シネつう!
JAPAN STYLE !!

きみと、波にのれたら
2019年制作

満足度:

海辺の町に引っ越してきた大学生のひな子。
そんなある日、自宅マンションの火事騒ぎで出会った消防士・港と出会い、恋に落ちる。

湯浅政明監督が青春ラブストーリーを?という興味で観始めたら、ホントにシンプルなド直球でw
しかしてアニメーションだからこそ成立するファンタジー映画でもあった。
構造的には出会いと別れの…しかも死別を描いた青春恋愛話なんだけれど、惹かれる様子を(くどいくらいに)積み重ねていることで、喪失とそれを乗り越えるまでの覚悟にドラマが生まれている。
前半の甘ったるさがあってこその後半のビターさだよね。
キャラクターに嫌味が無いので俺は感情移入しやすかった。
ちょいちょいクスッとさせる会話があるのも楽しいが、ぶっきらぼうな主人公・港の妹がいい味を出している。

サーフィン、オムライス、コーヒー、そして歌などといった小道具を巧みにストーリー上に配置して、それぞれのキャラクターの説明に代えている見せ方も良い。
台詞で説明しているように見えて実際にはほとんどしていないよな。
登場人物の性格や心情はその様子を見ればわかるし、感じられる。
そういう部分の上手さは、エンドクレジットで「脚本 吉田玲子」の名前を見て納得した。

感情面での内容だけであれば「別に実写でも良いんじゃないの?」と思えるような話ではある。
が、最後まで観ると、やはりこれはアニメだからこそこの物語なのだ確信する。

水の中に映る死んだはずの“彼”は幻覚か本物か。
その微妙な境界線にリアルさを持たせるのは、その世界全てが「絵」として同じ地平に描かれているからこそ成立しているものだろう。
この確信的な彼と水の演出をもし実写でやったなら、絶対にウソや作り物にしか見えないだろうし、そしてそのウソっぽさがノイズになってシラケてしまうかもw
実際、劇中でも彼女にしか見えない彼という様子は幻覚そのものだし、それは彼女の心残りという感じで描かれてもいる。
だが「空想の彼」という“ウソ”を、ラストで起きる奇跡(大ウソ)によって“ホント”の物語にまで引き上げてしまう説得力は、この映画がアニメだからこそ出来ることなのだと考えずにはいられない。
ファンタジーだと言えばそうかもしれないが、それらのリアルさとのバランスは、この物語をしてアニメという表現技法の意味を感じさせる部分にまで昇華させていると感じる。

それにしても湯浅監督のアニメーションは「絵が動くこと」の気持ちよさにブレがない。
本作でも水の描写、特に話の根幹となるサーフィンの描写は見事。
これだけグリグリ動かすなら、今ではCGでやってしまうそうなところだけど…これ作画だよな?w


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