シネつう!
JAPAN STYLE !!


1985年制作

満足度:

シェイクスピアの悲劇「リア王」を翻案し、舞台を日本の戦国時代に置き換えた黒澤明監督の時代劇。

重厚ではあるが映画というよりは舞台劇を観ているかのような印象だった。
いや、オープニングの山野の眺望を背景にした巻狩りのシーンや、燃え落ちる城、軍勢がぶつかり合う合戦や廃城の遠景などはもちろん映画でしか表現できない空気ではある。
でもリアルさから一歩引いているというか、役割の分かりやすい登場人物に、各軍勢の色分けされたイメージなど、作られた空間であるという事が何か意識的に感じられる。
仲代達矢の大げさな演技やメイクが、映画の中で演じる舞台芝居を観せられているような感覚にさせる一因かもしれないが。
別に舞台っぽい感じが悪いというわけではないし、まあそもそもシェイクスピアの戯曲を基にしている話なのだから、意図的にそういう演出にしているのだろうけれど。
逆に格式の高い物語をフィルムに焼こうとする気概は伝わってくるかな。

あと画としてはコントロールされた色が逆に際立っているとも思う。
特に炎や血といった赤の色に対する強烈なイメージは要所で効いているよね。
稜線を走る二騎の姿や、山野に陣取る軍勢なんかを望遠でとらえた画なんかはさすがだなあ。
正直、これは燃え落ちる城の映像よりも印象に残った。

人間の業を悲劇として描いた物語としてよく出来ているのはやはり原案からして名作だからという事もあるだろうが、ちゃんと日本版としても成立しているところはさすが。
ただこんな企画をこの規模で撮れるのも黒澤明だったからだよなあと感じられるところも多々あって、そういう意味でも希少な存在なんじゃないかと思う。
(実際には資金調達に難渋したようだけども。)
実際、暗いし救いのない話だし、黒澤明の映画でなければ興味が沸いたのだろうか?などと自分に問うてしまうところもある(苦笑)

インパクトでは仲代達矢がほとんど一人で持って行ってしまう作品だが、話の黒幕である楓の方を演じる原田美枝子もなかなか良い。
啖呵を切るあたりの演技がやっぱり大げさな気もするけど、それはこの作品の作風だとして、黒幕としての説得力はあるもんね。
あとキャラクターとしては、井川比佐志が演じた一文字次郎の家臣・鉄修理が良い感じ。
戦国の世で必要な殺生には躊躇しないが、楓の方の策謀に勘づきつつぬらりとかわして意見したりする感じ、老獪さがいい。
それだけに、助けたはずの末の方の最期を鉄が知った時に見せる「なんたること」といった表情が…この混沌に満ちた物語の最後を象徴しているか。

ところで畠山役の加藤武の声がメガトロンっぽいなあ…と観ながら思ってたら、ほんとに加藤精三の声だったw
ケガでアフレコできなかった加藤武の代わりに声をあてたらしいですな。


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