シネつう!
JAPAN STYLE !!

虐殺器官
2017年制作

満足度:

伊藤計劃の同名小説のアニメ化作品。
先進国ではテロの脅威がなくなった一方、後進国では内戦と虐殺が横行していた。
米国は虐殺を行っている戦争犯罪人の暗殺を行う特殊部隊を創設、主人公はその一員として対象国へと潜入するが…。

原作は既読。
潜入ミッションや鞘と呼ばれるイントルード・ポッド、そして光学迷彩などのガジェットは、原作者である伊藤氏が大ファンだったというゲーム「メタルギアソリッド」シリーズの影響がすごく感じられる。
というかそのへんは原作者自身の好きなものに対するオマージュなんだろうが。
その上で、「今もどこかで戦争が行われているこの世界」を俯瞰的にとらえ、人間の本質に皮肉と風刺をこめて世界を語りあげたこの物語はSF作品としてとても面白い。

そして主人公が追っていた“虐殺の王”ジョン・ポール、彼が実は先進国の平和を守るために“それ”を行っていたのだという価値観の逆転が、ある種スパイ小説のようなストーリーの起伏として作用する。

このアニメ化された本作でもそのテーマの根幹となる部分は変わらないし、ハードなストーリーを表現するためのリアル路線の演出も地に足ついていて見応えはあったと思う。
戦闘描写など、たとえ主人公側が少年兵を殺戮するという場面では躊躇なくハチの巣にする様子を描写していたし、そのあたりをごまかさなかったのも評価。
ただ、会話のシーンでは世界観が複雑なこともあるし、ジョン・ポール自体が動きの大きいキャラクターではないのも手伝って、少々単調に感じる部分もあったかな。
言っている内容はとても興味深い話なのだが。

またその一方、上映時間の兼ね合いもあるのだろうが、やはり一部分で省略された部分が気にかかるところもある。
特に気になったのはエピローグの最後の場面がカットされてること。
原作で読んだ時、主人公の選択の果てに訪れた世界に少し寒気を覚えたものだけど、この映画ではその一歩手前で終劇となるので少々物足りなかったのは事実。
エンドクレジットの後にもうワンカットあるのかと思ったのだがなあ。
原作の冒頭(死者たちの国)とラストをカットしたことで主人公の罪に関しての印象は薄くなり、作品としては「虐殺器官」の物語構造の映像化という範疇に良くも悪くも収まってしまった感はあると思う。


もどる(カ行)

当サイトは
円柱野郎なる人物が
運営しています
since 2003.02.01