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塩田武士の同名小説を原作にしたミステリードラマ。
35年前に起きた未解決の企業脅迫事件「ギンガ・萬堂事件」。
京都でテーラーを営む主人公の曽根俊也(星野源)は、ある日、自分の声が事件の身代金受け渡しの指示に使われた子供の声であったことを知る。
一方、大阪の新聞記者である阿久津英士(小栗旬)は、事件を扱った企画の応援要員に駆り出され取材を開始する。
原作は未読。
ストーリの根幹となる「ギンガ・萬堂事件」のモデルとなった「グリコ・森永事件」は昭和史に残る未解決事件だけれど、未解決だからこそ想像の余地があるし、こうして創作を織り交ぜたドラマも作ることができるわけだね。
「グリコ・森永事件」の時は自分は幼稚園に入る前だったか…、それでも子供心に祖父母がニュースを見ながら不安がっていたことや「お店でお菓子を買っちゃいけない」と言っていたことも憶えている。
当時幼かった自分ですら覚えているのだから、ほんとに社会的にインパクトのある事件だったという事だと思う。
もちろん犯人は捕まっていないのでこの話で描かれる真相や犯人像はまるっきりのフィクションなのだけれど、その様に事件そのものが現実の地続きであるという部分が、この話に入り込みやすくさせているのが良くできていたなあ。
しかしこの物語が良いのは、単に「こんな真相だったのでは?」で終わらせずにその事件に翻弄されたであろう人たちのドラマをしっかりと描いているからだよね。
「罪の声」というタイトルは端的すぎるほどに端的で、素晴らしい。
観る前は「いまさらグリコ・森永事件をどう描くんだろう」と懐疑的な気持ちもあったのだけど、観てみるとそんな気持ちは雲散霧消してしまった。
舞台が事件から35年経った今だからこそ描ける、事件に翻弄された当時子供だった者たちの人生が明らかになっていくドラマの構成が見事。
真実に近づきたいとする話の入り口を二手から用意し、観る者には調査への動機の面で曽根に共感させ、事件のあらましは阿久津の取材によって整理していく。
そして曽根と阿久津に接点が生まれたところで、物語の真の主人公…事件によって人生を狂わされた生島姉弟の人生が浮き彫りになるという仕掛けなのだが、そのドラマのシフトチェンジの塩梅が絶妙だったなあ。
主演の二人(小栗旬と星野源)は良かった。
(いい意味で)裏表のない感じの人物という演技が、主人公二人に感情移入しやすくさせてくれた。
助演では料理屋の板長・佐伯を演じる橋本じゅんが良い味を出していたねえ(ネイティブ関西弁の安心感がグッド)、主人公ふたりの橋渡し役なのでちょいちょい登場してくるけど、絶妙に口が軽いところが面白いw
あとは生島姉弟の姉の方の幼馴染・天地を演じた高田聖子だなあ、あの泣きの演技は心にきたわ。
終盤、事件のことを「あれは闘争だった」という主犯の言い分には共感しない。
それもまたあの時代に生きたある世代にとっては人生の意義であったかもしれないという描き方ではあるのだけれど、それによって子供たちの未来をつぶしてしまったという重みの方がこの物語の軸足だよね。
少なくとも見せ方として全共闘世代に対して同情的なものがあまり感じられないニュアンスだったのは、そういった冷ややかな感覚が原作者も脚本家も全共闘運動後の世代(かくいう自分も原作者とほぼ同世代)だからなのだろうか、そのあたりが興味深い。
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