8
コミュニケーションが少し苦手な少年・チェリーと、前歯がコンプレックスな少女・スマイルの出会いと恋を描いたある夏の青春物語。
90分弱という尺の中で2人の話に絞って上手くまとまっているなあ。
“言葉と気持ち”を相手に伝える手段として“文字から声”に変わっていく段階が少年にとって(苦手だったものからの)ジャンプであり、一方でコンプレックスを飛び越えてくる気持ちとの出会いが少女にとっての世界の変化だね。
16〜17歳の少年少女の青春はとても瑞々しくてオッサンにはまぶしいが、とてもよく感情の乗った恋の話だなと思った。
真っすぐで、あえてドロドロした部分が描かれないのも気持ちがいいよね。
チェリーの友人などはやや舞台装置じみた役割しかない感じもするけど、この尺で話を動かすには効いていた部分はあるか。
特にビーバーは「なぜにハーフ設定?」と思う場面もなくはなかったけど、タギングを含めてやや突飛な行動力を発揮する設定としてはまあなんとなく納得する。
脇役で重要な存在のフジヤマ老人は冒頭でレコードを探して徘徊していて、「何かレコードに意味があるのかな?」と思ったら最後まですごく意味があって、振り返って考えるとなかなか伏線じみた振りがしっかりと構成されていて感心した。
主人公の状況説明も自然な流れでほぼやってのけるしね。
「なんでデイサービスで働いている?」→「母親がぎっくり腰でその代わり」
「盆明けのシフトが埋まらない?」→「引っ越しが近い」
このあたりを観ているだけで察せられるようにしているのはなかなか。
「俳句は文字の芸術なのだから言葉にしなくても…」→「フジヤマのおじいちゃんは奥さんの声が聴きたくてレコードを探していた」
という流れも「気持ちを伝えること」に対する「声」の意味に上手く繋げた構成で感心したなあ。
ほんと、よく出来た話だったと思う。
アニメーション的には冒頭のチェイスで動かし過ぎなくらい動かしていたけど、その他は基本的に落ち着いた感じ。
背景美術のデザインはリアル系なのに輪郭のハッキリしたハイコントラストって部分が、写実とマンガの中間といった感じだけど、意外にキャラクターにアニメ的な記号としての表現をさせている場面もあったので、これはこれであっているなとは思った次第。
むしろそういったコントラストの強さが、統一感と共に青春のまぶしさのようなものも感じさせる気がする。
結構お気に入りの作品となりました。
もどる(サ行)
当サイトは
円柱野郎なる人物が
運営しています
since 2003.02.01