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かつて小説で賞を受賞したものの、今では離婚もし、探偵としてうだつの上がらない暮らしをしている中年の主人公。
その日常を切り取ったドラマ。
言い訳をしながら暮らしている中年、という役柄を阿部寛は良い感じに演じている。
暑苦しい演技も出来ればこのようにダメ中年も演じられる幅があるのだからそもそも上手いのだろうけど、“阿部寛”というキャラ自体の懐の深さなのかなとも思う。
是枝作品常連の樹木希林は相変わらず何をしても樹木希林なのだけど、この映画の様な普通の老いた母親像を演じさせたらやはりピカイチだな。
というか脚本は当て書きだったというのだから、イメージがぴったりなのは当たりまえかw
小林聡美にしても真木よう子にしても、この映画で阿部寛や樹木希林との間で描かれる会話の日常感はとてもよくできている。
(小林聡美の背後で樹木希林が冷蔵庫を開ける場面で、小林聡美が会話しながらちょっと前かがみになって冷蔵庫の扉を避けるしぐさがいいな。)
台詞の日常感。
それは例え状況の説明台詞だとしても、とにかくその日常性というか…家族の会話の中で買わされる言葉で描かれているのが印象に残った。
何もかもを明確に台詞に出すわけでもなく、回想シーンもない。
タダの日常会話のなかで、心情や背景や空気を感じ取らせる演出はさすが。
セリフもやたらと「アレする」「アレなんだ」「ほらアレよ」の様に“アレ”が多用されるのだけれど、それは登場人物たちが“アレ”で会話が通じるくらいの関係性ということなのかな、とも思ったりしたけどどうかな。
考え過ぎ?でも絶対ワザと台詞で多用してるもんなあ。
まあくどいくらい出てくるので、正直言っていい加減しつこいとは思ったのだけどね(苦笑
作品の通奏低音として響くのは「未練」。
「こんなはずじゃなかった」という現実は誰にでもあるかもしれない。
主人公にとってのそれが映画の中では何も解決していないかもしれないし、「伏線か?」と思う様なところも日常の断面でしかない描写も多い。
観客はただ登場人物の会話を覗き見て、彼の状況を理解したというだけの話かもしれない。
でもそれでも人間にとって平等に流れる時間の中で、「それでもね」と生きていかなければならない。
そんな人生の断片の感じが、静かに、確かに画面からにじみ出ていてよかった。
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