シネつう!
JAPAN STYLE !!

ハーモニー
2015年制作

満足度:

伊藤計劃の同名小説のアニメ化作品。
身体を常に監視し健康を維持する先進医療技術が確立し、あらゆる病気が駆逐された未来。
そんな世界に息苦しさを感じていた主人公トァンだったが、久々に再会した旧友が突然目の前で自殺する姿を目撃する。

原作は既読。
「身体を常に監視し健康を維持する先進医療技術が確立し、あらゆる病気が駆逐された」というユートピア感と、その先にあるハーモニープログラムのディストピア感。
この世界観こそがこの作品のキモであるが、何より「あらゆる病気が駆逐された」という部分に込められた原作の伊藤計劃氏の想いが突き刺さる作品でもある。
伊藤氏はこの原作が出版された4カ月後に34歳の若さで肺がんのために死去。
おそらく死ぬ運命にある自分自身を見つめながら書いたのであろう物語は、傑作SFと呼ぶにふさわしい小説となってこの世に遺された。

さてこの映画はその小説の映像化作品ということになるのだけれど、ストーリーラインをそのままなぞった印象で、良くも悪くも映像化しただけともいえる。
"etml"という独特の文体表現を映像化すること自体が難しいので、そこをどうするのかと思って観ていたけれど、結構開き直って物語を追うことに終始し、"etml"については冒頭とラストで匂わせるだけに終わった。
「感情のエミュレート」。
それがなぜ行われるのかというとハーモニープログラムによって感情が、意思が消えた世界になったからだが、そこがラストだけだと伝わりにくいんだよね。
読み手が、観客がずっと見てきたものが何であったのかという叙述トリックに近い仕掛けなので、これは媒体の特性で表現が難しいのは仕方がないとは思いつつも、この作品の最大の仕掛けの要素が失われたのは勿体ないとも思う。

プロローグで1つアクションがあり、そのあと序盤は主人公トァンが少女時代の友人ミァハの自殺についていけなかったことの悔恨が描かれ、そして中盤で大量自死事件発生という流れへ。
個人的にはこの序盤が少しテンポが悪かったというか、モノローグや回想が主体で話が動かないのでちょっと退屈。
ミァハの存在感を描くにあたってはしつこいくらいが良いのだけど、とはいえ脚本が物語の流れだけを素直にくみ取りすぎてるんじゃないのかな。
逆に事件の緊張感などは急に山が来るので悪くないし、キアンの自死シーンなど同じアングルで実はミァハの通話が…という工夫は良いなと思ったけれど。

かくてハーモニープログラムは発動する。
再び大災禍(ザ・メイルストロム)を起こさぬためのユートピアを目指したディストピアプログラム。
これだけでは“イデの発動”か“人類補完計画”かといった昔からあるテーマとさして変わらぬ話かもしれない。
それだけに"etml"の表現はもう一工夫してほしかったというのが本音。


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