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瀬戸内のある小島を舞台に、そこに住む農民夫婦の一年を映し出した新藤兼人監督の作品。
全編にわたって一切の台詞がないという実験作的な雰囲気。
でも日常を切り取るという情景描写の究極の形って、このように説明台詞が一切無くなってしまうのかもしれない、と感じた。
実際、台詞がなくても彼らの状況や感情はすごく伝わってくるし、この映画に関しては台詞が入っても本当に余計なものになってしまうだろう。
"映画"という表現の、ある意味での完成形か。
延々と繰り返される水汲みと畑への水撒き。
最初は、黙々と働くという日本人的な労働感の象徴のように見ていたのだけど、それはそうとしても、それ以上に不便や苦労を受け入れた上で必死に働き・生きるという人間のひたむきさに美しさすら感じてくる。
畑に撒く水をこぼしてしまった妻(乙羽信子)への夫(殿山泰司)の平手打ちは、それこそ何が生きるために大事なのかを表現したこの映画の白眉ですね。
それがあるからこそ、終盤で妻が水を撒き散らし、泣き崩れるシーンが効いてくる。
その妻の姿を無言で眺める夫。
直前にあった息子の死という現実があり、それによって噴出した感情と、「分かっている、それでも生きるために働くんだ」と聞こえてくるかのような、畑に水を撒く夫の姿がなんとも胸に刺さってくるじゃあないですか…。
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