シネつう!
JAPAN STYLE !!

夜明け告げるルーのうた
2017年制作

満足度:

田舎の港町に暮らす塞ぎがちな中学生の主人公・カイ。
ある日、同級生からバンドの練習に誘われたカイは、しぶしぶ向かった練習場のある島で人魚のルーを目撃する。
湯浅政明監督のオリジナル長編アニメ。

「マインド・ゲーム」がピノキオなら、本作は「人魚姫」か。
(パンフによると企画初期ではヴァンパイアの話だったらしいので、そのあたりの名残はチラホラ見えるが。)
でも実際は「人魚姫」、というよりは湯浅版の「ポニョ」といった感じかな。
洪水っぽいことも起きるしw
町の危機を救う流れで主人公の成長も絡めて描く構成も、近年なら「君の名は。」とか…ベタな感じもするけれど、良く言えば王道でもあるか。
でも内容がボーイ・ミーツ・ガール的な感じよりも兄と妹的な愛情の話に近い感覚なので、個人的には恋愛モノよりも鑑賞後感がよりさわやかな印象ではあった。

話の流れとしては、心を閉ざし気味だった少年が周囲に心を開いていく過程を描いた青春映画となると思うけど、正直言うと“人魚”というファンタジーと青春映画的要素の混ざり具合はちょっと今一つな気はする。
町おこし絡みの話もいまいち溶け込んでいないというか…。
監督が見せたい絵に対する舞台設定の流れがちょっと頭でっかちになった感じというか…。

湯浅監督の作品は、原作が付くと話と絵がとても素晴らしく化学反応を起こすことが多いのは確か。
逆にオリジナル作品となると「ケモノヅメ」や「カイバ」の様に絵の表現が先行して物語がどうも抽象的になるようなイメージがあるんだけど、本作はオリジナル作品という事で観る前は「抽象的な話になるかなあ?」と思ってました。
ところが観てみると、青春映画としてちゃんと纏めようとしているw
「青春」という雰囲気は脚本の吉田玲子が得意とする分野なので、おそらくそのあたりでテーマの一本筋をコントロールしているのだと思うけど、それが故に湯浅監督らしい“絵が動くこと”のとんがったイメージは、ちょっと控えめになってしまったのではないかとも思った。
ルーの父親(どう見てもサメなのに、町の人になぜか受け入れられているw)くらい“アニメのウソ”を平気で貫いてくれる面白さが、もっと全編で観られたら楽しかっただろうなあ。

まあ、でもひとたび絵が動き出すとやっぱり湯浅監督作品。
アニメーションというデフォルした動きの表現はさすがの一言。
ぐりぐり動くカメラワークを作画でやってるのかと思うと気が遠くなる感じだけど、動かせば妥協のないそのイメージの洪水はやはり楽しい。
後で知ったことだけど、この作品って全編フラッシュアニメで制作されてるとのこと。
それには驚いたけど、水面を通した線がグニャグニャ動く表現にモーフィングが使われていると聞いて「これはフラッシュの得手ですわ」と納得した。

ちなみに、爺さんが真実を知って母親と再会したシーンはちょっとジーンとしてしまった。
ベタだけどw
でも本筋と溶け合っているストーリーかと言うと…、やっぱりそれ自体はサイドエピソードな気はする。


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