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終戦後の困難な時代に、聾唖の夫婦が貧しくもたくましく生きた物語。
その時代の聾唖者の境遇や、夫婦が出会い、一緒になり、様々な不幸にあっても倹しく生きていく様には感じ入ってしまう。
なによりこの映画で素晴らしいと思うのは"手話"の演出。
普通の人ならば会話できないような喧騒の中、または車両を隔てた電車といった場所で、正面から向き合って話し合う彼らの世界には、耳が聞こえるものにはない世界のつながりが感じられた。
これは手話であるからこそ成立し、映画のテーマとしても意味のある見事なシーンだと思うね。
妻役の高峰秀子、夫役の小林桂樹の演技がとてもいい。
夫婦がお互いに支えあっていくことの感動の裏には、やはりその夫婦に不幸があるからこそ際立つのだろう。
弟が家財を盗んだり、長男が亡くなるのも不幸だけれど、個人的には幼い次男に物心がつき、両親が聾唖者であることの引け目を感じているというニュアンスが、とても心痛かった。
子どもだけに辛辣なことも言う、でもそれ以上に子供の世界で周りから言われているのであろう、その息子の境遇にも心痛みますわ。
それだけに、年月が流れて息子が物事を理解し、父母を想う立派な少年になっていく場面では、主人公と同じような感動を味わえるわけですね。
そして、色々なことが上手く行きだした終盤の悲劇。
「まさか」と、俺もさすがにあっけにとられたのだけども、遺された息子は立派に、そして父子支えあって生きていけるであろうという未来への提示があるわけで。
“困難な境遇の中で逞しく生きていく”という、まさにこの映画のテーマそのものが見いだせるのです。
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