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令丈ヒロ子の児童小説を原作にした劇場版アニメ映画。
両親を亡くした少女・おっこは祖母が営む旅館に住むことになるが、そこで出会った幽霊・ウリ坊とのやり取りがきっかけで旅館の若おかみとして修行することになる。
児童小説が原作という事と、主人公のデザインが子供向けの印象も強くどちらかと言うと興味が沸かなかった作品だったのだけど、評判が良いという事で観に行ってみたら…やられました。
キービジュアルとは裏腹な「死別」というハードなテーマに貫かれていることにも驚いたけれど、登場人物の心情として「受け入れること」や「乗り越えること」をとても前向きな物語として描かれていることにとても感動しました。
観る前に「どうせ『花咲くいろは』の小学生版でしょ?フフン」くらいに考えていた俺をぶん殴ってやりたいw
主人公たちのキャラデザインは原作の挿絵をベースにしていることは後で知ったのだけど、そういう意味では初出のイメージをリスペクトしているという姿勢にも好感。
その他の大人のデザインはどこかジブリっぽい感じがするが、監督の高坂希太郎はジブリ畑の人なので納得の感じ。
(おっこのお母さんだけなんか松本零士の美人っぽい造形なのが気になったがw)
というかすごくキャラクターの動きも実に繊細だよね。
ちょっとした体重の掛け方とか浮遊感とか、そういう自然な動作に説得力があるのも丁寧に作られているなあと思った。
原作(全20巻)は未読。
TVアニメ版(全24話)も未見だけど、この映画はTV版とは直接的なつながりのない単独作品ということでまとめられているとのこと。
おっこが旅館に住むことになった理由、そして何組かの宿泊客との交流を通しての1年が描かれるわけだけど、ずっと背後に「死別」の匂いが漂っているのに暗くなりすぎないバランス感覚がすごい。
ラストの宿泊客との邂逅は「そんなことってあるか」と思いつつも(鈴鬼のせい?)、おっこが向き合わなければならない決定的な部分として物語のクライマックスを完成させている。
「私はここの、春の屋の若おかみです」という言葉に凝縮された主人公の心情描写が見事。
人は肉親との死別を避けられないが、そこに対しての前向きな物語がこの作品には詰まっている。
もう子供向けの映画じゃないよ、大人ほど泣いちゃうんじゃないか、これ。
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