シネつう!
JAPAN STYLE !!

来る
2018年制作

満足度:

澤村伊智の小説「ぼぎわんが、来る」を原作にした中島哲也監督のホラー映画。
イクメンパパの秀樹は、身の回りで起きる怪異現象から家族を守るために知り合いの伝手でオカルトライターの協力を仰ぐが…。

人間の内面にある「身勝手さ」がテーマになっていると感じたけれど、それをオカルトな事件を使って表面化させた話、という感じかな。
“人を連れ去っていくという化け物”にまつわる土着の伝承をうかがわせる冒頭から、神道・仏教・琉球シャーマンetc全部入りの祓いに至る終盤まで、“日本”を感じさせるオカルトチックな雰囲気が個人的には好き。
「あれ」が来る様子も、存在は感じるがハッキリ姿を見せない演出がとても効果的だと思う。
とはいえ実際に怪異現象としてはハッキリ描かれるのでかなりハッタリの強いオカルト話ではあるのだけど、松たか子演じる「国の上の方」に顔が利く超強い霊媒師の存在とか、超然としたキャラクターは…さらにハッタリが効いて「ヒーロー」的な興味をそそる要素もありますw

この話は3幕構成で作られていて、それぞれで主人公も入れ替わって違った視点から描かれるわけだけれど、主人公が切り替わるという構成のホラー映画というと、「呪怨」を思い出した部分もある。
とはいえその3幕構成自体は原作がそうであったということで、その様に見せることで取り繕われた人間の表と裏が暴かれていく過程に「怖さ」というか人の嫌な部分をあぶりだす効果も与えられている感じだね。
(原作者曰く、芥川龍之介の「藪の中」方式。)

妻夫木聡演じる第1幕の主人公・田原秀樹はとにかく薄っぺらいイクメンパパぶりがうざったいキャラクター。
「いいひと」を演じるという人間心理は誰にでもあるかもしれないが、彼はその権化のようなキャラなので余計に観ている側は居心地悪い。
「家族を守らなきゃ」という気持ちですら“世間体”が脳裏にあったかもしれないなあと感じたけど、この男がまんまと「あれ」に殺されてしまった場面には、さすがに「え、ここで退場?」と少し驚いてしまった。

その後、第2幕の黒木華演じる秀樹の妻・香奈の話になって「ああ、主人公が代わる話なのね」と理解したが、香奈の話もまた破滅に向かっていくので(いい意味で)居心地が悪い。
彼女の最期、血まみれの遺体の顔は笑っていたけど彼女にとっては死が苦しみからの解放だったという事なのかなあ。
なんともはや。

第3幕では岡田准一演じるオカルトライターの野崎和浩が主人公。
彼の過去が回想的に挿入され、かつて女に堕胎させた出来事が今回の事件とないまぜになって彼に襲ってくる。
終盤の葛藤からの行動は、当初一番胡散臭い職業人として登場した野崎が最も情に厚い行動をとったという、田原秀樹との対比としての立ち位置としてもあるべき結末に持って行った感じですな。

全体的なカット割りのテンポやビジュアル面のセンスは中島哲也監督らしい作品だなあと思ったし、序盤の不穏な雰囲気と音楽のミスマッチもよく出来てると思った。
だけど、大半を雰囲気だけで十分やな感じを出していたのだから、終盤のてんこ盛りのお祓い場面で視覚効果を多用したのは…ちょっとだけ拍子抜けしたというのが正直なところ。
まあ、どす黒い血の様な液体が霊媒師の周囲で近づけない様子などは結界感が出ていて、それはそれで面白いビジュアルではあったけどね。


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