シネつう!
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雨月物語
1953年制作

満足度:

上田秋成の「雨月物語」をベースに脚色した時代劇。
溝口健二監督の代表作の一つ。

描かれる物語は300年前の怪異小説が原作だし、そういう意味では時代劇というよりは怪談と言った方が良いのかもしれないけれど、物語に練り込まれた人々の運命や情念の描写に唸る。
人間の欲と、それと引き換えになっていくもの…。
この物語に心を打たれるということは、いつの世も人間の業は変わらないということか。

序盤で主人公たちの暮らしを丁寧に描いているからこそ中盤以降の展開に説得力が出てくるのだけど、実際に物語が動き出すのはその中盤以降。
怪異が明確に怪異らしく描かれるわけではなく、現実からスーッとその世界に入っていく展開が実に見事。
観ている側からすれば「こいつは変じゃないか」とはなるけれど、主人公目線では流れにのまれている感じが伝わる。
朽木屋敷での源十郎と若狭姫との睦み合いは「浦島太郎」的な感じだが、源十郎には妻子があるわけで…まったく何やってんだか。
なのでその妻・宮木の客死との対比はより物悲しいが、この話はそこで終わらず、最後には亡霊になってまで宮木が夫を見守る姿が描かれる。
なんという想いか。

「身に過ぎたものを求める必要はないのです」と、冒頭から諭していた妻の言葉の意味を最後に悟った源十郎の姿を通して、人間の業と想いを描いたこの物語の奥深さに身震いした。

物語は並行して義弟・藤兵衛の話も描かれ、こちらも同様に自分の欲望と引き換えになる者の物語だが、二つの物語の捌き方が手際よくまるで混乱しないのはさすが。
立身出世のためには家を顧みぬ、その結果か。
これも普遍的なテーマだよね。
いずれにせよ教訓話の様な物語であるし怪異譚を描いた時代劇でもあるが、そこにちゃんと説得力があるのは描かれる人間の姿に真実味があるからだろう。

京マチ子が演じる若狭姫は何とも言えぬ存在感で素晴らしい。
こういった所作で魅せる役者はもういまい。
魅力的であるとともに、人ならざる者という雰囲気をどこかしらから感じるのが良いね。
老婆が正体を語るシーンでの画面に映る3つの顔は、構成も相まってゾゾゾと背筋に来た。

対照的に田中絹代が演じる宮木は人としての在り様を表すキャラクターだが、幽霊となっても若狭姫とはまた違う暖かい空気が感じられる。
白黒で色が違うわけでもないし、もちろん特撮でもない。
それでもそういった幽霊と感じられる空気は、演出力と役者の演技力の賜物なのだろう。


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