シネつう!
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この世界の(さらにいくつもの)片隅に
2019年制作

満足度:

こうの史代の同名漫画のアニメ化した映画作品。
2016年に公開された「この世界の片隅に」に40分の新規カットを追加し、広島から呉に嫁いだすずさんの心情をより深く描いていく。

2016年版ではオミットされていた原作の要素、すなわち主人公・北条すずと遊女・白木リンの交流に関するプロットが加わった完全版。
元々2016年版(前作)より以前に原作を読んでいた俺としては、その前作でリンさんにまつわる話がカットされたことは残念に思った一方で、映画として2時間強にまとめるには「これしかない」という感じで再構成されていたことに脱帽したのも事実。
なので、前作は前作で映画作品としての完成形だと思っております。
原作を読んだ時に感じる話のテンポも前作の方がより近い「映像化」の様な気がしているし、そういう意味で原作の「作風」に対するリスペクトはより強く伝わってきていたかな。

そんな前作と比べると、今回追加されたカットの部分は原作の物語に沿ってはいるけど…もう少しテンポがゆったりというか、じっくりしている印象。
それはおそらくすずさんとリンさんに纏わる関係性について、より強く主人公の心情に寄り添うための演出を選択したからだろう。
それによって明らかに主人公の心情が一段深く観客に伝わるようになっているし、前作でも存在した場面ですら印象が異なるものになっているものもある。
前作だけ見ていれば気づかない(気づきにくい)様な「この場面でこんな葛藤を抱えていたのか…」みたいなものを掬っているとでも言うか。
そういう意味で、同じ物語であっても趣の違う作品になっているといえるし、より映像作品としての深化を目指しているようにも受け取った。

究極的に言えば、前作は「小姑との関係を中心にした状況」を描いた作品であり、本作は「嫁ぎ先での自分の居場所をめぐる心情」を描いた作品になっている感じ。
この場合において、どちらが良いとかいう比較はあんまり意味はないのかなあとも思う。
実際、本作で登場する話も、前作の時点ではあえて見せなかっただけでカットの間に要素としては存在していたのだよね。
例えば主人公の夫・周作のノートの一部が欠けている描写も、本作で初めて理由が説明されるものの前作の時点ですでに欠けているわけで、前作は映像としてオミットされたけど設定として(原作通り)リンさんとの関係が存在していたのは間違いない。
(その他、今作の追加カットであった枕崎台風の場面で崩れた崖も、前作の時点で描かれていた。)

どの場面をどのように切り取るかで作品印象が変わるというのは、映像作品における編集の技量の見せ所でもあるわけだけど、その点で前作も本作も物語として完成していると思うのです。
その上で、本作は心情をより深く観客に伝えることを選択し、そしてそれに成功していると思う。

元々個人的にとても好きな原作漫画を、このように丁寧に映像化してくれた監督には本当に感謝ですね。

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