シネつう!
JAPAN STYLE !!

かぐや姫の物語
2013年制作

満足度:

「竹取物語」の、有名なかぐや姫の物語を描いた高畑勲監督のアニメーション作品。

大きな流れは昔話に聞いて良く知っている「かぐや姫」の話そのもの。
だけどそのかぐや姫がどのように育ち、世界を感じ、最後の別れに涙したのかという心の情景を、2時間17分たっぷりと見事に描き切っている。
里で自然に囲まれ育った活発な少女が、都で教育を受ける…という流れを見ると「アルプスの少女 ハイジ」のそれと重なる部分も多い気がするが、もはや普遍的な物語として受け入れちゃう部分もあるよね。
やはり物語の流れが美しいのですよ。

終盤の天上人を迎え撃つ地上の者という構図は、ある意味見せ場になるはずなのにアッサリこなした感じ。
やはり描くところはそこじゃなくて、姫がどう生き、何を感じたかということだろう。
天上人にそういった感覚がないのが伝わる(天上人のピーヒャラ鳴らす曲が何とも悩みのない感じで…実にいいw)演出は、物語としては言い知れない哀しいところもあるけれど…、いや良い映画だった。
姫に言い切らせなかったところも良いね。(ここまで観ていれば十分に伝わる。)

作風は監督の前作「ホーホケキョ となりの山田くん」の表現…セル画調というよりは手描き水彩風といった感じをさらに推し進めた感じで統一されている。
これが、絵巻ではないけれど昔話という暖かさの"生きた絵"として実に素晴らしい。
一見すると古臭いと見える部分もあるかもしれないけど、これをやり通す力は並大抵じゃないだろう。
全てを描き切らない背景の余白に、観る者は想像力を無意識につぎ込むわけで、これが画に吸い込まれる感覚すら生むか。
予告編でも流れたかぐや姫が衣を脱ぎ捨て疾走するシーンは、あれだけ荒い線の集合でしかないのに、何とも形容しがたい力強さがあり…。
あの凄さは何度観てもホントに震えが来る場面です。

声の出演はジブリ作品らしく相変わらず俳優ばっかりで所謂声優はいない。
でもまあ、ベテランの役者ばかりでさすがに上手いよなあ。
翁を演じた故・地井武男は昨年亡くなる前にプレスコで収録したものだそうだけれど、実に良い。
姫の想いとすれ違ってはいるけれど、悪意がないのが分かるよなあ。
あとは教育係の相模を演じた高畑淳子と、求婚者・車持皇子の橋爪功が良い感じだった。
求婚者をあしらう場面は比較的アニメなギャグもあって面白かったね。
それにしても御門は何であんなに顎がとがっているのかw

筍から現れた(文字通り)小さい姫を見つけた翁が、驚きこそすれ「天の思し召し」と受け入れる場面を観て、俺は日本人の精神性を見た気がした。
まあもちろん元の物語がそういう流れではあるのだけれど、リアルに考えれば筍に小さい人間がって状況は…良くて物の怪でしょう?w(劇中にそのように疑う場面もあるが。)
考えてみれば高畑監督は「おもひでぽろぽろ」でも「平成狸合戦ぽんぽこ」でも、「となりの山田くん」でも日本人の姿というか、日本のメンタリティそのものを描き続けていたのかな。
そう思えば、おそらく監督最後の長編映画と言われている本作が「竹取物語」であり、そして天上から見て穢れているとされた地上世界をして、そこに生きる素晴らしさを謳いきった本作には感慨深いものがあります。

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