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フーテンの寅さんが巻き起こす騒動を描いた人情喜劇シリーズの第15弾。
安っぽい海賊寸劇(それが味だが)の寅次郎の夢から始まるけれど、観終わったころにはそんなことは忘れているw
マドンナは2年半・4作ぶりに再登場した浅丘ルリ子演じるリリーさん。
再登場ということもあってかリリーは寅さんとの再会より先に“とらや”に現れ、旅先での寅さんは彼女と再会するより先にサラリーマンの兵頭と道連れになっていて、そのへんはちょっと変則的な感じかな。
まあ大枠での旅先→柴又という構成は変わらないけれど。
ドラマ面でいうと、船越英二演じる兵頭の扱いは小樽での初恋の人との再会や東京での家族との関係などが活かしきれてなかった気もする反面、寅さんとリリーさんの絶妙な距離感は全編にわたってとても印象に残るシーンが多い。
「女がどうしてかわいくなくちゃいけないんだい」と言い放つリリーのセリフには彼女のここまでの経験みたいなものも透けて見えるが、自立した女性像としての気風のよさやその背後に感じる寂しさも含めて、浅丘ルリ子のはとても素晴らしい好演を見せていると思う。
寅さんとは喧嘩したり仲直りしたりを本作の中だけでも繰り返すけれど、お互い言いたいことが言える様な関係は、博が言うように本当に近しい信頼の様なものに裏打ちされたものに見えるし、それだけに「結婚してほしい」と思ったさくらの気持ちもわかるなあ。
それらが感じ取れる“メロン騒動”や“相合い傘”は確かに名場面だわ。
一方で、終盤に寅さんが「リリーの冗談だろ?」と思ったのは、もはや寅さんにとってリリーさんは憧れの人ではなく当たり前にそこにいるような存在だったからなのだろうかなあと。
心底相手のことを思いやってはいるけれど、近しいがゆえに“結婚”という形式に結びつけられなかったというか…。
「彼女は本気だった」とさくらから聞かされても追いかけなかった寅さんを「及び腰」と呼ぶならばそういう面もあるかもしれないけど、堅気ではない二人の関係性からはそうなってしまう心情もよく分かる気がする。
それだけに、とっても切ない。
正直、切なさのあまり涙がこぼれた。
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