9
犯罪加害者の妹と、その少女を世間の目から守ることを命じられた刑事の、数日間の逃避行を描いた人間ドラマ。
センセーショナルさに飛びつくマスコミの醜さと、歯止めの効かないネットの恐ろしさというのは実に今日的なテーマだけれど、それを上手く纏めて人々の心情を描けていると思う。
主要な登場人物である少女・刑事・ペンションの主人の皆が皆、自身の境遇に苦悩している人ばかりで見ていて重いというのは正直なところではある。
だけど、お互いに心が傷ついている少女と刑事が次第に疑似親子的に心を通わせていく所なんかは、ラストに希望の光が見えるところも含めてこの話の救いになってるね。
そういう展開の説得力も、感情を表現する演技に説得力があるからだろう。
その意味では佐藤浩市はさすがだし、少女役の志田未来も想像以上に良い演技を見せてくれた。
監督は「容疑者 室井慎次」の君塚良一。
相変わらず手持ちカメラが好きなようでほとんどの場面で画面が揺れているけど、「踊る〜」シリーズである「容疑者〜」のような虚構色の強い世界観でそれを使ってしまった失敗に比べると、本作は完全に地に足付いた世界なのでその手ぶれ感はリアリティを出す効果として良かった。
まあ、グリーングラス監督の作品のような臨場感には及ばないがw
個人的には「ここは手ぶれを止めてくれ」というところでも平気で揺れているのは、多少気になったかな。
リアル感という点は、所謂“某巨大掲示板”的な画面がそんなに嘘くさくなかったのはよかった。
一昔前の映画なら、適当に作られたPC画面のコメントがいかにも作り物くさくて白けたもんだけど、今作では(多少"?"なところはあったけど)それらしく見えたからね。
裏を返せばそういうネット文化の認知度が上がってきているという事なのかもしれない。
映画ではマスコミの横暴も恐ろしいが、どこまでもスネークしてくるネットの住人達も恐ろしい。
ある種の歪んだ正義感による私刑なわけだけど、「足下は坂道だった」時の歯止めである“モラル”がどこかに行ってしまった世界の怖さを訴える良い映画だと思う。
もどる(タ行)
当サイトは
円柱野郎なる人物が
運営しています
since 2003.02.01