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暁佳奈の小説を原作にした同名TVアニメの劇場版。
自動手記人形(代筆業)の主人公・ヴァイオレットは、ある女学校にいるヨーク家の令嬢イザベラの教育係として3ヶ月間身の回りの世話をすることになる。
正妻の子ではなかったイザベラは過去に苦しい生活を送っていたことで、今の暮らしになじめずにいたが…。
TV版からの直接の続編ではあるけど、本作の話のメインはヴァイオレットではなくてイザベラでありその妹のテイラーなので、「外伝」と銘打たれているのはそういう位置づけからだろう。
でもこれまでにこの作品で描かれてきた人の心、感情、そしてそれを繋いで伝える“手紙”という存在というテーマは本作でもブレがなく、「外伝」というには疑問が浮かぶほどに「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」という作品の中の一編として成立していると思う。
2人のメインを前後編で入れ替える構成や、彼女らの背景なども90分という尺の中で端的に描き切っているし、何よりとてもいい話だった。
TV版を観てヴァイオレットの出自背景のハードさを知る者にとっては、前半の冒頭でイザベラがヴァイオレットに対して言うやっかみの様なセリフが的外れなものにしか見えない。
その時点では、観客にとってイザベラはただの籠の鳥くらいにしか思えない状態なのでね。
だけど、観客は劇中を通してイザベラ自身の過去の苦しさも知ることになり、初対面ならそう言いたくなるような気持ちも分かってくる。
そういった人物の表層的な部分に隠れたキャラクターの歴史がちゃんと存在しているから、話やドラマに深みを感じるのだろう。
もちろんこの作品におけるその最大の要素はヴァイオレット自身の過去であるわけだけど、ストーリーの表面にある優しさや善意の背景に人物の歴史がちゃんと存在しているということが、本作のよさだよね。
テイラーがメインとなる後半は前半とは少し作品のトーンが明るく変わり、そういう転換もまた良い味に繋がっている感じ。
C.H郵便社の日常にやってきた少女。
配達員が届ける喜びに改めて気づかされるという話だが、前半と対になって迎えるラストは2人の物語として温かく、そして未来を感じさせるものだったなあ。
テイラーが隠れていた茂みから飛び出さなかったのもグッド。
それにしても劇中の手紙の文面は短いものばかりなのに、物語の流れから心が伝わるような文面にちゃんとなってるんだよな。
手紙の内容をボカして逃げることもしないし(まあそれをやると興ざめだが)、手紙をテーマにしている作品としての矜持を感じる。
そういう部分もよく出来てるなあと思うのです。
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