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岡野雄一の同名エッセイ漫画の実写映画化作品。
認知症の母とその息子の日常を描く。
認知症になった親の介護というテーマは当事者が忙殺される苦労を描いた「恍惚の人」の頃からあるけれども、本作はそんな苦労をユーモアとペーソスで包んだ実に優しい作品だった。
そういった作風は本作が原作がエッセイ漫画ということもあるだろうし、主人公の岡野雄一という人柄もあるのだろうが、何とも言えず心が温まった。
監督の森ア東は、85歳でも衰えぬ松竹出身の人らしい手際のいい人情喜劇の演出が見事。
笑いと感動というと陳腐だが、本当に流れの中でのその按排が良いんだよね。
しんみりさせたと思ったら次にはユーモアを入れてくるのだから、観ている方は落ち着かないが(w)その波間すらも心地いい。
主人公は「勘弁してくれよ…」的なことをボヤきはするけれど、親への感謝が根底にあることがよく分かるのも良い。
ハゲ頭で演じた岩松了の演技がキャラクターにすごく合っていたのもあるけど、三木聡作品のおちゃらけた演技ばっかり観ている身としては、まさか岩松了の涙のシーンでこっちが泣かされるとは…。
「親に忘れられる」という事に対する感情の波がこちらにも伝わってきて泣けた、あれは本当に泣けた。
そしてその後に竹中直人のカツラネタである。
ふざけやがってw
回想シーンの多い作品でもあるけど、ラストにはボケてもなおそれらが思い出として母親の中に生きつづけている事に繋げてくる。
橋の上での再会の幸せそうな画は母親にしか見えない人達との集合写真かもしれないが、息子には“母にはそれらが見えている”ことが見えている。
それはまさしく心の繋がりっていうことなんだろう。
いい映画を観た。
そんな気分にさせてくれる作品だった。
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