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本土決戦間近の日本で、特攻隊員となった主人公が見た戦争を描いた岡本喜八監督の作品。
シニカルに戦争という不条理を描きつつも、全体にどこか滑稽さが漂う悲喜劇。
オープニングは魚雷にくくりつけられたドラム缶の中で魚に語りかける主人公から始まり、そこへ至る事情が描かれる流れだが…その時点でいきなり一人だけ素っ裸!
主人公(寺田農)と区隊長(田中邦衛)の「牛だ」「豚だ」の問答場面は、まさに“ああ言えばこう言う”で喜劇の掛け合いという感じ。
上官は怖い存在のはずなのに、田中邦衛の軽妙さがいい塩梅ですね。
意表を突かれた区隊長が何度も同じことを言う場面に“レコード針が飛ぶ”モンタージュを挟んでくる演出も完全に狙っているけれど、「戦争」や「特攻」という重い題材にあってそういった演出の身軽さが面白い。
「牛になり、豚になり、人間に戻ったと思ったら神になり…」という皮肉の言葉がこの作品の戦争に対する立ち位置の表明かな。
特攻隊への編入が決まり、短い時間の自由時間となった主人公は女郎屋へ。
途中で知り合った古本屋の老夫婦に感化され、そして女郎屋の女将として働く女学生と結ばれて「俺は君を守るために死ねるぞ!」と叫ばせる。
主人公にとっての兵士としての存在理由はそこで確立したわけだが、結論から言ってしまうとそれは果たされない。
自身が敵に突撃する前に、女学生は空襲で蒸し焼きにされてしまう。
そして主人公自身も、終戦を知らず海を漂い、見えた船(軍船ですらない)に向けた魚雷は沈み、果ては漂流しながら白骨化。
彼は何も果たせなかったのだ。
それがこの作品に込められた戦争に対する最大の皮肉。
このシニカルさとコミカルさのバランスは、監督自身が戦争を体験したものだからこそ出せる加減なのだろうと思った。
微妙に絵空事として描かれた個人の戦争。
その裏に込められた心情、それが良く出ていると思う。
ところで劇中、主人公が砂丘で出会った姉妹に女郎屋の女学生への伝言を頼むシーン。
女学生との関係を尋ねられた主人公が言う「許嫁だよ、戦争が終わってもし生きていたら結婚するんだ」という台詞…。
こんなに見事な死亡フラグがこんな時代の映画に出てくるとはw
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