シネつう!
JAPAN STYLE !!

空母いぶき
2019年制作

満足度:

かわぐちかいじの同名コミックの実写化作品。
近い未来の日本、波留間群島初島に国籍不明の武装集団が上陸しこれを占拠。
この状況に政府は海上自衛隊の第5護衛隊群を向かわせる。

原作は既読。 一応この映画の原作はその同名コミックということになっているけど、キャラ設定以外は8割方オリジナルの内容だね。
一番の設定の違いは占領されるのは先島・尖閣諸島ではなく架空の波留間群島で、対峙する相手も中国ではなく架空の国の東亜連邦ということ。
そこは実際の情勢(あるいは中国)への配慮もあるのかもしれないけど、話の構造としては“国交がない国”ということにすることで大使館とのやり取りの時間を省略して描けるという作劇上のメリットが大きいのだろう。
それによって相手の姿をほとんど描くこともなくなり、あくまで日本側の話、専守防衛という日本の姿勢や自衛隊の矜持といったテーマに集中する形は取れていると思う。

「作劇の都合」で初手でいきなり昇降エレベーターをミサイルでやられたのには笑ったが…。
そりゃあいきなり空戦をやっては終盤の盛り上げが困るもんねw
(その後の潜水艦のシーンで「撃たれるまで撃てない」とか言ってたのはちょっと不思議だった。
 自衛隊としてはすでに先制攻撃されてるやん。)

一方で、話の流れや緊張感とは全く関係なくクリスマス前のコンビニの様子が差し挟まるのはいただけない。
日常生活との対比や影響の表現なんだろうとは思ったけど、話のテンションをぶった切ってまでコンビニの様子を入れる必要はないんじゃないのかなあ。
(クリスマスカードの話を入れるとしても、冗長。)
これで、事態を一切知らない店長が一夜明けた後も気づかないまま再び日常が始まればある意味ブラックなジョークとしても成立するけど、「何があったの」とか中途半端に反応されては、やっぱりなんか微妙。

個人的には政府と自衛隊だけの話にしておけばよかったと思うんだけどね。
マスコミも乗艦させる必要なかったと思うくらいだったし。
というかマスコミの力が世界を動かした様にも見える終盤の展開は、あまりに理想の押し付けすぎてその甘々さには閉口してしまった。
「戦争は始めるよりも、終わらせる方が難しい」とは言うが、国連の介入でスパッと戦闘をやめるような国が、そもそも占領してくるのかよ、と。
後ろ盾の第三国の存在を匂わせている以上、「国連軍」の成立は眉唾にしか思えなかった。
なんかこう、いろんなものをうやむやにしたまま幕引きされたようで、どうも納得はしきれない。

作品としては政府や現場の対処の話が中心になるので「シン・ゴジラ」が比較対象になるだろうか。
一見覚悟が足りなさそうな首相が次第に腹を決めていく流れも似ているが、ブラックコメディとしての政権批評的な描き方としては「シン・ゴジラ」の方が上手。
そもそも本作は前述のコンビニの話もそうだけど、自ら脇道にそれて話のテンションやスピード感を殺しているのが勿体ないんだよね。

西島秀俊演じる主人公の秋津艦長は泰然としていて良いキャラなので観ていて面白かったし、対比キャラとしての新波副長を演じる佐々木蔵之介も良かった。
尺の都合があるんだったら、基本そこにフォーカスしてもっと「自衛隊」を描いてくれていればなあ。


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