シネつう!
JAPAN STYLE !!

君たちはどう生きるか
2023年制作

満足度:

戦時中、母を亡くした眞人少年は父親の再婚相手の暮らす疎開先の屋敷で不思議な出来事に遭遇する。

内容を一言で表すなら「不思議の塔の眞人」ってところか。
「不思議の国のアリス」的なファンタジーだけど、日本が舞台なので「となりのトトロ」や「千と千尋の神隠し」、他には「思い出のマーニー」的な雰囲気も感じる。
疎開で都会から田舎にやってきたことで同級生との折り合いが悪く、また父親が再婚した義母に対しての感情も複雑。
最初はその心の内面が見せた空想の世界なのかなとも思ったけれど、作中的には実際に起きた不思議な世界の話というのが本当のところだろう。

だとすれば細かい辻褄のところで気になるところが多い作品でもある。
宇宙からやってきた"石"が現象の根源だというのはそうだとして、大叔父はその中でなぜ石内の世界の守護者のようになったのか?
塔内に来た他の人間は魔法のような能力を使っているのに、眞人には何もそういう類の能力は発現しないのか?
義母が自ら塔に向かったのは何故?(眞人の心の壁を感じたから?それにしたって唐突。)
義母が鏑矢を使ってアオサギを追い払ったていたが、元々追い払い方を知っていた?
婆さんたちは元々塔の中の住人?
塔の中にいる鳥がインコやペリカンである理由は?人型にもなるアオサギだけが異質?
半透明の影のコミュニティとインコ王国のコミュニティはその世界でどういう棲み分けをしているのか…?など、観ていてもよく分からないところも多かった。
ラストに塔が崩れるところも、過去に母親が脱出した時点では崩れず、眞人が出た時間でだけ崩れた理由はわからない。

そういう部分は往々にして何らかのメタファーであって理屈で考えてはいけないものなのだろうと思って観てはいたけれど、じゃあ話の勢いでごまかされるほどか?と言うと、そうでもないくらいに引っかかる部分でもある。
大叔父とインコ王国の関係もどうなんだろう、創造主と非創造物の関係?…でもなさそうだけど、やっぱり何故インコなのかはわからなかったなあ。
まあそうは言いつつも、インコ大王のキャラクターはちょっと好きなんだけどね。

結局のところは、色々不思議な体験をした主人公がラストに母親との対面で別れを言えたことで気持ちの区切りができ、義母を受け入れ、同級生に対する敵愾心も無くして仲良くすることを決意した、という話。
だけど、それを観て「君たちはどう生きるか」と考えさせられたかといえば、そうでもない。
このタイトルは劇中にも登場する吉野源三郎の同名小説から取られたもの。
小説の方は、主人公のコペル君が日々の経験を通して自分という存在と周囲の人々とのつながりを俯瞰的に理解し、その世界の中で"自分がどのように生きるのか"という考えに至った話。
そしてその最後に読者であるこちらに「君たちはどう生きるか」と問いかけてくるわけだけど、この映画にはそういった説得力までは感じなかった。
観ているこちらからすると、「なんだか分からない内に眞人少年が心を入れ替えた」といっても言い過ぎではない気もする。

宮崎駿の新作アニメーションだと思えば、80歳を超えてなお現実では起こり得ない世界に躍動感を与え、動かすところは動かしまくっているところにパワーの衰えは感じない。
だけど物語の語り手としては、分かりやすかった往年の作品の構成力にはやはり及ばないのではないかと感じてしまう。
どこかに死を感じる不穏さや、具体的な世界観よりも観念的な世界観が優先してしまっている部分も気になるところではある。
正直、観念的すぎて子供向けでもなくなっているよね、この映画。
それでも、今リアルタイムに宮崎駿の新作として劇場で観られている事自体は幸せなことなんだろうな、と思うのです。


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