポアロというキャラクターの終幕という気もする。何にせよこのポアロの中でなにか区切りがついたことは間違いない。

〜9番目の奇妙な人形〜

(2009年制作)
7
人間が絶滅した廃墟の世界で、麻袋で作られた小さな人形達と機械の獣との闘いを描いたダーク・ファンタジー作品。
元々短編のCGアニメだった本作を、製作のティム・バートンが見初めて長編になったという経緯がある本作。なるほど、その造形や世界観はいかにもティム・バートンが好きそうなものだった。個人的には人形達の造形はゲーム「リトルビッグプラネット」のリビッツを思い浮かべたけどね。でも確かにその人形達は魅力のある造形だと思う。敵である機械の獣も不気味さがあって良いし。
ただしストーリーは元の短編を膨らませた世界観に基づくものなので、どうもその割増分はアクションシーンに頼りがちの様にも感じられる。人形達が魂を持っている理由や、人間が滅んだ理由等も語られるけど、その辺はボカしたままの方が想像力がかき立てられて良かったんじゃないかなあ?まあ、ダーク・ファンタジーの中でもある種のアクション映画として観れば、なかなか見所はあったけど。
でもこの作風でストップモーション作品ならもっと評価できたかもしれない。これがCGアニメで作られたというのは一つの時代的なものなのかな。(あえてストップモーションの様な動きのCG作りにしているところから、先達への敬意は感じられます。)
NINE

(2009年制作)
6
フェリーニの「8 1/2」を元にしたブロードウェイ・ミュージカル「NINE」の映画化作品。
監督は「シカゴ」のロブ・マーシャル。だけど俺は「シカゴ」の様には楽しめなかった。基本的な筋書きが、脚本案が浮かばない悩める監督・グイドの女への妄想を描いたものだし、原作がそうである様に登場人物達の話が割と細切れなので、いまいち乗り切れないんだよなあ。出演者がグイド役のダニエル・デイ=ルイスを始め、ケイト・ハドソン、マリオン・コティヤール、ペネロペ・クルス、ニコール・キッドマン、ジュディ・デンチ、そしてソフィア・ローレンとひたすら豪華なだけに、何だか勿体ない。
ジャンルもミュージカルなのだけど、ケイト・ハドソンが歌う"Cinema Italiano"(これは素晴らしいノリでした)以外はあまりピンと来ず…。まああまり波長の合わない作品でした。
展開は元である「8 1/2」と同じものもあれば違う部分もあるけど、全体的には映画の創作課程での、監督業における自嘲的な描写が少なくなっていたのが物足りなかったかな。
長ぐつをはいたネコ

(2011年制作)
8
CGアニメ「シュレック」の脇役、"長ぐつをはいたネコ"を主人公にしたスピンオフ作品。童話「ジャックと豆の木」を話に絡め、ネコの出生や悪友ハンプティ・ダンプティ(以下、卵)との冒険を描く。
スピンオフ作品とは言え、かなりキャラの立った"ネコ"が主人公なので十分面白かった。ネコの子供時代の話などは後付だけど、まあ違和感もないし単品で考えれば卵との因縁で完結しているのでわかりやすい。ただ、卵の計画そのものは種明かしされても驚くまでには至らず、というかその結果に持っていきたいというには、あまりにリスクの高い過程ではないか?というところで少し釈然としない。まあファンタジーアドベンチャーなので、些細なことなんだろうけど。
演出自体は3D表現をフルに生かしていて見応えが抜群。かなりスピーディーな場面もあるけど、視線誘導が的確なためかあまり疲れない。これは3Dで観るべき映画と言えるだろうね。
失くした体

(2019年制作)
8
体を失った手が、自分の体のもとに向かう旅を描いたフランスのアニメーション作品。
「ハンドくんの大冒険」と形容したくもなる始まりは、手の下から覗き込むようなアングルやスケール感などの実写ではやりにくい表現が、アニメというフォーマットでよく表現されている。ただこれは手が繰り広げる突飛な冒険絵巻ではなくて、ある若者の淡い恋とまだ見ぬ未来を切り取った芸術作品だった。恋と失恋と未来への一歩というストーリーラインはオーソドックスな感じかもしれないが、それを“自分の手”という「他者ではない第三者」の視点で主人公のドラマを描くというアイデアがとてもユニークだな。
時系列的には3つ。手が体験している今、手が体とともに経験した少年時代の思い出、そして手が切り離されるに至った青年時代の恋。これらを行き来して描く構成になっているけれど、テンポよくまとめられているし、最低限のセリフと状況で観客に内容を分からせる演出もうまい。主人公がインターホン越しに恋に落ちる空気。ヒロインの主人公に対する気持ちの変化と事情を知った時の怒り。感情がよく伝わってくるのはやはり演出がいいからだろう。
“手”は自分の夢を実現させる可能性のメタファーでもあり、“切り離された”状況は過去には戻れないというメタファーでもあると思う。その“過去”が自分の体の“運命を変える一歩”を見届けるというラストはとても心に染みる。
ナショナル・トレジャー

(2004年制作)
8
合衆国独立宣言書に秘められた宝を巡る冒険活劇。インディ・ジョーンズから荒唐無稽さを無くして、舞台を現代にした感じかな。宝探しにおける謎解きの連続は、RPGの様で面白かった。アメリカ人からすれば、日常に存在する1ドル札や100ドル札、そして建国にまつわる場所にそういった謎があると考えれば、たまらない興奮があるかも。
ただ、せっかく主人公達、敵対グループ、FBIの三つどもえの展開になったのに、どうも視点が偏りがちだった気がする。特にFBIは今ひとつ話に絡んでない感じがして残念だった。ハーヴェイ・カイテルが渋くて良かっただけに、もっと「逃亡者」的な展開を期待したんだけどね。
この映画は主人公がかなり善人なのが一つの魅力か。ジョーンズ博士のようにセクシーさを出しているわけでもなく人も殺さない。信念と良心に従って事を成すオッサン。俺はこういうのは好きですw
ナショナル・トレジャー
リンカーン暗殺者の日記

(2007年制作)
7
先祖にかけられたリンカーン暗殺者の汚名をそそぐため、トレジャーハンターのベン・ゲイツが活躍するシリーズ第二弾。
パズルのように謎を解いていき、一直線に宝に向かって進んでいく様は「なんだか簡単に話がすすむなあ」と思ったりもする。まあこのシリーズらしさと言えばそうかも知れないし、ディズニー映画なのだから子供も楽しめる冒険活劇とすれば十分に面白いでしょう。でも俺のようにちょっとひねた大人には物足りなさも感じてしまうけど。結局のところ主人公達を利用し追っていた一味も表面的な敵でしかなかったし、さりとてボスは極悪人でもなかったし、と言うか車で大暴れしすぎw 
出演者は助演のジョン・ボイトとハーヴェイ・カイテルが前作からの続投だけど、カイテルは相変わらず渋い。今作にはさらにヘレン・ミレンにエド・ハリスが出演したけど、不思議なくらい豪華。大統領役のブルース・グリーンウッドは「13デイズ」の時のケネディ役よろしく、良い大統領だと感じられる雰囲気があるね。
原題の“BOOK OF SECRETS”は結局大統領の本のことだったのか。続編は今作で明かされなかった“47ページ”絡みになるんだろうね。
ナチョ・リブレ
覆面の神様
7
メキシコの修道院の料理番が、孤児たちに美味い飯を食わせるべく、メキシコのプロレス“ルチャ・リブレ”に覆面で参戦する姿を描いたコメディ。
主演のジャック・ブラックが子供らと絡むストーリーは、多分に「スクール・オブ・ロック」を思い出すけど、この主人公に憎たらしさは感じないかなw
あくまでコメディなので堅苦しいことは抜きにして観たけど、バカバカしくてベタなネタが続いて面白い。まあ、このノリは観る人を選ぶのかもしれないけど、でも実にジャック・ブラックの映画らしくて良いね。
“ヤセ”を演じるエクトル・ヒメネス も良い。裁縫が得意だったり、技をかけられるたびに女のような悲鳴を上げたり、レスラーなのにw ギャップが面白いねえ。
ナバロンの要塞

(1962年制作)
7
第二次大戦下、地中海で計画される英国駆逐艦6隻による兵員の撤退作戦だったが、その航路上にレーダー照準式要塞砲2門を備える難攻不落のナバロン要塞があった。
主人公以下数名は、空爆では落とせないこの要塞を背後から上陸・陸路潜入して、内部から爆破するのを命じられるわけだ。原作が戦争小説ということもあるし、"不可能な指令"によって次々と立ちはだかる困難をどう対処するのか…という、戦争を舞台にしたアドベンチャー的な要素が強い。敵陣潜入モノとしては個々にその道のプロとしてキャラ設定された仲間など、お約束の要素は満たしているけど、繰り返される危機の展開は…話を盛り上げるためのちょっとご都合な部分を感じなくもない。でもギリシャ軍を大量動員して撮影したというドイツ軍の描写は大作感はあって良いかな。
ストーリー的には、上官ですら陽動に利用するか、女スパイを殺すかどうかといった、戦争現地でのハードな判断も織り込まれている部分は評価したいところ。ただラストは陽動が効いていたとしても、あっさりと要塞砲までたどり着いたように見えてしまうのが、潜入の困難さを感じるにはちょっと勿体なかった気がする。
ナポレオン

(2023年制作)
7
フランス革命後のナポレオン・ボナパルトを描いた伝記映画。
ナポレオン戦争の多くが描かれるものの戦記モノではなくて伝記映画なので、世界情勢などの大局よりもあくまで彼の人となりについてがメインに描かれていく。特にナポレオンとその妻ジョセフィーヌの話が主軸になるのだけど、彼が執着するジョセフィーヌへの愛がその様にあったのだとしても、個人的にはいまいちその情念に至る理由がよく分からなかった。恋多きジョセフィーヌに愛想を尽かさなかった理由は単にベタ惚れしていただけ?そこの説得力はもう一歩踏み込んでほしかったかも。
戦略と戦術で多くの戦争に勝利した"英雄"ナポレオンだけど、この映画は別に彼を英雄としては描いていない。あくまで一個人としてジョセフィーヌを愛して、離婚して、それでも想いながら流刑の地で死んだ男の物語だ。でも観客側の自分がそれを見たかったのかというと、どうなのかな?という感じもする。ナポレオン自身のフランスという国に対しての想いとか、皇帝にまで成り上がる男のエネルギーの源泉も感じたかった気がするなあ。トゥーロン、アウステルリッツ、ワーテルローの戦いの戦場の様子はスペクタクル感もあっていいのだけど、一部のナポレオンの行動原理にジョセフィーヌへ想いが混ざってしまうと、ナポレオン像がちょっと矮小になるような印象も受けてしまった。ジョセフィーヌの浮気を知ってエジプトから引き上げるナポレオンとか、ジョセフィーヌに会いたくてエルバ島を脱出するナポレオンとか、そういうのを見たかった訳では無い(苦笑) 結局一本の映画に収めるには、ナポレオンの上昇と没落と愛の人生は濃すぎるということなのかもしれないが。
ナルニア国物語
第1章
:ライオンと魔女

(2005年制作)
6
第2次大戦中、4人兄弟が疎開先の屋敷にあった衣装ダンスの中にはいると、そこは白の魔女によって100年の冬に支配された“ナルニア国”だった。
“衣装ダンスの中→ファンタジーな異世界”というのは何とも夢があって良いと思う。タンスの入り口やナルニアで動物がしゃべりまくるのも、ケンタウロスがいるのも、魔女がいるのも良い。でも、どれにつけても設定が表面的でしかなく、“中つ国の文化”を細かく作り上げていた「LOTR」と比較してしまうとどうしても見劣りする。
基本的に児童向けの話のためか、とっかかり易くするためにキリスト教色の強い筋にしてるんだろうけど、それが逆に俺には「あえてファンタジーでしなくても」と思ってもしまう。魔女の誘惑のせいで兄弟を売った次男とか。アスランが次男の罪を贖うために死に、そして復活(理由が自己犠牲だったから)するところとか。サンタクロースが出てきてプレゼントをくれたりとか。…きっと原作通りなんだろうけども。うーむ。
要するに、そもそもが児童向けの話なんだよね。だからというか、濃度の濃い「LOTR」等を観てきた人には少々展開が素直すぎてついて行きにくい。話がダメならと、戦闘シーンに魅力を見いだそうにも、ディズニーらしく一歩引いた残虐シーンのないアクションだし。個人的にはミノタウロスの造形は嫌いではなかったけどねw
まあ俺は、主人公兄弟の行動原理にも今ひとつ説得力が感じられなかったんで、話が進むにつれ「なんで?なんでそうするの?」と思ってしまった。そうなるとダメですなw
ナルニア国物語
第2章
:カスピアン王子の角笛

(2008年制作)
8
前作から1年後、突然何かの力で再びナルニアに引き戻された主人公達。そこは人間に征服された1300年後のナルニア国だった。
前作に比べて宗教色が薄くなり、ファンタジーの住人vs中世風の人間達という構図も分かりやすい。攻城戦や平原でのバトルもあってアクションシーンも充実なので素直に楽しめる作品になってました。
主人公は一応前作からの4人だけど、話はカスピアン王子が中心になって進む。それがナルニア国の当事者としての共感を生むので話にも入りやすかった。“暴君の叔父に追われた悲劇の王子”ってまあベタではあるけど、宗教がかった話よりはよっぽど好み。若干青臭いことで(ピーターも悪いが)攻城戦の作戦失敗に繋がったりもしてるけど、まあそこは展開上のお約束かも?
ファンタジーの住人もほとんど今作からの新キャラだけど、キャラが立っていて面白かった。特に騎士道精神溢れるネズミのリーピチープねw アスランは…あいかわらず“神”か“キリスト”って感じですな。あるいはデウス・エクス・マキナか。
バトルシーンはなかなか魅せてくれる。さすがにディズニーなので、剣で切ろうが、矢が刺さろうが血なまぐさい演出はないから子供の観客も安心かな。しかし平原バトルの最初のワナは想像していなかった、やられた…。ああいう落とし穴で足を止めますかw
ナルニア国物語
第3章
:アスラン王と魔法の島

(2010年制作)
7
次男のエドマンドと次女のルーシーは、いとこのユースチスの家へ疎開中に再びナルニアへと呼び戻される。そこはカスピアンが航海中のナルニア東方の海の上だった。
話のほとんどを船の上で進行させ、立ち寄った島々で奴隷商人、魔法の本と透明怪獣、金の池とドラゴン…と様々な出来事に遭遇していく。それぞれのエピソードは“7本の剣を集める”という目的に向かって進むためのステップではあっても、話の流れ的にはそれぞれが独立気味で、どちらかというとRPGのイベントっぽい。アスランが“神”なのも相変わらずだし。大人の目から見ると少々薄っぺらく見えてしまう展開ではあるけど、そもそもが児童文学と思えば王道ファンタジーとしては悪くないかな。
前作までの主人公は4人の内2人が不在。その代わり親戚のユースチスという少年が新たに加わるのだけど、こいつがヒネた憎らしい奴で…。序盤はそれこそ話の邪魔に近いんだよなあ。でも、最後には精神的に成長していくわけで、明らかにこの映画においては話の主人公になっているし、児童文学らしい小気味良さを感じさせてくれる。何と言っても、そのユースチスと騎士ネズミ・リーピチープとの友情の描き方が良いですね。
21グラム
8
1つの心臓を巡る3人の人生の交差。話の時間軸が1本でなく、次々に前後して映し出されるから、観客の方も真剣に観ないと話についていくのが大変かもしれない。俺は粗筋を知っていたから話の繋がりは割と考えやすかったけど、予備知識がないと前半の情報の槍所に困るかw まあ、バラバラに見えて実はちゃんと結びつきはあるんですが、なかなかそこまで気には出来ないかもね。しかしショーン・ペン、デル・トロ、ナオミ・ワッツの演技は素晴らしい。鬼気迫る物があったなあ。個人的にはデル・トロの姿が印象的。信仰の厚さ故に罪の重さに悩み、そして神に疑念を持っていく男。「それでも人生は続く」が一つのテーマでもあり、鑑賞後は色々と考えますね。
28日後...
8
ある病室で目覚めた男。人気のない病院を出ると、そこは変わり果てたロンドンだった。
基本的に、ただのゾンビ映画。ロメロの「ゾンビ」に対するオマージュとおぼしき場面もあるし、本当に恐いのは人間…と思える様な所も近い印象。ただし、何故そうなったのかに対する原因はしっかり描かれてるけどね。
町を破壊したのはゾンビかもしれないけど、その原因を解き放ったのは人間。そして後半に主人公達へ迫ってくる危機も人間の欲望が原因。ここまでストレートだと鼻につかなくもいないけど、まあ、分かりやすく良くできているとは思います。
序盤で水の欠乏が絶望に結びついているけど、後半は雨中で逆転の攻勢に出る主人公が描かれる。前半と後半で極端に凶暴性が違う主人公も裏テーマかも知れないが、そのあたりの対比も良い感じ。
個人的には、プロローグで描かれる思考停止的な動物愛護過激派達の行動が皮肉っぽくて面白い。
28週後...
8
前作の危機発生時から28週後のロンドンを舞台に、再び発生したウイルス感染によるゾンビパニックを描いた作品。
前作の登場人物その他、設定はすっぱりどこかに行っているけど、走り回るゾンビの攻撃はよりグロくなっているので見応えはある。まあ、展開上で無理矢理な部分は目に付くけど、ゾンビ・エンターテイメントとしては良かったと思います。あと、“母親を置いて自分が逃げ出したことを隠しながら、自己弁護的に子供に説明する親父”なんて構図も、なんだか人間の業のようなものを描いていて個人的には好きなんだけどね。
しかしこの手の映画は自分勝手なことをする奴のせいで危機に陥る様がムカつきますな。主人公である子供らが余計なことをしなけりゃあ…。親父も権限を持っているならことさら注意深くせんかい!まあ、お約束ではあるけどもね。
親父がゾンビになったとたんすごく強くなっているというのも不思議なんだけど、これはご都合主義というやつなのかギャグなのか…、前者かなw
2001年宇宙の旅
9
スタンリー・キューブリック監督の言わずと知れた名作。極力台詞を排した演出で語られる、人類の夜明けと宇宙に進出した人間の未来。
どっからどう観ても、この映画は「凄い!」と思う。が、観ていて楽しいかと言われるとちょっと違う気はするw
説明的な台詞がほとんど無く、基本的に画で語られるストーリーは観る者によっても様々な解釈が生まれるんだろうけど、そういう意味で一つの物語というよりは、ある種の絵画のような広がりを感じるね。少なくとも“芸術”ではあるけれど“娯楽”ではない。
だからこそ、個人的な「こうなんじゃないか?」といった考えはその人の中でいくらでも膨らむし、それが一つこの映画の魅力でもある。なんにせよ、謎は多く、説明は無く、観る側のキャパシティが試されますw
2012

(2009年制作)
8
2009年、インドの学者が素粒子の異常変異による地球への影響を察知。ごく近い未来に地殻の大崩壊が予測され、主要国の首脳は秘密裏に対策を練るが、3年後の2012年、ついにその時が訪れる。
「インデペンデンス・デイ」と「ディープ・インパクト」をかけ算したような映画、というのが第一印象。ローランド・エメリッヒ監督といえばそのイメージは「ID4」や「デイ・アフター・トゥモロー」なSF・ディザスター映画なわけで、この手の作品ではやはり水を得た魚のような能力を発揮するね。
何が原因でこのような災害が起こるかといった考証はこの際無視するとして、ひたすら巻き起こる未曾有の大災害の真っ直中を体験できるアトラクションと思えば、とんでもない疑似体験にずっと手に汗握らせてもらいました。ロス大崩壊シーンはやり過ぎなくらいだなあw 主人公がいつもギリギリのところで危機に遭遇しているのはご愛敬。深刻な災害シーン中にギャグシーンがあるエメリッヒ節も久しぶりに効いていて良いよ。
様々な人のエピソードが交錯して収束する群像劇的展開は「ID4」のそれを思い出すけど、登場人物の数の割には分かりやすくまとまっていて複雑になり過ぎていないのは娯楽映画として良し。ただ基本的に性善説に基づいた観念が全体を覆っているのはちょっと気持ち悪い気もした。少し利己的な人間は出てくるけど、それでも悪人がいない映画なんだよなあ…。それは話としてはキレイすぎる気もする。
ニック・オブ・タイム

(1995年制作)
7
娘を人質に取られ、いきなり知事を暗殺するよう命じられた主人公の姿を描いたサスペンス。
TVドラマ「24」の様に(この映画の方が先だが)劇中の時間がリアルタイム進行なんだけど、訳も分からず巻き込まれ、否応なしに“行動”を強要される主人公の状況に緊張感があって面白い。…面白いんだけどそれはサスペンスの見せ方としてで、行きがかりの人間にすべての罪を着せるつもりにしても、決行直前に素人をピックアップってのは正直言ってちょっと話が強引かなあ。(黒幕が繋がりのない人物を使いたかったということなんだろうが。) まあそれを受け入れた上で見れば、話は小気味良くまとまっているし、当事者たちが事情を信じる理由にしても分かりやすい伏線で良い感じだと思う。
主人公はジョニー・デップ。デップにしては子供の命のために行動する父親キャラなんて、何の奇人ぶりも発揮しないのが逆に珍しいが…たまにはいいね。その彼を見張るのはクリストファー・ウォーケン。特に映画の前半は、あの手この手で裏をかこうとする主人公の目の前に神出鬼没に現れて「無駄なことをするな」と追いつめる。「そこまで身軽なら自分で暗殺せーよ」と思わず言いたくもなるが、黒幕とつながりのない人物に決行してもらう必要があるのだろう。(あれだけ行動を一緒にしてたら意味がない気もするものの、そこは気にしない事にする。)少なくとも「こいつからは逃げられない」的な、いかにもって感じの悪役ぶりは良いよ。ただちょっと詰めが甘いがw
2分の1の魔法

(2020年制作)
7
エルフの少年・イアンは16歳の誕生日に幼い日に亡くした父からの贈り物を手に入れる。それは魔法の杖と、1日だけその父を生き返らせることができるという復活の呪文の書かれた手紙だった。
そつがなく、ユーモアもあるし良い話でもある。亡くした父への想いが動機になって話を進ませるが、実のところは兄弟の絆を見直す旅路を描いた物語。とはいえ、予告編の時点である程度そういうテーマからの展開が予想できるほどには予定調和のそれから逸脱しないし、良い意味で安心感はあるものの、悪い意味では意外性がないかな。まあ、ラストでイアンと父親を直接会話させなかったり、ラスボスの造形(顔)に意表を突かれたりといった部分ではオッと思う場面もあったけれど、「ピクサー作品」と聞いて高くなってしまうハードルを越えようとすると、さらにもう一声何かが欲しい気がするというのも正直なところ。
主人公のイアンの声を演じるのがトム・ホランド、その兄・バーリー役はクリス・プラット。2人の関係性がキモの話だけど、性格の差がよく出ていて良い感じだし、そこに役者のキャラがなんとなく透けて投影されているように感じるのも面白い。バーリーの絶妙な鬱陶しさと頼りがいには、確かにクリス・プラットはハマってるなあ。
ニュー・シネマ・パラダイス
9
主人公の回想を通して、子供の頃に慕っていた映画技師との交流や、青年時代の恋を描いた作品。
主人公トトと映画技師アルフレードとの心の交流にはやられた。いきなり書いちゃうけど、もう、ラストが良いわけよ。ラストで感動できるかは、それまでの少年時代からの積み重ねに感情移入できたかで違ってしまうんだろうけど、俺はアルフレードの思いにやられたわ。少なくとも少年時代のトトは純粋だけどもやんちゃで手を焼くガキw でもアルフレードはそんなトトに自分を重ねたんだろうかね。だからこそ、自分のようになって欲しくないという想いで、「ここから出て行け、二度と戻るな」と言ったんだろう。その“ここ”とは少年時代には映写室であり、青年時代にはシチリア島だった。
「人生は映画のように行かない」とはこの映画のセリフだけど、時代の変化によって変わっていったトト、そしてテレビやビデオに取って代わられた映画館パラダイス座。思い出の中で輝いていた映画が、アルフレードの形見という形で目の前に現れた時のトトの気持ちは…。
ちなみに、俺が一番泣いたのは中年のトトがエレナのフィルムを観ていたシーンでした。
ニュールンベルグ裁判

(1961年制作)
8
1945年〜1946年にドイツのニュルンベルクで行われた国際軍事裁判を舞台にした法廷ドラマ。ナチ政権下で体制に与していた4人の法律家の裁判が描かれる。
冒頭、ニュルンベルクに到着したヘイウッド判事。宿泊する家に案内された判事の態度は控えめで良い人そう。裁判が始まると4人の被告が現れる。初めの3人は罪状認否で無罪を主張するが、最後の一人…ナチ政権下での元法務大臣ヤニングは黙して語らない。その姿を見たロルフ弁護士は「無罪です」と代弁する。この流れだけでこの映画が良くできた映画なのだろうと分かってしまう。
裁判劇なので登場人物も多く、話もキチンと組み立てなければ見てる方が混乱することもあるわけだが、冒頭の状況説明を、流れの中で登場人物の人柄から、誰がこの物語の中心なのかまでハッキリ示す演出は上手いなあ。通訳を通して会話しているという“記号”も次第に省略してテンポを守っているし、話の運び方が実に分かりやすい。3時間の長尺映画だけれども、法廷内外をテンポ良く描き、一流の俳優たちの演技もあって最後まで飽きさせることのないドラマになっていて感心した。
国際裁判は勝者が敗者を裁くものになってしまう。この映画は史実を基にしたフィクションで、内容は創作であるけれども、「ナチスに与した者の罪」を通して戦争犯罪とは何かを考えさせるものでもある。例えばナチが行っていた精神病者への断種は、米国の偉大な法律家も支持していたではないかという弁護側の主張。ヤニングに面会したロルフ弁護士が「ヒロシマとナガサキに原爆を落とした様な米国に道徳性が?」と言い放つ場面に、一言では片づけられない問題の大きさを感じる。
ホロコーストの事実を当時のドイツ市民は知っていたのか。政権に与していた者ならば知っていたのか。第一次大戦後にドイツが困窮した時代、ヒトラーの登場によってドイツが復興したのは事実。しかし過渡期の事では済まなくなったナチスの暴走の責任はどこにあったのか。ヤニングが無実の1人を死刑にしたことが後の何百万の死の始まりだったのか。考えさせられる。
ニンフォマニアック Vol.1

(2013年制作)
7
路地に倒れていた女性・ジョー。彼女を介抱した老紳士は事情を聴こうとするが、彼女はその生い立ちから自身が色情狂であるということを赤裸々に語り出す。
タイトルからしてストレートな「女子色情症 その1」。主題がそうであるのでしょっちゅう性交場面が出てくるのだけれど、個人的には単純にエロという印象はあんまりない。なんだろう、行為であるということ以上の情報が感じられないというか…。主人公・ジョーにとっては日常の一部だからだろうか。老紳士との会話によって引き出される彼女の生い立ちは、こちらにそれを「理解する気があるか」と問いかける。聞き役の老紳士はその突飛な内容を自身の知識…「フライフィッシング」や「ポリフィニー」に置き換えて理解するわけだけど、そう考えると人間の欲望という意味で「色欲も釣りや音楽の嗜好も大差ないわい」と投げかけられているようにも思える。
とはいえ、普通に考えるとこんな話を映画化しようなんて…さすがはラース・フォン・トリアーというか。章立ての構成や、モンタージュ的な文字の挿入といったトリアー的演出も健在。ただ「アンチクライスト」「メランコリア」に続く鬱三部作としては、これまでの2作に比べてあっけらかんとしている印象だね。鬱な場面であるはずの修羅場…H夫人(ユマ・サーマン)の突撃訪問シーンですら、なんだか悪趣味なコメディに見えたw 男性器の写真の羅列も明らかにジョークでやってるよなあ。(日本のパッケージ版はボカシで台無しですが。)
物語としては前後編の構成になっていて、本作はその前篇。章立ては5章。後編は3章立てで、ことあるごとに提示される様にフィボナッチ数であるが、意味ありげな感じもまたトリアー風味。
ニンフォマニアック Vol.2

(2013年制作)
8
色情狂であるジョーの後半生を語る後編。
最後まで観ると、やはり人間は俗悪であって高潔さなんて嘘っぱちだという、ラース・フォン・トリアー監督のの「人間を信じていない感」が変わっていない事が分かって、変な意味で安心w しかし最後の最後で…。オチのつけ方はギャグと紙一重だなあ。いや、「〇〇くせに」って笑いどころだよね?
ジョーの一代記として見ると実に波乱万丈で、風の中で自分を貫いてきた孤独な存在…「一目見てわかる」と言われていた“魂の木”の形の印象への重ね方も実に見事だった。ただ、セリグマンが「この物語の主人公が男であれば凡庸な話であったのではないか」という示唆は、性差に対しての潜在的な差別意識を観る側に気づかせるという点でも興味深い。人間のエグイところに気づかせるトリアー監督の作品は、やはり他にない面白さはあるか。
後編であるVol.2はVol.1ほどあっけらかんとしていないし、色情狂が性的快感を無くした絶望という倒錯した状況や、シャルロット・ゲンズブールが漂わせる影が暗さを助長していく。さらに前々作である「アンチクライスト」の幼児の転落死を想起させるような場面など、不安感のあおり方がいやらしい。こういう嫌なファンサービスのやり方もあるのかと感心はしたけどね。
ということで鬱三部作にふさわしく楽しい作品ではなかったし個人的には共感も出来ないのだけれど、確かにトリアー作品として期待を裏切らないものではあった。
ネイバーズ

(2014年制作)
6
ある夫婦の隣家に越してきた若者たち。学生クラブのクラブハウスと化した隣家に「静かにするように」と注意しに行く夫婦だったが…。
隣家のどんちゃん騒ぎを何とかしようとするドタバタコメディの類だが、手練手管というよりは単純に嫌がらせくらいの展開なので、まあありがちな米国コメディって感じの枠に収まってしまう。個人的にはエアバッグは派手に飛んで笑えたけども、基本的に下ネタ&ドラッグが多いし。伏線は花火くらい?家を燃やすくらいするのかと予想したが、そうではなかった。でもデ・ニーロ大会は良かったなあ、あれは笑えるが元ネタ観てないとムリだろw あ、あと赤ん坊は可愛い。赤ちゃんは“隣家を静かにさせる”という動機くらいにしかなってないけどね。
セス・ローゲンは彼らしい役どころとは思うものの、平凡な家庭人というよりは一緒にハッパをやりそうな感じ…と思ったら初っ端から混じってるし。そう思うと学生側も完全に悪者でもないような、迷惑はかけてるけど結局「どっちもどっち」なんじゃないの? 全体的にはもう少しスラプスティックな展開でも良かったかもと?と思いつつ、でもザック・エフロンがこういう役をやってること自体も珍しいから、まあいいか。そういえばスティーヴ・カレルがチラッと出てたな。
ネオン・デーモン

(2016年制作)
7
田舎からロサンゼルスのファッションモデルの世界に飛び込んだ少女・ジェシー。その美しさで掴んだ成功と転落を描いたサスペンス。
「なるほど、わからん」と言いたくなるような観念的なイメージとは裏腹に、エッジの効いた映像が何とも印象に残る。当初純朴だった主人公がファッションショーのトリを務めたことで、自分の美への認識を増長させていくあたりが話のターニングポイントだが、そこからさらに観念的な描写が増えていくので何ともクセのある映画だなあとは思った。とはいえ映画として言っていることは簡潔で、美によって得るものと失うもの、美への執着や嫉妬というものを描いた話としてはあまり裏表はないようにも感じる。
鏡越しのカットが多用されるけど、キャラクターを見つめる視線が外にあるというか…自身の認識が外面からであるという事の表現なのかな。でも意味深な割には、それ以上の意味がないようにも思える。終盤に行くにつれ描写がエスカレートしていくけど、整形をしていたジジが“食べた”ジェシーを吐き出すシーンはショッキング。「食べる」ことの比喩は「征服」や「血肉にする」「自分のものにする」といったところだろうが、体が拒絶したという事は、整形は非整形の美しさには敵わないという事だろうか。それにしてはあんまり直接的な気はするが。でも吐き出されたそれすらを食べてしまう女がいるというエンディング。そうやってのし上がっていくという女もいるという怖さを感じる終わり方でした。(まあそういう世界なんだろうけど。)
ネバーエンディング
ストーリー
8
原作は読んだ事がないから、どのくらい要素をカットしているのかは分からないけど、94分という長さでよくまとまっていると思う。ちょっと展開が強引なところも、童話だって事を考えれば些細な事。しかし童話という体裁をとりながらも、夢を忘れていく現代人への痛切な批判ともとれる、皮肉の効いた作品になっていて面白い。良質なファンタジーとして楽しめました。
ネバーランド
9
劇作家バリが、ある家族との交流を通じて「ピーター・パン」を創作する姿を描いたドラマ。
端的に言って、感動した。実話をベースにした創作劇とはいえ、こういうサイドストーリーがあったとすれば、「ピーター・パン」が悲しい話に思えてくる。少年で居続ける“ピーター・パン”と、精一杯大人になろうとしている幼いピーター少年の対比。“時間”に追いかけられた未亡人。“こうして「ピーター・パン」は生まれた”という話に説得力があって、かなり引き込まれたわ。
主人公が子供達と“〜ごっこ”に興じる場面では、“現実”と“想像の舞台”が交互に映し出される。何かになりきる、という事を子供の頃やったよなあ…。その時に見える世界はまさに“想像の舞台”だったかもしれない。主人公バリが「ピーター・パンです」というのは、本当にそう思うね。
ネブラスカ
ふたつの心をつなぐ旅

(2013年制作)
8
「100万ドルが当選しました。」そんなDMを信じ込み、モンタナからネブラスカまで歩こうとする老いた父。根負けした主人公は目的地へ連れて行こうと決心する。
タイトルは説明過多な気がするが、表面的にはその通りか。ただやはり「かつて住んだネブラスカ」という感じの、"故郷"という事が主題だよね。息子はその父の故郷で、彼を知る古い知り合いから話を聞くことで改めて父という存在を見直していくわけだ。殊更に感動をあおるわけでもなく、淡々と流れる時間。父への想いにしても、説明台詞がなくても伝わる空気というか、表情や間の使い方が上手い。
周囲の人々が賞金にたかろうとするのは"さもありなん"といった状況だけど、人の良い父との対比構造としての配置だと思っていた。父は何も言わないけれど、気の強い母親が一喝する場面や、息子の無言の一撃が代弁してるし。でも最後はそれだけでもなかったんだよね。
結果としてはやはり賞金は出なかった。でもそこからがこの映画を清々しくさせてくれる。父の気持ちを慮る主人公の気持ち…運転を代ってから町を通りエンディングへ向かう一連の流れが良いなあ。町の人々の視線に、良くも悪くも父の人生が凝縮された瞬間があって、じんわりと心に来ました。
眠れる森の美女

(1959年制作)
7
ある王国に生まれたオーロラ姫は、誕生と共に魔女・マレフィセントに呪いをかけられてしまう。その呪いは「16歳の誕生日日没までに糸車で指を刺して死ぬ」というものだった。
背景美術の書き込み、特に城内の石壁の描き込みに目が行ってしまったけれど、すごい。70mmの作品らしい情報量でもあるか。フルアニメらしいオーロラ姫の動作の滑らかさは、さすがディズニーというクオリティ。ダンスシーンで流れるチャイコフスキーの「眠れる森の美女」は印象に残るね。
ただストーリーとしては、オーロラ姫よりも3人の妖精に主体性を持たせてしまったのが個人的にいただけなかった。森に匿うことを決めたのも妖精であれば、肝心な時にバレる原因になったのも妖精、しかも姫が眠ってしまったから城内の全員も眠らすとは…それはミスの隠蔽じゃないか?w 中盤でも、オーロラ姫のドレスやケーキを作る云々でドタバタしているのを見ると、育ての親としての涙を後で見せられても、ちょっとバランスが気になる。まあディズニーとしては魔法描写の楽しさを出したかったのだろうけども。「ファンタジア」を彷彿とさせる魔法のほうきも出るし。
ノア
約束の舟

(2014年制作)
7
旧約聖書の創世記を題材に、ノアの方舟伝説を再構築したスペクタクルドラマ。
言葉では聞こえない創造主の意志と、ノアの選択。それに尽きる作品ですな。姿を見せない創造主の存在感には納得いくものの、結局ノア自身が生殺与奪の判断をしている部分が多く感じられ、個人的にはそこに少し違和感があった。「動物を救うためだけに方舟を作った」「人間は滅ぶべき存在」というノアの解釈も突飛(映画的には必要なものだろうけど)で、多くの人の命を奪ったり見捨てた一方で最後の最後に「私にはできない」という選択は…。創造主がノアを神の代行者と見ているか、人を試しているのかという部分で変わってしまうと思う。結局聖書を描きたいのか、ノアを通じて人間を描きたいのかが、どちらにも微妙に振りきれていない…?
創造主が絶対的なものであるならば後者はないと思うのだけれど、ノアもまた不完全な人間そのものだったという意味とすれば、人間のメンタリティを描いたドラマになっているとは思うかな。敵をトバルカインとした部分も、カインを悪の系統として分かりやすく描いているのでエンターテイメント指向は確かにわかりやすい。人間としてはノアよりもトバルカインの方がリアルに感じてしまったけどねw
そうそう、ゴーレムっぽい"番人"のデザインは好きです。
ノーカントリー
9
麻薬取引の金を手に入れたが為に殺し屋に追われることになった男と、その殺し屋、そして殺し屋を追う保安官の姿を描いたサスペンス。
“おかっぱ頭のレクター”と評された殺し屋シガーに目を奪われがちだけど、全体に漂う意味の分からない暴力への恐怖感というのはただならぬものがある。主人公である保安官の独白も、その新に現れた理解しがたい暴力への無力感に、何とも言えない哀しさを感じさせるね。
作品の舞台は今から20年以上も前なのに、今日にも通じるテーマには共感するところが多い。でも考えれば劇中でもさらに80年前にあった暴力に対することを言及しているのだから、人がいる限り常について回るテーマなのかも知れない。
作品は暗く、極めて淡々と進む。なのにシガーの行動の異様さも相まって最後まで緊張感は持続しっぱなし。監督のコーエン兄弟はさすがに上手いね。脚本も余分な部分を描かない展開が目立つので、(凄惨な話なのにも関わらず)淡々とした印象を受けてしまうんだけど、やはり必要なところはしっかり描いているので個人的にはすんなり話が頭に入ってきた。でもどちらかというと“行間を読む”タイプの作品かも知れないので、そういうのに慣れてない人には辛い映画かも?
ノートルダムの鐘
8
古典的名作のアニメーション化。ミュージカルの肝である歌の部分は、やはりディズニーだけあって使い方が上手いと思う。演出も、ディズニーがCGに力を入れだした頃で、奥行きのある空間が表現されていたりと、迫力もある。テーマとしては重いものがあるが、3体のガーゴイルがいいアクセントになっている。この作品を見て、人間は心なんだなぁ、とつくづく思いました。
NOPE
ノープ

(2022年制作)
7
死んだ父から馬の牧場を引き継いだ主人公・OJ。飛行機からの落下物の直撃という父の死因に懐疑的だった主人公は、ある夜、牧場上空の雲間で"何か"を目撃する。
UFO映画(いわゆる宇宙人絡みのオカルト映画)と見せかけて、その実はちょっと違うものを見せていたというスカしかたは「ゲット・アウト」や「アス」を撮ったジョーダン・ピール監督らしいなあとは思う。個人的には作品で描かれる"不可解な現象"ってやつを観ている間は楽しんでいたけど、終わってみれば「俺は一体何の映画を観ていたんだっけ?」という気持ちにさせられたので、鑑賞後感としてはややモヤモヤが残る感じ。何というか、色々意味深な要素で気を引きながら、結局煙に巻かれた感じとでもいうか…。
別にUFO映画だと思わせて実は「野生動物の撮影会」の話だったという内容はかまわないんだけど、冒頭のキレるチンパンジーはアジア人イベンターのトラウマでしかなかったし、その男が功名心で企画したイベントで“UFO”とどう協定したのかは不明。あのこれみよがしに立てられた靴の意味は何だったのか。馬の牧場の歴史と兄妹の関係を本筋とするならばアジア人イベンターの話は明らかに副筋ではあるものの、そこが副筋のまま中盤で終わってしまったのがもったいなかった。何というか、そういう部分に「エクスキューズだけは上手いけど」と感じてしまうのは監督の前作「アス」でも似たところかな。まあそれが作風なのかもだけど。
「UFOモノ」というジャンルとしては、第二種接近遭遇のお約束はだいたいあるし雰囲気は抜群だった。種を明かせばデカい動物だったというオチだけど、それでも映像では十分に魅せていたと思う。一方であくまで「UFOモノ」だとするならそのジャンルからの引用やパロディは納得いくものの、終盤唐突に「AKIRA」ネタを放り込んできたのには「今ここでやることか!?」と思ってしまった(苦笑)
野のユリ
9
通りすがりの黒人青年が、教会を建てようとしている尼僧達に協力を迫られるお話。…と書くと聞こえが悪いけど、かなり楽しい映画でした。正直、観る前は文芸映画の手合いだと思ってた。でも意外に軽い感じの内容で、青年と院長の掛け合いなんてまるでコントのようで笑えるw しかし、当時の黒人に対する偏見に満ちた時代背景を考えると、この映画は本当に美しい映画ですな。シドニー・ポワチエは好感の持てる青年像を見事に演じてます。それだけに青年があまり報われていないラストは、ちょっとかわいそうにも思ったたんだけど。神にばかり感謝していた院長が最後で彼に「サン…」と言って言葉を止める。“you”が出なかった事に意味を感じたいね。
ノマドランド

(2020年制作)
9
ネバダ州にある企業城下町に住んでいた主人公・ファーン。工場の閉鎖によって家を失った彼女は各地で期間従業員として働きながら車上生活するノマド(放浪者)となる。
とても抑制の効いた演出なので、山谷のハッキリしたドラマが好きな人には合わないと思う。でも、ワザとらしく盛り上げるような(ドラマチックな)描写を抑えたことで、一人の人間が、そして多くの人たちがノマドとして生活しているという部分にリアリティを与えていて、本作はそこがいいのだ。おおよそ一年間という時間の中で過ぎていく日常が描かれているけど、主人公の背景も出会って別れていく人たちとの関係も、ごく自然な流れの中で描かれていて、画面の中に“そこまでの人生を積み重ねた人たち”の存在が感じられるのが素晴らしかった。ノマドを選んだ、あるいは選ばざるを得なかった“人の生き方”を、登場人物と同じ視点の高さでこのように真に迫りながら切り取った監督のセンスはお見事。
主演のフランシス・マクドーマンドの演技は出色の出来栄え。多くを語らずとも表情で見せる。それどころか彼女の顔に刻まれた皺すらも、ファーンというキャラクターの人生を表現している。テーマ・演出・役者が三位一体となっていると言っても過言ではないかな。
このコーナーは暇ができないと更新できないので、不定期に更新しています。


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