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ある会社重役の息子を狙った、身代金誘拐事件を巡る人々の姿を描いたサスペンス。
黒澤明の代表作の一つですが、やはり見応えがあります。
ただ現代劇である以上は、60年代という時代背景をある程度知っておかないとピンと来ないところもあるけどね。
例えば、舞台が“黄金町”と聞いても今では(土地勘の問題もあるけど)ピンと来ないわけで、俺なんかはそこが青線街であったとか戦後ヒロポンの密売地帯であったなんて事は観賞後に知った次第。
あと、南関東の地名がやたらと出てくるので、そのへんに土地勘がある方がこの映画は理解しやすいと思う。
これに関しては、俺は一時期に神奈川で暮らしてたおかげか分かりやすかったけど…。
ストーリーは正にタイトルの通り、色んな人物にとっての“天国と地獄”が描かれる。
脅迫された重役にとっての、身代金を支払わないことで得る会社の支配か、支払うことで破滅する自分の地位かという“天国と地獄”。
高台の豪邸(天国)に住む重役と、黄金町のボロアパート(地獄)に住む自分という、犯人にとっての“天国と地獄”。
そして会社は追い出されたが、別会社でやり直しを計る元重役と、逮捕され死刑を待つ犯人という“天国と地獄”。
このプロットが、一つの誘拐事件を縦糸に凄く上手く展開されていく。
それは演出の妙であり、また脚本の巧さではあるんだけど、それ以上にやはりそれを生かせる役者の良さがあるのだろうね。
当時新人だったという犯人役の山崎努のラストの叫びは、あれだけで色んなものを伝えてくるような気がするね。
あえて犯人の過去を語らせなかった脚本も、あの演技があってこそ生きてくるんだろう。
有名な“こだま号での身代金受け渡し”や“煙突から上るピンクの煙”なんかは、それと知っていてもナルホドと思わず唸ってしまった。
さすがです。
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