9
ある出来事が切っ掛けで、100万円を貯める毎に“誰も自分を知らないところ”へ引っ越していく主人公の姿を描いた作品。
主演の蒼井優の演技・雰囲気が光ってるね。
監督・脚本のタナダユキは当て書きでこの話を作ったそうだけど、見事にハマってます。
「自分はいつもここにあるんだから、自分探しなんてしない」と言う主人公は、むしろ人間との関わりから逃げるために前述の行動をしている。
人から避けたい主人公を通して「他人との関わり」を考えさせる話法はオーソドックスなモノだけど、海の町編、山の村編、地方都市編とそれぞれに土地の空気感を描いているし、何より感情移入してしまうキャラクターに共感がもてました。
どこにだって良い人達と関わり難い人たちがいるんだよな。
そういうことから避けていた主人公だけど、弟に宛てて書いていた手紙すらも実は出してないことが終盤に分かって、気丈にしているが自分に自身がないことが観客にも分かる。
そこに弟から手紙が来て…の展開が良かった。
そんな主人公を受け入れてくれた森山未來演じる地方都市の青年との話は、一度見事に着地(告白シーン)させたと思った直後に再び離陸。
告白シーンだけで綺麗なエンディング(綺麗すぎるがw)になりそうだと思ったので、もう一波乱を入れた地方都市編の後半には思わず唸ってしまった。
青年は率直で本当に好感の持てる奴なのか、金にルーズなただの寄生虫なのか。
主人公は誤解したまま旅立ってしまうわけですが、それは主人公の人間の成長としての物語としてOK。
そしてそれでも「幸せになってもらいたいなー」と思っている観客への希望の余韻として、青年の真相と彼が見上げる視線があるわけだよね。
ラストに振り返った主人公の目線が青年と重なっていないというところがクールですが、女流監督だからこそのエンディングなのかなあ、とも思った。
もどる(ハ行)
当サイトは
円柱野郎なる人物が
運営しています
since 2003.02.01