シネつう!
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ペンギン・ハイウェイ
2018年制作

満足度:

森見登美彦の同名小説を原作にした劇場アニメーション作品。
主人公の住む町に突然現れたペンギンたち。
その原因を調査すべく、主人公である小学生のアオヤマ少年は友達とともに調査を始める。

いかにも森見作品の主人公らしい理屈っぽいセリフと言い回しをする主人公のアオヤマ君。
ちょっと間違えると小生意気なガキになりそうなところだが、なんでも論理的な解釈をしようとする真っすぐで純粋な心根の持ち主だと分かる描写によって、まったく嫌味な感じがしない。
(父親がそのように育てているし、それがいい親子関係だとも映る。)
そしてアオヤマ少年が憧れる女性“お姉さん”も同じように嫌味が無く、彼女を魅力的に描けたことがこの作品を成功に導いていると言える。

なぜ突然ペンギンが現れたのか、“海”と呼ばれる物体は何なのか、作劇的に言えばそれは完全にマクガフィンだよね。
藤子・F・不二雄的に言えばSF(少し不思議)なその一連の出来事は、少年がある夏の出来事を通じて想いを決意へと変化させる切っ掛けに過ぎない。
少年が体験したその時の気持ちを描くことこそがテーマになっていると思う。
一見ファンタジーだけれど、SFでもあるし、ジュブナイルとしても魅力的な物語になっている。

アオヤマ君と友人のウチダ君が一緒に調査したり、女の子のハマモトさんが仲間になったり、ガキ大将っぽいスズキ君がちょっかいを出してきたりといった部分はいささかテンプレートっぽい関係性ではあるけれど、この場合はそれが良い。
なんだか不思議と子供のころに「ズッコケ3人組」を読んだ時の気持ちが蘇ってしまった。
通常そういった子供の世界観には大人の居場所はあまりないのだが、先述の通り、憧れの“お姉さん”という存在がこの作品をもう一段上に上げている感じ。

結構めんどくさい子供なはずのアオヤマ少年に対して、対等に接してくれる大人。
もうその存在自体がファンタジーみたいなものなのかもしれないが、観ている間も「付き合いの良い人だなあ」などと何の気なしに観ていたら、次第に「そういうことかあ」と気づかされる。
「そういうこと」といっても全ての答えが分かるわけではなく、少年にとっての彼女という存在の意味するところだけども。
彼女は少年が憧れるもの、美しいと思うもの、世界そのものの比喩形なんじゃないだろうかと思う。

終盤、突如やってくる別れの予感と、現実になるその別れのビターな感じには心揺さぶられたが、そこにあるのは悲しさではなくとても前向きな感情が残されていてとても良かった。
スレた大人になった今だからこそ、少年時代の夢想や憧れといった気持ちを思い出させてくれたことに感動したのかもしれない。
実に気持ちのいいSF作品だった。


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