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杉浦日向子の漫画「百日紅」のアニメ化作品。
葛飾北斎の娘・お栄とその周りの人間模様を、江戸の日常風景として描く。
原作は未読。
おそらく原作からのいくつかのエピソードを並べたのであろう、話としては季節ごとにいくつかの話が並んでいるようなショートエピソード集的な感じもする。
決して特別な起伏があるわけではなく、春夏秋冬流れていく江戸の景色の中での人間の暮らしが描かれるだけだけど、主人公・お栄や周囲の人々の生活や、盲目の妹・猶の存在が話の縦糸として語られていく日常風景が何とも心地いい。
いくらかはお栄のナレーションが入るものの、基本的には情景や人物の表情芝居で感情が伝わってくるし、そういう地に足着いた日常の人間関係のドラマというリアル感には感心。
でも何もかもリアリスティックというわけではなく、冒頭で龍が下りてくるという場面を見せた様にファンタジックな部分も世界の一部として描写されていて、相変わらず原恵一監督はその辺の按排が上手い。
本当に存在するか否かということではなく、当時の人が感じる人知を超えるものに対しての解釈といった部分で、アニメーションの演出がリアルと融合して効果を出しているか。
「首が伸びる」という話も、地獄絵図が招くものも日常の中にで感じられる非日常のエピソードとして、まるで落語か講談にでもなりそうな話だけどそれがまた江戸情緒とマッチしていた。
お栄は男勝りな生娘というキャラクターで、話し方も気の強さが出ていて面白い。
画は上手いが経験がないので枕絵の男が下手というのもまた、この映画の縦糸の一つかな。
その一方で見せる妹への優しさに心打たれもするし、妹の死を悟る場面などは集大成としてグッと来てしまいました。
(いや本当はその前に、雪の中で遊ぶ妹を見守る表情でだいぶ涙腺を刺激されたのだけれど。)
虫の知らせを感じさせるとともに、家の中に落ちた百日紅の花が、生前来なかった妹がついに北斎の家に来たことを示唆する。
北斎も理解して、静かに呟くのが良い。
過ぎゆく日々の機微を捉えて見せた良い作品だった。
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