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磯田道史の評伝「無私の日本人」で紹介された穀田屋十三郎を原作にした時代劇ドラマ。
江戸時代の中ごろ、仙台藩の宿場町・吉岡宿は伝馬役の負担に疲弊してたが、そんな折、茶師の篤平治(瑛太)が一つの奇策をひらめく。
予告編を観た時の印象では、もっとコメディ調に寄せた単純な笑い話なのかと感じていたのだけど、実際には松竹らしい地に足着いた人情喜劇でドラマも良くできていた。
話の軸は「お上に銭を貸し、その利息で伝馬役の負担を減らし、宿を活気づかせよう」という案をいかに実現するかというプロジェクトものだが、もちろん封建時代にあってはなかなか奇抜で挑戦的なアイデア、銭を募る段階からも様々な障害が…。
ただ、それだけの話なら展開も予想の範囲を超えるものではないのだけれども、この映画にはもう一つ裏があって、主人公の一人・穀田屋十三郎(阿部サダヲ)の実家に対するコンプレックスと、その実家・浅野屋を継いだ弟の甚内の真意が明らかになっていくところがミソ。
金銭のためでも名誉のためでもなく、「ただ宿場のために」という世代を超えた願いに心打たれる話だった。
演出上、前半は貨幣価値や役職の説明などでナレーションや解説が多々入るけど、まあこれは仕方がないか。
流れをぶった切るというほどでもないし、確かに予備知識的には親切でもある。
浅野屋甚内を演じた妻夫木聡は上手い。
彼だけは喜劇演技ではないけど、前半と後半での演技のテンションが変わらないのに、事の真相を知ってしまうと印象がガラッと変わってしまう絶妙な感じが良いね。
主演の阿部サダヲと瑛太も軽妙さと真剣さのバランスが良くて、安心して観ていられる。
脇を固める寺脇康文、西村雅彦、きたろうの助演っぷりは言わずもがな。
そうそう、上田耕一がまた坊さん役で出ていたのが何か可笑しかったw
(中村監督の前作「残穢」でも住職役だったぞ。)
藩の出入司・萱場を演じた松田龍平も、憎まれ役を一手に引き受けてたけど爬虫類みたいな冷たい感じがなかなか。
でも彼だって悪人という訳ではないからなあ。
そういう意味ではこの映画に根っからの悪人はいない。
百姓も肝煎(庄屋)も代官も殿さまも、みんないい人だよね。
ただひとえに、宿場のために私欲を捨てた者の願いに心を打たれるという話なわけだけど、日本人ってこういう話は特に好きだわなあ。
それが難しいとわかっているからこそ、ね。
冒頭、金を数える先代・浅野屋(山崎努)の顔で始まった話は、現代の吉岡の町を眺めるかのような彼の顔で幕を閉じる。
「宿場を守りたい」という彼の願いを知った今、その想いが現代にも繋がっているのだと感じさせるいいエンディングだと思う。
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