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夏休みにかつて父親と来たダム湖の湖畔を訪れた少年・ユウタ。
その道中で出会った不思議な老人の力によって、1977年のダムに沈む前の村にタイムスリップしてしまう。
導入のプロットはありがちなもので、ダムに沈む前の村の風景もノスタルジックな映画がはやる昨今ではさほど目新しいものではない。
それでも美しく描かれた里山の村の描写は、今は失われつつある日本の風景として心惹かれるものがある。
そういう写実的な情景の一方で、絵本から抜け出たようなシンプルな線を使ったキャラクターの絵自体は、記号化されたアニメーションの中でもまた特徴的な部類かな。
とはいうものの、機微に触れる感情表現は実に上手く、逆にアニメであるからこそのリアリティが感じられるし、手描きのぬくもりが伝わってくるかのような作画は実に良い。
まあ終盤に差し掛かったあたりの神主との会話では、あまりにヌルヌル動かし過ぎて気持ち悪かったし、階段を駆け上るクライマックスでは何故か急にキャラが写実的(おそらく実写をトレースしてる?)になったりと、ちょっと行き過ぎだと感じた部分はあるけれど。
ありがちな導入から、次第に話に引き込んで最後まで見せてしまう展開はなかなか。
世界観と状況を上手く整理して伝えてくるし、説明的になり過ぎない見せ方も上手い。
タイムスリップものながら、時代のギャップをネタにするというよりはそこでの出会いと別れを描いているところが普遍的で良いんだろうな。
それは主人公だけに限らず、劇中のいろんな人がそのテーマの中で生きているし、村がダムに沈んで無くなるという時間制限の中にあること自体が切なさの仕掛けか。
タイトルは「この時間が止まってしまえばいいのに」という劇中の願いの表現ですかな。
全体的に素晴らしい作品だと思ったのだけど、ただエピローグはいささか蛇足感がなくもない。
そもそもこの映画のタイムスリップ自体がファンタジーだと言われればそうだけど、さすがに最後は飛び抜けてファンタジーすぎた。
個人的にはもう少し控えめな演出の方が好みだなあ。
せっかくそこまでひたすらにリアリスティックな情景を描いていたのに…。
まあ、主人公たちの人生はこれでいいと思ったけれどね。
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