シネつう!
JAPAN STYLE !!

恍惚の人
1973年制作

満足度:

老人性痴呆症になった84歳の老人と、その息子家族の様子を、働きながらも介護することになった嫁の目線から描いたドラマ。
監督は豊田四郎。

痴呆症という題材は当時でも非常に珍しく、原作小説でようやく注目を浴びる程度の認知度だったという話らしいが、内容的には今見ても古くはない。
ボケてしまった老人に対する介護の苦労や、家族としての情や責任感のはざまで苦悩する様には感じ入るところがある。

老人役の森繁久彌は実年齢よりも25歳上の役とのことだけど、妙に丁寧な言葉遣いと、次第に子供がえりを起こしていくような様子はさすが。
嫁役の高峰秀子も「もういい加減にしてちょうだい!」という台詞回しの絶妙さなど、名優たちの競演が良いものになっていると思う。
その一方で、演出面ではリアルよりも多少誇張された感じのするセリフや動作もあるように見えるかな。
セリフがアフレコになっているということも関係しているのかもしれないけど、多少大げさに感じる演出を見ていると舞台劇のような印象も受けた。
70年代の映画で前編白黒というところにも、リアルというよりも少し向こう側(画面の向こう?)のような世界と印象付けされる。
まあもっとも、白黒のおかげで排泄物を塗りたくってるシーンの嫌な生々しさが消えているので、むしろそっちを狙っていたのかもしれないけど。

嫁目線の話なので、老人は理解できない怪物のような存在として描かれるけども、さんざん苦労かけさせられても彼女は世話の上で見捨てたりはしない。
そこは"嫁に入った者"というその時代の家族内での立場やなんかの表れなんだろうか。
テーマが現代にも通じるものである一方、そういう立場的な家族観という部分では時代性を感じる映画でした。
だからこそ主人公は嫁なのかな。

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