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NHK BS8K用に制作されたテレビドラマの劇場版。
第二次世界大戦下の神戸。
貿易会社の社長夫人であった主人公・聡子は、ある日に夫の優作が国家機密を国際社会に暴露しようとしていることを知る。
夫への様々な想いから、彼女はその国家機密を幼馴染の勤める憲兵隊に持ち込むが…。
初出の経緯から考えればこれはTV映画になるわけだけど、放送作品にもかかわらず劇場版としてヴェネチア国際映画祭に出品し、あまつさえ銀獅子賞を取ってしまうというのだから制作側もその出来栄えに自信があったという事だろう。
確かに、夫を想う妻の情念がストーリーを動かしていくその内容はよく出来ているし、演者の背中越しに「不安」や「疑念」が伝わってくるかのようなフレームにはハッとするものもあった。
その一方で一部の屋内美術(特に船倉のシーン)に安っぽさを感じたり、外国人俳優の“演技してる感”が気になったりという多少の不満もあるのだけど。
でもそのへんは映画として観るから気になるのであって、TVドラマとして観ていたなら気にならなかったのだろうか?などと考えてしまうと…、観る側ってのもつくづく現金なものだなあと感じてしまう。
ともかく、TV映画か劇場映画かは関係なく、演出や主演の演技に関しては見ごたえはあったのは事実。
主題は“スパイの妻”であって、間諜行為そのものは実はストーリーの添え物にしか過ぎない。
一見、国家を相手にした策謀の話に見せかけて、実は「スパイをしていた男の『妻』」というだけのとてもパーソナルな情念の話なんだよね。
いやまさにタイトル通りw
彼女が闘っている相手は夫が満州から連れ帰った女性で、しかも主人公に会う前に死んでいるからなおのこと相手が悪い。
「夫にとってその女は何か、私はその女以上に夫に必要とされているのか」という情念が行動原理であって、口では「(夫の言う)大望のため」という言葉も出るけれど、考えているのは「彼の妻であり続けること」という気持ちが妙に生々しく伝わってきて、その辺の切り取り方が実に上手いなあと。
なので、ラストまで観ると「女の気持ちの話やん」となって国家機密そのものも主題にはあまり関係なかったわけだけど、それならあえて機密の中身をぼかしてマクガフィンにしてしまうという手もあったかとは思ったり…。
でも優作が義憤にかられてその秘密を暴露しようとすることに説得力を持たすには、確かに731部隊の非人道的な実験というのが理解しやすいというのはあるか。
主演の蒼井優はいかにも昭和の女優っぽいたたずまいと喋り方で印象に残る演技。
舞台となった時代をイメージとして表現するために意識的にやっている感じはするけれど、それはこの作品には合っていたと思う。
義憤にかられる夫・勇作を演じる高橋一生も微妙に腹の底の見えない雰囲気が良いねえ、「私はコスモポリタンだ」というセリフには自分はうさん臭さを感じてしまうけど。
それはそれとして「日本の捕虜虐待は許せないから、米国を参戦させて日本を負かしてもらう」とする勇作の大望の行く先で、女子供の悲鳴が飛び交う神戸空襲の阿鼻叫喚を聡子に聴かせるというラストにもっていくあたり、監督は実に意地が悪いなあと思いましたw
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