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山田洋二監督が、小津安二郎の名作「東京物語」の舞台を現代に置き換え、老夫婦(橋爪功と吉行和子)と、息子や娘達のある日常を描いたリメイク作品。
リメイク作はどうしてもオリジナルと比べてしまうのだけど、本作の翻案は上手いと思う。
舞台となる時代は大きく変化したけれど、ストーリーラインの大きな流れは「東京物語」そのままなのに全く古臭さがない。
もちろんそれは60年前にそのフォーマットを提示したオリジナルのすごさでもあるし、日本人の"家族観"が根本では変わっていないと感じさせるところでもある。
ただ、この映画は二男(妻夫木聡)の設定が現代風にアレンジされているので、実はこれによって映画から受ける印象はオリジナルとはちょっと違うものになっていたかな。
もう少しだけ目線が優しいというか、先への希望を託しているというか。
オリジナルって、もっとドライな印象だった気もする。
そういえば形見分けについて語るシーンも、二男の発言によってずいぶんと場の雰囲気が変わったなあ。
個人的にはこの映画の流れの方が良いと思うね。
でもそういう枝葉がアレンジされていても、話の根幹にある家族の物語として変わらないし、オリジナルに対する敬意に満ち満ちているのが分かる。
本作はクランクインの直前に東日本大震災があり、それで脚本を書き換えたという経緯のある作品でもあるのだけど、劇中でもその震災については2度ほど言及されてました。
ただ、個人的にはその組み込み方はちょっと強引かなと思う部分でもある。
エピソードとしてはその場面でしか効いてこないし、伏線でもない。
好意的に解釈すれば、二男とその彼女の人間性を表すための効果はあるだろうけれど、やっぱり少し浮いているかも。
まあ、監督がどうしても言及したかったという気持ちは理解したいけれどね。
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