シネつう!
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氷菓
2017年制作

満足度:

米澤穂信の小説“古典部シリーズ”第1作目の実写版劇場映画。
「省エネ主義」を信条とする高校1年生の主人公・折木奉太郎は、姉からの指示で古典部に入部することになるが…。

「わたし、気になります!」の決め台詞がストーリーを進めるエンジンとしてとても強烈。
しかし実は姿を見せない姉の手紙と電話の上で転がされた話でもある。
主人公の机上の推理も「そんなにうまくハマるもんか?」と思えなくもないわけだが、そこはどちらかと言うとライトノベルの範疇としての「学園モノ」としての性質が強い感じでもある。

原作は未読だが京都アニメーションのアニメ版は視聴済み。
ということは話の内容は知っていたうえでの鑑賞なので、一応推理モノとしてはネタバレ状態で観てしまったわけだ。
となれば、「実写版でどう表現する?」の方ばかりが気になってしまうわけだけだけれど、「氷菓」という物語や世界観は上手くまとまっていて悪くはないというのが第一印象。
ただ、「二十歳過ぎの役者が高校生を演じる」という部分は仕方がないとしても、やはり実写でやられるとヒロインでもある千反田えるの「わたし、気になります!」の強引な純真さがちょっと…キツい(苦笑)

千反田の“それをされても許される”というキャラクター性は、小説であれば読者それぞれの想像の産物として成立できる。
アニメであれば、もはやファンタジーに属するような純粋さの記号的キャラクターにすることで成立したわけだが。
さて実写では…。
やはり固定化された生身で演じられると、役者のキャラクター性とダブってしまってどうもウザったさが見え隠れするなあ(個人の感想です)。

とはいえ省エネ主義の山崎賢人・折木は広瀬アリス・千反田のために推理をすることにしたのだ。
これはそういうお話。

話の全体を観れば、作者にして「熱狂に乗り切れない人間の話を書きたかった」というテーマ通りの内容だね。
“バラ色の青春”の対極として、“灰色の青春”という主人公の信条はある種「さとり世代」な時代の雰囲気で成立する現代的な主人公だとも思うが、原作者自身はそれより少し上の世代の人物。
俺も原作者と同世代人だけど、「熱狂に乗り切れない人間」という部分の話については共感する部分は多い。
作中で「学生運動」という熱狂の時代を、エネルギーの発露としては否定的に捉えている感じについてもそうだな。

その1967年という時代は作中での大きなカギの一つでもあるので、個人的にはもう少し現代パートとの映像的差別化をしてくれる方がよかった気もする。
校舎はそのままだし、もちろん周辺家屋の街並みも同じ。
格技場の新旧の痛み方だけは差があるが…、その他は制服だけで違いを見せている様な感じに見えるので、ちょっと33年の隔たりでは映像的なもう一工夫が欲しかったかも。
まあそこに予算を割く必要のある作品ではないことも分かってはいるけども、ある程度の雰囲気は欲しいというか。

ということで、実写の千反田はちと苦手、というのが素直な感想ではあるが作品自体は悪くないとは思った。
このままシリーズとして「愚者のエンドロール」や「クドリャフカの順番」もやってくれるなら、それはそれでありかな。

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