邦題 |
満足度 |
感想 |
ヤギと男と男と壁と
(2009年制作) |
7 |
1980年代、米軍が極秘に研究していたという超能力部隊。その存在を暴いたノンフィクションを原作にしたブラックコメディ。 遠くのモノを見る、上空の雲をかき消す、そしてヤギを見つめ殺す。まあ何とも胡散臭い能力。映画としてはコメディなんだけど、登場人物達は基本的に真面目なので、それがそんなふざけたことを真剣に話しているのがシュール…というよりもクレイジーな面白さを醸し出してます。まあコメディとは言ってもその辺がジワジワ来るくらいのものなので、全体的に爆笑するような場面もないし比較的地味な印象の作品かな。根底にはヒッピー文化的な自己解放やラブ&ピースに対する哀愁と共に、それをおちょくっているようにも見えるのだけど、でもそれでいてラストは何故か爽やかな気分になったり…不思議ではあります。 演じる役者がジョージ・クルーニー、ユアン・マクレガー、ジェフ・ブリッジス、ケビン・スペイシーとムダに豪華なのもすごいけど、みんな演技が楽しそうだねえ。「ジェダイ」云々をユアン・マクレガーに語るジョージ・クルーニー…シュールだw そして悪そうな役を演じるケビン・スペイシーはやっぱり良いです。
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山猫
(1963年制作) |
8 |
1860年のシチリアを舞台に、終わりゆく貴族の時代を描いたルキノ・ヴィスコンティ監督の作品。 少なからずイタリアの歴史を知らないと難しいところもあるけど、その時代を感じ取れる画の切り出し方が素晴らしい。シチリアを統治してきた“山猫”の紋章を持つサリーナ公爵・ドン・ファブリツィオの暮らしぶりと、後半のほとんどを占める舞踏会という"貴族"の世界。舞踏会の場面が豪華で浮世離れしているほど、ファブリツィオが感じ取る時代の変化とのギャップに貴族の未来を見て、彼は涙する…。具体的な説明はなくとも、その空気の描き方だけで雄弁に語る映画とは、どういうことかと気づかされる思いですね。 聡明であるファブリツィオ。議員にと誘われても「支配階級だった者が議員になぞ」と断る姿は、その政治体制の意味を理解していないと出てこないだろう。演じるバート・ランカスターは貫録もある素晴らしい演技。甥のタンクレディを演じるアラン・ドロンも良い二枚目の演技だと思うけれど、やはりバンカスターの哀愁すら感じる舞踏会の後にはやられる。 ただ、上映時間としては186分(完全版)と長い。観終わればこれで良いとも思えるけれど、延々と続く舞踏会はやはり長い。でもそれが"貴族の世界"の没落していく所以を感じさせるところでもあるのだけれど。 |
山猫は眠らない
(1992年制作) |
7 |
ベテラン狙撃兵の主人公が、特命の暗殺任務を携えてやってきた若い参謀と共に、パナマの奥地での任務に就く姿を描いた戦争映画。 原題の"SNIPER"にもあるとおり狙撃兵の映画なので、派手な突撃ではなく、潜入し、ひたすら待ち、チャンスが来たら一発必中というストイックな行動を追っていく話。そこはそれ、映画としては若い参謀・ミラーがジャングルのことを知らないとか人を殺すことに躊躇するという設定で、ベテラン狙撃兵・ベケットとの間がギクシャクする…という筋書き。100分程度の上映時間に任務の顛末を程よく纏めていると思うのだけど、良くも悪くも展開はベタ。狙撃兵という職業にフォーカスしているところは魅かれるけどね。 たまにカット間の繋ぎで気になる部分があったり、ジャングルとは言え潜入中に口論したりと気になるところもあるんだけど、まあその辺はご愛嬌w ベケット役のトム・ベレンジャーはベテランっぽさが出ていて渋いな。"One shot one kill"のセリフもスナイパーの職業性を的確に表していて良いです。 |
勇気ある追跡
(1969年制作) |
7 |
殺された父の仇を討つため、少女はガッツがあるが飲んだくれの連邦保安官を雇い、犯人を捜すために潜伏先の荒野へと向かう西部劇。 この作品で保安官役のジョン・ウェインはアカデミー主演男優賞を受賞したそうな。確かに彼らしいスターとしてのオーラといぶし銀の演技が良いと思う。ただ飲んだくれで少しくたびれた感じなので、ストレートな西部劇ヒーローというよりは少し捻りがあるか。まあそういうところが良いと思うけど。 西部劇としての仇討ちの話と、少女とオッサンの友情の話の二重構造が話としての平板さをなくしていて悪くない。友情というよりは疑似親子になるのか…などとも思ったけど、少女の気持ちは、ラストの父の墓前のシーンを見ると保安官に対しての愛の告白の様にも見える。いずれにせよ歳を経た漢・ジョン・ウェインの魅力は伝わる映画。 それにしてもキム・ダービー演じる気の強い少女は良いキャラクターですね。あの時代にここまで前面に出る少女が?というのは思うけど、だからこそ保安官との組み合わせが面白くも思う。 |
U-571
(2000年制作) |
8 |
1942年の大西洋。故障により浮上停止を余儀なくされたドイツ潜水艦“U-571”に積み込まれた暗号機エニグマを奪取すべく、Uボートに擬装した米国潜水艦S-33が現場へと向かう。 傑作の「U・ボート」に比べれば足元にも及ばないが、戦争アクション映画としては上手くまとめた佳作かなとは思う。まあ作戦行動の内容や駆逐艦との戦闘について現実的な話をしたらムチャもあるが、ピンチと解決がテンポよく展開するエンターテイメントとしては良いんじゃないかな。 副長から艦長への昇進を目指すも、「まだ早い」と艦長の推薦をもらえない主人公のタイラー大尉。彼を演じるマシュー・マコノヒーがその部分の未熟さと、図らずも指揮を執ることになって次第に覚悟を決めていく過程、そこを端的に表現している。古参の曹長(ハーヴェイ・カイテル)が見せるタイラーへのサポート良い感じ。一方でピンチの際に死ぬべくして死ぬキャラの描き方は浅いというか、キャラ自体が“死ぬための役”でしかないように見えてしまうのは残念だけど、そこもテンポで乗り切っている感はある。テンポが良すぎてボン・ジョヴィの退場(死亡)が一瞬分かりにくいのはご愛嬌。 自分としては一番盛り上がるシーンは、拿捕したU-571に乗り込んだ主人公たちがS-33を沈めた敵Uボートに反撃するところ。ここは燃えるよね。ドイツ語が読めないクルーたちが初見の艦内設備に戸惑うところは可笑しい。まあ最初の反撃でいきなり敵潜を撃沈するなんて出来過ぎにもほどがあるが…娯楽映画なのでw 逆に一番盛り上げないといけないクライマックスの駆逐艦の爆発が、いかにもCGの合成に見えてしまったのにはちょっと興醒めしてしまった。そこは残念。 |
ユージュアル・サスペクツ
(1995年制作) |
8 |
カリフォルニアの港で船が爆発炎上する。捜査官はその事件で生き残った詐欺師のヴァーバル・キントを尋問し、事件の背景を探る。 個人的に、記憶をなくして観直したい作品のひとつ。もう20年以上前か…友人に「絶対騙されるから観て!」と紹介された映画だったのだけど、そんなこと言われたら先入観を持って全部穿った観方をしちゃうじゃねーかよ!と。まあそれはそれとして、作品自体は伏線を張りかたや最後の最後のどんでん返しはよく出来ているなと感心する作り。尋問による証言内容を映像として見せることで、観客に「実際の出来事」という先入観を持たせる叙述トリックは巧みだと思う。カイザー・ソゼの犯行をキントが傍観するという光景すら、キントの一方的な証言でしかないわけだ。それをズルいと思ってはいけない。なにせキントは“詐欺師”なのだからw ケビン・スペイシー演じるキントの“左半身が不自由な男”という設定も、黒幕から目をそらさせる仕掛けの一つだよね。ラストの歩き方が普通のそれに変わっていくカットは名シーンの一つ。しかしケビン・スペイシーの演技としては、尋問中に捜査官から「(仲間の)キートンは死んだと思わせて生きているのでは?」と言われたときに見せたごくわずかにニヤりとした口元が秀逸。あれは推理の誘導に「ひっかけた」ことを確信した表情だったのだろうなあ。 嗚呼ほんと、かなうなら記憶を消して普通の犯罪映画だと思って観直したい。騙されたい。 |
UFO少年アブドラジャン |
7 |
ウズベキスタンのとある村。そこに墜落したUFOから出てきた少年と、村人との交流を描いたSFファンタジー作品。 と、作品を紹介すればそんな感じだろうけど、ソ連時代のウズベキスタンで制作されたこの映画はハリウッド映画にはない素朴さがあって、何とも言えない魅力がある。作品に出てくる村人達も純朴だし、特撮も学芸会レベルなのにほのぼの感がすごく良い。 全編、あのスピルバーグに語りかけるナレーションも、「あなたの映画のUFOは光っていましたが、ウズベキスタンのUFOはナベで出来ています。でも本物です。」といったように何とも言えず可笑しいわw |
U・ボート
(1981年制作) |
10 |
1941年。大西洋に出向した1隻のUボートの運命を描いた戦争ドラマ。 潜水艦映画の傑作として名高い本作だが、戦争アクションではなく完全に密室での心理劇とも言える戦争映画となっている。その描写が素晴らしく、観ているうちに自分も艦の中で息苦しさを覚えるほどの圧倒的没入感を味わえる。元々はTVドラマ用に製作が開始された作品で、300分を超えるドラマ版からすると半分以下に纏められた総集編という趣もある。だが公開はTVドラマよりもこの劇場版の方が先なので、そういう意味では“オリジナル”とも言えるし、編集も上手いのでそうブツ切り感はない。カメラワークも素晴らしい、狭い艦内を縦横に移動して乗組員を追っていく…このスピード感はなんだろうかw 大西洋の通商破壊で恐るべき威力を発揮したドイツのU・ボートだが、冒頭でその生還率は4分の1であると示される。そんな彼らの命懸けの出撃と戦闘が描かれるわけだが、敵を撃破して喜ぶだけの映画ではないところがこの映画最大の魅力。もちろん通商破壊のシーンも描かれるし、駆逐艦に追われるシーンもある。しかし最大の敵は水圧だろう。観客は報道班として艦に乗り込んだヴェルナー少尉の視点を通してその戦いに参加する。冒頭で潜航性能を試すシーンで水圧と圧潰の関係性を知り、中盤の駆逐艦戦で水圧の恐怖を知る。そして終盤に止まらぬ沈降と浮上不可の危機に直面していく。圧潰の恐怖、劣悪な艦内環境、髭が伸び放題になり次第に汚れていく彼らの姿。その極限状態での乗組員たちの闘いは、ただ生き延びるための闘いだ。 観客の代理はヴェルナー少尉だが、本作の主人公はユルゲン・プロホノフが演じる艦長で、冷静に指揮をふるい、指揮官として頼れる人物として描かれる。一方で、中盤では水圧の恐怖で錯乱した部下の処理もいとわぬ姿勢を見せたり、浮上の危機を脱するための修理が完了したとの報を聞いた後の横顔と呼吸の乱れに、彼が背負ってきた責任の重圧が垣間見えるね。ユルゲン・プロホノフは威厳のあるとても良い演技を見せている。 しかしこの映画は何と言ってもラストだろう。極限状態を乗り越え母港に帰ってきた彼らを待ち受けていた運命の皮肉。ここまでのドラマによって、観客であるこちらも意識はもはや乗組員たちと共に極限を闘ってきたような感覚になっているのに、その彼らが海ではなく陸で散っていく姿は…ショックすぎる。そこまで共に闘った艦の死を見届けて力尽きた艦長と、その横にへたり込んだヴェルナー少尉の姿には…もう言葉が出ない。この虚しさだけが残るエンディングは、敗戦国だからこそ描けるものでもあろう。だからこそ、そこにこの映画の最大の存在意義があるのだと思う。 |
U・ボート ディレクターズ・カット
(1997年制作) |
10 |
1981年に公開された「U・ボート」のディレクターズ・カット版(以下DC版)。劇場公開版に入らなかった計73分に及ぶカットを加えた上映時間208分の戦争ドラマ。 オリジナル公開版でもその重厚さに圧倒されるけれど、本作では人々の描写が増えて物語の深みが増している。このDC版は初公開から16年経って作られた別バージョンで、元々TVドラマ版にあった場面を加えて1本の作品にしているので、こちらの方が初期構想に近い流れと思われる。なので73分も増えているのに取ってつけた感はないし、より艦内の雰囲気や人物像が深く伝わってくる様になった。特に前半は、遠すぎて味方の戦闘支援に行けず、敵の高速艇には追い付けず、活躍の場がなくフラストレーションが内側にたまっていく様子がよく伝わってくるし、だからこそいよいよ敵船団に攻撃ができるとなった場面では、劇中の人物同様に力も入ってしまうというもの。ちなみにオリジナルで上映開始45分で描かれた船団攻撃の場面は、本作では1時間半も経ってから。前半のボリュームが増えていることがよく分かるけど、それまでは空振りか一方的に駆逐艦に追われる場面しかないのだから、そりゃ観ている方も焦らされてたまらない。でもこれは戦争映画ではあるが戦闘を描くことが目的の映画ではなくて、戦争に出撃したある潜水艦乗組員たちの姿を描くことが目的なのだよね。だからボリュームアップの場面はそれでいい。その他、船内の毛ジラミ騒動やトムセンの艦と会った後の艦長の怒り、ビゴの補給船での歓待などの細かいカットも色々増えている。 ちなみにこのDC版は画角も変わっていて、オリジナルはヨーロッパ・ビスタの1.66:1だったのがこのDC版はアメリカン・ビスタの1.85:1になってます。なので、オリジナルに対して上下を少しトリミングしている感じだけど、映画としてはこの比率の方が(今の感覚だと)しっくりくるかな。あとは音もサラウンド化されていて、確実に臨場感が増しているなあ。やはり本作についてはこのDC版が完成版だと思う。 |
遊星よりの物体X
(1951年制作) |
7 |
北極に未確認飛行物体が墜落。米国の探検隊はそこから氷に閉じこめられた宇宙人を捕獲するが、基地内で宇宙人が脱走し人を襲い出す。 今ではリメイクの「遊星からの物体X」('82)の方が有名になってしまったけど、SFホラー映画の古典ですね。侵略型宇宙人と閉鎖空間(北極基地)というシチュエーション、生け捕りに執着する科学者など、後の「エイリアン」にも通じる設定が見て取れます。科学者が脅威については考えずに、宇宙人を種子(植物型なので種がある)から栽培しようとしたりするなどは全くもって狂気だけど、意外にもそれが展開には生かされていないのはご愛敬w 宇宙人のデザインはどこからどう見てもフランケンシュタインの怪物なのでもう一ひねり欲しかったところ。全貌が明らかになるまでは想像力も手伝って良い感じだったけど、さすがに全身があらわになると…ねえ。倒し方についても、電撃で人型のモノがみるみる焦げ縮んでいく様など公開当時は見応えがあったのだろう…、と想像しながら観ました。全体的には、追いつめられる緊迫感よりも、対処出来るという前提に目に見える作品の雰囲気が時代を感じさせます。 |
遊星からの物体X
(1982年制作) |
8 |
SF小説「影が行く」を、1951年の「遊星よりの物体X」から約30年後に再映画化したSFホラー作品。全滅したノルウェー隊が追っていた犬を受け入れた米国隊の南極基地。しかしその犬は未知の"いきもの"だった。 冒頭から怪しさ満点の犬の行動と、並行してい明かされていくノルウェー隊の状況。サスペンス風味の序盤から一転するのは、その犬に化けた"いきもの"が正体を現すところからだが、ああいった犬や人の肉体変形はショック演出としては今観てもよく出来ている。まあ前振りとしての死骸は映っていたけど、グロい変形シーンをちゃんとSFXで作ったのが大きいね。特に腹にできる口と顔面ガニはなかなか想像の及ばない造形で見事。 なによりこの映画が上手いのは、"いきもの"が誰に化けているのかが分からないという疑心暗鬼の緊張感を出してるところ。もう話はこれだけで引っ張っているに等しいけど、それがちゃんと持続してる。全編重い感じのまま、ラストには"いきもの"を倒したものの、主人公たちにとってあまり希望的ではない状況もまた暗い。暗いが、この映画の締めとしては良い。 |
郵便配達は二度ベルを鳴らす
(1946年制作) |
8 |
1934年に出版されたジェームズ・M・ケインの同名小説の3度目の映画化作品。流れ者の主人公は、雇ってもらった食堂で店主の妻と不倫関係に陥るが…。 魅惑的な店主の妻コーラをラナ・ターナーが演じているが、多情な女と描かれた原作に比べるとこの映画ではちょっと控えめらしい。実際に主人公フランクが美しいコーラと何とかなろうと仕掛けるシーンの方が多いので、観てみる彼女とと歳の離れた亭主との関係や、彼女が店を持ちたいという夢との合わせ技でフランクに流されたという印象のほうが強いかな。まあ不倫の話には変わりないが、愛憎劇よりは犯罪映画としてのベクトルの方が強いのは時代的なものがあるんだろうか? メロドラマ、サスペンス、法廷劇。そして因果応報な結末…と様々な要素が詰まっているのは面白い。個人的には有能な地方検事と、これまた有能な弁護士との駆け引きの手際が良くて感心した。一方でその後の探偵のゆすりはちょっとチープな気がしなくもないが。それでも劇中で登場しない郵便配達の意味が分かるエンディングには膝を打ったね。全く関係ないような例えなのに、こうなることは運命だったと感じさせる小粋なタイトル。 |
誘惑のアフロディーテ |
7 |
ニューヨークのある男とその家族と娼婦の物語を、ギリシャ劇に見立てて描いた作品。ウディ・アレンの作品なので、基本的には喜劇です。けど腹を抱えて笑うことはなかったかな。つーかテーマが結構重いなあw ラストの、お互いに自分の子供と気づかない主人公と娼婦が、何とも言えない気分にさせてくれます。ギリシャ劇に見立てたおかげで神話の人物名が多々出てくるんですが、オディプスやカッサンドラは分かるとして、ティレシウスは知らなかった。俺はギリシャ神話に詳しくないので楽しめ切れてない…、くやしい。ラストにみんなハッピーになるのはいいんだけど、娼婦の元締めまで幸せそうなので笑ったw しかし娼婦を演じているミラ・ソルヴィノ、“頭がちょっと弱そう…”と思える演技は大したもんだ。 |
雪の女王
(1957年制作) |
8 |
アンデルセンの童話を原作にソ連で制作されたアニメーション映画。雪の女王に連れ去られた親友のカイを救うため、少女ゲルダは1人旅立つ。 フルアニメーションだと思うけど、ディズニーとはまた違う作り込みで動くキャラクター達には目を見張るものがあるなあ。横移動で済むような場面でも回り込むというか、馬車とかトナカイとか回転しながら移動するんだよね。物の立体感や奥行を考慮した演出を手間暇かけて描いているのが分かるし、吹雪に抗する場面なども力がこもる。 山賊の娘がゲルダの身の上を聞いてゲルダや動物を逃がす場面は、宮崎駿をしてこの映画の白眉と語る箇所。ただただ一途に少年を救うという想いで行動するゲルダによって、カイの氷のトゲが溶けるという話を考えると、確かに作品のテーマはその山賊の娘の場面に全てあるな。というか、キャラクターの感情表現としてはカイを救う場面よりもドラマチック。 ストーリーこそ童話から取ったもので一直線だし、ご都合…とかそんなことを言ってたら始まらないが。少なくとも1950年代に、ディズニーとはまた違う流れでアニメの感情表現を作り上げた作り手の信念を感じる。 |
ユナイテッド93 |
9 |
2001年9月11日に発生した米国同時多発テロ事件。その事件に巻き込まれ、目標に到達することなく墜落したユナイテッド航空93便と、地上管制室などの様子を描いたサスペンス。 “信じられる真実”を元に客観的に、そして真摯に描いた作品。まるでドキュメントのように撮られた手持ちカメラの映像や、やたらと情感を煽るでもない演出のせいか、どんどん“その時の、その場所の空気”に飲み込まれていった。あの飛行機の中から見た最後の景色。後味は悪いけれど、俺は観ておいて良かったと思う。 印象的なのは、乗客達がコックピットの中に突入しようとする前に祈りを唱えるシーン。乗客達と交互にアラーに祈る犯人達の姿が映される。乗客と犯人に対して、映画としての目線が本当に平等なのだ。 乗客達が死を覚悟して機内から家族に電話をかけるシーン。もはや有名なエピソードであるけれど、映画を通してその場の空気に飲まれていると、何という苦しい場面と感じることか。 |
許されざる者
(1992年制作) |
9 |
伝説の悪党だったウィリアム・マニー。ある日現れたキッドと名乗る若者に、賞金稼ぎの話を持ちかけられるが…。 クリント・イーストウッドが描く西部劇の集大成だが、しかしそこで描かれるドラマは派手なものではなく重い。序盤、初老に差し掛かった伝説の悪党は、すでに馬に乗るのも這う這うの体で、何かあれば落馬もするし「大丈夫かいな」といった感じなのだけど、このへんはイーストウッドなりのジョークだろうか。シリアスな話にあっても最低限のバランスだけど、ウィットというよりはニヒルな感じかな。 マニーはここに至り、自分のそれまでの非道を正面から受け止めて生き、自分を真人間にしてくれた亡き妻を思い、仲間のために復讐の鬼になる男。いや"漢"だ…。でも渋いけれど、むしろ修羅道から抜け出せない運命にあり、それこそが決して許されることのない、過去を背負い続けて生きなければならない男の姿でもある。とてつもなく渋いが…。初めて人を殺したというキッドが泣いたとき、「殺し」というものが非情だと語るマニーだが。それまで粋がっているだけのキッドには何も言わなかったという事にも、言葉ではない重みを感じるよね。 この作品においての"敵"は保安官のリトル・ビルなわけだけど、個人的にはこの保安官が真に悪党だとは思わなかった。彼は彼なりにこの町の秩序を守ろうという信念があったわけだし、無法のはびこる時代で力による正義を体現していたとも思える…。だがそれゆえに容赦がなさ過ぎたのかな。 プロローグとエピローグで、一見物語と分断しているように思える妻の母の話が、マニーという人となりの物語にぬくもりを与えてくれる。マニーは良い妻を持ったのだ。 |
ようこそ映画音響の世界へ
(2019年制作) |
8 |
映画作品における“音響”の存在を取り上げたドキュメンタリー作品。 「映画の半分は音で出来ている」とは押井守の言葉だったか、と思ったら本作でも同じことを言っていた。それほどに映画という映像表現における“音”の役割は大きく、それの有無や質感ひとつで映像の印象がガラッと変わってしまうということですが、本作はそのことを分かりやすく教えてくれます。全体的なつくりとしては「音響の歴史」を通じて3世代の第一人者の仕事にさらっと触れ、そのあとに“音声”“音響効果”“音楽”という構成要素の紹介、そしてそれらを統合して調整するミキシングを経て「映画の音」が完成する過程を観客に理解してもらうという流れ。この構成は分かりやすくていいよね。なんか教材みたいな作品だな…とも思ったけどw (堅苦しくはないですよ。) でも面倒くさいオタクならいざ知らず、普段は無意識でしか映画の音に触れてこなかった人向けに「こんなにたくさんの工夫や調整をしてたんだ…」という事を知ってもらうにはとてもいい塩梅。例示される作品も有名な映画が多いし、その上でステレオ化やサラウンド化、そしてマルチトラックによる環境音の厚みなどなど、その効果を視覚と聴覚で体感させたりといった工夫も良いと思う。やっぱりこういうドキュメンタリーでは知っている作品が例示されるかどうかで「理解した気分になる」程度がガラッと変わってしまうよね。そういう意味で過去の名作・大作からのチョイスもなかなか良かったなあ。「この映画知ってる!こんな風に作ってたんだ!」って思うと入りやすいもんね。 |
善き人のためのソナタ |
8 |
1984年の東ドイツ、ベルリン。壁の向こう側の日常で行われていた市民の盗聴や監視。秘密警察の主人公が、ある芸術家の監視をするうちに心情に変化が現れる。 劇作家と恋人である女優の2人の監視をするうちに、秘密警察官でありながら深く2人に肩入れしてしまう主人公の描き方が良い。冷血な尋問官だったのに、思いがけず“他人のため”に行動する主人公。でもそこは劇的な描き方ではなく、あくまで全編通して淡々としている。そのあたりの描ききり方も良かった。 そもそも東独の実情を西側に伝えようとする劇作家達のドラマと、彼を盗聴する主人公の心情の変化というストーリーの二重構造が上手くて、観ている方はそれでしっかり引き込まれるんだよね。完全な悲劇でもハッピーエンドでもないけど、それでもラストには心に何か良いものが残った気がする良いドラマでした。 しかし、“秘密警察による市民の盗聴”なんていう暗部もきちんと描くドイツ人は、自分たちの歴史をきちんと見つめているんだなあと改めて思ったわ。 |
夜の大捜査線 |
7 |
米国南部の田舎町を舞台に、偏見の中で殺人事件の捜査を協力することになった北部の黒人刑事の姿を描いた刑事ドラマ。 黒人に偏見を持ったロッド・スタイガー演じる署長と、シドニー・ポワチエ演じる黒人刑事のバディ・ムービーといった印象も受ける作品だけど、事件とは関係ないところで描かれる黒人差別の描写によって社会派サスペンスとも取れる内容になってる。優等生タイプの役をポワチエは実に上手く演じてます。まあそれがポワチエの持ち味であるんだけどね。対するスタイガーは主人公に不信感が拭えていない序盤から、どこか次第に理解を示していく終盤までの変化を上手く表現してると思う。そのあたりのやりとりは見ていて感じるところが多かった。 ただ、ストーリーは序盤こそサスペンス風に始まるけど、差別描写と事件との関連が今ひとつ密でない気がしたし、ラストもちょっとあっさりしていたので、事件に関しては少しばかり拍子抜け。 まあ、娯楽作とはいえ、60年代当時の南部の空気や黒人の境遇を描いた作品なのだから、きっと表現したい事というのは事件そのものよりもその舞台なんでしょうね。 |
4ヶ月、3週と2日
(2007年制作) |
7 |
1987年のルーマニアで、ある非合法な手術を受けるルームメイトのために奔走する主人公を描いたドラマ。 冒頭、主人公の女子学生とそのルームメイトが部屋で何かの準備をしている。色々と計画していて決行日も迫り余裕がない様子だが、何の計画かはよく分からない。実は人工中絶手術なわけだが、それが分かるのは中盤に差し掛かったころ。この映画はそういった目的や時代背景、人間関係を台詞で説明することはあまりなく、あくまで状況から観客が察して理解していかないといけない。不安定なカメラの揺れは、カットで割りこそすれ観客側がそれらを覗き見ているような距離感で描いていて、どんどん“空気”に飲まれていく感じ。 舞台となるチャウシェスク政権化のルーマニアは人工妊娠中絶を法律で禁止していた時代。それが故に主人公たちは堕胎を闇医者に頼ることになるわけだが、そのあたりはある程度の歴史や時代背景を知っておいた方が良いかもしれない。 主人公が世話を焼くルームメイトがなんとも腹立たしい。自分の事なのにろくに準備も出来ないバカ…もとい主人公への依存性が高い女で、主人公はどうしてそこまでして面倒を見るのか、まったく共感できないが…これはある種の共依存の形なのかな。とにかくルームメイトの当事者のくせにどこか真剣味のない感じが非常にムカつくが、そう感じさせる表現、映画としての見せ方が上手いのだ。前にも述べたようにそれらを覗き見るような映像が、こちらを同じ空間に引き込んでくる。闇医者が怒ればどうしたもんかと悩み、恋人の家の居心地の悪さに辟易する。その空気の切り取り方が上手い。だが観ていて楽しい映画ではない。 タイトルが指すのが何かは明白だが、具体的なその期間を知る者は劇中にはいない。ある意味観客へのネタバラしだが、「5か月ではない」というだけでギリギリじゃねーかというところに、ルームメイトのいい加減さが際立つ。 |
40歳の童貞男
(2005年制作) |
7 |
40歳の童貞男である主人公の悪戦苦闘の恋路を描いたコメディ映画。 オタク趣味に生きる40歳の童貞男なんて…なんだか身につまされる部分もありますが…(苦笑) まあ話が話なので基本的に下ネタメインだけど、お下劣とまでは行かない下品さの中でセーブしつつテンポ良く展開されるので、コメディ映画としてはゲラゲラ笑えて楽しかった。主人公を脱童貞させようと世話を焼く職場仲間とのやり取りも面白いが、彼らも(おせっかいかもしれないが)悪意よりは善意の方がしっかり見えるので安心して観ていられる。 最終的にコレクションも売って、恋人とも結ばれての大団円でエンディング。結局オタク趣味も童貞として生きるという選択肢も「ノー」と言っているわけなので、「そういう生き方もある」という寛容さよりは「大人の男ならこうあるべき」という固定観念の話の様な気もするが…。まあそれは言うまい。主人公の本懐が遂げられたのであれば良い話ではあるよね。 |