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スタジオジブリという会社、宮崎駿、鈴木敏夫、高畑勲。
「風立ちぬ」制作中のスタジオの日常を中心に、ジブリという空間を描いたドキュメンタリー作品。
ジブリ作品のメイキングは、昨今ではNHKなり日テレで放送されることが多く、その制作過程を映像で見ることはさして珍しいことではない。
この映画も、結果的に作品制作中の時期に宮崎駿に密着しているので、どうしてもTVのドキュメンタリーと似たような構成になってしまうかな。
でも印象としては、TVの様に語りすぎるナレーションとは少し違って、宮崎監督が思っていることに対して観る側に彼の思考を感じさせる余地があるというか、情緒があるように感じられた。
ドキュメンタリーは積極的にインタビューするか、空気となってその場を映し出すか、色々なやり方はあると思うけれど、宮崎さんが撮影者である監督に語りかけ、反対に質問したり、空気になりきれないのも逆に微笑ましいw
宮崎監督、鈴木プロデューサーの日常が劇中のほとんどで描かれ、もう一人のスタジオのキーマンであるはずの高畑監督はほとんど現れないというのも、そのジブリという空間の何か不思議なものを感じさせる。
でもそこにいなくても、宮崎監督にとって高畑監督という愛憎渦巻いた存在の大きさというか、そういう描き方が良いね。
序盤こそNHKのメイキングの様だけれど、後半になり3人の物語としての形が見えつつある感じなると深みが感じられる。
「風立ちぬ」の完成後のスタジオ屋上で、初めて画面に現れた高畑監督との3人の談笑はグッとくるものがあるし、映画の見せ場としてかなりいい画だとも思う。
それにしても宮崎監督は饒舌だよなあ。
考え方が偏った老人と思わせる部分もあるけど、至極真っ当な人生経験の重みのある発言もあるし、矛盾した発言もポロポロしつつ、その辺の見せ方は構成も上手かった。
空襲体験を語るシーン、父親が空襲から逃げてきた近所の子供にチョコレートを挙げた話のオチで、「パクさん(高畑監督)なんて2日も焼野原を彷徨って、芋のツルももらえなかったって、だからあんな(ひねくれ者)になっちゃったw」と言うのには爆笑してしまったw
ジブリという王国の今と未来の危うさはどこか全体に感じられる。
作品の終わりに宮崎監督の引退が入ってきたのは、撮影開始時には想定もしてなかっただろうし、どこか運命の様なものもあったんだろうけれど。
中盤、ジブリの若手監督である宮崎吾朗が、会議でプロデューサーとやりあっているシーンは目を引いた。
怒りの表情と共に「俺はこの世界に間違って入った人間だ」と、本人がハッキリ言っている。
彼の心情…この発言は正直驚いたし、傍観者としてのドキュメンタリー作品の良さがここにはあったね。
ジブリの後継者はどうなるのか、そういった危うさがある中で、宮崎駿と庵野秀明との関係性に何か暖かいものを感じたのは希望でもあるか。
師弟の様な、人として認め合っている様な、宮崎駿も直接ジブリではなくとも庵野秀明のその生き方を認めているのだろう、そんなの表情が良かった。
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