シネつう!
JAPAN STYLE !!

ディア・ドクター
2009年制作

満足度:

山間の村で診療所に勤務する一人の医師。親身な診療で村人から絶大な信頼を得ていた彼が、ある日突然失踪する。

観ていて真っ先に思い浮かぶのは「ブラック・ジャック」(チャンピオン・コミック版)の75話「古和医院」。
前半なんてまさにそのままのイメージの話だけど、この映画はもう少し踏み込んだ人間模様が描かれていく。
その村の医師であることが当人にとってどういう事なのか。
「神仏よりも」と信頼してくる村人、“本物の医者”と尊敬すらしてくる医学生と、娘には病気を黙っていて欲しいと懇願する老婦人。
本当の経緯と周囲の人たちの間で翻弄されている主人公の気持ちの切り取り方が素晴らしい。

「それって、なんなんですかね、やっぱり愛ですかね?」と部外者の刑事が言い放つが、そんな“理由じゃない世界”がそこにはあり、理由を断定しないからこそ人間の感情の幅を描けているんじゃないかと思う。
西川美和という監督は、“人間の気持ち”というそのあたりの判断を観客に求めてくる見せ方がとにかく上手いよね。
前作の「ゆれる」も良かったけど、その才能には確かなものを感じます。

医師役は映画初主演の笑福亭鶴瓶。
あまりにも鶴瓶なので、鶴瓶以外には見えないのだけど、それでもそのイメージが最大限に生きていて、もう彼以外には考えられないキャスティング。
彼の表現する“慕われる医師”の面と“本当の自分”の面の裏表にも引き込まれてしまいました。

失踪直前のやりとり観て思うのは、やはりこの医師は最後まで他人のことを思っていたんじゃないかなということ。
失踪にまで気持ちが追い込まれる経緯が他にあったとはいえ、「あの老婦人はもう娘に会えないんじゃないか」「俺なんかを信用して…、俺のような嘘がここにいてるから!」という最後の一押しがあの行動に走らせたんじゃないかと思う。
本作のキャッチコピーでは「その嘘は、罪ですか。」と問うてるけど、実は二つの嘘について言及とは、これは上手いね。
個人的には、夜遅くまで机に向かっている主人公の姿を見たらばこそ、やはり罪ではないと思いたいのだが。

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