シネつう!
JAPAN STYLE !!

クリーピー
偽りの隣人
2016年制作

満足度:

前川裕のミステリー小説を原作に、黒沢清監督が実写化したミステリー・スリラー。
元刑事で大学教授の主人公・高倉は、ある切っ掛けで過去の一か失踪事件を調べ始めるが…。

調べていた事件の犯人が、実は隣人だった。
その事実がスリラーを物語る上での武器だと思うのだけど、隣人・西野が初っ端から普通とは違う雰囲気を出しているので驚きには繋がらない。
というか、その西野の醸し出す違和感というかサイコさを垣間見るための作品だとすれば、西野役の香川照之は最大限にすばらしい演技を見せているし、十分に観るところのある作品だとは思う。
でも一方で、物語の流れとしては疑問に思うところも多々あって、それが全体の微妙な違和感にもなっている気がする。

例えば…、冒頭の高倉が警察を辞めるきっかけの事件は話の中でほとんど生かされないし、過去の一家失踪事件の生き残りの少女の真相もハッキリしないまま放置。
刑事の野上が殺されるのはともかく、田中家ごと焼かれた理由はよく分からない。
警察の動きもストーリー上のご都合主義に埋もれているし、そもそも西野家の地下室の設備が民家の一室とは思えないなw
まあ地下室はある種の“異様性”という比喩表現だと思うけど、結局作中で描かれる事態は“西野”という存在を見せるためのものでしかなかった感じ。
それも仔細ではなくあくまで抽象的な感じで、西野が高倉の妻を取り込む切っ掛けにしたって、結局一体何を言ったのかはハッキリしないからね。
あの第一印象を覆すのって難しいと思うんだけど…、とにかく“何か言葉巧みに取り入った”のだろうがそこは描かれない。
(クスリは次の段階だろうから。)

抽象的で説明がないという点では、一家失踪事件の生き残りの少女が「証言がコロコロ変わる」とされた過去の時点から、今に至って断片的に思い出してきた切っ掛けにも説明がない。
観ている間は、てっきりそこから西野が被害者たちに取り入っていく手口の一端を明かしていくのかと思ってたのだけど、そうはならなかった。
どちらかというと、一家失踪事件の方は、高倉が西野に気づくための状況と、高倉も西野と同じく「人の心が無い」と言われるための状況づくりとして優先されたか?
やはり作品として描きたいのは「事件」そのものではなくて、「西野」に象徴される人への違和感ということなんだろう。

それを描くためなら、話が進むにつれて部屋の中をどんどん暗くしたり、例え数分のことでも昼を闇に変えたり、車移動をスクリーンプロセスにだってしてしまう。
そういう“イメージの映画”って感じ。


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