藤沢周平の時代小説を山田洋次が映画化した作品。
幕末の庄内にある海坂藩のある侍の生き様を描く。

構造が同監督の２年前の時代劇「たそがれ清兵衛」に似てる。
“下級武士が家老から上意討ちを命じられる”という展開を観せられるとそう思わざるを得ないが、ゆったりとした情感やクスッとしてしまう台詞の面白さなど山田時代劇の安定感というものは十分にあると思う。

江戸時代末期にあって、「飛び道具なんて…」と嘆く老人がおり、城内では主人公が洋兵学を学び、決闘では相手が銃によって殺される。
そこは武士の時代の終焉というテーマにおいて、最後に主人公が武士の身分を捨てて蝦夷に旅立つことにもつながっててその一貫性はなかなか感じ入るところだった。
ただ主人公と謀反人・狭間や家老とのエピソードと、女中とのエピソードが若干分断気味に感じられたのは惜しいかな。
これは元々原作に「隠し剣 鬼の爪」と「雪明り」の２編を組み合わせた脚本にしているから？
狭間が立てこもった家が女中の実家だったらとドキドキしたのに…。

強そうに見えない主人公の永瀬正敏、雰囲気をたたえた松たか子は個人的にはなかなか良い。
親友役の吉岡秀隆とチラッと出演する田中邦衛や倍賞千恵子との絡みは、別作品での親子役を思い出してしまって、何かニヤニヤしてしまったよｗ

さて、タイトルの「鬼の爪」とは何か。
終盤までそれは伏せられるわけですが、この「鬼の爪」がまるでTV時代劇のような懲悪のスタンス放たれるところはビックリ。
だけど、きわめて簡潔に実行されるのが良かったです。
やはり達人は爪を隠すのだ。

---