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“強いAI”の開発実験のために素性を隠して高校に編入してきたAIロボットのシオン。
彼女の行動が引き起こす騒動を描いたSF青春群像劇。
AI・青春・企業内闘争・ミュージカル。
それぞれどこかで観たような要素の組み合わせでできている感じはするけど、その組み上げ方がテンポよく整理されているので楽しんで観られました。
主人公のサトミを含めてそれぞれ事情を抱えた少年少女がいて、そこに現れた空気の読めない人物がズカズカ懐に踏み込んで物事が急速に動いていくなんてのは鉄板のような展開だけど、その“空気の読めない人物”を学習中のAIにしたことで天然キャラでありがちな鬱陶しさが消えている。
いやこれもよくあるプロットか…?w
でもそのあたりを見せるテンポと、キャラクターを魅力的に描くセンスが良いのは間違いない。
描き様によっては「お前はロボットだから人の心なんてわからないんだ…!」なんて台詞が飛び出しそうな状況でもあるけど、この作品の人間とAIの関係は真逆のポジティブさで突き進むからねえ。
気持ちいいですよ。
学園青春ドラマの様な展開が続く前半〜中盤はとても面白かった。
「桐島、部活やめるってよ」的な要素も感じるけれど、ポジティブな方向で人間関係が丸く収まっていく様子はいい感じ。
突如始まるシオンのミュージカルにしても、その突飛な行動が「AIだから」という部分で許容できてしまう構成が(力技だとも思いつつも)お見事ですな。
何故歌い出すのかの理由については終盤に分かってくるのだけど、それはひとまず置いておいて、IoTでAI制御された周囲の機器を操って伴奏やミュージカル演出を成立させてしまうというAIロボットならではの能力描写は良いね。
一方で終盤に入ると企業の思惑…、というか企業内の派閥争い的な部分が表面化して話が変わってくる。
初期化されるかもしれないシオンを助けるべく高校生5人が立ち上がるわけだけど、このあたりからの強引さは割と安直というか、予定調和に向かって一直線な感じが気になったというのは正直なところかな。
シオンの正体が過去にネットに逃げた人工知能だったというネタバラシは、序盤でシオンが歌う理由やシオンがサトミを幸せにしたい理由の説得力としてとても強いのだけど、“AIがネットを伝って逃げる”という概念が、もはやプログラムのそれではなくて魂の様に描かれている様で気になってしまった。
これが「攻殻機動隊」の世界観なら“人形使い”の様なものとして納得もできるのだけど、本作の世界観ではなにか間が飛ばされている気がして…。
ネット全体でニューラルネットワークとなったというような描写があればまた印象も違う?
まあここでは仮にシオンのプログラム=魂とした方がイメージしやすいという演出上の都合もわからなくはないけど、舞台となっている景部という町の比較的リアリティのあるスマートシティの描写に対してはやっぱりSFのベクトルに違和感を感じてしまったのだよね。
…とまあ、終盤は個人的に乗り切れない部分もあったのだけど。
でも全体的に青春群像劇としてのポジティブな感じは良かったし、テンポの良い話運びにも大いに楽しませてもらいました。
気持ちいい鑑賞後感だったことは間違いない。
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