シネつう!
JAPAN STYLE !!

CURE
1997年制作

満足度:

被害者の首から胸にかけてX字型に切り裂く連続猟奇殺人事件が発生。
2ヶ月間に3件起こった同様の手口の殺人だったが、しかし犯人は別々の人物でそれぞれに関連性はない様に思われた。
捜査を進める刑事・高部は、その犯人たちが直前にあったとする男・間宮を参考人として捕らえるが…。

黒沢清監督を海外でも有名にした作品だけど、なるほど納得のクオリティ。
精神的なホラーとでもいうか、観ている間にずっと感じる居心地の悪さは素晴らしい。
それは主人公のままならぬ心理に共感させられそうになる見せ方の上手さでもあるし、話が噛み合わない会話のフラストレーションをダイレクトにぶつけてくるやり口の上手さでもある。

間宮を演じた萩原聖人のイラつかせる演技は良かったなあ。
会話などで多用される長回しによって、あの間と口調の(イラつかされるという)効果が最大限に発揮させられている。
そして間宮が記憶喪失か無垢の犯罪者か曖昧だったところから、次第に彼の行動が確信的であるという事が分かっていく流れにゾクゾクするわけだけど、一方で刑事の高部がその影響に侵食されていく様子が…もうサスペンスと言うよりホラーですわ。

結局、端的に言えば間宮が行っているのは“心の底で願っていること”を行動に起こさせるという催眠術なわけだ。
しかし、うじきつよしが演じる精神科医が言う「催眠状態でもその人間の基本的な倫理感は変えることができない」という原則がそうなのだとしたら、この話は逆説的に人の心の奥にある危うさを暴露していることになる。
「妻が死ねばいい」「男を切り刻みたい」「同僚が疎ましい」「犯罪者を殺してやる」。
“心の底でそれらを考えたことがない奴はいるか?”と突きつけられているような気分にさせられた、まさにそのことがホラーだった。

終盤に近づくにつれて高部の見ているものが現実なのか心象なのか曖昧になってくる部分がある。
それこそが映像表現の面白さでもあるけど、その曖昧さを突きつけるように中盤に描かれる“妻の自殺”というシーンの導入はお見事だったね。
モンタージュとフラッシュバックを組み合わせて、高部が感じた予感ともショックとも言えない居心地の悪さを一瞬で観客側にも感じさせるのだから、これはもう映像の力ですよ。

終盤は意味深な描写が強まってくるしハッキリ描いているものでもないが、高部の妻は高部の“望み通り”死んだのだろう。
そして間宮の伝道は確かに継承されたのかもしれない。
ラストのウェイトレスは自らの“癒やし”を得るために、逆手にナイフを持ったのだ。


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