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尾道から東京にいる息子達のところに出てきた老夫婦(笠智衆と東山千栄子)と、彼らの息子や娘達のある日常を切り取った、小津安二郎監督の代表作。
親の子供達に対する想い、子供達の老いた親に対する想いが、普通の日常の中で丁寧に描かれている。
いや、親の方は上京して久々に子供らにあったのだから、それは日常の中でも少なからずイベントであったのだけども、肝心の息子達が何となくその両親を邪魔者扱いしてるんだよね。
それを老夫婦もそれとなく感じつつも、穏やかに日は過ぎていく。
唯一親切に対応してくれたのは、戦争で亡くなった次男の嫁の紀子(原節子)だけ。
これだけ見れば「親の心子知らず」とか「親孝行したい時に親は無し」とか、そういった言葉が頭に浮かぶけど、この映画からはもっと底深い人間の姿が垣間見えた様な気がする。
親を邪魔者扱いしていた息子や娘は悪気があるわけでなく、他人から見て辛辣な言いぐさだって悪意があるわけじゃない。
終盤でそんな兄たちの姿を嘆いた末娘の京子に対して、それまで老夫婦に一番親切にしていた紀子が「大きくなると子供はそうなるものよ」と語り、そして義理の父親に対しては自らを「私ズルいんです」と告白する。
人間の心は綺麗であると同時に醜い部分もあるし、親を大事にしたいと思う一方で邪険に思っている部分もある。
親に対して一番サバサバとしたセリフの多かった長女(杉村春子)こそが、母親の死期を聞いて最も涙していた。
老夫婦に最も親切だった紀子こそが心に影を垣間見せていた。
そんな人間模様を、この映画は淡々と、そしてなんと細やかに観せてくれるのだろうか。
個人的にも、それぞれの登場人物に少なからず共感するところがあるが、そう感じてしまうというのも自分が歳をとった証拠なのかもしれない。
エンディングで部屋に独りとなった笠智衆の佇まいがとても印象に残ります…。
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