シネつう!
JAPAN STYLE !!

きみの色
2024年制作

満足度:

人が「色」で見える少女・トツ子。
トツ子が古書店のバイト・きみと、島に住む少年・ルイとともにバンドを組む姿を描いたアニメーション作品。

監督は山田尚子。
さすがと言えばさすがの筆致で描かれる青春の一ページがやわらかく、そして暖かい。
青春時代の少年少女なのだから本来ならもっとドロドロした面だってあろうものだろうが、そういったものは描かれない。
というかそういったものが存在すらしないかのようだ。
すべての登場人物に一切の悪意がない。
しかし、それがいい。

ドロドロはしていないものの、主人公たちは何かしらの悩みを抱え、迷っている。
その迷いを上書きしていくものが、彼女らの音楽活動というわけだ。
正直、3人でバンドを組むきっかけの流れは唐突というか、(トツ子がちょっと変わったテンションで引っ張っているから成立しているものの)展開としては強引さを感じなくもなったかな。
それでもその三者三様の悩みと共感が三人の出会いが物語を走らせていくわけで、1年という時間を100分という尺に凝縮しているにもかかわらず、ダイジェスト感なく観ている側に感情を積み重ねさせていく見せ方はとても良くできていたと思う。
場面転換と心情描写の緩急のつけ方はまさにセンスの塊。
このレベルで作家性を発揮しながらオリジナル作品を作ってしまうのだから、やはり山田監督はすごい作家だなと思いました。

ミッションスクールという舞台は(現実がどうかは置いておいて)「悪意のない世界」という記号としても良い舞台のように思う。
特にシスター日吉子はとてもいい人だった。
大人としての立場での共感と応援から、このような形で寄り添ってくれる人はそうはいまい。
主人公たちは幸せだよね。
シスター日吉子が過去に"GOD almighty(全能の神)"という名のバンドをしていたというくだりは、彼女のキャラクターが深まって面白かった。

作品としてはとてもよくまとまっていると思う。
雰囲気としてはドロドロした感情のない「坂道のアポロン」といった雰囲気もあるか。
そして何より"バンドを描いた作品"として盛り上げるための楽曲の説得力が良いね。
「反省文」「あるく」「水金地火木土天アーメン」、どの曲にもキャラクターが現れていて良かったです。

エンディングでルイは進学のために旅立っていく。
しかし見送るトツ子ときみとの永遠の別れではないだろう。
エンドロール後のカットは彼女らの青春のかけがえのない一ページの記憶。
ラストの「See you」は3人にとっての未来を感じさせる。


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