8
窪美澄の同名短編集の映画化作品。
苦悩を抱えながら生きる登場人物たちの姿をタナダユキ監督が描いたドラマ。
痛々しい人間関係の澱。
原作が短編小説集ということで、映画の方も複数の登場人物たちの視点によっていくつかのパートに分かれているけど、あまり構成のことは知らずに観ていたので途中で「ああ群像劇か」と分かった感じ。
冒頭の永山絢斗演じる斉藤卓巳のエピソードの後、彼と不倫をする田畑智子演じる岡本里美の話が来るので「時系列を入れ替えて見せる演出か?」と勘違いしたけどそうでもない。
単純に色々な登場人物の事情を羅列した作り。
まあ同時間帯の出来事だし、卓巳から見て地雷女と思えた里美の事情が分かってくるにつれて同情してしまう当たりの構成など、時系列の入れ替えのテクニックが上手く機能はしているけどね。
個人的には卓巳と里美の逢瀬をそこまで生々しくする意味があったのかと思ったり。
でも耐え難い現実(あの夫と姑はキツイ…)に対しての逃避としてのコスプレ、そして代償行為としてのセックスだと思うとやるせない。
それがさらに自分の首を絞めていくあたりは皮肉。
ラストの里見はアメリカに行かなかったんだよね…?
メインの登場人物は皆何かの事情を抱えて苦悩し、その代償を探している感じ。
福田良太(窪田正孝)の家庭の問題も同情してしまうが、友人の卓巳を心配する素振りの裏で「そんなことが不幸か」と思っている二面性に人間のリアルを感じてしまう。
助産師をしている卓巳の母親は登場人物の中では真っ当な方であると思うけど、やはり救えなかった命に対する言い訳を探している人物でもあり、神社に参拝しているのは代償行為だろう。
黒地に白抜きで浮かび上がる文はそんな彼らの祈り。
人が生きていく上での四苦八苦…。
観ながら仏教的な諦念すらも感じてしまう話だったが、それでも人は死なないし、人はそれらを乗り越えて前に向かって進む。
そんな映画の終わり方に人生の希望を見出したい。
もどる(ハ行)
当サイトは
円柱野郎なる人物が
運営しています
since 2003.02.01