シネつう!
JAPAN STYLE !!

永遠の831
2022年制作

満足度:

WOWOW開局30周年記念として制作され、劇場公開もされたオリジナルアニメーション作品。 大災厄後の日本で新聞奨学生として働く主人公が巻き込まれた事件を描く。

率直な感想としては、面白くはなかった。
神山健治監督らしい政治経済を絡めた物語ではあるけど、政治や社会構造やそれ無関心である国民性に対しての憤りを大上段から一方的に聞かされている様な説教臭さだし、それを語るためのSFサスペンス的な要素も空回りしている印象。
世界観の背景にある「大災厄」、友人を自殺に追いやった主人公の過去、“831戦線”の語るお題目と実際の目的、時間を止められるという能力の意味。
それらの絡ませ方がそれぞれ中途半端なのがいまいち感情移入できない原因なんだろうか。

まあ「時間が止まる」という設定自体は文字通りの「停滞する日本」への皮肉なんだろうが、テーマを語るための設定な割には使いこなせていない感じもする。
そもそも「時間が止まる」「時間を止められる」という設定を真面目に突き詰めると「一体何が止まっている」のかのルールが必要になってきて、そこに説得力がないと嘘くささだけが目立ってしまって“いただけない”ものになってしまう。
時空が止まっているのか、物質だけが止まっているのか、空気の時間が止まらないとしたらその範囲は?、電気系の動く範囲は?、時間が止まれば道路上の他の車も止まっているのに自動車で移動とは…?
世界観的には現実の政治経済をリンクさせて語ろうとしているくせに、実際に利用するとなると制約が多い「時間が止まる」というSF設定に対してあえて考証を放棄しているところに誠意が感じられなかった。
結局皮肉を言いたいだけというのが透けて見える、個人的にはそういう作り手のスタンスが気になって全然話に入り込めなかったな。

アニメーション的にはキャラクターは全面3DCGで制作されていて、屋外の背景美術の多くは実写ベースのペイント調変換といった感じのビジュアル。
CGを使っている利点は静止シーンで止まったキャラクターを色んな方向から撮れるところだろうか。
キャラの動き自体はモーションキャプチャーも使ってそうな感じだけど、カメラワークが面白いわけでもなく、全体的にはいまいち。
キャラクターデザインは顔をセルルックに寄せようとしている部分は悪くない。
一方で服装のデザインはパターンが少なくて制作の「省エネ」感が感じられるなあ。
なるべく制服を着せてデザインパターンを減らそうという工夫は理解するけど、数少ない私服系のキャラが毎日同じ服っていうのはちょっとどうかと思う。
特に新聞販売店の店長の女性の私服部分が毎日一緒ってのは現実感がなさすぎない?
それなら着崩させなければいいのに…。

ともかく、皮肉を言いたいことが伝わるだけで全体的には煮詰まってない感じの作品でした。

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