シネつう!
JAPAN STYLE !!

陸軍中野学校
1966年制作

満足度:

戦前に実在したスパイ養成学校を舞台にしたドラマ。
陸軍少尉であった主人公は、その素質を見出され陸軍のスパイ養成学校に入校することになる。
そして様々な訓練をこなした彼らに、卒業試験として実地の指令であった。

「スパイ映画」というと「007」か「ミッション:インポッシブル」かそういったアクションを含めた娯楽作を思い浮かべるけれど、本作は地に足着いたスパイの姿を描いた硬派な映画。
話の大半は主人公たちが訓練課程でどのようにスパイとして養成されたかを見せているだけの話なので、ともすれば地味な話のはずなんだけれど…、見せ方とテンポが上手い。
というか無駄がない。
特に主人公と婚約者の運命の皮肉を感じる終盤の展開は、訓練の末にスパイとして確立した主人公の覚悟と、その主人公を探し続けていた婚約者の結末、そしてムカつく陸軍参謀への溜飲が下がる思いなど、そこまでにばら撒かれた要素が的確に収束してお見事。
序盤の草薙中佐の質問「女が好きか」という一言すら終盤への前振りだったな。
90分強の尺で話がとてもよくまとまっていて感心したし、実際としてハデさはないが面白いスパイ映画。

主人公を演じるのは市川雷蔵。
時代劇スターのイメージが強いけど、現代劇として(舞台は戦前だけど)スーツも着こなし確かにカッコイイ。
主人公自体が寡黙な感じのキャラなのだけど、それがまた深みとも取れる。
中野学校の創設者となる草薙中佐を演じるのは加東大介。
劇中での訓練生たちは事あるごとに中佐の熱意にほだされるのだけど、それに説得力を持たせる加東大介の演技だった。
訓練生の前での姿と、陸軍内で気の知れた将校との会話とのオンオフの差にも人間味を感じるなw

ドラマとしては基本的にはスパイとしての訓練の姿が横糸があり、そこに主人公と婚約者のドラマが縦糸として通る構造。
作品としては戦争が引き裂いた2人の悲劇はあれど、反戦に対して声高で鼻につく様な演出もなく、戦争や陸軍批判に対しての距離感も悪くない。
その一方で、中盤の中野学校での出来事…女に入れあげたあげくに“切腹”させられることになった手塚の姿に、思想教育の果てというか、全体を守るために個を殺すという社会構造の縮図というか、全体主義に対する批判的な感情も感じる。
そういったところに戦前を知る監督や脚本家の想いが込められているのかなあ、などと思いながら観た次第。

もどる(ラ行)

当サイトは
円柱野郎なる人物が
運営しています
since 2003.02.01