シネつう!
JAPAN STYLE !!

湯を沸かすほどの熱い愛
2016年制作

満足度:10

癌になり、余命2か月と知った主人公・双葉。
そんな彼女の人としての熱い愛を描いた家族の物語。

「まーた難病モノの、お涙ちょうだい映画か…」
正直、予告編を観た時はそう思っていました。
しかしそんな安易な内容ではなかった。
確かに主人公は余命2ヶ月まで進行した癌が発覚し、その最期の2か月を描いた話ではあるけれど。
でもそこで描かれるのは、主人公のとてもとても深い情の熱量。
「愛」という安直な表現では伝えきれない、湯を沸かすほどの愛の物語だった。

この映画が心に刺さるのは、とても優しく時には厳しく愛情をもって接していることが分かる娘の安澄ですら、主人公にとって血のつながった親子ではなかったということだ。
無償の愛とはこういうことかとは思いつつも、映画の中盤で主人公が娘に「実の親ではない」と告白し、「親に挨拶してきなさい」と突き放す場面には「娘からしたらとても残酷なことだよなあ」などと思いもしたが。
しかし、次のシーン…実の親と合うシーンで手話が登場するのである。
ここで涙腺が決壊した。

この手話の描写ひとつで、「いつか安澄は本当の母親と会うのだ」ということを主人公が昔から願っていたという事が分かる。
余命が分かってからとかそんな近い過去じゃない、安澄のことを本当に思っていたのだという事が痛いほど伝わってきた。
そして実は主人公もかつて親に捨てられた身だったと分かってくるに至り、彼女のそこまでの行いに深く深く打ちのめされた次第。

映画としてはそういったシリアスを背骨にはしているけれど、話のテンポがとてもよく、全体的には深刻さよりも前向きさに支えられた話であるところが良い。
いや前向き…とはちょっと違うな。
生きることへの真剣さ、他人に対する真剣さとでもいった方が良いのかもしれないが、その真摯さが作品をとてもポジティブなものにしている。
取ってつけた様な説明描写はないが、人物の背景を透かして浮かび上がる人間ドラマの構成は良いね。
ちょっとずつミスリードしながら観客の予想をずらしていく展開も、映画構成の妙として上手いなあと感心したところ。

主人公を演じた宮沢りえは圧巻。
痩せるだけなら大したことじゃない。
それよりも、それ以上に、主人公の心を見事に表現していたと思う。
その心を受け止める娘・安澄役の杉咲花も、とても素晴らしかった。
本当に良い役者だと思う。

夫役のオダギリジョーは彼らしい雰囲気を生かしたキャラで、ちょっと間違えばそのいい加減さにヘイトが溜まりそうなものなのに、彼のニクめないちょっと不器用な感じを好演していたね。

映画のラストは、本当のことを言うとちょっと「えっいいの!?」と思ったのだけど…。
もはやここまで来ると比喩(…というかまさかの直喩だが)を通り越してファンタジーとして受け入れてしまおうという気にもなったw


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