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辻村深月の同盟小説を実写化した業界ドラマ作品。
念願が叶いアニメ監督デビューとなった斎藤瞳は、かつて憧れた人気監督・王子千晴と同時間帯のTVアニメで人気を争うことに。
それぞれに想いを抱きながらクリエイターたちが作品に向き合っていく姿を描く。
原作は未読。
いわゆる“業界モノ”の作品だけど、アニメ業界の作り手の話で言えば最近はアニメの「SHIROBAKO」が思い浮かぶ。
あちらは監督ではなく制作が主人公だったし、もう少し俯瞰的に“アニメ制作全体”を捉えた感じの良い意味でファンタジー化された作品だとも言える。
(もちろん主人公たちの夢の実現に向かっているという話がメインにはあるのだが。)
一方でこちらはもっと“個人の信念”という生っぽいものを感じたのだけど、作品としてあくまで主人公の状況や心情によるドラマがメインなのだというスタンスに迷いがないことで、観る側にとても上手く感情移入させていると思った。
なんならアニメ制作に関するウンチクを入れたくなるような場面でも、描写はすれど説明はしない。
そういった説明をスキップしたとしても、スタッフとの軋轢やプロデューサーの無茶振りに戸惑う主人公の姿を見せ続けることで観客側に主人公のストレスを共有させるという仕掛けなわけだ。
作品の舞台こそアニメ制作の現場ではあるけれど、実態として「何かを生み出し、人に伝えたいと思っているクリエイター」の普遍的な感情の部分に落とし込んだ話の構造がとても上手いなあ。
かといってアニメ制作現場の描写がぞんざいなわけでもなく、劇中劇のクオリティも説得力があって、そういったところが作品のリアリティも底支えしていると思う。
このバランス感覚がとても素晴らしかった。
個人的には、序盤の状況描写が一段落したあたりで描かれた「監督同士の対談イベント」で、この作品のギアが一段変わった印象を受けた。
斎藤瞳と王子千晴という二人の監督の決意表明であり、人物紹介でもある場面だけど、そこから一気に主人公に引き込まれたよね。
中村倫也演じる王子千晴の歯に衣着せぬというか、感情に正直な怒りの表明には納得できるものがあったし、そういうキャラクターなのだという説明シーンとして実に効果的。
吉岡里帆演じる斎藤瞳も、全体を通じて絶妙にくたびれた感が上手かったw
ラストに向けて信念が熱量になり、周りを巻き込んでいくくだりは実に熱い。
しかし一番印象に残る演技はプロデューサーを演じた柄本佑だったな。
彼のブレのないキャラで演じる二面性は名助演。
「嫌な奴」だった前半と「信頼できる人物」になる後半でキャラは変わってないのに人としての見方は変わる。
この差はきっと斎藤瞳の彼に対する主観だったのだろうが、観客が斎藤瞳に感情移入するために本当に重要なキャラだった。
実際振り返ってみると、「嫌な奴」ではあった前半でもプロデューサーとしては間違ったことは言ってなかったからねえ。
こういう構造は面白い。
そしてもうひとりのプロデューサーを演じた尾野真千子も良い存在感だった。
監督と制作局の板挟みという、どちらかという個性的な監督に振り回されてプロデューサーが苦労するという側の描写が多いけど、世に期待された監督(王子千晴)の苦悩を目撃する者としても重要なポジション。
彼女と彼のラストのやり取りの結果はどうなったのでしょうか。
お似合いだとは思うけど、苦労はしそうw
世の中の「作り出す人」の信念と情熱に対するリスペクトの詰まった、とても良い作品でした。
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