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森見登美彦の同名小説のアニメ化作品。
大学三回生の「私」が下宿する下鴨幽水荘に帰ると、その下宿に唯一存在するエアコンのリモコンが故障するという“大事件”が発生する。
原作は森見登美彦の小説「四畳半神話大系」と上田誠の戯曲「サマータイムマシン・ブルース」のコラボ作品。
どちらの小説も舞台も観るくらいに大好きな作品なのでそれがコラボするというだけでテンションが上ってしまいますが、その期待に応えてくれる見事な融合でした。
というか、これまでに何度か森見登美彦の原作作品を映像化作品の脚本を上田誠が務めていて、本作はそのアンサーとして上田誠の戯曲を森見登美彦が「四畳半神話大系」で小説化したという形ですね。
それだけでクリエイター同士の敬意が伝わってくるというもの。
そして本作の制作者たちが最も「分かっている」点は、「四畳半神話大系」とそのTVアニメ版のイメージが不可分であるということです。
2010年に放送された湯浅政明監督のTVアニメ「四畳半神話大系」は00年代〜10年代を通じても最高のTVアニメシリーズだと思っているけれど、「四畳半」の世界を映像で描くときにそのTVアニメのイメージから外れることももはや許されるところではないでしょう。
その「アニメの世界観から外さない」ということも全うした挙げ句、ちゃんと「サマータイムマシン・ブルース」の物語として成立させているのだからもう最高。
原作も脚本もアニメ化も、全てにおいて「四畳半神話大系」と「サマータイムマシン・ブルース」を作った人たちで融合させているのだから、そりゃ“本物の”コラボですよね!
映画としては状況や人間関係の説明がメインとなる序盤は展開がややもっさり気味。
ただ「私」の語り口や、メインキャラが早々に一堂に会するあたりなどでのやり取りなどは「四畳半」として妙な安心感がある。
そして物置にあるタイムマシンを発見し、1日前に行ったきりとなった小津・樋口師匠・羽貫さんを追いかけて「私」と明石さんが一日前に行ったあたりからドタバタコメディっぷりが加速する。
もっさりしていたと思っていた序盤の説明内容も伏線として回収され、時間旅行というでかい話なのにリモコンをどうにかしようとしているだけの小さな話という世界観が実に小気味いい。
古本市での「私」と小津のやり取りには小津の優しさを感じたし、明石さんの芯を感じる佇まいや見え隠れする「私」への感情も魅力的だったなあ。
ファンとしては「私」と明石さんの関係性に応援もしたくなるし、「私」にとっての小津もほんとに良い悪友だと思う。
いつまで経っても樋口師匠は変わらないことに驚きと安心感を抱いたし、12年ぶりの「四畳半」の世界を堪能しました。
そうそう、未来から来た田村くんの正体は原作の劇も知っているので分かった上で観ていたけど、本作の彼は両親が誰かを知った上で自覚的にとぼけているので、もっさりしてるくせになかなか策士で面白い。
というか田村の声を、劇や映画で同役を演じた本多力があてているというのがこだわりですねw
「サマータイムマシン・ブルース」ネタとしては“ヴィダルサスーン”へのこだわりと、どう見てもタイムマシンなタイムマシンにもニヤつきます。
(映画版のタイムマシンは違うけど、劇の方はどう見てもデザインが「ド○えもん」のあれなので。)
ラストの打ち上げへ向かう雰囲気は、青春のひと夏を感じさせる実にいい雰囲気だった。
先輩がいて、悪友がいて、意中の後輩がいる。
モラトリアムの中で悶々と悩むこともあるだろうけれど、「私」はいい人間関係と青春を送っていると思う。
そんな時が自分にもあったのかなあ…?と振り返ると、ただただうらやましい。
そして話の締めくくりは「成就した恋ほど語るに値しないものはない」。
これぞ「四畳半」。
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