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役者志望の主人公は、緊張すると気絶してしまう体質のせいで色々な事が上手くいかず、ついに警備員の仕事もクビになってしまう。
そんな時、偶然再会した弟にある俳優事務所を紹介されるが、そこは様々な依頼を演技によって解決する何でも屋だった。
前作「カメラを止めるな!」(2018年)であれだけ世間をにぎわせた上田慎一郎監督は、その次回作ともなれば大いにプレッシャーもあったのだろうと想像するけれど、本作でもミニマムな規模感の中で十分に期待に応える作品を撮りあげたと思う。
正直に言えば前作ほどのインパクトはないけれど、(構造は違えども)入れ子な話という要素を上手く使って観客を煙に巻いている感じや、話がつながった時に“なるほど”と思わせてしまう部分では期待を裏切らないものになっていた。
なにより、どちらも「役者」や「演技」というものを信じているから出来るテーマなのだと、そう感じられる部分が良いよね。
「新興宗教の名を騙る詐欺師集団を旅館から追い出したい」という依頼をこなすというミッションが一義的なストーリーだけど、二義的なものに見せかけた主人公の気絶グセが、実はストーリーの根幹だという話。
終盤に差し掛かった場面で起きる茶番の様な刃傷沙汰(の演技)が、観客の「どこまでがグルか」という認識に対して“おとり”の役目を担っているわけだが、このあたりの塩梅が上手かったように思う。
自分もまんまと引っかかって、何故か詐欺師集団までがグルだという思考に至らなかった。
さすがに終盤、死んだはずの主人公が超能力を(仕込みの俳優たちに)浴びせかけてニセ教祖を追い詰める場面は、詐欺師はともかく本物の信者が大人しすぎだろうとかも思ったが、最後の最後に全部仕込みだと分かって、何もかも納得。
キャストでは一般的に有名な役者は出ていないけれど、登場人物のキャラ立ちが絶妙で、むしろ知らない役者が多いからこそフラットな目線で楽しめている部分はあるか。
個人的には仕切り切れていない俳優事務所の“ボス”と、詐欺師ではあるけどホントの悪人ではなさそう感じの教団創始者とかが好みだなあ。
話のテンポとしては若干スローに感じる場面もあったけど、観終わってみればストーリーに納得しているし、全体の目的が判明してちょっとした爽やかな気分になってしまうのも悪くない。
全体に漂うB級感もこの映画の一つの魅力にもなっているのかもしれないけど、その上で話の構造によって普通に面白いものを撮れるセンスはいいと思う。
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