Movie Review!-マ行

マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙
マーズ・アタック!
マーティ
マーベルズ
マイアミ・バイス
マイ・インターン
マイ・エレメント
マイケル・コリンズ
マイケル・ジャクソン THIS IS IT
マイケル・ムーアの世界侵略のススメ
マイティ・ソー
マイティ・ソー/ダーク・ワールド
マイティ・ソー/バトルロイヤル
マイノリティ・リポート
マイレージ、マイライフ
マグニフィセント・セブン
マグノリア
マクラーレン -F1に魅せられた男-
マザー!
マジェスティック
マシニスト
魔人ドラキュラ
マスク
マスク2
マスター・アンド・コマンダー
マダガスカル
マダガスカル2
マダガスカル3
マダム・ウェブ
マチェーテ
マチェーテ・キルズ
街の灯
マッドマックス
マッドマックス2
マッドマックス/サンダードーム
マッドマックス 怒りのデス・ロード
マッドマックス 怒りのデス・ロード <ブラック&クローム>エディション
マトリックス
マトリックス リローデッド
マトリックス レボリューションズ
マトリックス レザレクションズ
マネー・ショート 華麗なる大逆転
マネーボール
マネーモンスター
招かれざる客
真昼の決闘
魔法使いの弟子
魔法にかけられて
魔法にかけられて2
マリッジ・ストーリー
マルコビッチの穴
マルコムX
マルホランド・ドライブ
マ・レイニーのブラックボトム
マレーナ
マレフィセント
マレフィセント2
マン・オブ・スティール
マン・オン・ワイヤー
Mank/マンク
マンチェスター・バイ・ザ・シー
マンデラ 自由への長い道
マンハッタン
マンマ・ミーア!
ミイラ再生
ミクロの決死圏
ミザリー
ミシシッピー・バーニング
Mr.&Mrs.スミス
Mr.インクレディブル
ミスター・ガラス
Mr.ノーバディ
Mr.ビーン カンヌで大迷惑!?
Mr.ホームズ 名探偵最後の事件
ミスティック・リバー
ミスト
ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち
未知との遭遇
ミッション
ミッション:インポッシブル
M:I-2
M:I:V
ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル
ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション
ミッション:インポッシブル/フォールアウト
ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE
ミッション:8ミニッツ
ミッション・トゥ・マーズ
ミッドウェイ(1976年版)
ミッドウェイ(2019年版)
ミッドサマー
ミッドサマー ディレクターズカット版
ミッドナイト・イン・パリ
mid90s ミッドナインティーズ
みなさん、さようなら
皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ
MINAMATA -ミナマタ-
ミナリ
ミニオンズ
ミニオンズ フィーバー
ミニミニ大作戦
身代金
ミュータント・タートルズ -TMNT-
ミュータント・タートルズ(2014年版)
ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影<シャドウズ>
ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!
ミュンヘン
ミラーズ
未来世紀ブラジル
ミラベルと魔法だらけの家
ミリオンダラー・ベイビー
ミルク
ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女
ミレニアム2 火と戯れる女
ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士
民族の祭典
劇場版 ムーミン 南の海で楽しいバカンス
ムーラン
ムーラン・ルージュ
ムーンフォール
ムーンライズ・キングダム
ムーンライト
ムカデ人間
麦の穂をゆらす風
ムタフカズ
名探偵登場
名探偵再登場
名探偵ピカチュウ
名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊
メイフィールドの怪人たち
女神の見えざる手
MEG ザ・モンスター
MEG ザ・モンスターズ2
めぐりあう時間たち
メジャーリーグ
メジャーリーグ2
メジャーリーグ3
メッセージ
めまい
メメント
メランコリア
メリー・ポピンズ
メリー・ポピンズ リターンズ
メリダとおそろしの森
メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬
メル・ブルックス 珍説世界史パートI
メン・イン・ブラック
メン・イン・ブラック2
メン・イン・ブラック3
メン・イン・ブラック:インターナショナル
メンフィス・ベル
モアナと伝説の海
モータルコンバット(2021年版)
モービウス
モールス
燃えよドラゴン
モダン・タイムス
ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
森のリトル・ギャング
モンキー・ビジネス
モンゴル
モンスター
モンスター上司
モンスターズ/地球外生命体
モンスターズ/新種襲来
モンスターズ・インク
モンスターズ・ユニバーシティ
モンスターVSエイリアン
モンスター・ハウス
モンスターハンター


邦題
満足度
感想
マーガレット・サッチャー
鉄の女の涙

(2011年制作)
7
元英国首相マーガレット・サッチャーの人生を、晩年の彼女が回想する形で描かれる伝記映画。
認知症になり、亡き夫の幻覚と会話をする老サッチャー。メリル・ストリープはその老人と首相時代のオーラを見事に演じ分けているし、そのなりきる姿はさすがの一言に尽きる。展開が老サッチャーの回想方式なので、場面の時間が行ったり来たりするのだけど、そこはこの手の映画としてはもう一つ平凡で、何かもっと強烈なリンクがあれば良かった気もするが。とは言え、時代々々で男性社会であった政治の世界で闘い、政治家としての信念に生きた姿には実政策の是非はともかくとして共感したなあ。
原題は"THE IRON LADY"で、まさに代名詞の「鉄」のごとき揺るがぬ意志のサッチャー。英国病を強権的に治療し、フォークランド紛争では断固たる態度で軍事力を行使する。故に賛否の幅が大きい人物でもあるのだろうが、偉大なる英国を信じて公人として人生をささげるということは並大抵のことではあるまい。引退し認知症になった老サッチャーの姿を見ると、彼女が公人として成し遂げたことと私人としての晩年のギャップは少し物悲しい。夫にプロポーズされた時、「私は家でティーカップを洗うような生き方はしないわ」と言ったサッチャーだが、ラストシーンでそれを洗う彼女の姿が、ここ至ってようやく私人になれたということなのだろうから。
マーズ・アタック!

(1996年制作)
7
突如火星から飛来した空飛ぶ円盤の艦隊。米国大統領は友好的に迎える決定をするが、そのセレモニーの席で火星の大使は突如出席者や聴衆の殺戮を開始する。
色んな元ネタがあるのだろうけれど、総じてB級映画やSF映画へのオマージュとしてティム・バートン監督の趣味嗜好があふれている感じが面白い。登場人物も多く群像劇の様な内容で一応それぞれに薄くつながりはあるものの、人間ドラマとしてそこまで深みを感じなのはご愛敬かな。とりあえず見どころとしては、監督の“異形に対する愛”としての火星人の“愛嬌とキモさ”を兼ね備えた造形と行動がすべてだし、一方で人を首だけにして生かしたり犬の首を挿げ替えたりといった、ややもすると悪趣味ともとられかねない様な遊びに真っすぐだってところが逆にいいんだよねw
90年代のティム・バートン監督は「バットマン」や「シザーハンズ」「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」でその趣味性も認知されていたころだし、これだけ好き放題に、しかもすごく豪華な出演陣を揃えているのだから当時の勢いを感じるというものです。その上で主役級の俳優が次々に惨死するんだから、ほんと遊んでますわw ただ趣味に走ったブラックコメディなのは間違いないので、ガチの侵略物を期待するとオチも含めて肩透かしもしてしまうのだろうけれど。そういえば本作の数カ月前に「インデペンデンス・デイ」が公開されていたので、当時は余計にその落差が話題になっていた気はするな。
マーティ

(1955年制作)
7
自分の容姿に自信を持てない主人公は34歳になっても独り身だった。そんな彼がダンスホールで似た境遇にある女性と出会う。
結婚を弟や妹に先を越されてしまった主人公に思わず共感してしまうけど、その主人公が周囲の人から「弟にまで先を越されるなんて!恥を知りなさい!」と罵られる場面が印象に残る。そういう価値観の時代だったんだろうけど、そこまで言われるのかw
とにかく主人公は人として“良い奴”というのがにじみ出ているけど、それを演じるのが強面のアーネスト・ボーグナインだというのが等身大な印象で良いね。これがなまじ二枚目俳優だったら話に説得力がないもの。でも当時の映画界にとって非二枚目が主人公というのも珍しかったのではないかなあ?
観客から見れば主人公とヒロインにはくっついてもらいたいのだけど、主人公の周囲はヒロインと付き合うことに不快感を示す。主人公はその意見に流されそうになりながらも、最後は自分の気持ちに正直に突き進む…というお話。まさにそこでエンディングになるので、恋愛映画としては“ここからじゃないか!”な話でもある。でもそこまでに至る主人公の感情や、核家族化という社会や時代の流れみたいなものがこの映画の主題だから、これはこれで先を想像させてくれて悪くないかな。まあ少々諄い思う演出もあるけど、なんだか他人事ではない(w)感じもして思わず主人公を応援してしまいました。
マーベルズ

(2023年制作)
7
MCU第33作品目のヒーロー映画。不安定なジャンプポイントの調査に向かったキャプテン・マーベル。時を同じくして別のジャンプポイントを確認しに行ったモニカ・ランボー。そして地球にいたミズ・マーベルことカマラ・カーン。その3人にあるきっかけで場所の入れ替わるスイッチ現象が起きてしまう。
上映時間も105分と短めだし、作風としても軽いノリで楽しめる感じ。普通に考えれば一騎当千のキャプテン・マーベルが無双してしまうだけの話になるはずなんだけど、スイッチ現象で制約が発生したことでチームアップが必要になったりして、一人が突出した感じは薄らいだ印象。そのへんの設定は面白かったかな。軽さという意味ではミズ・マーベルのキャラクターがいい効果を発揮しているとは思うんだけど、彼女についてはドラマの「ミズ・マーベル」を観ていないと全くついていけない作りになっているので、映画のMCUしか追っていない人にはやや敷居が高い気もする。俺はドラマも観ていたけど、「ワンダビジョン」のモニカの話も含めてどんどん広がるMCUの世界観についていけなくなりつつある感覚を覚えているのがやや不安。
正直言うと、本作の内容はMCUの大きな流れを追いかける中ではあまりコアな話とは思えなかった。どちらかというとエンディングでモニカが目を覚ました世界に「X-MEN」のビーストがいたことが、本作で一番ワクワクした瞬間かもしれない。オマケの部分に一番興奮するというのはどうも本末転倒な気がする。
マイアミ・バイス
6
麻薬組織への情報漏洩元を突き止めるため、組織へ潜入した二人の潜入捜査官の姿を描いた作品。
オリジナルのドラマ版を見てないせいなのか、今ひとつ話に入りきれなかった。夜景や人物のアップの続く画はいかにもマイケル・マン監督らしくて良い感じなんだけど、どうもストーリーに精細を欠いているような気がする。もちろんリアルに描けばそんな簡単に目的を達して組織を壊滅させるなんて事は出来ないだろうけど、それでも1本のエンタテイメント映画として、最初の目的すら中途半端に達しただけでは観ている方はちょっと消化不良かも。
潜入捜査モノとしても、何となく緊張感に欠けるしなあ。(一部ハラハラするところはあるけどもね)
全体的に、コリン・ファレルとコン・リーの関係にフォーカスしてしまったストーリーが俺にはいただけなかったのかも。
マイ・インターン

(2015年制作)
8
若くしてファッション業界で成功した主人公の下にシニア・インターンとして初老の紳士が雇われる。初めはそのインターンを煙たがっていた彼女だったが…。
爽やかな鑑賞後感が心地よい。予告編から想像する展開を裏切らないが、「こういう映画を観たい」と期待してその通りの内容であるという事がこの映画では重要だろう。まあ個人的には多少の下ネタと、意外に犯罪映画(いいのかなあ?)であったところは驚いたが…コメディとしての範疇ということで。
主人公のジュールズは女性としてはキャリアも家庭も成功者だろうが、やはり仕事人間であるというところに家庭のすれ違いがあったりして、この辺は世の女性には共感を得るところなんだろうか。男の身の自分としてはロバート・デ・ニーロの紳士っぷりにクラクラと眩暈がしてきそうで、どうやったらこんな恰好のいい年寄りになれるだろうかと自問自答。まあある意味で生き方の理想形を観てうらやむ映画であり、目標として勇気づけられる映画でもあるか。…前向きに考えればねw
とはいえそんな理想形を見せられても演者に共感できなければ話にならない。そういう意味で、前述のとおりロバート・デ・ニーロの紳士像はとても恰好のいいものだった。シニア・インターンとして、年下の上司にも本当に敬意を表しているのが分かるし、大人だ。唯一、床屋で髭を剃っている場面が…「アンタッチャブル」を思い出して(バットで殴り出さないかと)ゾッとしたが、この映画には関係ありませんねw そしてアン・ハサウェイは…こういうキャラクターを演じさせたらバッチリハマりますな。この主人公はちょっとでもイヤミがあるとダメだと思うんだけど、ハサウェイの演技にはそのイヤミが全くない。だからこそ観客は心地よくこの映画を観られるわけで、素晴らしい。
ところで行方不明の運転手はどこに行ったのだろう。
マイ・エレメント

(2023年制作)
7
水・土・空気・火の四元素が暮らすエレメント・シティで出会った火の女性・エンバーと水の青年・ウェイドとの交流を描いたCGアニメーション。
ピクサーらしい優しい物語のアニメだとは思うものの、正直なところ序盤は感情移入しにくかった。エンバーの両親が建てた店の地下が浸水した時に、「親が身を粉にして建てた店なのだから、違反を見逃してくれ」とエンバーが言うのもどうかと思うし、「事情を知ってたら見逃してあげていた」と言うウェイドもどうかと思うというか、「違反は違反だろ」と思ってしまったらどうも独り善がりな人たちに見えてしまっていただけない。まあそこは二人が出会う導入部でしかないので、その後の「火と水は触れ合えるのか」というメインテーマに移れば気にはならなくなるけれど。
火と水のメタファーは監督の出自によるところの"移民"に大きく影響を受けているらしいというのは見て取れる。でもせっかく四元素の世界観なのにストーリー上は土も空気それほど掘り下げられないのがもったいない。火と水と同様に、空気と土、土と水、火と空気…といった関係性の対比がもっとあっても良かったのではないか。それが希薄なので結局"相容れないはずの二人が結ばれる"ということを見せるためだけに火と水を用意しただけに見えるし、土と空気の存在が取ってつけたように見えてしまった感じ。
もう一つのテーマである「親の夢、自分の夢」というテーマは悪くないと思う。ただ、それを描くだけなら別に四元素の世界観でなくても成立するし、やっぱりちょっとテーマと世界観が完全に溶け切っていないような感じはしたんだよね。
マイケル・コリンズ
7
20世紀初頭。数百年間英国の支配下にあったアイルランドで独立を目指す闘争を続けた英雄、マイケル・コリンズの半生を描いたドラマ。
当初のゲリラ闘争、要人暗殺のテロ活動とその手を血で染めてきたコリンズ。愛英条約批准の立役者であり、後にアイルランド内戦で暗殺されるというまさに波乱の人生でありながら、享年31歳という年齢にも驚かされる。そこで描かれる彼の姿は正に愛国者であり、アイルランドという国のために大英帝国と戦った若者。かつての同士と内戦で殺し合わなければならない苦悩も悲劇的…。
ただ、少しドラマ的には表層的だった気もしたかな。共闘していた者との対立や悲劇の描き方では「麦の穂をゆらす風」の方がドラマチックかも知れない。まあ、こちらは実在の人物達の政治ドラマ、「麦の穂〜」はその戦いの中の一般の若者のドラマとう感じだけどね。
コリンズを演じたリーアム・ニーソンはこういうカリスマ性のある役をやらせるとハマる。ちょっと役の年齢よりも上に行き過ぎな感はあるけどw
タブリン城を英国からアイルランド国軍に明け渡す際に遅刻してきた時の台詞、「700年待ったんだ、7分くらいなんだ」というセルフが良いです。
マイケル・ジャクソン
THIS IS IT

(2009年制作)
8
2009年6月25日に突然亡くなったMJ。その彼が死の直前まで準備を進めていたロンドン公演リハーサルの記録。
俺の中でMJは「スターだったけど、奇行に走った変な人」というイメージが強かった。でもこの映画の彼を見る限り、ライブ演出に妥協を見せないその姿勢や、未だ衰えぬ歌声とダンスから沸き立つオーラに「やはりスターだ」という認識を新たにしたね。スタッフやバンドにダンサー達に分け隔て無く“Love”や“God bless you”と語りかける姿や、彼に憧れて集まってきたバックダンサーの喜々とした姿を見ても、そういう風に尊敬される何かが彼にあったのだと感じるモノはあった。
生前の最後の輝きを、そして自然体でいる彼を収めた記録としては貴重な映像であるということは間違いないし、ベストなタイミングでファンに映画として公開されたとも思う。ただ、ドキュメンタリー映画というよりはライブ映画という印象が強く、場面の羅列に過ぎないし、公開されることを前提に撮っていないので画やアングルに工夫はない。まあ仕方ないけど…。唯一、ジャクソン5の曲に合わせて当時の写真が被されるシーンはドキュメンタリーの臭いがした。
マイケル・ムーアの
世界侵略のススメ

(2015年制作)
8
これまでに米国が“侵略”戦争を行った世界各地の情勢が一向に良くならない。業を煮やした国防総省はマイケル・ムーアに新たな世界侵略計画をゆだねる…。
という体でスタートする本作。序盤から相変わらず皮肉たっぷりw しかし元々は問題の当事者に突撃取材するスタイルのムーアの作品にとって、あまりにも「ボウリング・フォー・コロンバイン」('02)で顔が売れすぎた。その結果、それ以降は批判相手に警戒されて切れ味鋭い“突撃”が出来なくなったのも事実。そこで本作のスタイルは「隣の芝は青い」作戦とでもいうか、素晴らしい社会システムの国を取り上げて「それに比べて米国は…」という間接批判を取ったわけだけど、これはこれでムーアらしい作品になっていて面白い。
間接批判の手法は彼の過去作でも使われていたけど、本作はその完成形だろう。採り上げられる伊・仏・芬・スロベニア…など欧州の先進的でうらやむ様な社会システムには米国人のムーアのみならず、日本人の自分も驚かされる。しかしムーアが「これは素晴らしい、ぜひ米国に盗ませてほしい」という度に、観ている側としては「そんな単純なことではないだろう…」とも思った。国々によって人種や民族の構成も違うし、社会基盤を作る経済性も違う。性善説で成立するシステムを聞くにつれ、根本的な教育の重要性も考えさせられるが。
しかしムーアの主張はそういう表面的な「隣の芝は青い」というだけの事ではなかった。「そのシステムを考えたのは米国でしょう?」とその当事者に言わせる。そこがミソ。「自分達で思いついたのになぜ成し遂げられないのか」という疑問を観客に抱かせたら彼の勝ちだろう。劇中、映画や楽曲の引用が上手いムーアだが、ラストの「オズの魔法使」はいいね。「足りないと思っていたものは、すでに自分の中にあった」のだ。それを成し遂げられるのかは、人間の力、市民の力。ベルリンの壁の前のムーアの顔はその力を信じているジャーナリストの顔だった。
マイティ・ソー

(2011年制作)
7
北欧神話の神々を題材にしたアメコミの実写版。力に頼り傲慢に成長したソーは、父オーディンの怒りに触れ、力を奪われたうえで地球に追放される…。
原作とは少し設定が違うようだけど、未読なので全然気にならない。神々の世界アスガルドと地球の二つの世界で話が進むけれど、全体的にテンポも良いし、ソーの弟ロキの陰謀による様々な絡みも分かりやすく描かれていて良い。難を言えばソーが人格的に成長する過程が急ぎ足だった気がするけれど、2時間ではよくまとまっているかな。
いくつかのシーンではコミカルさも楽しかったね。電気ショックや車にはねられたりとか。神々の世界では普通に見えるコスチュームが、地球上では浮まくりとか。
戦闘シーンは、アスガルドやヨトゥンヘイムでは舞台背景からしてすべてVFXで作っているのでわりと派手目。でも地球でのデストロイヤー戦では田舎町のロケなので、規模にギャップがあって少ししょぼく感じてしまったかも。それにしてもソーの仲間であるホーガンを演じた浅野忠信の空気なこと…。一瞬しか登場しなかったホークアイ役のジェレミー・レナーの方がよっぽど存在感があった。うーむ。
マイティ・ソー
ダーク・ワールド

(2013年制作)
8
ソーが去った後の地球。ジェーンはロンドンで重力異常を調査していたが、偶然にかつて封印された恐るべきエネルギー"エーテル"をその身に取り込んでしまう。
監督はケネス・ブラナーからアラン・テイラーに交代したけど、世界観は確定しているので安定して面白い。むしろバトルシーンはこちらの方が迫力あるので、続編としては正当に進化してるよね。前作はどちらかというとソーと父であるオーディンの物語だったけど、今作はソーとロキの関係がより生かされていて良い構成だと思う。「裏切るなよ」と散々前振りをしておいてあの展開は上手いな。演じるトム・ヒドルストンの雰囲気の賜物なわけだけど、その上でロキの役者っぷりは素晴らしい。
脇役ではダーシーが良いキャラになってたなあ。後半のシリアスな状況にもちょくちょくギャグを入れているのが楽しい。重力異常(というよりは空間跳躍)を利用したバトルも見応えバッチリで、単純に殴り合う場面でもそれが良いエッセンスになっていると思うし、おかげでムジョルニアが右往左往しているのには可笑しかったね。それでも最後の一撃に飛んでくる場面は、やっぱりかっこいいよ。
そうそう、中盤のカメオ出演にはビックリしつつ笑わせてもらいました。キャプテン…w
マイティ・ソー
バトルロイヤル

(2017年制作)
8
復活した死の女神ヘラ。アスガルドの支配を足掛かりに神々の国の制服を目論む彼女と対峙したソーとロキは、ビフレストからはじき出され辺境の星サカールへ飛ばされてしまう。
作品の立ち位置的には「インフィニティ・ウォー」への繋ぎという感じ。「マイティ・ソー」シリーズとしては、これまでの2作と違って舞台としてほとんど地球が出てこないのでちょっと毛色が違うかな。アスガルドの最期を扱っているので割と深刻なはずなんだけど、ジョーク的な場面が頻繁に入ってきて、なんだかテンポも軽やかで悪くない。MCUとしては、深刻になっていった「シビル・ウォー」組の裏で「一方そのころ宇宙では…」くらいのノリだろうが、こういうのもいいんじゃないかなw
ハルクのセリフが多いのもあってやけに理性的に見えてしまうのは仕方ないところか。でもソーとハルクのコンビっぷりが面白かったのでOK。バナーに戻ってからもコメディチックな掛け合いで楽しい。ジェフ・ゴールドブラムが演じるグランドマスターは…、あんまり特徴がない割には何とも言えぬとぼけた味と、敵なのにニクめない感じが上手いなあと。ロキは相変わらずのトリックスターぶりだけど、今回はソーの方が一枚上手? でもラストの“救世主”としての登場っぷりはさすがロキって感じで笑ってしまった。ヘラ役のケイト・ブランシェットは何をさせてもすごいですねw
予告編から使われていたレッド・ツェッペリンの「移民の歌」が本編のバトルシーンでも格好良くて印象に残る。でも作品自体が移民の話になるとは思ってなかった、なるほどそれでこの曲だったのかね。
マイノリティ・リポート
8
この映画を観ていて思い出すのは「ミッション・インポッシブル」と「L.A.コンフィデンシャル」。まあ、それを言ってしまえばお終いなので、置いときますw 確かにストーリーは時間を掛けた脚本だけあって良くできている。サスペンスとしても見応えは十分あった。個人的にはオチにもう一ひねりというか、もっとどんでん返しを期待していたけど…。いわゆるスピルバーグのギャグは、まあ、スピルバーグらしいかな…とw 転がる目玉を追いかけるシーンは笑ったけどw 「盲目の世界では片目の男がキングになる」(だったかな?)この台詞が気に入ってます。
マイレージ、マイライフ

(2009年制作)
8
年間320日を出張しているリストラ宣告人の主人公。彼が二人の女性と関わることで、次第に人生の価値観が変わっていく姿を描いたドラマ。
もっぱらの楽しみは出張で貯まっていくマイレージ。旅先で出会った女性とも“カジュアルな関係”として遊ぶ主人公は、「人間関係は面倒だ」と言い放つ。そんな彼が、リストラを宣告することの重みを実感できていない新人を研修するわけだけど、他人の人生を左右する究極の対人宣告を、他人との関係を持とうとしなかった主人公が語っているというところがミソか。主人公と妹夫婦を関わらせた上で対比させるところも、話の組み立て方が上手いよね。
他人に深入りすることで、喜んだり傷ついたりすることは当然なのだけど、主人公はそこに人生の意味について何かを見つけかける…というところで話は終わってしまう。でも主人公は、あれだけ目標としていたマイレージの達成よりも、“つながり”というもっと大事な何かを確かに見つけたんだ…、という余韻が良い。
話はリストラ宣告という思いテーマを使う割には、全体的に笑いをちりばめて比較的軽いテンポで進むので、面白い悲喜劇ドラマとなってます。主人公のジョージ・クルーニーはイヤミが無くてハマり役。助演女優の二人も、良い演技でキャラクターを生かしてますな。
マグニフィセント・セブン

(2016年制作)
8
1960年の映画「荒野の七人」からキャラクター設定を一新したリメイク作品。略奪者の集団から町を守った雇われの7人の姿を描く西部劇。
正直観る前は「今更『荒野の七人』のリメイクか」と思う部分もあったのだけど、仁義と復讐のストーリーが期待以上に面白かった。オリジナルのプロットを再構築しながら、リーダーのサム・チザムに(最後に分かるのだが)ハッキリとした動機があったり、敵のボーグも絵に描いたような悪辣な男で、殺しあう事に“因縁”が付加されてドラマチック。そういった点では「荒野の七人」より好きかもしれないw 色々変更はされているけれど、もちろんオリジナルや西部劇というジャンルに敬意が払われているのも分かるので、その辺もいいと思う。この作品の中で「荒野の七人」のテーマ曲がエンディングで初めて流れるという仕掛けはニクいな。
西部劇的ガンアクションはケレン味たっぷりの早撃ちや連射を見せつけ、さらにこれ見よがしなガンプレイが実にかっこいい!w 他にもナイフ投げや弓矢のアクションもあって実に痛快ですね。一方でそれをあざ笑うかのように遠距離から薙ぎ払うガトリング砲の恐ろしさもすごいが、この辺はなんか「ワイルドバンチ」を思い出した。(「ワイルドバンチ」はブローニング重機関銃だけどね。)
ストーリーの再構築という点では「七人の侍」や「荒野の七人」にいた意気込みだけの若者の枠がなくなり、メンバ全員がプロフェッショナルという事で、町を守るという話に集中しやすくなっているか。変にロマンスが入らなかったのも好感です。仲間の7人のうち4人が戦死し、最後に生き残るのは黒人にメキシカンにインディアン(あえてそう書きます)の3人。白人が生き残らないという部分に、何となく時代を反映したものを感じます。
マグノリア
8
これは結構見る人を選ぶ映画だと思うんですよ。個人的には楽しめたんですが、ストーリーについていけない人はもうオープニングでおいて行かれる。主人公がいないっていうのも混乱の原因になるかも。編集は大変だったんだろうなぁ。クライマックスには度肝を抜かれた、ああいうことが起きるとは・・・。サントラ買っちゃいました(笑)
マクラーレン
-F1に魅せられた男-

(2018年制作)
7
1959年にF1デビューし、後に自身のレーシングチームを立ち上げたブルース・マクラーレンの伝記ドキュメンタリー映画。
“マクラーレン”と言えば今ではF1コンストラクターとしてのイメージが大きいけれど、本作はその創業者の生涯をまとめた作品。難病を克服し、'59年にF1でその後43年間破られなかった最年少優勝記録を打ち立て、'66年にル・マン24時間で優勝し、'70年のテスト中に事故死を遂げる。その時32歳という若さだったというのが改めて考えるとすごい。そして自身が創設したチーム「マクラーレン」は今や名門としてその名を刻んでいるし、太く短い人生とはこういうことを言うのだなと思った。'64年のレースで事故死した仲間への弔辞で彼が読んだ「高みを目指した結果命を落とすことは無意味ではない。(中略) 人生の価値は足跡で決まる。長さじゃない。」という言葉は、彼の人生そのものを暗示していると同時に、その説得力は彼が言ったからこそのものだよな。当時のレース界は才能があれば彼の様になれるチャンスのあった時代だったという事もあるのかもしれないけど、その才能と努力をすべて注ぎ込んだからこその太い人生だったのという事は間違いないだろう。
ドキュメンタリー映画としてはとてもオーソドックスな作りだったとは思うけれど、ブルース・マクラーレンに関する映像は初めて見るものが多かったし、'50〜'60年代当時のレース映像も興味深く観ることができた。
マザー!

(2017年制作)
8
田舎の家に暮らす詩人とその妻。以前、火事で焼けたというその家の修復も進んでいたある日、一人の男が来訪する。
悪魔が憑りつく家の話かと思っていたら、実際は神と世界の話だった。というか旧約聖書と新約聖書の内容を比喩的に登場人物に置き換えて、「世界からの視点」で人の業というか愚かしさを見せつけた映画だと感じたのだけど、これはマジで聖書の内容を知ってないとわけわかんないだろうな。
俺自身は「胸糞の悪い映画」という評判くらいを耳にしただけで観始めたのだけど、「生活が乱される精神的なストレスを描いている?」とか「火事は何のメタファーだろう?」とか、色々と考えるものの…漠然とした答えが出ないまま後半に突入してしまいました。聖書の引用にしてもホラー演出的に不穏な状況の暗喩でハエやカエルを出してるのかと思っていたのだけど、終盤に詩人のファンが押し寄せるシーンで「これは神と人間の関係で、まさにこの映画の内容は聖書か!」と確信。そこでようやく序盤に家へやってきた夫婦はアダムとイヴだと気づいた次第。確かに夫婦の息子はカインとアベルだわ。個人的には「言われてみれば確かに…!」という話の転換は好みなので、この映画の構造は面白かったです。まあ結局世界を踏みにじる人間に愛想をつかした「世界」が、人の世を終わらせるという救いのない話ですが(苦笑) というか、地下の油に火をつけて“家”を丸焼けにしてしまうというのはもはや直喩ですな。
終盤、妻の子は詩人の「信者」に惨殺されてしまう。これはまさにイエスの比喩以外の何物でもないけれど、結構グロい表現は…人間への絶望を決定づけるためには必要だったのだろうかね? 確かに「世界」の気持ちをこのように追体験すれば、人間にも絶望するが。しかしそれでも神は何度でもやり直す。次は3回目?いやもっと…?人間はいつか変われるのだろうか…。
マジェスティック
9
この特別な父子愛に感動しました。最後まで本当の息子と信じて亡くなるシーンは、涙無くしては語れません。こういう話には弱くて・・・。赤狩りという激動の時代の中で、記憶をなくした男がもたらす希望。そして、映画が皆にもたらす幸せ。なかなか感慨深い映画でした。「巴里のアメリカ人」や「アフリカの女王」当時の名作が出てきたりと、古い映画ファンならこれもまた感慨深いと思う。審問会でピーターがルークになるシーンは、これもまた小気味よい感動がある。ただ一つ気になるのは、ジム・キャリー本人がピアノを演奏していないところか?役作りで本当に演奏してくれたら凄いと思うけど。
マシニスト
8
ある日から365日眠れない主人公。機械工である彼の身の回りで起こる、不可解な出来事を描いたサスペンス。
まず何と言ってもクリスチャン・ベイルの役作りっぷりに感服。30キロも体重を落としたそうですが、ガリガリの彼の姿は、確かに主人公の身の異常さをこれでもかというくらい伝えてくれるね。ただ、自分もこの主人公と同じくらいの体重なんだと思うと、結構心中複雑なんですがw
ストーリーは序盤でいくつも謎や伏線を張って、終盤種明かしをするというものだけど、終始映像での説明なので、人によって解釈のブレも出るかも?ある種反則チックな面もあるけど、個人的には、主人公の見えない戦い(葛藤)を上手く描いたなあと感心しました。まあ、“ルート666”がそれそのものだったんだよね。
魔人ドラキュラ

(1931年制作)
7
ブラム・ストーカー原作の小説を映画化した初の「ドラキュラ」映画。
ドラキュラのビジュアルイメージを確立させた最初の作品。ベラ・ルゴシの演じるドラキュラの存在感はすごいね。度々差し込まれる真正面の顔アップは色んな意味でビックリする。眼力が半端ない! 流石に今の感覚だと、何度か見るうちに笑ってしまいそうになるがw でも当時の純朴な観客はこれで大そう怖がったのだろうか、などと想像して観ると興味深い。
コウモリや狼に変身するというドラキュラだが、劇中では変身の瞬間は観せずにいつの間にかコウモリになって飛んでいる。明らかにそれが模型を吊ってはばたかせているんだけど…これがこの時代の特撮だ、リアリティだ。そんなことよりドラキュラの城にアルマジロがいたことの方が俺は解せぬ!
ホラー映画としてはドラキュラの佇まいや存在感こそが恐怖の対象として描かれ、吸血そのものはハッキリ見せない奥ゆかしさ。でもそのカットの間の出来事は容易に想像出来るから何も問題はないよね。むしろそれを想像させることで作品全体の雰囲気を盛り上げているとも思う。終盤はヴァン・ヘルシング教授との駆け引きが緊張感を生んでいるし、今の映画と変わらないカットバックなど意外にカメラワークが良くて結構面白かったかな。ラストがアッサリ気味だったのは昔の映画という感じではある。
マスク
9
しがない銀行員が、手に入れた仮面の力で騒動を起こすコメディ。
当時はCGが映画で効果的に使われ始めた時期。その時期にあってこの映像はかなり衝撃的だったのを憶えてる。こそれまでにも実写とカートゥーンが共演することはあったけど、実写そのものがカートゥーンになってしまうんだから、凄く驚いたもんだ。
今観ても良くできてる。テーマとしての“仮面を付けた自分とは”“本当の自分とは”という問いかけがあって、それがVFXだけのお祭り映画にはない話の面白さに繋がってるんだろうね。しかしジム・キャリーははまり役だわ。黙ってれば結構二枚目なのに、あの柔軟な顔w “マスク”というキャラはジム・キャリーのためにあるなあ。
よくよく観れば全編パロディとジョークだらけの映画。「不思議の国のアリス」を引っかけた台詞とかもさらっと出てくるけど、この辺は実にアメリカ映画らしいところかな。この映画は字幕だとニュアンスが死ぬところがあるし、かといってマスクがフランス語っぽい発音をしているところは吹き替えより字幕の方が良い。英語が分かってるときっともっと面白いんだろうなあ…。
マスク2
6
生まれながらに仮面の力を持った赤ん坊が生まれ、そして仮面を取り戻すためにロキ神が現れたことから起こる騒動を描いたコメディ。
原題は“マスクの息子”であって、タイトル通りの赤ん坊の話。マスクも付けずに例のスーパーパワーを持っているんだからそりゃ騒動にもなるw ただ前作にあったストーリーとVFXのバランスの巧さは消え、VFXを前面に打ち出したドタバタぶりは個人的には合わなかった。まさに「トムとジェリー」か「シルベスターとトゥイーティー」かといった犬と赤ん坊の絡みも俺には少々くどいように感じるし…。とはいえ確かに笑えるところもあった。「夕陽のガンマン」のパロディなんてかなりウケたけどねw
前作が「本当の自分に自信を持ち始める男の話」であったのに対して、今作は「親子の話」。主人公と“マスクの息子”、オーディーンとロキの話なわけだ。でも、どうにも感情移入出来ない。そもそもこの親子関係にあって“マスク”という媒介は騒ぎを起こすだけで、前作のように主人公の成長を促す重要な小道具になっているのかといえばそうではないと思う。だから前作と比べたとき、今作はちょっと期待はずれになってしまったかなあ…。
マスター・アンド・コマンダー
9
まさに“漢”の物語。オーブリー艦長を演じるラッセル・クロウが実に頼もしい。もちろんその艦長のキャラクターが魅力的だからなんだけど、ラッセル・クロウが演じていることで、ものすごい説得力が出ている。彼のカリスマ性には舌を巻きます。海戦シーンの迫力は見事そのもの。「パイレーツ・オブ・カリビアン」とは違い、傷つき血まみれになっていく船員達。12歳の士官候補生すら冒頭の戦いが元で片腕を亡くしてしまう。19世紀の海戦の凄まじさが伝わってくる。まあ、軍艦同士があれほど近距離で大砲を撃ち合うのだから、実際にその場にいれば無事でいる方が不思議なくらいだが…。この映画は嵐のシーンも素晴らしい。どうしても不自然さの残る「パーフェクト・ストーム」とは比べものにならないくらい、リアルな暴風雨のシーンが描かれている。視覚効果は同じILMが手がけているのに、ここ数年での技術の進歩には舌を巻くなあ。
マダガスカル

(2005年制作)
7
都会っ子の動物たちが、ひょんな事から野生の島“マダガスカル”へ。そこで巻き起こる騒動を描く。
基本的に当たり障りのないストーリーなので安心して観られるけれど、正直、終盤の盛り上がりはもうちょっと欲しかった。あえて“マダガスカル”と言う土地である必要性も薄く感じたし、もうちょっと何かを加えればもっと盛り上がったと思うんだけど。
主人公はライオンのアレックスだけど、シマウマのマーティが始終食ってる。吹き替え版を観たんだけど柳沢慎吾の配役はピッタリだったね。マーティのようなポジティブで何か新しい物を求めている精神は羨ましいわw ペンギン4匹も風体と行動のギャップが実に良かった。もうちょっとペンギンのサイドストーリーを観たかったかも。
パロディやギャグも俺は面白かったし、軽い気持ちで観る分には良い映画かなあ。マダガスカルに着いて「サンディエゴだ!」はウケたw
マダガスカル2

(2008年制作)
7
ニューヨーカーな動物4匹が、今度はマダガスカルからアフリカ大陸に脱出。
今作では主人公ライオンであるアレックスの出自が明らかにされるけど、後付設定のわりに身体の目立つところに印を作ったりして、序盤にかけてのその強引さはちょっと引っかかった。とは言え前作からのノリを継承した上に、キャラの濃い4匹+αの出番をきちんと作っているそつの無い展開には感心。個人的にはキリンのメルマンの純情に共感しますw
ただそつが無さ過ぎて中盤までのストーリーラインは案外平凡な感じなんだよなあ。「このまま行けば普通の子供向けアニメで終わっちゃうよ」なんて思ったりもしたんだけど、終盤に人間(ニューヨーカー)のダムが出たあたりでちょっと捻りがあって面白くなった。前作まで一発ギャグ扱いだった婆さんが、まさかここまで本筋に絡んでくるとはねw
キャラクターで言えば、相変わらず無茶な行動力のあるペンギンが面白い。終盤の荒唐無稽さと来たら、ドタバタっぷりもカートゥーンらしくて楽しめました。
マダガスカル3

(2012年制作)
8
一攫千金を狙いモンテカルロへ旅立ったペンギンズ。いつまでたっても帰らない彼らを探しに、主人公の4匹はアフリカからヨーロッパへ向かう。
原題のサブタイトルが"Europe's Most Wanted"とあるように、ヨーロッパにたどり着いた一行が、モンテカルロの動物管理局デュボア警部(目的はライオンの頭のはく製を作ること!)にどこまでも追いかけられるドタバタ劇。「2」での新キャラは出さないという割り切り方には驚いたけど、その分展開が良い感じに早く、お約束のペンギンズはいたる所で大活躍。今作の新キャラもそれぞれちゃんと埋もれずに描かれているけど、何よりデュボア警部というエキセントリックな悪役が分かりやすくて良いね。単純なドタバタだけではなく、旅のサーカスの立て直しを手助けするという主題が前向きで良い話になっている。
観たのは3D吹替え版。立体演出は飛び出しがメインだけど、子供には喜ばれそうな強調具合でアトラクション映画として分かってるね。クライマックスのサーカスシーンは立体効果も相まって綺麗だった。
しかしほとんどターミネーター状態のデュボア警部は恐ろしいキャラクターだよなあ。あそこまで突飛にされると笑うしかないw そんな彼女の最後は、「マダガスカル」シリーズの締めくくりとしては悪くないオチだった。
マダム・ウェブ

(2024年制作)
6
ソニーズ・スパイダーマン・ユニバースの第4段。2003年を舞台に、予知能力に目覚めた救命士のキャシー・ウェブが、謎の男に追われる3人の少女を救う姿を描く。
予告では「マーベル初の本格ミステリー・サスペンス」という謳い文句が付いていたけれど、正直言ってミステリーっぽさはなかったかな。"マダム・ウェブ"というキャラクターのオリジンとして、彼女が能力に目覚めていく過程が本作のメインストーリー。その能力は事件の直前にその出来事の結果を予知するというものだけど、彼女の見る未来は確定した未来ではなくて、起こりうる未来という感じかな? なので彼女の行動如何でその結果がどんどん変わっていく。敵のエゼキエルも同様に未来を予知していて、その内容が「5日の未来に自分が3人のヒーロースーツの女に殺される」というものだから、それを回避しようとヒーローになる前の少女たちを襲撃するわけだ。
ということでこの映画で行われるのは3人の少女を巡る追いかけっ子。それだけの話。エゼキエルはNSAの技術を乗っ取れるくらいなら、もっと罠を張るなりなんなりと追い詰めることもできただろうに…。基本的に追いかけて行くことしかしないので「彼は脳筋なのかな?」と思ってしまった。キャラ的にもなんだか小物にしか見えなかったよね。
主人公のキャシーは結局生まれついて"蜘蛛の能力"を得ていた感じだろうか。それが事故をきっかけに開眼した…と。途中でペルーにでかけた時は「あんたお尋ね者(3人の誘拐容疑)なのに、入管とかどうすんのよ」と思ってしまったけど、特に問題なくペルーと往復して拍子抜け(苦笑)
映画的には本作がオリジンで、その後のマダム・ウェブと3人のヒーローを描くところから広げていくつもりなんだろうけど。そもそも本作のハラハラ・ドキドキ感が物足りなかったのは残念だなあ。
マチェーテ

(2010年制作)
8
2007年に公開された「グラインドハウス」で、フェイクとして上映された「マチェーテ」の予告編から生まれたB級テイストのアクション映画。復讐の鬼と化したマチェーテ(ダニー・トレホ)が、自分を罠にはめたヤツらに総攻撃をかける。
ロバート・ロドリゲス監督のファンとしては、脇役常連のダニー・トレホ(監督の従兄弟)が主演だってだけでニヤニヤしてしまうが、冒頭から鉈でバサバサ敵の頭や腕を切り落としていく凄まじさは、ただ者ではない風貌と相まって、もはや凄惨を通り越してギャグになっている。面白いw
フェイク予告編で描かれた場面も、キャスト変更は一部であるがほぼ再現され、その辺りはこだわって作ってある。ショットガンを撃ちまくる神父は行為と職業のギャップが素晴らしいなあ。他にも断片的な予告編のシーンから、ちゃんとプロットとして成立した映画にしてしまっているところは良いね。“不法移民問題”というメッセージも色濃く入っているし、色々と思い入れを感じるところです。
脇を固める出演者はB級再現映画とは思えない豪華さで、セガールにデ・ニーロにジェシカ・アルバ等々。ミシェル・ロドリゲスは特にカッコイイ。リンジー・ローハンは出演シーンの大半が素っ裸というのはどうなんだろうかw 最後は尼さんの格好で銃をぶっ放すけれど、神父の時と違って誰も死なないのは何かのこだわりなのかなあ?
個人的にはもう少し下らない内容を想像していたんだけど、まあロドリゲス印のバイオレンスを楽しむには手軽で面白い作品でした。
マチェーテ・キルズ

(2013年制作)
7
“B級映画”「マチェーテ」の続編。大統領からメキシコの“マッドマン”・メンデスの殺害を依頼されたマチェーテだったが…。
前作からして瓢箪から駒みたいな出自の映画だったけれど、その前作のエンディングで出たフェイクの“続編と続々編タイトル”の続編の方がまさかの製作決定。なので、この映画が公開された自体がギャグの様なものだと思ってます。その上、続々編の「MACHETE KILLS AGAIN」が“IN SPACE”として予告編になってるじゃないかー。もうやりたい放題だねw
とはいえ個人的には前作に比べるとちょっとインパクトは弱い気が。まあ元々出オチみたいな映画なんだけど、本当に内容がすっからかんなので出演者のインパクトだけで持っているような作品でもある。プロペラで木っ端みじんへのこだわりと、おっぱいマシンガンのB級臭さには笑わせてもらいましたが。
ダニー・トレホのビジュアルは最高なんだけど、アクションシーンは意外とモッサリしていて案外迫力はない…が、それもまた味かw 大統領役のカルロス・エステベス…チャーリー・シーンや黒幕のメル・ギブソン、色々あって落ち目の人が頑張っているのは感慨深い。変幻自在の殺し屋・カメレオンは全然ストーリーに必要性を感じないが、豪華ゲストの出演方法にこんな手があるのか…と感心もしたかな。
街の灯
9
盲目の花売りに本物の紳士と勘違いされた放浪紳士。彼女に恋をした彼は、盲目の彼女の治療費を稼ぐために奔走するが…。
チャップリン流のドタバタコメディの中に、何とも切ないストーリーが見事に組み込まれた傑作。ラストのチャップリンと花売りのやりとりには、もう思わずホロッと涙してしまうねえ…。サイレント映画だからそんなに饒舌なわけではないけど、人間の心情表現は見事です。
それでいてドタバタっぷりも特にボクシングシーンは冴えまくってます。今から見れば古典的なものかもしれないけど、ボクサーとレフェリーが入れ替わり立ち替わり…、思わず声を上げて笑ってしまうw 上手いよなあ。ただ、序盤は筋とは関係ないギャグも散見されたので、個人的にはそういうところがちょっとうるさかったかな。
酒癖の悪い金持ちに翻弄され気味の放浪紳士は、ベタな展開ながらやはり少々哀れに思う。あの金持ちがもうちょっとしっかりしていれば…。まあそうなるとお話にならないわけではあるがw
マッドマックス

(1979年制作)
8
現在より数年後の未来。暴走族の凶悪化によって治安は大いに乱れていた。
マックスとは主人公の名前だけど、中盤まで「ぜんぜんMADな主人公じゃないやん」などと観ていたわけですが、最後まで観れば「なんて端的なタイトルなんや」と思った次第w これでタイトルがエンディングの暗転と共に出ていれば最高だったんだけどなあ。そういう捻りを入れるような時代でもなかったんだろうし、それは仕方ないか。
「北斗の拳」みたいなもので、相手が悪辣であればあるほど主人公側の反撃の際に観る側がスッキリするものなんだよね。そのへん、主役のメル・ギブソン(若い!)が焼き殺された仲間の、そして轢き殺された妻子の仇を、そのまま暴走族に実行するという分かりやすい展開が、B級アクションとしての立ち位置をよく自覚していて観やすい。画面全体からにじみ出る低予算な雰囲気が、味と言えば味…なのかな。それでもカーチェイスやスタントのスピード感は抜群で、作り手の思い入れは伝わってくる。あと、サブリミナル的に入る眼のアップが効果的。
マッドマックス2

(1981年制作)
8
大国間の争いによって文明が崩壊し荒廃した結果、暴走族によって希少な石油を巡り、暴力の支配する世界になっていた。
前作「マッドマックス」の続きであるけども主人公以外はほとんど関連なし。というか世界観が先鋭化しすぎて驚いてしまうけれど、「ヒャッハー」的世界観の原典として、少なくとも「北斗の拳」を読む前にこの映画は観ておきたい作品かなw
明らかに予算が増えたのであろうセットや特殊車両の数々は世界観の表現に大きく貢献している。前作ではローアングルでのスピード効果が抜群だったけど、今作では荒野の真ん中を砂埃を上げて走る暴走集団を空撮で追う映像もカッコイイね。しかし特筆すべきは暴走族のビジュアルで、"モヒカン""皮鎧""奇声"という3点セットが完璧すぎるナンバー2のウェズの、そのインパクトの大きさたるや。族の首領であるヒューマンガスもローマの剣闘士の様な服装にホッケーマスクという異様さだけど、見た目ではウェズが完全に食ってるよなあ。(ちなみに「13日の金曜日」でジェイソンがホッケーマスクを着けるのは本作の1年後なので、本作が影響を与えているのではないかと思うところ。)
さて物語は、その語り手が実は劇中の野生少年だったというところでオチをつける。主観が主人公でなかったというところが一捻りで面白いけど、よく考えてみれば主人公であるはずのマックスはだいぶ台詞が少なく、ガソリンを手に入れたいということ以外、ほとんど何を目的にしているのか分からない。そういうところがヒーローとしての神秘性に一役買っているか。
マッドマックス
サンダードーム

(1985年制作)
6
核戦争後の荒れ果てた世界で、人々はバータータウンで物々交換をするような文明にまで後退した。
…また前作から世界観が変わった。というか作風が変わったw これが良いように作用してくれれば…だけれど、残念ながら「2」を観て期待してしまうような先鋭さはない。サブタイトルであるサンダードームでの闘いもそこそこに、バータータウンを追放されたマックスは辺境で子供たちと交流するわけだが。うーん、なんか違う。観客の求めているものはバイオレンスなんじゃないのか?せめてバータータウンの地下で、誰かがブタに食い殺されるくらいあれば違ったかもしれないけど、糞貯めに落ちるくらいでは。
終盤こそ「マッドマックス」の代名詞であるカーチェイスが繰り広げられるものの、正確には追われている方は機関車。ここも所々でコミカルな演出が入ってくるので、どれだけ車がひっくり返ろうとも前作までの「うわースゲー!」という印象にまでは至らず。能面を背負っている敵が手漕ぎトロッコで追いかけてくる場面は笑ってしまったが…。
やはりヒットしすぎたこともあるし、ハリウッドとの関係もあって万人受けを目指してしまったのもあるのだろう。それで元来の魅力を削いでしまっては元も子もないが…。
マッドマックス
怒りのデス・ロード

(2015年制作)
9
荒廃した世界を放浪していたマックスの決死の逃亡を描いたシリーズ4作目。
30年ぶりの続編が作られたということ自体驚きだが、「マッドマックス2」を観て期待した「これぞ!」と思える“世紀末感”が実にいい! VFXも使われているとはいえ、基本的に実車アクションにこだわったの数々のカースタントも大迫力で、「これって人が死んでるんじゃないの?」と思えるほどの人の吹っ飛び具合と爆発でもうお腹いっぱい。
マックスがなぜ放浪していてどこに行こうとしているのかはハッキリしない。というかそこには意味がなくて、独裁者イモータン・ジョーの許から逃げ出した子産み女たちの逃亡にマックスが立ち会ったというだけの物語。シャーリーズ・セロン演じる女戦士フュリオサに少しの物語は感じるけれども、基本的にカーチェイス。2時間ほとんどカーチェイスw それでも観る者を飽きさせない熱量を維持し続けるんだから…ただただすごい。
アクションも迫力はあるけれど、それを彩る奇抜な車たちも魅力。ここまで改造するかっていうデザインは面白いなあ。それが集団で砂埃を巻き上げ、火を噴きながら砂漠を暴走しているのだから、そのビジュアルたるやほんとにヒャッハーですよ!
マッドマックス
怒りのデス・ロード
<ブラック&クローム>
エディション

(2017年制作)
9
「マッドマックス 怒りのデス・ロード」を白黒バージョンにしたディレクターズ・カット版。
白黒版というイメージからはもっとクラシックな雰囲気を想像したけど、それとはずいぶん違ったね。ジョージ・ミラー監督のイントロダクションによると、「マッドマックス2」を制作していた当時に音入れで使っていたモノクロのラッシュ版がとてもいい雰囲気だったため、この「怒りのデス・ロード」もモノクロ版を作ってみたかったとのこと。確かに監督の言う通り、カラーでしか得られない画面の周縁部にある情報(例えば空の青、作物の緑、火炎の赤、信号弾の色など)はオミットされるものの、そのあたりが抽象化されることによって逆に話を突き動かす感情に集中しやすくなった印象はある。
カラー版はカラー版で素晴らしいし、その派手さがアクション映画にも合っている。でもそもそも“行って帰ってくるだけ”の話でありながら、それだけで観客の目をくぎ付けにしてしまう様な熱量を持っている作品なわけだから、あえて白黒にして風景を背景に押し込めることで物語の熱さを際立たせる本作の白黒表現もまた、この内容に合っていると思いましたよ。
マトリックス

(1999年制作)
9
ハッカーの"ネオ"という裏の顔を持つ青年・アンダーソンは、謎の女・トリニティによって、この世の真実を見せるというモーフィアスと接見する。その真実とは、今まで暮らした現実はマトリックスが見せる仮想世界だというものだった。
原典としてはSF小説の「ニューロマンサー」だというのは言われるところだけど、そこかしこに描かれる聖書からの引用や、存在とは認識の産物かといった哲学。それらを見事にサイバーパンクの体裁に取り込み、映像化した名作だと思う。広げた大風呂敷はそのままで終わるけれど、それが逆に世界観が深いと感じさせる効果もあるか。実際この時点でどこまで考えていたかというのは置いておいても、ストーリー的には救世主の覚醒という、まさにキリストの復活の再構築をしているよね。
一方でビジュアルに関してはかなり趣味的な…日本のアニメーションのイメージの影響下にある。特に押井守の「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」からの影響は言わずもがな。実写でやるとこうなるかと感心するくらい、カット割りの再現に対するこだわりが見えて面白い。カンフー映画の影響も顕著だよね。ワイヤーアクションや格闘は正直拙いところもあるけど、それでも思い入れだけはヒシヒシと伝わってくる。そういう荒唐無稽なアクションを、仮想世界だからと何でもアリにしてしまったアイデアも上手いよなあ。
そして何と言ってもバレットタイム。一瞬間の出来事をカメラが回り込んで撮影する印象的なカットは、その後の作品にも影響を与えるほどのインパクトがあったし、何よりこの世界観の表現としてすこぶる効果的だった。
マトリックス
リローデッド

(2003年制作)
8
人類とマシンとの戦いが続く中、マシンが人類最後の都市ザイオンへの直接攻撃の計画が判明。ネオたちは、預言者からザイオンを守るために“キー・メーカー”を捜すのだと告げられる。
前作で救世主として覚醒したネオ。エージェントですら相手にならないほどの強さを手に入れたものの、進行上はあまりタイマンで無双だと面白くならないからか、基本的に1対多数という格闘シーンばかり。だけど「達人なら百人組手でしょ」と言わんばかりの対スミス戦で、同じ顔がワラワラと湧く様子はシリアスを通り越してもはやギャグでニヤニヤしてしまうw ただ個人的には100人スミス戦はCGが多用されているので、見栄えの割には凄いとはあんまり思わないかな。メロビンジアンの館での多数戦の方が、生身の格闘演出で見応えがあって好きだね。
モーフィアス達の見せ場は何と言ってもカーチェイス。2.5キロの高速道路セットを作ってまで実車を横転させているのはさすが。バイクの逆走シーンではさすがに対向車はCGだけど、構成や見せ方の妙で実に迫力のあるアクションシーンになってます。一方、前作で象徴的だったバレットタイムは、CG処理に取って代わられた感もあって少しさびしい気もするかな。
それにしても1作目を受けて、よくここまで世界観を昇華させたものだと思う。詰め込み過ぎだと思わなくもないけど、存在理由、既定事項、選択理由といった哲学問答が世界観の深化に寄与しているのは確か。まあ、そういう場面ではどうしても会話劇になってしまうのが惜しいけどね。そのせいで少し単調に見えてしまうというか…。アーキテクトとの会話でも、すごく衝撃的な事実(ここで“リローデッド”の意味が分かる)を話しているのに、ずいぶん抑えた感じの描き方になっているなあ。これが作風だと言えばそうだけれど。
エンディングはスミスが入り込んだベインの再登場で暗転。ネオが生身でセンチネルを停止させた謎も次作「レボリューションズ」へ持越しだし、3部作の2作目としてここは正統な引っ張り方ではあります。
マトリックス
レボリューションズ

(2003年制作)
8
精神が肉体を離れてしまったネオを救うべく、モーフィアスとトリニティはメロビンジアンの下へ。同じころ、マシンの掘削機は25万のセンチネルを従えてザイオンへ迫っていた。
前作「リローデッド」で提示された謎や伏線の回収がされるべき完結編…だけど、説明自体は不明確で観客側へ解釈をゆだねる部分も大きいかな。そもそもOVA「アニマトリックス」やゲーム「エンター ザ マトリックス」といったスピンオフ作品が映画3部作の補完以上の存在感を持っているので、世界観を映画だけで解釈するのが難しい作品ではあるが。少なくとも、広げまくった風呂敷の畳み方の一つとして、本作の様なエンディングは悪くないと思っている。観客が受け取るための要素はそれまでにばら撒いてあるし、あとは受け手次第ってことで。
個人的には、話の一面として救世主・ネオのキリスト的運命の話と素直に見たかな。もう一方でウイルスと化したスミスの駆除…ネオを介した有線化、もしくは対消滅を回りくどく(w)描いた話だという印象。まあ哲学的な存在理由云々の話よりは、救世主が人を救うために背負うものというキリスト教的な観念の方を強く感じたね。
バトルシーンについては、ザイオンにおけるセンチネルの圧倒的物量攻撃の凄まじさがメイン。ただこれは、それまで「マトリックス」が描いてきた日常世界の中での超身体能力的なバトルという、本来の魅力とはちょっとズレていると思う。確かに迫力は満点だし、天井を破って大群のセンティネルが湧き出してきた時には、絶望すら感じたけれど。格闘戦ではやはりラストバトルが印象的で、特にネオとスミスの空中格闘は良くできていて感心。ちなみにあの大量の雨はマトリックスコードの流れを表現しているとのことだけど、これは言われないとその意図には気づかんw 一方、メロビンジアンのところに押し込むときのバトルは、敵が天井に重力を移す必然性が感じられないので構成的にちょっと微妙に感じた。実写で頑張っているとは思ったけどね。
マトリックス
レザレクションズ

(2021年制作)
8
自身の制作したゲーム「マトリックス」によって世界的なゲームクリエイターとなっていたトーマス・アンダーソンだったが、不安定な精神状態のためセラピストのカウンセリングを受ける日々が続いていた。
前作から18年後に公開されたシリーズ4作目。「リブート」でも「リメイク」でも「1作目で青いピルを飲んだ別の世界線」でもない、正真正銘の続編。個人的には前3部作でネオという“救世主”の物語は完結していると思っていたので、どの様に物語を再開するのだろうと半信半疑なところもあったのだけど、本作はネオを“救世主”ではなく“人”として救済した物語になっていると感じた。それは3作目で死んだトリニティに対しても同様。人類を救うために死ぬ運命となった2人を救い上げる物語。
物理的に生き返らせる展開は強引さも感じるものの、しかし生体電池を使いこなすマシンの技術ならどうにでもなるのかと思わせるギリギリのライン?w まあそこは出来たのだとして、ネオとトリニティという特別な存在・関係だったからこそ、「高効率電池としてマシンが生かし続けたのだ」という設定はうまく考えたものだなと思った。「マトリックス」において代名詞的な存在であるキアヌ・リーヴスとキャリー=アン・モスを出演させるための設定だとしても、そこには「これは続編なのだ」という覚悟が込められているように思う。
本作は冒頭からメタ的なセリフが山程登場してくる。1作目の再現のような展開で始まるオープニングシークエンスがあり、「これはなんだ?」と思わせた上、その後も「一体何が起こってる?」とグイグイ引き込んでいくるところが面白い。観客には“マトリックス”が劇中の仮想現実の世界であることは自明のことであるので、その上にメタのフィルターを被せてさらに「前の3部作って作中のゲームの話だったの?」と脳裏によぎらせる仕掛けにしているのだけど、「あの3部作を劇中劇にされたらガッカリだなあ」と思わせてからの「真実」を描いていく構成には、まんまと手のひらの上で踊らされましたw 一瞬不安にさせてから「あのネオの苦闘は無駄じゃなかったんだ」と思わせてくる流れに、前作からの18年という空白が劇中の時間経過ともリンクして、観客としてなにかとても感慨深いものがきた感じ。
一方でアクションシーンの目新しさはあまりない感じ。「バレットタイム」は今までと違う表現もしているけど、もはや“観たこともない映像”というわけでもないしなあ。集団戦闘をメインに描いたことで逆にゴチャゴチャしすぎた感じもして、期待に応えるのは難しいものだとも思った。あとちょくちょく差し挟むユーモアのセンスが前3作とはちょっと変わった印象もあるね。特に完全にジョーク扱いのメロビンジアンは…(苦笑)
マネー・ショート
華麗なる大逆転

(2015年制作)
8
2008年のリーマン・ショックの原因となったサブプライム住宅ローン危機。その予兆を察知し逆に利益を生み出した投資家たちの姿を描いた金融ドラマ。
損して得を取る。まさにそれを地で行った投資家たちの一世一代の賭けを描いた話だが、世界金融危機を招いたサブプライム問題がなぜ起こったのか、バブルが膨らんでハジけたその裏側を暴くドラマでもある。一般的には聞きなれない金融用語が飛び交うので、一見すると取っつきにくく、少なくとも劇中で取引されるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)とCDO(債務担保証券)が何なのかを理解していないと、そもそも何が起こってるかも分からないかもしれない。でも逆に最低限それが分かれば、見えない銃弾が飛び交うがごとき金融業界の駆け引きにグイグイ引き込まれる。
この映画は、この問題における3組の勝利者をそれぞれ独立した物語として平行に描いている。サブプライム問題という軸はあれど、話的には独立しているのでバランスを取るのは難しいところだが、的確な采配でテンポよく見せ切っているし、上手い構成だと思った。最初にその予兆に気づいたマイケル・バーリ(クリスチャン・ベイル)はだいぶ変わり者に見えるが、それにしても当時の常識にとらわれない賭けに出るところはスゴイな。それだけ数字を見極める目があったということだろうが。不正が許せないマーク・バウム(スティーヴ・カレル)も変わり者と言えばそうだ。
しかしいずれにせよ、この物語は根底にある金融機関という存在に対する怒りが観る者を引き込むのだと思う。合成CDOなんて馬鹿な話を聞かされたら、マーク・バウムでなくてもあきれるわ。そして、デフォルトを起こしているのに上がり続ける債権というありえない事態を見せることで、金融業界全体のいかさまに対しての怒りに火をつけた。観客は登場人物と同じく「何でそんなことになるんだ!」と思うだろう。そう思わせれば、この作品は成功なのだ。
マネーボール

(2011年制作)
7
メジャーリーグのアスレチックスでGMに就くビリー・ビーンが、統計を用いた革新的な運営で球団を改革していく姿を描いた実話をもとにしたドラマ。
野球が題材だけど、スポーツ映画ではなくホントに経営が主体のドラマ。旧態依然とした球団内のスカウト達との対立や、意をくもうとしない監督との対立など、主人公の孤独な闘いがずーっと続く。何かを変えるという行動にはパワーと決断力がいるのだなあと思える話だけど、実際にそれを行ってア・リーグ記録の20連勝という結果を出したのだからスゴい話だ。そういう面で共感できるし、トレードで見せる手腕など映画としては面白いのだけど、全体的に手堅く、見せ方に派手さがないので観る人は選ぶかも? 丁寧なんだけどね。
経営手法の革新性はすごいと思う反面、その経営法には人への情があまり感じられないので個人的に思うところもある。でもそうは言えないシビアな世界なんだろうなあというのも事実で、複雑。でも最後に主人公は高額条件を出したレッド・ソックスではなく、アスレチックスに残って優勝に挑み続けているというテロップを読んで納得はした。
主人公を演じるのはブラッド・ピット。役柄にはピッタリはまっているし、ほんとに手堅い演技を見せる。補佐役のピーター・ブランドを演じるジョナ・ヒルは非コメディ映画は珍しいけど、全然違和感なし。ハウ監督役のF・シーモア・ホフマンは相変わらず変幻自在ですねw
マネーモンスター

(2016年制作)
7
拳銃を持った男が株を扱った経済エンタテイメント番組をジャック。司会を人質にした犯人との駆け引きを描いたサスペンス。
株の暴落で6万ドルを損した男がTV番組をジャックする。司会者が番組で無責任に投資を煽り、また一部の人間が庶民の投資金を吸い上げて私腹を肥やすことへの怒り。一見すると金融業界を取り扱った社会派な映画に見えるけれど…、実のところ主題はそこではなくて、目の前を通り過ぎる情報の移ろいの早さがテーマのように感じた。株の高速取引もただの話の仕掛けでしかなくて、マクガフィンのようなもの。ラストに描かれた、事件が終わって日常に戻る視聴者の姿に居心地の悪さを感じさせるのが目的の様に思える。結局、画面越しに手に入れる情報に対する、第三者的な無責任感にこそ疑問を投げかけているのではないか。
でもそれはそれとして、サスペンス映画として見るとよくある人質・立てこもり・交渉ものとしては展開のテンポも良く、なかなか面白い。最初は犯人がもっと泰然としてたら緊張感が増すのに…などと思いもしたけど、犯人が恋人に罵られる様を観て、ああそういう役回りじゃないんだと理解した。庶民の代弁者という器でしかないというか、見た目以上の深さはない感じ。
この映画からは、総じて事象を切り取っているだけでキャラクター自体に深さを感じない。それでも面白く観られるのは、主演のジョージ・クルーニーやジュリア・ロバーツの存在感もあるだろうし、駆け引きが攻守の境界線の間を良いテンポで揺れ動く感じや、複数の登場人物の行動を分かりやすく見せる編集が分かりやすいという部分もあるだろう。まあスタジオから出てしまってからの展開は、映画的なハッタリを効かせすぎている気がしなくもないが…。そこはご愛敬か。
招かれざる客
9
サンフランシスコの名士の白人娘が、結婚相手として黒人を連れてきた。突然のことで戸惑う両親を尻目に、娘はすぐに承諾の返事が欲しいと言うが…。
娘の両親役にスペンサー・トレイシーとキャサリン・ヘプバーンというだけでも見応えがあります。彼らの演技はさすがに貫禄があるよなあ。そんな名優スペンサー・トレイシーは本作が遺作なんだよね…。
連れてこられる結婚相手の黒人はシドニー・ポワチエ。優等生黒人という役は彼ならではだけれど、優等生でなければならなかった設定が、この時代の空気をそれとなく理解させてくれます。でも、例え優等生であったとしても、白人と黒人の結婚というだけで戸惑われるわけだけどね。
テーマ的には平等や人種差別の本音と建て前を描いた作品と取れるけど、それをまるでホームドラマのような作品にしているところが妙に深刻にならなくて良いと思う。まあ、両親の苦悩は描かれているけど、そういう意味では周りを振り回しすぎのお嬢様はもうちょっと空気を読んで欲しいところかw
ラストまでモメながらも上手く纏まっていく展開も良く、特にラストのスペンサー・トレイシーの演説はさすがの一言。喋っているだけなんだけど、それだけで魅せてくれる。
魔法使いの弟子

(2010年制作)
6
人形に封じ込めた邪悪な魔法使いモルガナを倒すため、1000年間も偉大な魔法使いマーリンの後継者を捜していた魔法使いのバルサザール。現代のNYでバルサザールとその弟子デイヴ、そして悪の魔法使いマクシムらとの戦いを描いたファンタジー映画。
「ハリー・ポッター」後のファンタジー枠を狙う作品の一つだろうけど、他の絵本や小説を原作としたその手の作品とは違い、本作はディズニーの名作「ファンタジア」の一編、「魔法使いの弟子」をアレンジした作品です。とは言っても中盤にモップに魔法をかけるシーンがある意外は何の関係もない内容だけどね。
背景の薄っぺらい善と悪の魔法使いの対立や、パッとしない主人公が世界を救ったり恋をしたりというのはお決まりのパターンで、目新しいモノはなかった。魔法合戦も序盤からチャイナタウンで大暴れまでは観て結構面白いモノになっていたけど、クライマックスあたりになると演出が凡庸になっている気がするなあ。悪の魔法使いが復活することで世界の危機云々と言っている割に、主人公の恋模様が間に入って展開にあまり切迫感がないのもなんとも。まあこの辺はティーン向け映画だから仕方ないのだろうか。
魔法にかけられて
8
おとぎの国のお姫様が魔女の陰謀によって現実のNYに送り込まれ、そこで騒動を起こす姿を描いたコメディ作品。
過去のディズニー映画をネタにパロディ的なドタバタ劇を繰り広げるという、そんなドリームワークスがやりそうな話を本家ディズニーがやったところが面白いね。「おとぎ話みたいな事じゃなくて、もっと現実を見ろ」なんてディズニーがするには皮肉なテーマを掲げつつも、でも大団円に向かって上手く軟着陸するので、その辺のさじ加減はさすがか。
基本的にこの作品は、おとぎの国からやってきて現実世界に無知なことで起こるギャップを笑う映画。だけど魔女の部下のナサニエルは七変化でしっかり現実にとけ込んでいるところもまた面白い。ロシア人(?)だったりイタリア人だったりインド人だったり、現実世界に詳しいよなあw
魔女の変化である竜とのクライマックスは、オチがちょっと見にくかった。でも序盤のアニメシーンであった伏線通りなんだね。そういう意味でちゃんと組み立ててもあるので良いです。
魔法にかけられて2

(2022年制作)
6
前作から15年後。小さかった継子のモーガンはやや反抗期。ジゼルは自分に向けられた「継母」という言葉に戸惑いつつ、幸せな日々を願っておとぎ話の様な生活が来ることを「願いを叶える杖」に祈るが…。
状況をつかむために必要とはいえ、本題に入るまでの30分がやや長いと感じたかな。昔のディズニーアニメのヴィランでお約束だった悪い王女や意地悪な継母という部分に焦点があたっているのは今どき(「マレフィセント」や「クルエラ」が映画になるくらいだし)と思うけど、それが「魔法にかけられて」の続編である必要があったのかは…どうだろうか。
現実世界におとぎの国の住人が来て、認識のギャップで笑いを取った前作と比べると、継母であることに悩む主人公の話というのはやや重たい。それに現実でアニメのようなことをやっているから面白かった世界観を、本作では現実をおとぎの世界に変えてしまったので正直言うとただのコスチュームプレイにしか見えなくなってしまった感じ。そういう意味では世界観の魅力が減退しているようにも思う。願いを叶える杖も「もしもボックス」みたいな使い方でご都合主義だし、ロバートやエドワード、それにジゼルとロバートの赤ん坊のストーリーにおける存在感の希薄さも気になるところ。「継子だけど実子のように想っている」「継母だけど実母のように想っている」という予定調和な展開も相まって薄味な感じで終わってしまったかな。
王女と継母の歌は良かった。
真昼の決闘
8
昔逮捕した悪党が正午の汽車で復讐に来る事を知った保安官の、孤独な戦いを描いた名作西部劇。
主演はゲーリー・クーパー。いやあ、画になります。でも役自体はヒロイックな保安官像と違い、町民の協力も得られずに(半ば諦めと)恐怖が顔ににじみ出たリアルな人間像。そういうところがいわゆる娯楽作品とは一線を画した部分でしょうかね。劇中の時間もほぼ90分で現実と並行に進むので、そう言うところにもリアル感を演出しようとした制作側の意図を感じます。
ただ、まあそんな具合にヒーロー物の展開を期待すると釈然としないものは残る。もちろん悪漢は倒されるので問題は解決するのだけど、もはや町民と和解することもなく町を出る主人公の姿は重いね。
マリッジ・ストーリー

(2019年制作)
8
演劇監督と女優という1組の夫婦の、離婚裁判の様子を通じて彼らの心情を描き出すドラマ。
“結婚物語”というタイトルなのに内容は離婚劇という…w まあその過程を通して彼らの結婚とはどのようなものだったのかを描き出す話なので、間違ってはいないんだけどね。
それにしても主演二人の演技が素晴らしい。スカーレット・ヨハンソンの気丈なふるまいとは裏腹に流す涙も良い表現なんだけど、後半のアダム・ドライバーが圧倒的。“話し合おう”からの罵り合いの果てに「なんてことだ…」とうずくまる一連の流れは、感情の波が画面から押し寄せてくる様じゃないか。話の途中から感情に押し流されて思ってもいないことを叫んでいる様子が痛いほど伝わってくる。終盤、かつて書かれた“お互いの長所を描いた手紙”を目にしたアダム・ドライバーがハッと表情を変える瞬間も見事としか言えない。
内容的には親権を争う離婚の話だし、「クレイマー、クレイマー」を連想するようなある意味オーソドックスな話にも思えるんだけど、主演2人の演技が「生の感情」を観る者にビシバシと伝えてくるのでとても心に響いた。俺自身は男なので、やっぱり夫側の目線で見ちゃうかなあという部分は多いかな。でもどちらが悪いって話でもないしね。妻側の弁護士が言う「社会的に宗教的にも母親とは完璧を求められるのだ」という母親観の解釈などは興味深かったなあ。
マルコビッチの穴
8
よくもまぁこんな話を思いつくものだと、つくづく感心する。出演者も秘かに豪華で、マルコビッチが本人役で出演しているのは面白い。才能はあるのに、誰からも理解されない主人公が悲惨。まぁ、自業自得な面もあるが。マルコビッチ本人が穴に入った時は爆笑ものだが、それ以外にも妙な社長と言語障害の秘書とか、有名スターのカメオ出演とか、細かいところでも楽しませてくれる秀作だと思います。
マルコムX
9
米国の黒人解放運動家として知られるマルコムXの一生を描いた伝記映画。
スパイク・リー監督渾身の一作ですね。200分を超える長尺ながら、時間の長さを感じさせないドラマ性も見事。それに、何と言ってもマルコムX役のデンゼル・ワシントンの演技が素晴らしいです。
過激と知られた彼の言動だけど、この映画を観て俺の彼に対する印象はちょっと変わった。彼の守ろうとしたものは何だったか、人間の尊厳という至極当たり前のもの。白人の差別意識が彼を生み、ブラック・モスリムが彼を育て、そして黒人が彼を殺したわけで、物語の根元にある人種問題の皮肉が哀しい。射殺される瞬間に見せる彼の表情が何とも言えないですね…。
ラストシーンに南アの黒人解放運動家ネルソン・マンデラ(後の南ア大統領)が子供達にマルコムXの演説を引用して語りかけるシーンが出てくるけど、何とも言えない感情がこみ上げてきました。
マルホランド・ドライブ
8
ハリウッドのマルホランド・ドライブで起きた事故から始まる悪夢の物語。
デヴィッド・リンチの作品とは本来こういった感じの物なんだろうけども、終盤までは「??」の連続。「なにか話がてんでバラバラに進むなあ…」みたいな感じでちょっと置いてけぼり感があったんだけど、劇場の場面にあった「楽団はいません…」の件からそれまでの疑問は氷解。ナルホド、これは悪夢そのものか。
思い通りにならなかった相手を手に入れ、奪った相手を陥れ…、支離滅裂な感じも、全体に漂う不安感も…。死の間際に見る夢なんだな。全ての要素が拾えたわけではないし、上手く説明は出来ないけど、最後まで見ると妙に納得してしまった。でもこれがデヴィッド・リンチの作品だと知らずに見ていたらそう思えたのかは分からないけどw
マ・レイニーの
ブラックボトム

(2020年制作)
7
1927年、シカゴのレコーディングスタジオで行われた「ブルースの母」マ・レイニーの収録で様々なもめ事が発生する。
基本的にスタジオ内での出来事という限定した場所を描いているし、情景よりも台詞で進行させる展開が中心なので「なんだか舞台劇を観ているみたいだなあ」と思ったら、そもそも戯曲を原作にしているということを後で知った。だとすれば納得だけど、オープニング以外にもう少し映画的な工夫を見せてくれてもと思ったり。終盤の“建付けの悪い扉が開いたと思ったら行き止まりだった”という描写は、取ってつけたようであまり好きではないかな。
白人に搾取される黒人という図式に対して、自分の持てる武器を使って徹底的に対抗するマ・レイニーと、野心も才能もあったが破滅するレヴィーという対比は分かりやすい。でも物語としてはそういう主張の強さばかりが目立った印象だし、吃音だったりマ・レイニーの女だったりといった他のキャラを意味ありげに使うわりには深掘りしない部分は気になったというのが正直なところ。本作はレヴィーを演じたチャドウィック・ボーズマンの遺作になるけれど、やはり亡くなったことを知りながらみていると「この痩せ方は役作り?やはり…体調の…?」と何とも言えない気持ちになる瞬間があるな…。マ・レイニーを演じたヴィオラ・デイヴィスはさすがの貫禄。太々しい要求の数々を繰り出してイラつかせるけれど、“白人”に利用されたままでは済まさないとする彼女の必死の抵抗でもあることは分かるのが良い。ラストで描かれる黒人音楽を演奏する白人の楽団の描写は皮肉でしかないね。
マレーナ

(2000年制作)
8
1940年代のイタリアを舞台に、マレーナという一人の美しい女性に憧れる少年と、彼女の周辺で起きた出来事を少年の目線で追ったドラマ。
ジュゼッペ・トルナトーレの映画というイメージを裏切らないシチリア島の美しい景色。その美しさと対照的に起きる人間達の嫉妬や欲望などの醜い姿。その渦中にいるマレーナは、美しすぎるがために奇異の目にさらされ、そして生きるために身を削る。一方で少年は彼女に恋いこがれるわけだけど、そこで少年の淡い恋心だけじゃなくって、下着を盗んだり想像にふけって欲望を満たしたりと、思春期のリアルな(?)描き方をしているところがまたキャラクターを地に足付けていて良いね。
この映画は"少年の憧れ"、"マレーナの生き様"、"醜い大衆心理"、"大戦下のイタリア"という多層構造になっているのだけど、それだけのパーツが上手く構成されている。少年とマレーナが会話するのはラストのみというのも良いんだけど、帰還したマレーナの夫への行動が良いなあ。
さて、そんな感じで最後まで観れば人情ドラマ的な印象が強いのだけど、作品内には結構コメディ要素も多い。マレーナにちょっかいを出す大人達や、なにより少年の父親。この父親が良いね!不純なことをすればちゃんと叱る。「カキすぎると目が見えなくなるぞ!」とか、それで悪魔払いをしようとする母親に「思春期なんだ、一発やらせりゃ治る!」とかw ラテン系な言動には笑った。でもちゃんと少年のことを理解してるんだよなあ。
マレフィセント

(2014年制作)
7
「眠れる森の美女」の悪役、マレフィセントを主人公にした実写版のファンタジー作品。
企画としては、「オズ はじまりの戦い」の様な過去の名作の再利用ってところだろうけど、前日譚だったそれとは違って本作は悪役側の目線で話を再構築した作品。というか全然違う展開なので、ディズニー自身で作った二次創作の同人誌みたいに感じてしまった。
マレフィセントのビジュアルはアンジェリーナ・ジョリーの容姿とマッチしていて悪くない。けど、アニメのイメージを残したデザインは格好良いかというと…個人的にはどうかなあ?飛翔しているシーンは格好良かったが。話もマレフィセントを主人公にするくらいだから色々と呪いをかけた裏事情を描いて、彼女への同情を誘う構成。それに飽き足らず、へっぽこな妖精三人組に代って陰でオーロラ姫を見守るという涙ぐましい姿。結末も王子に退治されるという悲劇にせず、なんと逆に王を倒して大団円とはね。もう全然違う作品じゃないかw
"真実の愛"のくだりが近作の「アナと雪の女王」と被っていたような気もするけど、こちらは母性という無償の愛か。まあこれはこれで良い話とは思う。けれど、過去の名作を再利用するための改変は、いったいどこまで許容されるものなんだろうかと、ちょっと考えさせられる気はした。
マレフィセント2

(2019年制作)
7
前作から数年後、ムーア王国の女王となったオーロラ姫はアルステッド国のフィリップ王子からの求婚を受け入れるが、両家の顔合わせとなった晩餐の席で事件が起きる。
マレフィセントを感情移入の対象とするとなると対峙する相手が人間になるのは必然で、すっかり「眠れる森の美女」とは違う世界線となったこのシリーズ。とはいえ前作の終わりでは「めでたしめでたし」となったはずだったのに、今作の冒頭からいきなり「そんな事情はともかく、呪いをかけたという話が広まって、マレフィセントは人々の恐怖の対象になったのだ」的な説明から始まるので、なんだそのご都合主義は…などと思った次第(苦笑)。でも実はそれも黒幕の謀の一環だったと分かる終盤を考えると、そこまで適当な始め方ではないということは理解した。というか原題のサブタイトル"MISTRESS OF EVIL"も、冒頭ではマレフィセントの事かと思わせといて、実際にはアルステッド国のイングリス王妃の事だよね。
イングリス王妃を演じるのはミシェル・ファイファー。貫禄たっぷりな演技はさすがですな。王妃は妖精に対して人間目線の偏狭な視点に捕らわれている人物でもあるが、「種族間の対立」といったテーマは今日的な題材としては分かりやすいし、おとぎ話に内包する「風刺」という意味でも“あり”かとは思う。まあそれを悪と切って捨てるところはだいぶステレオタイプだけど。
結局のところ物語としては予定調和のそれを超えることはない。マレフィセントがオーロラ姫を庇って矢に射られ灰になった時は「おっ」と思ったけど、姫の涙によって(文字通り)不死鳥のように復活! というか本作でいきなり出てきた“フェニックスの末裔”設定はちょっと唐突な印象はある。
マン・オブ・スティール

(2013年制作)
8
ザック・スナイダー監督が描く、リブートしたスーパーマンの新たな物語。
「スーパーマン」はあまりにも'78年のリチャード・ドナー版のイメージが強すぎるが、本作は全くのリブートとしてのスタートに成功したと思う。ストーリー面ではカル=エル(スーパーマン)が地球へ来る理由やゾッド将軍の存在意義にSF設定として説得力も出ていると思うし、有名なプロットを生かして上手く再構成したなあという感じ。実父のジョー=エルが、死してなお中盤でも思わぬ活躍をするあたりが面白い。
構成としては子供時代の話を回想で済ませてしまっているけど、この辺の簡略化は仕方がないかなあ。それでも養父を演じたケビン・コスナーの存在感で、その回想シーンはすごく印象に残るものになった。力を使うことではなく、人としての在りようを静かに力強く、あの短い出演時間で…。竜巻のシーンは泣きそうになったよ。
それにしてもゾッド将軍率いる反乱軍とスーパーマンの戦いの映像は凄まじい。10年前に「マトリックス・レボリューションズ」が垣間見せた"実写でドラゴンボールをやったらこんな感じ?"という空中戦を、ここまでリアルに見せるとこまで映像は進化したのか。超スピードの殴り合いはヘタすれば訳が分からなくなるけど、的確な演出で迫力満点。何より、その動きに質量が感じられることで、非現実的なはずの速度にリアルさが感じられるのが実に見事。クライマックスで都市をメタメタに破壊したのは、カタストロフを超えてやり過ぎ(何万人か死んでるのでは?)とすら思ってしまったけど、でもホントに凄かった。
ゾッド将軍の最期が首を捻っての殺害というのは、少しあっさりした感じもするけど、スーパーマン自らが手を下して、最後の同族を殺したということに意味を感じたい。彼はその十字架を背負って生きていくことになるんだよね。
マン・オン・ワイヤー

(2008年制作)
7
1974年、ニューヨークのWTCの2棟のビル間に綱を張り、地上417mで綱渡りをした男がいた。その男、大道芸人・フィリップ・プティと仲間たちの、計画と実行を描いたドキュメンタリー作品。
フィリップはこのWTCでの事件の前にもノートルダム寺院などで綱渡りを決行しているけれど、不法侵入して大胆不敵な計画を実行するという点では犯罪である。本人らも自覚してその犯罪を行っているわけだけど、WTCで非合法にそれをやるというのは、もはや頭がおかしいとしか思えないわけで…。でもフィリップには目立ちたいという思いよりも、「そこに山があるからさ」的な執念のようなものの方が先に来ているのだろう。もちろん、やっぱりこれを決行するのはまともではないとは思うけれど、それを成し遂げたという事実は感動に値する。
その事件で、彼らが不法侵入するためにスパイや怪盗さながらに準備を進めていく経過を、再現ドラマやインタビュー、当時の映像などを交えて描いていく。ドキュメンタリー作品ではあるけど、そのあたりの構成がドラマチックで興味深い。あまりに大きいことを成し遂げたがために、その後、仲間は心が離れバラバラになってしまったというけれど、当時を思い出しながら語る関係者の表情は楽しそう。しかし仲間の一人、ジャン・ルイが感極まって目頭を押さえる様子を見ると、単純にそれだけではない思いが感じられるね。
そして、この映画は綱渡り事件を描いている一方で、在りし日のWTCに対する望郷の念を感じさせる映画でもありました。
Mank
マンク

(2020年制作)
8
「市民ケーン」の脚本執筆にとりかかるハーマン・J・マンキウィッツの姿を描いた伝記映画。
脚本家が主人公という作品自体のスタンスは近年の「トランボ」(2015年)を連想したし、実際似た部分もあったかも。一方で本作の題材は「市民ケーン」。世紀の傑作である「市民ケーン」ではオーソン・ウェルズの存在感が大きすぎるので、正直言ってマンキウィッツのことはあまり知らなかったものの、本作で描かれる裏話の様な内容は興味深く観ることができた。と言っても“外から見える結果から想像した内幕”という具合に相当脚色されているとは思うけどね。それでも面白く見えるのは、実在の人物たちを題材に「さもありなん」と想像される通りの人物像を、「市民ケーン」の様な演出技法で描いてしまっているとところか。「市民ケーン」の誕生譚を「市民ケーン」の様な演出で描く…って、そう思うともうファンムービーみたいな作品だなw
内容的に主人公の政治スタンスもドラマに影響してくるので、1940年前後の米国の社会情勢やハリウッドの歴史は事前に予備知識として知っておいた方がより楽しめるかなと。プロパガンダ映画と選挙結果発表の場面は、現代のメディアに対する皮肉も込められていた様には感じられた。そういう意味ではリテラシーとして観客に求めるところはやや多い気はするかな。でも作品としてジョークや皮肉の乗ったセリフが終始飛び交っているのは楽しかったし、思わずメモでも取りたくなるようなウィットの効いた言い回しも出てきて終始ニヤニヤしてしまったね。終盤の主人公と新聞王との直接対決では、「現代版ドン・キホーテ」と「オルガン弾きのサル」の例え話をしてお互いをこき下ろしている姿に緊張感があったなあ、ほんと。この映画の会話場面は見ごたえがあるわ。
マンチェスター・バイ・ザ・シー

(2016年制作)
8
兄が亡くなりかつて住んでいた町に戻った主人公。彼が甥の後見人にという兄の遺言に戸惑う中、この町で起きた自分自身の出来事と向き合っていく。
まったく派手さはないが、一人の男が過去と向き合う姿を描いたドラマとしてはずっしりと心に響く。どうもヤサグレた感じの主人公の様子に序盤から引っかかる見せ方をするのだけども、その事情が回想によって次第に明らかになっていく…という構成。いや、回想というよりは主人公自身のフラッシュバックという方が正確かな。個人的には回想(フラッシュバック)に頼る見せ方はあまり好みではないんだけど、この映画の主人公の背負う過去の出来事には「そりゃ…やさぐれるわ…」と共感してしまった。観ていてじわじわと締め付けられるような感情がこみあげてくる。
彼が彼自身に背負わせ続けた罪の意識は最後まで消えることはない。終盤に元妻との会話で「今の言葉で救われた」と口にしても、そうじゃないよな。「乗り越えられないんだ」という本心が最後まで彼の表情に出ていて…。その消せない過去を背負い続ける男を演じたケイシー・アフレックの演技はとても素晴らしかったと思う。
でもこの映画がそんな失意を描いただけの作品かと言うと、そうではない。子供を失って失意の中にあった主人公を支えようとした彼の兄の行為と、その兄を失った甥っ子に主人公がしてやることという巡り行く家族としての関係性。そこに喪失を経てもなお得ることのある人生の一編が描かれているように思ったし、そしてほのかな温かさを感じられるラストに繋がっていて良かった。主人公を甥の後見人としたあの遺言は、後から考えると主人公のために彼に兄が遺した最期の兄弟愛のカタチだったのかもしれない。
マンデラ
自由への長い道

(2013年制作)
8
南アフリカで反アパルトヘイトの闘士であり、同国で大統領になったネルソン・マンデラの自伝を基にした伝記映画。
武力闘争に至った部分は白人の不当さを強調している部分もあるか。自伝ともなれば良いように見せている部分もあるだろうし、今では神格化された部分もあるだろうけど、それでも彼の成し遂げたことを考えれば、やはり偉大な人物だと思う。白人の力による支配構造というその世界でのルールをひっくり返したのだから。
もちろん釈放されて「平和」という綺麗事を語るだけで簡単に済むわけはないし、そういう部分も描かれる。闘争という長い道のりの最終段階で、黒人が力を持つことに恐怖する白人と、白人に復讐心を持つ黒人を如何に和解させるか。最も困難だっただろうその局面でのテレビ演説は、そこまでの長い苦難のクライマックスとしては見事だと思った。「私は赦した」、この言葉の重み。衆愚に陥らぬ、まさに指導者としての姿。
個人的にはデクラーク大統領側の想いや、政治的な駆け引きの部分をもう少し観たいと思うところもあったけど、これはマンデラの伝記映画だし、これで良いかな。
マンハッタン

(1979年制作)
9
ニューヨークを舞台に、男女の人間模様を描いたウディ・アレン監督・主演のドラマ。
白黒のニューヨークにジョージ・ガーシュウィンの曲がよく似合う。シネスコサイズで切り取られた景色もまるで写真の様なオシャレさがあるし、影の中や逆光での会話といった見せ方が良いね。主演のウディ・アレンはアレンらしい神経質そうなインテリのキャラで、それでいて意見の合わないインテリに憤慨したり、ことあるごとにジョークを言って面白い。口げんかの最中に「僕も話の分かる男だ 言ってくれたらダメと返した」って、なんだそりゃw 別れ話をして泣いている彼女の目を見て「里親を探すボリビアの孤児みたいだ」と言うセンスもすごいよなあ。
劇中で描かれる出会いと別れは友人や男女の間の誠実さの揺れ動きが描かれていると思う。42歳と17歳の年の差カップルの主人公が、年下の彼女に「自分に入れ込んではダメだ、君はまだ若い」と話すのはなんか達観してるなあと思ったけど。彼にとっては誠実さの表面的なものなんだろうが、結局ラストでは一度別れた身の上で、自分の身勝手を自覚しつつも彼女を引き留めようとした。それは彼が友人や別に好きになった女性に誠実さを求めて裏切られた上で、結局自分も行っているという人間関係の皮肉として感じられるところ。でも、終盤に電話をかけてもつながらず、主人公が彼女のところまでニューヨークの中を走りだす場面はとても良かったなあ。そんな身勝手な男との会話の最後を彼女は「少しは人を信じなきゃ」と諭し、男の(そうだな)という表情で締める。良いね。
マンマ・ミーア!
7
ABBAのヒット曲のオンパレードで有名な同名ミュージカルの映画版。
オリジナルの舞台版は未見だけども、この映画版はその舞台版を“素直に映像にしました”的な印象を受ける。そういう意味では数年前の「シカゴ」で観せられた様な“映画という映像だからこその魅力”というのは薄い。ただ、俺ですら耳にしたことのあるABBAの有名なナンバーに乗せた映像が楽しいのは事実。
個人的には話のメインであるメリル・ストリープとピアース・ブロスナンの歌声にあまり魅力を感じないんだけど、彼らの楽しげな演技は悪くないかな。ストーリー自体はぶっちゃけ下世話な話題と言ったらそうなんだけど、ギリシャ的というかなんというか。まあ劇中でも「ギリシャ喜劇ね」と言及しているわけだから、そういう話として観ないとダメか。どちらにせよまるで「女性のための話」なので、俺のような人間には少々不向きな話ではある。
しかしABBAの楽曲だけでストーリーにしてしまうという構成はよくやったもんだ。鑑賞後にサントラが欲しくなりますw
ミイラ再生

(1932年制作)
6
1921年、大英博物館の調査団が発見した古代エジプトの高僧イムホテプのミイラ。調査員の一人が同時に発見された呪いのかかった箱を開けたため、そのミイラが復活する。
ミイラが息を吹き返すという要素だけを受け取ればホラーでモンスター映画な話だけれど、復活したミイラ姿のイムホテプはすぐに姿をくらまし、劇中での10年後になる1932年に現れたシーンではすっかり人間の姿に。ということで本作ではステレオタイプなミイラ男がハッキリ登場するわけではない。その復活したイムホテプが、かつて恋した王女の魂を取り戻すため王女の面影を持つ当世の女性・ヘレンを狙い、女性周辺の人物を呪い殺すという筋書きだが…、そういう意味では化物映画というよりはオカルトものという趣かな。
ミイラが息を吹き返すシーンやラストに人からミイラへと戻っていくシーンは、モーフィングとまでは言わないまでも多重露光(?)を使いつつ外観が次第に変化する様子が特撮で表現されていて効果的。イムホテプの魔術を印象付けるシーンでも、彼の顔のアップで影になっていた眼を浮かび上がらせるなど、ビジュアル面はなかなか。
一方で話は…王女を復活させたいという話は分かるのだけど、ヘレンがイムホテプに影響されていくくだりも含めて案外地味。終わりもアッサリ。1932年の公開当時としては、米国から遠いエジプトの地での怪事件という話に観客は想いを馳せたのかな?まあ今観てもクラシック映画としての趣はある。
ミクロの決死圏

(1966年制作)
6
重要な情報を持つ東側の亡命科学者が襲撃される。通常の外科手術が適用できない彼の命を救うため、特殊潜航艇ごと縮小化して体内から治療を行う特殊医療チームが編成されるが…。
縮小可能な時間が1時間で、その後は自動的に元の大きさに戻ってしまうというのが話に時限性というサスペンスを生み出している。小さくなった人間が体内器官を目撃するという、誰も見たことのない世界を描くという点ではいかにも映画ならではの面白さはあるし、内容的にも段階的縮小手続きといったSF観や、内部工作員の暗躍というスパイ活劇的なプロットも含まれていて割と欲張りな作品という印象。
とはいえ冷静に考えるとツッコミどころは多数あるのだけど…。静脈の血球が青いとかはイメージが先行しすぎだし、リンパ管から内耳〜脳内ニューロンの隙間〜視神経〜涙で脱出という行程もかなり強引な感じ。血漿の粘性の中で果たして人は泳げるのか? しかし最も納得がいかないのは白血球に喰われた博士や潜航艇は元の大きさに戻らないの?という疑問。この辺はご都合主義だよね。まあ1960年代の作品という事を考えれば、発想の面白さに魅力を感じるSF映画だとは思うけれど。
ちなみに原題は"FANTASTIC VOYAGE"で空想的作品であるニュアンスが強いかな? 邦題の「ミクロの決死圏」は、原題とはニュアンスが違うものの個人的には悪くない思う。
ミザリー

(1990年制作)
8
雪道で事故を起こした小説家。目を覚ますと元看護婦を名乗る女性が横で看病をしていたが、当初親切だった彼女はしばしば態度が豹変する。
元看護婦はまさにサイコ野郎…いやサイコババアか。最初はただのヒステリーか、二面性でもあるのかと思ったら、一貫してマトモじゃない奴だった。そのあたりが次第にわかっていくくだりや、分かっていても足を骨折しているので脱出できないという密室の舞台設定がよく出来ている。主人公の小説家が人気シリーズに引きずられ続けたくないという心理は分かるし、冒頭でげんを担ぐ行動などもさりげなく、それが色々伏線として機能していくあたりもよく出来ているね。相手が自分の事を知り尽くしているからこそ、ラストでは逆手にとって疑われずにマッチを用意させるという流れがいい。
失踪した小説家を探す保安官のリチャード・ファーンズワースはさすがに味があるなあ。しかし勘を働かせて真相に近づくも終盤でまさかの退場。一人で行っちゃあダメだ、結果的に犬死じゃないかよ…と思ったけど、話の盛り上げ役としては仕方がないのだろうか。主人公の小説家を演じるジェームズ・カーンも状況に飲まれながらも反撃の機会を窺うしたたかさが良い。タイプライターを持ち上げて筋トレ(これも伏線だった)したり、(失敗したけど)謎の薬を溜め込んだり余念なく包丁を抜く練習をしたりとか、なんだかちょっとした努力が微笑ましいw 軟禁状態の家の中は明るく小綺麗なので、内容に反してコメディっぽく見えなくもない場面もあるけど、その辺の塩梅も絶妙です。
しかし本作はサイコババアを演じたキャシー・ベイツが全部持って行ったよな。変なスイッチが入って喚き散らすその切り替わった後の怖さ。こいつはヤバい奴だと感じさせる説得力がある。化け物や悪魔ではなく、なまじ普通の人間でしかないから余計に怖いんですわ。足潰しの刑は痛かった…。
ミシシッピー・バーニング

(1988年制作)
8
1964年、ミシシッピーで行方不明になった3人の公民権活動家。その調査に2人のFBI捜査官が派遣されるが、操作は人種差別の壁に阻まれる。
当時の米国南部にあった黒人に対するいわれのない憎悪が、画面から伝わってきて恐ろしい。いや、黒人に対するというよりは、KKKの歪んだ白人優越主義的思想の恐ろしさか。実際の事件を題材にした事件だけに、このようなことがまかり通っていた南部の空気には戦慄を覚える場面もある。
人種差別問題という社会派なテーマだけれど、映画の構造としては刑事モノのバディー・ムービーなので、話には入りやすい。堅物のエリート捜査官と、当地のことを理解しているベテラン捜査官のコンビ。手法について意見をぶつけながら真相に近づいていく様子は、ジャンル物の鉄則を外さない。敵が悪逆であればあるほど主人公に肩入れしてしまうという構造もそうですな。そしてそれを支えるジーン・ハックマンの演技が渋くて良いです。
ただ、保安官補の妻の扱いについて、彼女が差別主義者ではないという説得力が少し弱い気がする。当地で生まれ育ったのであれば"主義"の洗脳はされるであろうから、そういう思想が強くならなかったバックボーンは見たかったところ。まあ南部白人の全員がそうではないということだとしても、わざわざキーマンである保安官補の妻という設定は…ご都合だなあと思った。
Mr.&Mrs.スミス
8
殺し屋夫婦の壮絶な夫婦喧嘩を描いたアクションコメディ。
洋画を観ていると夫婦喧嘩のシーンで「殺してやる!」と罵る場面があったりするけど、それをマジでしてしまうんだから面白い。それにその夫婦がプロの殺し屋とだから、もうすさまじい殺し合いw
まあ中盤からは、予想通り夫婦が共闘して組織と闘うという風にちょっと展開が変わったけど、スーパーマーケットでの戦いはちょっと「メタルギア・ソリッド」ぽくてそれはまた良い感じ。最後におもちゃの小屋(?)から飛び出していくところは「明日に向かって撃て!」のパロディかとも思ったかな。ただ「明日に〜」と違うのは、そこを切り抜けてハッピーエンドになるところだけども。まあ、コメディ映画と思えば死んじゃイカンか。
秘密の殺し屋のくせにPCから足がすぐ着いたりするのは短絡的な気もしたけど、深いことを考えなければ普通に面白い映画です。
Mr.インクレディブル

(2004年制作)
9
ヒーロー活動が制限されて15年、一般市民として生活していたかつてのヒーロー、インクレディブル。そんな彼のもとにある依頼が舞い込むが…。
かつての活躍、その後のヒーロー活動できない事に対する主人公のうっ積した気分、そこから謎の依頼に手を出してしまう過程のテンポが良い。家庭の事情やなんかの背景描写も含めて割とじっくり描いているのが、家族ドラマとしての厚みに繋がっているよね。でも何より、主人公達それぞれのキャラクターが立っているから面白いんだよな。個性的な能力とそれぞれの活躍の場面もメリハリが最高だけど、個人的には特にダッシュのダッシュが楽しかった。あと、インクレディブルとイラスティガールの夫婦関係は実に良いですなあ。
ヒーローコスチュームの定番であるマントがこの映画のオチになっているけど、中盤であれだけしつこく前振りされたらさすがに察しがつくわw でも前振りと回収がしっかりしている構成が、観ている方として気持ちが良いのは事実。戦闘ロボットの倒し方にしても、ちゃんと前振りがあったおかげで納得してしまうものね。(その弱点は改良されないんだ、とも思ったが。)
作風はどこか懐かしい感じのヒーローものの様でもあるし、実際にはファミリードラマ調の部分が面白い。その一方でまるで007の様なスパイ映画の様な展開もあって、そこがいい味を出しているよな。秘密基地に敵側の美女に…分かりやすいw この60〜70年代の様な雰囲気はブラッド・バード監督の趣味が前面に出ているんだと思うけど、狙ったかのようなマイケル・ジアッチーノの劇判も相まって、観ている側の気分を実に盛り上げてくれる。
ミスター・ガラス

(2018年制作)
8
連続誘拐犯の潜伏先を突き止めた“壊れぬ男”デヴィッドはそこで多重人格の誘拐犯ケヴィンと対峙するが、駆け付けた当局に拘束されてしまう。収監された精神病院には、かつてデヴィッドのヒーロー性を見出した大量殺人犯“ミスター・ガラス”ことイライジャがいた。
2017年に公開された「スプリット」のどんでん返しは「まさか『アンブレイカブル』(2000年公開)の続きだったとは!」という仕掛けだったが、本作はその「アンブレイカブル」と「スプリット」両作の完結編となる。「アンブレイカブル」の公開から18年と少し、1作目が上手くオチのついた作品だっただけに、いまさらその続編となると蛇足にならないか不安だったのだけど、最後まで観ると1作目の続きとしても、3部作の完結編としても上手く纏まっていて感心した次第です。
“超人か否か”という問いかけを話の軸にしているあたりは、「アンブレイカブル」からの雰囲気が継承されていて良い。その上で、超人の存在を否定(社会から隠そうと)する組織の裏をかいて、「自分たちはいるのだ」という事実を白日の下にさらしたイライジャの勝利という話なわけだが、この辺りは今日的な少数者に対する社会的なテーマも感じさせる。まあ迫害される超人の話というのは以前からもあったけれど、本作が「アンブレイカブル」の世界観でちゃんとまとめ切ったところはよく出来ていると思った。悪役ではあるけどイライジャの信念の話だよね。
それにしても主役の3人はともかく、助演の面々もちゃんとオリジナルキャストをそろえてきたところは良かったなあ。デヴィッドの息子を演じるスペンサー・トリート・クラークは13歳から31歳になってたけど、ちゃんと面影があるし、そこに物語として地続きの説得力も生まれているよね。イライジャの母役のシャーレイン・ウッダードもそう。さらに言うとM・ナイト・シャマラン監督も「アンブレイカブル」と同じ役で再登場してるしw
ちなみに、邦題は気に入らないです。前の2作とも主役の形質を表現したタイトルなのだから、本作も「ガラス」で良かったのに…。“ミスター”を付けるとニュアンスが変わっちゃうじゃないか…。
Mr.ノーバディ

(2021年制作)
8
単調な毎日を暮らす中年男性。ある日自宅に押し入った覆面強盗に抵抗せずに見逃すが、そのことで家族に失望されてしまう。
ボロボロの姿で警察に捕まっている男。「あなたは何者?」という刑事の問いかけで“NOBODY”をタイトル表示が大映しに。このテンポの良さのまま時が遡って彼の単調な日常描写に入っていく。この一連の流れで話を掴んでいくあたりは上手いなあ。結果的には彼が政府で“なにかヤバいこと”をやっていた男だということが次第に分かってくるのだけど、そのあたりの詳細もボカしながら彼の素性を知った人間が次々と自主的に降りていくあたりで、観ているこちら側に察せさせるというのがいい塩梅ですね。
なにかの沸点に達して一方的に反撃して圧倒するという流れはやや「ジョン・ウィック」味も感じるところだけど、もっと泥臭い感じのアクションでボロボロになりながらも敵を圧倒していく主人公の姿が痛快。やるとなったらとことんやるあたりに思わず笑ってしまった。主演のボブ・オデンカークはSNL出身のコメディアンとのことだけど、真面目にアクションをしながらもある部分で突き抜ければ笑いにもなるという絶妙な境界を操っているようで感心したね。あとはクリストファー・ロイドの使い方よw ボケ老人かと思わせて…こいつもヤベえ!という流れはある意味でベタだけど、終盤のハッチャケた感じのロイド氏の活躍にはニヤニヤしてしまいました。
Mr.ビーン
カンヌで大迷惑?!
8
前作から10年後に制作された劇場版「Mr.ビーン」第2弾。クジで南仏のバカンスが当たったビーンだったが、案の定ビーンは行く先々で騒動を巻き起こす。
“あるストーリー内での小ネタの積み重ね”という作劇はあまり変わらないけど、前作とは違って話の中心にビーンしっかり据えたことで、TVシリーズ時代に見ていた英国コメディの感覚に近いものになった。個人的には前作のいかにもハリウッド的なコメディよりも、よっぽど楽しめたね。
ビーンは身近にいればとってもウザいけど、でも本当に悪い奴でないというところがニクめない。今作でも自分のせいで生き別れ(?)になった少年に協力しようとするし、カンヌまで車に乗せてくれた女優のために上映作品を改竄(!)するしw
展開はビーン中心の小ネタばっかりかと思いきや、終盤に行くにつれてバラバラのネタだった話が纏まってくる脚本は良かった。背景に過ぎなかった人たちが一同に会し、ラストの大団円はまた何とも気分よく観られます。ネタのストック的に多くできる映画ではないかもしれないけど、この感じで3作目があれば嬉しいかも。
本作はパリ〜カンヌのロードムービーでもあるけど、フランスの風景がまた良い感じでした。
Mr.ホームズ
名探偵最後の事件

(2015年制作)
7
ミッチ・カリンの同名小説の実写映画化作品。田舎で余生を送る93歳のホームズ。彼は家政婦の息子との交流を通じて、自身も忘れていた最後の事件を回想する。
シャーロック・ホームズと言えばコナン・ドイルの小説だが、そのキャラクターは一人歩きしている部分もある。この原作小説もそんなホームズへのオマージュみたいなものなのだろうか。しかしバリバリ現役のホームズではなく、年老いて記憶もあやふやになった老人として描かれる姿は、ホームズ像としてはユニーク。話の主軸は、探偵を引退し田舎で隠遁するような、そんなホームズに何故なったのかという謎解きだ。
引退のきっかけはホームズ自身も忘れている。劇中の色々な切っ掛けでその事件を思い出して行くわけだが、場面が3つの時間軸を行ったり来たりする構成なので少々テンポが止まりがちかな。まあ終盤に話がまとまっていく段になってからはそれぞれの時代で経験してきたことの意味が繋がってくるのだけど。彼の孤独と人の死という十字架、そしてその先に得た人との関わりを描いたドラマとして最終的な鑑賞後感は良いものの、話としてはずいぶん地味…いや渋いドラマだった。
劇中でヒロシマが扱われたところはちょっと面を食らったが、原作者によると「あそこで彼は科学が、そして奇しくも理性が人間にもたらしたものについて考えさせられることになるんだ。」とのこと。そう思うと、ケルモット夫人の事件の結果が、彼の推理と言葉によってもたらされた事の暗喩でもあるのか。この映画のホームズにとって、それほど強烈なショックだったということなのだろう。
現役最後のホームズと、年老いたホームズを演じ分けたイアン・マッケランの演技はさすがとしか言いようがない。
ミスティック・リバー
8
「もしあの出来事が無かったなら、人生はどうなっていただろう。」とふと思うことがある。この映画はそんな出来事がまさに悲劇へと発展していく。殺人ミステリーは犯人探しがメイン。娘を殺された父、誘拐された心の傷が癒えない男(容疑者)、その犯人を捜す刑事。設定としては平凡に見える。でもその3人が幼なじみということが、この映画の悲劇性を増大させている。イーストウッドの演出が光り、3人の葛藤が痛いほど伝わってくる。それはある意味で“男”の世界。人物設定が深い実に良くできた物語。この映画での3人それぞれの結末は違っている。1人は人の弱さに負け、1人は文字通り十字架を背負い、1人は心を開き始める。その結末は全て冒頭の事件がきっかけだ。もしあの時何かが違っていれば悲劇は起きなかったかもしれない。実に重い映画だし悲劇ではあるけど、全てがやりきれない気持ちになるわけではない。その答えは最後のパレードに凝縮されているのだろうか。
ミスト

(2007年制作)
9
突如現れた町を覆う霧。霧の中にいる人間を襲う何者かから逃れるため、スーパーに立て籠もった人々の姿を描いたスティーヴン・キング原作小説の実写化ホラー作品。
俺はこの作品を観ながらヒッチコックの「鳥」を思い浮かべたりもしたんだけど。得体の知れない異形の怪物に襲われる。スーパーに立て籠もる。脱出を試みる…。このプロットだけ書けば完全にモンスターパニック映画だね。でもこの作品はそこが主眼なのではなく、実は極限状態に陥った人間の業を描いた見応えのある作品でした。
表面的には人々が一斉に狂信的な宗教に走った時の怖さを受け取ってしまうかもしれない、本当に恐いのは人間だってね。でもさらに“正しいと信じてやったこと”が“実は必ずしも正しくない”というまさに現代アメリカを象徴するかのようなテーマがあって、それが(主人公にとって)救われないエンディングに繋がっていく…と。そういう描き方をされると、もはやモンスター映画の皮を被った社会ドラマだと思った。確かに後味の良い作品ではないけど、9.11以降でないと多分この発想にはならなかっただろう…。
宗教がかったオバサンが今作最大の悪役だけど、この実にイヤな役をマーシャ・ゲイ・ハーデンは見事に演じてました。お見事。
ミス・ペレグリンと
奇妙なこどもたち

(2016年制作)
7
ランサム・リグズの小説「ハヤブサが守る家」を実写化したファンタジー作品。不審な死を遂げた祖父の最後の言葉に従って島を訪れた主人公は、そこで奇妙な能力を持つ子供たちが暮らす家に招かれる。
特殊な能力を持つがゆえの迫害から子供たちを守るミス・ペレグリン。郊外の屋敷で共同生活をしている様子は確かに「X-MEN」の設定を思い浮かべてしまうものの、ループと呼ばれる閉じた時間の中に存在させることで閉鎖的な世界観を作り出している。主人公が存在する現代と違ってループの中は1943年9月3日のままになっているが、主人公の祖父の昔話を父親が否定気味に「別の意味」だと言ったように、その年代はただの懐古趣味というよりはナチスによる迫害の暗喩として背景に深みを出そうとしているようにも思えた。ただ映画としてはそのテーマが深まることはなく、インブリンとバロンという彼らの中で閉じた問題に終始しているので、物語としては少し表面的な印象。まあ主人公のジュブナイル的な物語とすれば普通には楽しめるが。
奇妙な能力を持つ子供たちの話はいかにも監督のティム・バートンが好みそうな設定だなと思ったけど、個々の能力は割かし地味。それが合わさることでラストの闘いに挑めるというのはいかにもだけど、双子が本気を出せばもっと早くケリがついてたんじゃないの?とも思ってしまった。まあそれを言っちゃおしまいだが。
それにしても名優ジュディ・デンチの退場の仕方はあれでよかったのか?いや、あれはサミュエル・L・ジャクソン(バロン役)の「ディープ・ブルー」のパロディだったのかもしれないな…それなら納得だが。「アルゴ探検隊の大冒険」のオマージュもあるし、監督本人もチラッと出ているし、終盤は割と遊んでいる感じはあった。


(1954年制作)
8
怪力自慢の旅芸人・ザンパノと、その男に助手として売られた白痴の女・ジェルソミーナ。彼らの旅を通して人生の物語を描いたフェデリコ・フェリーニの代表作。
粗野な男と純粋な女が落ち着くところに落ち着く話かと思いきや、そうはいかない切ない物語が、この映画を名作と言わしめる所以か。まあ半世紀前の映画なのでそれなりに古さは感じるが、見せ方は上手い。進行上はジェルソミーナが主人公として、彼女の視点からザンパノが観察されるのだけど、終盤はそこが見事に転換されてザンパノの心情変化が怒涛のように押し寄せてくる。これは見事だったなあ。彼が嗚咽するクライマックスは心に刺さりました。
やはりそのラストで感動するというのは、そこまでの積み重ねがあってこそ。ザンパノやジェルソミーナ、綱渡り芸人のキ印という人物は、それぞれに人間性のある一面を持たせたキャラクターなんだろう。キ印は確かに狂ったキャラだとは思うけれど、ジェルソミーナに「存在することには意味がある」と語るシーンで彼の深いところに心打たれた。それだけに展開としては何とも悲しいのだよね。
未知との遭遇

(1977年制作)
7
スピルバーグの描く宇宙人との「第三種接近遭遇」。
ちなみに、観たのは“ファイナルカット版”です。SFと言えばそうだけど、どうにも主人公の行動を引いた目で見てしまって話に入れない。いくら頭からある光景が離れないからって家族を捨ててまで行動するのか。当時のUFO関連の話題を繋げてストーリーラインを作った映画なので、そういう影響を受けた人物もいて、この映画では主人公にそう設定しただけのことなんだろう。でも俺は主人公じゃなくてその家族に同情してしまって仕方ない。だからこういう影響を与えるこの映画の宇宙人もほんとに友好的なのかどうかすら怪しく思ってしまう。(実際誘拐もしてるわけだし)
まあ映画のテーマは“第三種接近遭遇”なわけで、そういう意味では全くその通りの映画なんだけどね。クライマックスの宇宙人の母船が現れるシーンは確かに震えすら来るし。宇宙人や宇宙船の神秘さ、音を言葉にしようとしている描写は良いと思うんだけど、やっぱり常軌を逸した行動で家庭が崩壊していく様を観るのは楽しくない。
ミッション
7
1750年代、原住民達にキリスト教を布教した宣教師達と、その地を征服しようとするポルトガル軍との闘いの実話を描いた作品。
非常に台詞の少ない映画。そもそも原住民達の言葉には字幕もないし、どちらかというと言葉よりも映像で人々の心情を描いてくれる。主人公の宣教師ガブリエルの殉教の精神、そして義に燃える元奴隷商のメンドーサの姿に感動するね。
しかしこの話を理解するには、背景にあるイエズス会と国王達との利害関係を知っておかないといけない。そういう意味で日本人にはちょっと敷居が高いかも。そこに描かれる精神は観ていて伝わってくるとは思うけど…。
保護統治地を作り原住民達の利権を保護したイエズス会の精神は正しいものとは思う、でもそれが結局は部族の破滅に繋がってしまった。「布教自体が彼らにとって幸せだったのか?」という自問が劇中にモノローグとして出てくるけど、なかなか、重い事実ですな…。
ミッション:インポッシブル

(1996年制作)
8
トム・クルーズ主演、「ミッション:インポッシブル」シリーズ第一弾。CIAの諜報員リストを巡る作戦中、次々と仲間が殺され生き残った主人公イーサン・ハント。本部からも追われる身となったハントは事件の発端となった裏切り者を探す。
冒頭の変装を外すシーンからTVドラマ版と同じテーマ曲、そしてダイジェスト映像。カッコイイ! それはそうとしても、2時間弱の中で非常にテンポよく事態が推移し、余計な脇道もなく一気に最後まで観せてくれる構成の上手さは見事。監督のブライアン・デ・パルマは少々クセのある作品が多いという認識だけど、彼のヒッチコック好きが本作のサスペンス・ミステリー調のストーリーとマッチしたのだろう。マックスに会うために車に乗るシーンのワンカットが、もっともデ・パルマっぽいシーンだろうか。
結果としてフェルプス君が黒幕だったというのがTV版視聴者に対する最大のサプライズというところだろうが、主役交代の方法としてはちょっと力技かな?でも冒頭でフェルプスが指令を聴くシーンと、エンディングでイーサンが映画を進められるシーンで対比など、いちいち構成でニヤニヤしてしまっていかんw よくできているよ。
有名な天井ぶら下がりは観ている側にも緊張を強いる名シーン。まあ部屋の警備システム自体が映像で見せるために作られたようなセキュリティなので、冷静に考えればセキュリティとしてそれでいいのか?と思わなくもないが、映画的ケレンということで。システム担当の更迭やTGV車掌の気絶など、ユーモアも良い味を出している。スパイグッズとしてはメガネのカメラや爆発するガムと地味な感じではあるが、冒頭で使用してみせておいて、しっかり終盤で使いこなしているあたりも伏線の張り方が上手いね。
M:I−2

(2000年制作)
7
トム・クルーズ主演、「ミッション:インポッシブル」シリーズ第二弾。感染後20時間で治癒不可能となるウイルス「キメラ」をめぐって、イーサン・ハントと元IMFであるショーン・アンブローズの攻防が繰り広げられる。
トム・クルーズのPVだよね、これ。冒頭のフラメンコダンサーを挟んでナイアと見つめ合うシーンなんて、クサくて失笑してしまったw 女を口説き落とし、スパイの潜入とは思えない銃撃戦を繰り広げ、なんだかジェームズ・ボンドの様な活躍ぶりだけど、個人的に期待するスパイ合戦とは違ったなあ。チームもいるっちゃいるけど影が薄い。基本的にトム・クルーズのアクションのための映画になっている感じ。まあジョン・ウーを監督にしておいて鳩も二丁拳銃もスローモーションも無しじゃ宝の持ち腐れなのも理解するし、一作ごとにテイストを変えたいということなのかもしれないが。
アクション映画としては派手で見応えはある。ウイルスを巡る話としても退屈はしないし、変装でのどんでん返しや小指のけがの伏線も上手いと思う。でも変装はちょっと中盤でも使いすぎたので、逆にクライマックスシーンでの意外性がちょっと薄くなってしまったかもね。ただ何となくこの映画にノリきれないのは、きっとイーサンとショーンの女の取り合いが動機の半分以上を占めているからだろう。ウイルスは深刻な話のはずなのに、どうも私情の要素が大きくなると「プロとしてどうか?」というところが気になってくる。これがチームとしての友情ならまたちょっと違うんだけど、やっぱり痴情のもつれに見えちゃうとね…。
M:I:V

(2006年制作)
7
トム・クルーズ主演、「ミッション:インポッシブル」シリーズ第三弾。第一線を退いていたイーサン・ハントだったが、教え子の諜報員の死に直面し、暗躍するブラックマーケットの商人・ディヴィアンに接近する。
雰囲気としてはシリーズ1と2の間の様な感じ。ただストーリーの背骨がハントの個人的な部分…、教え子であったり新婚の妻にまつわる部分になってしまったので、どうも俺が求める「ミッション:インポッシブル」的なスパイ合戦とは違うかなあ。身内が敵に捕まったので云々という流れは「24」っぽいし、ディヴィアン護送時に襲撃された時も、逃げた敵の行方よりも妻の安否の方を優先とか…。スパイというプロの仕事の最中に私事が入ってくると、どうも興をそがれてしまう。
でもチームワークを生かしたシーンは割と良かった。バチカン潜入の場面は特にらしくて良い。それなのに後半の上海ビル潜入などは、どうもアイデアが物足りなく見えてしまうので残念。ビル内部の攻防も描かれず、チームは内部状況が分からないまま待つだけとか、どうもなあ。
劇中で奪い合うことになる"ラビット・フット"は、結局最後まで何なのかわからず終いのマクガフィン。そういうところは嫌いではないけどね。
ミッション:インポッシブル
ゴースト・プロトコル

(2011年制作)
8
トム・クルーズ主演、「ミッション:インポッシブル」シリーズ第四弾。今作は核戦争による世界の再構築を目論む思想犯によって、クレムリン爆破の濡れ衣を着せられたイーサン・ハントのミッションを描く。
核戦争の危機を縦軸に、ミサイル発射のタイムリミットが設定してあるので、スピーディーかつスリリングに話が進む。濡れ衣のせいで孤立無援となり、残されたチームのみが陰謀を止める最後の希望…というプロットはベタだけど、やはり観ていて面白い。どちらかというとイーサン・ハントは諜報員として超人的アクションのせいでキャラが立ち過ぎるのだが、今作では"チーム"としてのまとまりが好印象。色々なガジェットが楽しく、随所に入るジョークなども緩急のつけ方が上手いが、「007」のような雰囲気もあるか?廊下の偽装スクリーンは凝っていて面白いね。
今作は久々にチームメンバも豪華。ジェレミー・レナーやサイモン・ペッグといった主演級の役者もいるし、特にペッグはコメディリリーフとして良い味を出してましたw
それにしても、監督のブラッド・バードはアニメから実写に移ってもいい仕事をしたと思う。話のテンポやチームの描き方が良いのもそうだけど、「スパイ大作戦」としてのお約束もきちんと押さえてあるし、観ていて楽しいですよ。なにより、パーソナルな話よりも世界の危機を救う諜報員の話の方が、やっぱり燃えますw
ミッション:インポッシブル
ローグ・ネイション

(2015年制作)
9
トム・クルーズ主演、「ミッション:インポッシブル」シリーズ第五弾。実在が確認できていない悪の組織「シンジケート」。その組織を追うイーサン・ハントだったが、そのころIMFは解体され、CIAの一部署に編入されてしまう。
素直に、面白かった!オーソドックスな展開だとは思うんだけど、その王道ぶりが気持ちいくらいに盛り上げてくる。敵か味方かわからない女スパイ、全てを先読みしているシンジケートのボス・レーン、次から次に「さあどうやって切り抜ける!?」と思わせる窮地の数々に引き込まれてしまう。バイクチェイスも特筆ものの迫力だったね。レーン役のショーン・ハリスは“爬虫類の様な”という形容がぴったりくるような悪役ぶりで、腕力ではなく策略で生きるスパイって感じが良く出てる。その冷血さが故にラストで捕えられたシーンは観客としても「やった!」と思ったよ。
このシリーズがトム・クルーズの俺様映画であることは変わらない。でもチーム戦としてのまとまりはシリーズを追うごとに見応えを増している感じ。やはりジェレミー・レナーとサイモン・ペッグというキャラクター性の強い助演が効いているよなあ。今作ではアレック・ボールドウィンが敵とはまた違った味で盛り上げてくれた。IMFの解体を主導するわけだからある意味で敵なわけだが、英国首相拉致のくだりではそれがシリアスと微妙なユーモアの引き立て役として効いていたし、映画のオチが彼だというところにも生きていて面白い。
最後に、「007」で言えばボンドガールのイルサ役レベッカ・ファーガソン。てっきりイーサンと恋仲になるのかと思いきや、好意はあるようだけれどあくまでプロのスパイとして行動する彼女のキャラクターが気に入りました。そうなんだよな、こういうプロとプロが真剣勝負する様な話では、私情で横道に走ったりピンチになったりする話があって気に入らないことも多かったんだけど、今作はイーサンもイルサも最後までプロだったと思う。逆にペッグ演じるベンジーが拉致られたり救われたりしてるんだから、立ち位置としてはヒロインみたいなもんだよなw
ミッション:インポッシブル
フォールアウト

(2018年制作)
8
トム・クルーズ主演、「ミッション:インポッシブル」シリーズ第六弾。盗まれたプルトニウムの奪還に失敗したイーサン・ハント。ハントは再奪還のためホワイト・ウィドウと呼ばれる女に接触するが、彼女からの要求は元“シンジケート”のリーダーで収監中の宿敵、ソロモン・レーンの身柄だった。
前作はスパイアクション映画という感じでスパイ映画としてちゃんと面白かったが、監督も続投した本作はアクションスパイ映画とでもいうか、アクション比率がすごく高くなって…もはやアクションシーンの合間でスパイをやってるような感じw これだけアクション一辺倒なのに、一応敵味方の駆け引きや攻守がころころ変わる面白さもあるし、ヨーロッパという舞台がスパイ映画としての雰囲気を盛り上げてくれているのもあって、飽きが来ないのは良かった。お約束の変装も上手く使われているし。
それにしてもチェイスばっかりやってる映画だよなあ。車でパリの街中をチェイス。ロンドンのビルの上を走ってチェイス、そしてヒマラヤの麓でヘリをジャックしてチェイスw 特にヘリのチェイスアクションは目を見張るものがあったが、機内からの固定カメラの映像が臨場感に直結していて迫力を引き出していたね。トム・クルーズの身を張ったシーンの数々もただただ「すげえ」とは思うが、本作はスパイというよりはアクションヒーローに寄りすぎてしまったような気はしなくもない。まあいいんだけど。
そうそう、ハントの理解者であるIMF長官のハンリーですが、演じるアレック・ボールドウィンの貫禄と愛嬌も相まって本作も良い感じだったのに、まさか殉職して退場になってしまうとは。良いキャラだったのでちょっと惜しい。
ミッション:インポッシブル
デッドレコニング PART ONE

(2023年制作)
8
トム・クルーズ主演、「ミッション:インポッシブル」シリーズ第七弾。世界の脅威となる兵器の"鍵"。その奪取に挑むイーサン・ハントは、ハントの行動を読んでくる"敵"の差金と対峙することとなる。
冒頭の潜水艦アクションから映画のテンションは上がりっぱなし。アクションに次ぐアクションで2時間半を超す上映時間も気にならないほどの勢いがあって、気持ちのいい作品でした。しかもそれでも2部作の前半部分。早く続き(PART TWO)を観せてくれw
潜水艦とその"鍵"自体が壮大なマクガフィンになっていて、とにかくそれを手に入れることが本作の命題だという構図はわかりやすい。一方で"敵"がハントに拘る理由が「脅威になると認知したから」というのはやや抽象的だし強引だなあとも思ったのだけど、アクションメインの作品でその渦中に主人公を据えるにはそれくらい割り切ったほうが良いというのも理解する。その本作の"敵"…、"それ"と呼ばれる存在は米国の開発したAIで、破壊工作のためにロシアの原潜に侵入した後に想定外の敵対的行動を始めたというもの。なんだかそのプロットだけ聞くと「攻殻機動隊」の"人形使い"みたいな感じもするけど、まあそれはご愛嬌。一方で"それ"側にいる差金の人間がハントの過去とも因縁があって戦うことになるわけで、その三つ巴のお陰でアクションシーンが賑わって面白くなっている様に思う。
メインキャストは引き続き登場するものの、レベッカ・ファーガソン演じるイルサは中盤で死亡。死んでほしくないキャラクターだっただけに残念だけど、次作で実は死んでなかったとかにならないだろうか? 逆に新たにヒロインとなったのはヘイリー・アトウェル演じるグレース。彼女は凄腕のスリというか犯罪者だけど、ハントの向こうを張った騙し合い、掛け合い、バディ感は悪くなかったかな。シリアスなアクションシーンの最中でもちょいちょい笑わせにかかるシチュエーションを混ぜてくるので、そのへんも楽しかったですね。
ミッション:8ミニッツ

(2011年制作)
8
列車爆破テロに遭った乗客の、最期の8分間の意識に入り込み犯人を捜す極秘任務に就いた主人公の運命を描いたSFドラマ。
同じ8分間を何度も繰り返しながら状況を変えていく。それ自体はSFではよくあるプロットだけど、この映画では“主人公がこの任務に就いている理由”、“8分間の過去の出来事を再現するプログラム”の仕掛けがドラマ部分で効いてくる。監督のダンカン・ジョーンズは、状況の裏に隠された真実を知った上で前に踏み出す男の姿を、前作の「月に囚われた男」でもを描いたけれど、本作でもその構造は似てるかな。でも限定されたその空間の使い方が上手いですわ。
最初に提示されるテロ犯特定の部分があっさりしているのは、やはりこの映画の主題が主人公の運命にあるからだと思う。すべてを把握し、たとえそれがプログラムだとしても…と行動した最期の瞬間。停止したその時間の姿は実に美しかった。それだけにその後に続く展開には驚いたがw 量子論のことが提示されていたとはいえ、まさか並行世界を使ってグッドエンドにしてしまうとは。でも鑑賞後感はすごく良いのです。
ミッション・トゥ・マーズ
5
これはどうだろうか・・・。ちょっと「2001年宇宙の旅」の影を追いすぎたんじゃないかなぁ。後半になればなるほどしんどくなってくる。個人的にエンディングは全然いただけません。前半の科学的な感じはよかったのに・・・、変な理由付けとかもどうかと思うし、もういっそのこと、あの宇宙人は出さなければよかったのでは・・・?
ミッドウェイ

(1976年制作)
7
太平洋戦争において、日米にとってその後の戦局を大きく左右することになった“ミッドウェイ海戦”を日米両方の視点で描いた戦争映画。
名作「トラトラトラ」と似たようなイメージの映画だけど、こちらは日本人の監督は参加していないし、出てくる日本人もみんな英語を喋る。でも日本人を単純な侵略者じゃなくてちゃんと人間として描いているし、主観的になりがちな戦史モノとしてはまだ良い方かな。
そういう点で、米国軍人と日本人女性の話は、相手を単なる“敵”としない意味で好意的に受け取っているけど。まあ、軍事的な駆け引きという本筋にはあんまり関係ないんで、蛇足ちゃあそうかもしれないけどね。それと、ヘストンが息子の仇討ちと言わんばかりに飛龍を急降下爆撃する様は、「ああ、アメリカ映画だなあ」と思ってしまったw
しかし度々実際の記録映像が差し込まれるけど、その撃墜や爆発の場面でリアルに戦死者が出てるんだと考えてしまうと、正直なところエンターテイメント作品では素直には楽しめないなあ。
ミッドウェイ

(2019年制作)
7
太平洋戦争において選挙区の転換点となった“ミッドウェー海戦”を描いた戦争映画。
監督がローランド・エメリッヒだと聞くと観る前から「派手なんだろうなあ」と勝手な想像をしてしまうけれど、そういう意味ではハズレてはいなかったw 最新のVFXを駆使した戦闘シーンの派手さは折り紙付きだね。ただ全体的にはいかにも“アメリカ映画”という印象の米国視点での戦争映画で、戦史的に重要な位置づけの海戦を舞台にしているものの、爆撃中隊の大尉の姿をドラマの軸に据えている以外には基本的に個々人のエピソードを並べているだけのようにも感じるのがもったいない。登場人物は多いのでもう一歩ずつ踏み込んで描ければ群像劇としても面白くなれそうだったけれど、そこまではいかなかったかなあ。ストーリーとしてアメリカにとっての“逆転勝利”を描きたかったという構成は分からなくはないけど、真珠湾攻撃〜ドゥーリトル空襲〜(珊瑚海海戦)〜ミッドウェー海戦と多くの要素を詰め込んだことは、戦略面での攻防を表面的に感じさせてしまった一因かもしれない。少々、戦争におけるマクロとミクロの視点がどっちつかずになってしまった感はあるかな。
日本人として日本側の描写が気になるかと聞かれれば「そこまで気にならない」というのが本音。「パール・ハーバー」のことを考えればもう全然気にならないw でもエピソードの追い方は総じて淡白な感じで、これも米国視点からの日本観という印象は強い。
そういえばミッドウェー島で撮影しているジョン・フォードが登場してましたが…あの扱いはギャグだよなw 映画の神様をもこのように扱えるとは、エメリッヒ監督…強いわ。
ミッドサマー

(2019年制作)
7
スウェーデンのとあるコミュニティで行われる「夏至祭」。米国の学生たちは夏の旅行の行先にその地を選び、祭りを"体験"することになる。
とても居心地の悪い(ホラーとしては正しいスタイルの)映画「ヘレディタリー/継承」を撮ったアリ・アスター監督の長編2作目。この映画も相変わらず居心地が悪いですなw 内容的には文化的価値観の異なるコミュニティの儀式に巻き込まれるという異文化コミュニケーションものだけど、そういう点では割とよくある舞台設定な印象ではある。観ていて日本の「TRICK」なんかも連想したけど、要するにある種のカルト集団との価値観のギャップが気味の悪さに繋がっている感じかな。そしてそれを助長するかのようなモンタージュ的な壁画や死体の差し込みと、トリップによる空間のゆがみが不安感を煽っていく。見せ方は上手い。
でもこの映画の根幹って実はそこじゃなくて、主人公のダニーが彼氏やその友人から受ける疎外感や不安からの脱却がテーマだよね。彼女の最後の笑顔などは、彼氏を丸焼きにしたことでこれまで依存から抜けられなかった呪縛をついに捨てられたという、不安からの解放の象徴としてとても強烈だった。
ただ個人的には、話の纏まりに対して少々設定が先行しすぎている印象もあって。72歳を超えた者は生まれ変わりのサイクルのために自死するという風習はなんとなくわかるけど、生贄が9人である必然性などはいまいちよく分からなかったなあ。特に「90年に一度」という祭りのサイクルは「72歳以上がみんな死ぬならだれも前回の祭りを知らないんじゃねえの?」とか「祭りの作法が維持されているということは小規模な祭りは毎年あるってこと?」とか野暮なことが気になってしまって、俺の中ではどうもよろしくない。そもそも老人の自死は毎年やってるのか?90年に一度なのか?どうだっけ。まあそのあたりは雰囲気優先だろうから気にしてはいけないのだろうけども。
ミッドサマー
ディレクターズカット版

(2019年制作)
7
スウェーデンのとあるコミュニティで行われる「夏至祭」での出来事を描いたホラーのディレクターズカット版。
いわゆるディレクターズカット版というものには通常公開版と比べて印象の変わる作品と変わらない作品があって、「ブレードランナー」に代表されるような前者はその価値もあると思うんだけど、ただ未公開シーンが復活しただけのような後者は個人的にはいまいち魅力を感じない。劇場公開版に23分の追加シーンが入ったこのバージョン(170分!)はどちらかというと後者で、追加したシーンがあってもなくても作品の印象は変わらないかなあ。主人公・ダニーと彼氏であるクリスチャンとのすれ違いによる口論が1回分多くなったので、それによってラストの選択がより強化されているとは言えるけど、相手に対する鬱屈した感情を普段から抱えているというのは最初から何度も表現されていて分かるので、むしろ「そりゃカットした方が全体のテンポは良いわな」という風に思ってしまった。序盤の車内の会話も公開版を先に観てると冗長さの方が強い感じ。
他に通常公開版(R15+)との大きな違いがあるとすれば、本作をR18+指定にしたことで後半にある性交場面でのボカシを無くしたことか。公開版のボカシが入るタイミングは唐突すぎで映倫の無粋さには呆れるばかりだったので、確かにこのバージョンの様にボカシがない方が良いのは間違いない。ただ、そのボカシがあってもなくても話は変わらないのも事実。「ぼくのエリ 200歳の少女」の様に設定の根幹がボカシによって隠されたのならボカシなし版を見る価値もあるけど、本作は腰の動きや局部を隠してるだけだからなあ。
そういうこともあって、個人的にはこの作品の魅力(?)は通常公開版だけでも十分堪能できると思うので、どうしてもボカシなしが観たいというのでなければディレクターズカット版にこだわる必要はないんじゃないかと思った次第。
ミッドナイト・イン・パリ

(2011年制作)
9
フィアンセとパリに滞在中の売れっ子映画脚本家。小説家への転身を目指す彼は、ある晩にパリを歩いているとクラシックな車に呼び止められ、成り行きでパーティーに参加するが…。
ウディ・アレンのハイソなコメディセンスが抜群に魅力的。小説家志望の男が1920年代のパリに迷い込んで、F・スコット・フィッツジェラルド、ヘミングウェイ、ピカソ、ダリらと出会、ガートルード・スタインに指導してもらう…などという奇想天外な話だけど、実に映画的な夢があるじゃないか。主演のオーウェン・ウィルソンは、雰囲気からしてウディ・アレン的なキャラクター表現が上手く、このコメディをアレン自身の映画たらしめている。たまの挙動不審な仕草とか良いw 偉人を演じる役者たちも豪華。
あの時代のパリは、芸術界の偉人が集まっていてスゴイな…と感じさせる映画でもある。でも映画のテーマとしての、「懐古主義的な"黄金時代"という羨望は、それでいいのか?」という気づきがしっかりした背骨になっている。あれだけ憧れの偉人に出会って浮かれていた主人公も、しっかりと成長が見て取れるし。ちゃんと落ち着くところに落ち着いた纏め方が、彼の人生も良いようにいくのではないかという希望が見えて、綺麗で良い感じだったね。
mid90s
ミッドナインティーズ

(2018年制作)
8
1990年代半ばのロサンゼルス。13歳の主人公の少年・スティーヴィーは、路上でスケートボードを楽しむ若者に憧れて兄のお古を手に入れる。いつしかその若者らのグループの仲間となった主人公の日々を描いた青春ドラマ。
この映画の90年代という舞台設定は、監督のジョナ・ヒル自身が過ごした子供時代に重ねている部分もあるのだろうか。俺自身も近い年代だけれど、90年代がもはやノスタルジーとして扱われる様になったのだなと思うと、自分自身も歳を食ったことを思い知らされる。
それはそれとして、本作は青春グラフィティとして上手くまとまっていて良い映画だった。力では叶わぬ兄がいて、街には憧れるちょっとした不良がいて、背伸びをしたり喧嘩をしたり、仲間同士で思いやったり。そういう日常の風景は子供が青年になる成長の過渡期として誰しもどこかに共感を見いだせるものだろう。俺自身はこの少年のような子供時代の行動も経験もしなかったけれど、彼が身の回りの世界に感じた憧れや大切に感じるものには共感したし、かつての自分も同じ様に世界を見ていたかもしれなかったことを思い出したな。
作品としては13歳の少年の目線で話が進むけど、周りの人たちの背景描写にも厚みが感じられるのが良い。グループの一人でプロのスケードボーダーに憧れているレイが人としては最も“大人”で、彼が拗ねる主人公を深夜のスケボーに誘うシーンは特にこの作品に深みを与えていると思う。グループは率直に言えば不良の集まりではあるけれど、主人公の人生の一場面においてはかけがえのない仲間との出会いだったことは間違いないだろう。
みなさん、さようなら
7
死の床にある老人と、彼を温かい目で見守る人々の話。個人的に「何て幸せな死に方か」と思う一方、この老人のような思想は持っていない俺には、人物に対して少し壁が出来てしまった。
そう、この老人は物凄い好色男(だった)で、見舞いに来た仲間との会話は下世話な話ばかり。でもそれはただのエロジジイなのではなく、若き日の彼にあって享楽的社会主義という一種のイデオロギーの体現だったわけだ。だから俺には人物に対しての壁はあるものの、人格否定はしない。そういう思想の人もいると思う。その辺りを踏まえてこの映画を観れば、「文革を褒めた事は間違いだった」と言うくだりや、60年代の教会離れ、ドラッグ問題等、ヒューマンドラマの体でかなり社会派なドラマだと思う。
死に際に自分の好きな土地で、仲の良い友人に看取られ、苦しまずに死んでいく。幸せなオヤジさんだ。「お前のような息子を作れ」という最期の息子への言葉は、疎遠だった息子に対しての最高の感謝の表現だと思うね。
皆はこう呼んだ、
鋼鉄ジーグ

(2015年制作)
7
TVアニメ「鋼鉄ジーグ」をモチーフにしたイタリアのスーパーヒーロ映画。
冒頭、日本語で表示されるタイトル(邦題と同じ)は監督自ら日本語に訳したタイトルという事で、日本語としてはちょっと違和感もあるかなw ロボットアニメのリメイクというわけではなく、実際にはヒロインが「鋼鉄ジーグ」の登場人物と超人的な身体能力を身に着けた主人公を重ねて捉えているという話。なので、「鋼鉄ジーグ」は引き合いに出されているにすぎないけど、“ヒーロー”と同義の名詞としてロボットアニメのタイトルを使われるという事に日本人としてはいい意味でこそばゆい嬉しさはある。
分類的にはスーパーヒーロー映画という事になるのだろうけど、こういう切り口もあるのかーという一風変わった感じだね。基本的にはチンピラをやっている不器用な男がヒロインとの交流を通じて人としての正義に目覚めていく流れで、マフィアの小競り合いに巻き込まれるあたりもどちらかと言うと犯罪映画のフォーマットに近い感じ。そのヒロインが死んでしまう場面には「マジかー…」とは思ったけど、これは俺がこの話に上手く引き込まれてしまっていたということだわな。主人公がその彼女の最期の望みに触れるくだりから終盤にかけては良い熱さだと思う。アクションシーンは全体的に低予算な感じもするけど、世界観に合った規模感ではあるか。
MINAMATA
-ミナマタ-

(2020年制作)
7
1970年代に水俣病を取材した米国の写真家、ウィリアム・ユージン・スミスの姿を描いたドラマ。
四大公害病の水俣病は自分も子供の頃に学校で習ったけれど、ユージン・スミスはその時に教科書に載っていた「入浴する智子と母」を撮った人物。彼がその写真を撮影するに至る道程が2時間に纏めるとともに、公害病の悲劇と企業責任について考えさせる内容となっている。スパイじみたやり方で病院の資料を漁って「チッソは動物実験で水俣病の原因が排水にあることを昔から知っていた」とするくだりは実際には別の人物がさらに過去に行っていた話だし、買収提案や放火のくだりのようにドラマとして殊更に脚色しているのがちょっと気になる部分もあるけど、まあそこはドラマだからしかたないか。
自分としては「写真は魂を奪う、被写体の魂ではなく、撮影者の魂もだ」というユージンの台詞に考えさせられた。彼は写真家として“水俣の事実”にどう向き合ったのか、そして「入浴する智子と母」にどんな魂を込めたのか。終盤にユージンの撮った写真を見たLIFEの編集長が「やりやがった」とつぶやくが、その彼の(実際の)写真に込められた魂には誰しもが当てられるだろう。水俣病を題材にした作品ではあるけれど、それ以上に写真家という生き様を考えさせられる伝記だったとも思う。
主演のジョニー・デップはとても落ち着いた演技でユージンを好演していたね。アイリーン役の美波もデップの相手役として全く引けを取らなかった。町並みを大きく撮れないのは日本でロケをしてないからだとは思うけど、その部分では映像的な窮屈さも感じる部分はあったかな。建屋の外観や構造が日本の様で何か違うのも気にならなくはないが、まあそこは脳内変換できる許容範囲か。少なくとも出演者を日本人で揃え、基本的に変な日本観もなく真摯に作られていた部分は良かったと思う。
ミナリ

(2020年制作)
7
1980年代のアーカンソーの田舎町。農場主になる夢を抱いて移住してきた韓国系移民のジェイコブ・イーとその一家の姿を描いたドラマ。
この作中で起きる出来事は、監督のリー・アイザック・チョンが幼少期に体験した出来事から着想しているという事で、そういう意味では半自伝的な作品という感じ。最近で言えばキュアロン監督の「ROMA」に近いモノも感じるけど、この映画はもっとパーソナルなものという印象かな。少年と祖母の関係性の変化にドラマはあるし、家族の間でいろんな出来事が起こる。でも全体的に普通の家族の姿とでもいうか、父と母の姿というか、日々の生活の中で起きることから切り出された世界だよね。そういう地に足ついた部分に対しての共感はしやすい一方で、わざとらしい盛り上げ方もしないので、正直言うと少し時間の長さも感じる。でもそのトーンで首尾一貫しているというところが作品の魅力ではあるか。
終盤の火事だけは本作の中で目立って映画的だった。ここは主人公のジェイコブが“守ろうとするもの”をハッキリさせるシーンとして意味があるし、映画のクライマックスとしての画としてもありだったかな。演出的には、個人的にはジェイコブが家族か夢のどちらを優先しようとしているかの象徴に、家の水道をつかっているところが上手いなあと思った。蛇口から水が出てくるシーンはハッとしたね。
ところで、本作のタイトルであり、移民一世を象徴的に表現する意味でも使われている「ミナリ」(セリ)ですが。劇中では韓国から来たおばあちゃんが種をまいて育てているけれど、無粋を承知で言うと…「外国から持ち込んだ種子を勝手に撒いていいのかよ」と観ている間は気になってしまった。まあ80年代だし…まだそのへんはおおらかだったと思っておくかw
ミニオンズ

(2015年制作)
8
「怪盗グルー」シリーズのマスコットキャラ、ミニオンたちを主人公にしたスピンオフ作品。ミニオン達はグルーに出会うより前、人類誕生以前から自分たちのボスを探し続けていた。
「ミニオンが楽しい。」The Riseと、そう過去に「怪盗グルー」シリーズの感想に書いていたこともあるけど、本当にミニオンが主役になった! みんな思うことは同じなんだな、「もっとミニオンが観たい」ってw
皆見た目が似ている黄色の生き物。何を言っているかはわからないけど感情豊かで、いたずら心が旺盛だけれどもニクめないかわいい奴ら、ミニオン。本作ではボスを失い意気消沈の仲間を救うべく旅立つケビンと、スチュアート、ボブの3人が主人公。話の作りとしてはドタバタコメディなんだけど、ミニオンたちの目標への進捗と、一方で意図せず転がっていく状況変化がテンポ良くて楽しい。恐竜はともかくドラキュラをボスにしたり、雪男が出てきたりと色々とファンタジー。そういえばグルーも月泥棒なんだし、世界観はファンタジーに突き抜けていて問題ないが、ロンドンという実際の街や、存命の英国女王をネタにしたりしだすと妙な生々しさを感じるな。(エクスカリバーを抜いたボブに女王が禅譲するというネタは笑ったw)
映画のオチは観る前から「グルーと出会って終わりなんだろうなあ」と思っていたらその通りだった。が、髪がふさふさの子供(?)グルーで出てきたのは意外。あと、ラストにしか出ないかなと思ってたんだけど、中盤の「大悪党大会」で冷凍光線銃に興味を示していているグルーが背景にいて、それを伏線にしているあたりは良い感じ。
しかし作り手が観客を楽しませようと思っているのが分かる作品ですわ。登場キャラ総出演のカーテンコールなんて、まさにそうだよね。そしてこう思う、「もっともっとミニオンが観たい!」
ミニオンズ
フィーバー

(2022年制作)
7
「怪盗グルー」シリーズのスピンオフ第2段。悪党軍団"ヴィシャス・シックス"に憧れる少年グルーはその新メンバーとなるための面接に赴くが…。
邦題(の副題)は「フィーバー」ですが、内容的にはミニオンが“フィーバー”しているというよりは原題の“The Rise of Gru”の通りグルーが台頭するまでの話という感じ。本編1作目の「月泥棒」に続くような小ネタも随所に入っていて、「ミニオンズ」と言うよりは半分「グルーのエピソード0」といった印象も受けるかな。
今回は時代設定も含めて70年代ネタを中心にドタバタが繰り広げられる。シリーズ前作の「怪盗グルーのミニオン大脱走」では'80年代ネタが多かったので、今回が'70年代なら「更に遡るんかいw」と突っ込みたくもなるが、そういう時代ネタはメインターゲットにしているはずの子供には分からないだろうし、鑑賞に着いてくる親をターゲットにするにしてもちょっとネタが古い気もするので、そのあたりチョイスした理由がちょっと気になるところ。それでもドタバタ劇としては楽しめたけれど、内容的には子供向けの印象が強くて大人が観るにはキャラの掘り下げが浅いという印象は否めない。終始「どの年代をメインターゲットにしている映画なんだろう?」と不思議に思ってしまった。
中盤はグルーとミニオンが別行動になり、敵側もヴィシャス・シックスとそれを追われたワイルド・ナックルズで対立しているし、それぞれの行動を描くために度々話が飛ぶ印象。それでも「ミニオン大脱走」ほど流れが散漫には感じなかったのはまだ良かったかな。まあ後半になってカンフーの達人な鍼灸師が出てくるのは唐突すぎるし、「仲間が大切」というメッセージもなにか表面的な感じはするけれどね。
ミニミニ大作戦
7
終始ミニクーパーが爆走する映画かと思ったら、意外にも泥棒がメインの話だった。裏切り者の仲間が奪った金塊を取り返すために、5人の仲間がルパン張りのチームワークでで頑張る話。泥棒物という点で、個人的には「オーシャンズ11」よりも面白かった。中盤で、準備していた計画が使えなかったのも展開的には俺は好きかな。で、メインのカーチェイスはというと、CG抜きとして考えるとミニクーパーを生かした見事なカーチェイスだと思う。でもやっぱり「フレンチ・コネクション」程の衝撃は無いかなあ。ところで、ほんの一瞬だけど、群衆の中にスパイダーマンのタイツを着た人が見えたんだけど、あれは一体どういう意図なのか…w
身代金

(1996年制作)
7
息子を誘拐された富豪(メル・ギブソン)は犯人(ゲイリー・シニーズ)から200万ドルの身代金を要求されるが、彼は逆に犯人へ懸賞金を懸けるという賭に出る。
用意周到な犯人に翻弄される前半、身代金をそのまま懸賞金に変えることで一気に攻守を逆転させる後半、この立場のひっくり返し方がサスペンスとしては良いアクセントになっていて面白い。まああまりにも賭が過ぎる感じはするけど、そこはエンターテイメント映画だからね。
最初は主犯の男が刑事という肩書きなので、主人公の捜査に入り込む展開になるのかと思いきや、そうではなかったのが意外だった。展開上、刑事という肩書きが生かされるのは仲間割れの時だけ。攻守の逆転が手に汗握る以外は、比較的地味目な誘拐ドラマとも思えるのだけど、メル・ギブソンの貫禄とゲイリー・シニーズの知的そうな悪人ぽさの組み合わせは良かったと思う。最初から犯人の面が割れていることで、この手の話でよくある「真犯人は実は…」というどんでん返しは最初から放棄した形にはなっているけど、そこはロン・ハワード監督のいつものそつのない作りが上手く機能していたかな。まあ、むしろこれは正攻法で良いと思う作品です。
ミュータント・タートルズ
-TMNT-
8
2007年制作のフルCGアニメで描かれたニンジャ・タートルズ。
この作品は2003年のアニメ版(?)の続編ということらしいけど、それを観ていない俺でも(まあ87年版(日本では93年に放送)のアニメを観てたおかげか)すんなりと話には入っていけました。展開は割と安直(良く言えば分かりやすい)かもしれないけど、昔の思い入れも相まって娯楽作品として素直に楽しんで観られたね。とは言え多少の突っ込みどころはある。3000年前に出てきたモンスターは今までどこにいたのか?とか、13匹目のモンスターってあんなのだったっけ?とか。その辺は話の勢いで流して観てしまうけど…。
でも、やはりこういう荒唐無稽なキャラクターは、フルCGアニメの中にあって初めてリアルと思える。昔のような実写だとキツイかったろうw アクションシーンもスピード感があって良いです。
実は今作がマコ岩松の遺作でもあるので、日本人としては押さえておきたいところですね。
ミュータント・タートルズ

(2014年制作)
8
ニンジャ・タートルズの実写版リブート作品。
数年前までは実写版でリアリティを出すなんて無理だろうと思っていたけど、出来るもんだなあ…。着ぐるみとは違うフォトリアルなタートルズが画面狭しと暴れまわっていて、実に痛快。まあストーリーはベタな感じだし、そう深みもないけども、ターゲットの年齢層を考えれば割り切った王道展開で良いんじゃないかな。少なくとも個人的には十分楽しめたアクションエンタメ作品でした。ちゃんと「カワバンガ」も言ってくれるしw
シリーズ毎に少しずつ設定の違うTMNTだけど、今作ではスプリンターは元人間ではなく元ネズミのミュータント。という原作設定に近いが、ハマト・ヨシに飼われているでもなく、下水道にあった忍術の本を読んで独学で忍術を体得したとか…。「『空手の通信教育』ってなんかのギャグであったよなあ?」などといらん思考が頭を巡ったのはご愛嬌。ともあれ、それでもスプリンターは達人になったのだから仕方がない。
一方、宿敵シュレッダーは…デザインがカッコイイ!「もうこいつがシルバーサムライで良いよ」なんて「ウルヴァリンZERO」のことを思い出したり出さなかったり。それはそれとしても、スプリンターに圧勝し、4人がかりのタートルズすらも軽く捌いてしまうそのシュレッダーの強さは、まさにラスボス感が溢れていて良かったね。
ミュータント・ニンジャ・タートルズ
影<シャドウズ>

(2016年制作)
7
前作のノリをそのままに正当な続編としての4匹のカメの大活躍。
「マイケル・ベイ製作」というコピーがイメージさせるものを求めるならば、この映画はそれに十分に応えてくれる。前作よりも中身が薄い気もするけど、とにかく1番はノリとアクションを描くことなので細かいツッコミは無用だろう。道路で車が派手に爆発するのもそれを見せたいだけだろうし、飛行機にどう乗ったとかもどうでもよくて、とにかく空中アクションを派手にやりたい!が先に来たんだろうなあ。そんな感じがプンプン匂うけれど、この映画はそれでいいよ。
シュレッダーは中の配役も変わってしまったけど、仮面を含めたデザインは前作の方が格好良かったので少し残念。でもビーバップやロックステディ、クランゲも出てきて、「いたいたこんな敵w」と懐かしく楽しかった。アニメのノリを素直に実写へ落とし込んだものだと思えば、荒唐無稽さを勢いで押し切って、なかなかよくできていると思った次第。エンドクレジットの入りも懐かしのテーマ曲だったしね!
ミュータント・タートルズ
ミュータント・パニック!

(2023年制作)
8
下水道に住むティーンエイジャーのミュータント・タートルズ。特殊な装置を強奪している犯罪組織がいることを知った彼らは、人間の高校生・エイプリルと共に活動を開始する。
TVアニメや映画で何度もリブートされたシリーズだけど、本作は映画版での新シリーズ。エンディングを見る限り、続編を作る気は満々のようですね。CGアニメとしては先発の「スパイダーマン:スパーダーバース」と同様の思想で、ペイント的なグラフィックを強めにした「動くコミック」的なタッチになっている。見やすいかどうかはともかくアニメーションとしては味があって悪くない。タートルズたちのデザインも昔のイメージから上手くリファインされていていい感じ。エイプリルは今どきの映画って感じで昔とはデザインが変わってますね。
人間の世界に憧れたり受け入れられたいと考えているタートルズたちだけど、「ティーンエイジャーである」ってことがよく伝わってくるのも良かった。本作のスプリンター先生は"師匠"というよりは"父親"で、彼なりに気をもんでいて面白い。ちゃんと中盤に活躍していたのも良かったね。
やたらと映画やなんかの他作品のネタをセリフとして入れてくるのでちょっとしつこかったけど、終盤に「進撃の巨人」をヒントにしてくるのには驚いた。ラストバトルはその「進撃の巨人」よろしく巨大になったスーパー・フライとの対決で、そこでミュータントたちが人間のニューヨーカーたちと共闘する姿がなかなかの胸熱。バトルもスピード感があって面白かったので、続編でのシュレッダーとの対決は楽しだなあ。
ミュンヘン

(2005年制作)
8
1972年、パレスチナのテログループがイスラエルの選手団の2人を殺害し9人を人質にとったミュンヘンオリンピック事件。結果的に人質全員が死亡したこの事件の後、その報復としてイスラエルが実行した暗殺作戦を描いた社会派ドラマ。
当局は一切関知しない…暗殺集団。リアルな「ミッション・インポッシブル」とでも言うか、70年代ヨーロッパを舞台にしたスパイ映画の趣もある。ただそれだけで終わらないのがスピルバーグなわけで、ミュンヘンオリンピック事件を背景にしながらイスラエルとパレスチナという非常にデリケートなテーマが重い。
スピルバーグ自身はユダヤ人であるし、この映画の主人公もモサドの秘密作戦な訳だけど、暗殺される側は一見脅威が有るようには見えない紳士的な中東系として描かれているよね。かと言ってどちら寄りの話というわけでもないけど、殺害の対象としての妥当性を迷わせることで主人公の心情に影響させていく展開は上手い。アテネで図らずもPLOメンバーと語り合うことになるシーンはちょいと強引だなとも思ったけど、音楽という共通言語による和解の芽と、同じ土地を"国"とする信念の隔たりとが浮き彫りになって、悩ましい。人が死ぬことと、セックスと食という生の象徴の対比は個人的にはいまいち。
結局暗殺を進めたことで逆に命を狙われる側になり、次第に自らが暗殺の恐怖に襲われていく主人公。その憔悴した様子は、報復が連鎖する先にあるものを直截に伝えてくるけども、極めつけはラストカットですわ。あの世界貿易センタービルのシルエットが象徴するもの。描かれるのは70年代の事件だけども、紛れもなく9.11後の映画です。
ミラーズ
6
火災に遭ったデパートの焼け跡を警備することになった主人公が、そこで鏡絡みの奇怪な現象に遭遇するホラー映画。韓国映画「Mirror 鏡の中」のリメイク。
身の回りに当たり前にある物が怪奇現象の媒介物であるというのは、恐怖を身近に感じさせる良い手だね。でも「リング」のビデオや「着信アリ」の携帯電話などで出尽くした感のあるところに、さらに古典的な“鏡”という題材は…、さすがに新鮮味を感じない。かといって上質な演出で魅せるホラーか?と聞かれれば、スプラッタな描写とコケ脅しの音で脅かすだけのショッカー映画でしかないと考える。
一応主人公の家族を軸にしたストーリー展開なので、観ていてあまりブレはないんだけど、設定や行動には無理を感じてしまうところが多いかな。脅かし方もよくある手のモノが多くてあまり恐くなかった。ラストなんてホラーじゃなくてモンスターアクションになってるしなあ…。
主人公を演じるキーファー・サザーランドは、意識しているのかは分からないけど、かなり「24」と被るキャラクター設定だね。キレる、怒鳴る、射撃するw 話を引っ張るには使いやすいキャラなんだろうけど、もうちょっと違うアプローチもないものだろうか。
未来世紀ブラジル

(1985年制作)
7
主人公の夢と現実を軸に、情報管理社会を皮肉った奇才テリー・ギリアム監督の近未来SF作品。
ハエ一匹のせいで情報が狂って善良な市民が逮捕された上に獄死するところから話が始まるが、それ以前に夢に出てきた女性に固執する主人公が最初から妄想癖っぽくて妙な雰囲気。シワ取りに固執する上流階級の女に、戦う闇修理屋、空飛ぶ夢と鎧武者のイメージ…、といった未来のようなそうでもないような世界観と妄想の世界が作品全体の不思議さを増幅させる。
だけど正直いうと俺は終盤までは何だか退屈だった。その世界観や、その上で表現されるブラックなジョークはニヤリとするもののどうもノリ切れない。ただ、その退屈さも終盤に吹っ飛ばされたね。主人公が拷問時に見たその妄想。まさに妄想としか言いようのない展開のイメージは、そこまでの積み重ねの効果によるものであって、してやられた感を非常に感じるところです。バッド・エンドではあるけど、その引き込み方は上手かったなあ。
それにしても修理屋のデ・ニーロは彼が出るだけで全部持っていってるよね。何とも贅沢な役者の使い方かと思うけど、デ・ニーロは格好いい。ただの配管修理屋なのにw
ミラベルと魔法だらけの家

(2021年制作)
7
コロンビアの山の中にある集落でマドリガル家が住む家は魔法の家だった。そしてその家族もまた、子供の時に魔法のギフト(才能)を与えられるのだが、主人公のミラベルにはそのギフトを持っていなかった。
“親兄弟が持つような才能が自分には与えられなかった”というネガティブ要素を家族愛で上書きするようなストーリーだけど、いかにも予定調和な感じで纏めてますね。まあファミリー向けのディズニー映画だし、と思えばこれくらい直球でも十分か。ミュージカル部分も歌って踊ってに加えて魔法の効果によるアクロバティックな華やかさもあり、ディズニーアニメならではの長所を生かせている感じでよかった。
才能がないという所在のなさ、才能を持つがゆえの悩み、才能の有無による期待の差といった身近にありえる空気感を“魔法”という形でビジュアル化した発想は面白い。ただシンプルにいい話だとは思う反面、“一家の魔法が消える”という部分が与える物語への緊張感は、外から見ている分にはマイルドな印象だったかな。もちろんそれが当たり前の一族にとっては深刻な出来事であることには違いないのだが。優等生な映画だとは思うけど、記憶に残るにはもう少しパンチが欲しかったかなというのが正直なところ。
ミリオンダラー・ベイビー
9
老トレーナーと女性ボクサーが織りなす人生模様を描いたドラマ。
イーストウッド監督の語り口にはいつもやられる。観る前はトレーナーとボクサーの成功物語か、もしくは師弟愛を描いた人情モノくらいに思っていたけど、そんなものを凌駕する深い作品だった。やられた。
なんと言っても主人公・老トレーナーの心情の変化が実に自然に描かれていると思う。序盤は第三者、それが師弟となり、親子となり、最後に深い絆で結ばれる。だからこそ、序盤とは全く異なった内容に変化した後半のストーリーが辛く悲しい。それまでに散々血反吐の痛いシーンがあったけども、別種の痛みが刺さってきたわ…。
全体にボクシングの試合のシーンがあっさりと描かれていて(音だけのシーンもあったw)、イーストウッドが試合そのものよりも人を描きたがっているのが分かる。これは「スペース・カウボーイ」(宇宙モノなのにロケット発射シーンが一瞬w)の時と同じ。この監督の真摯な映画作りには好感が持てます。
ミルク
8
1970年代、ゲイと公表し米国で初の公職に就いたハーヴィー・ミルクの最期の8年間を描いた伝記映画。
マイノリティが偏見のない社会を勝ち取る為に活動するには様々な障害があるだろうけど、そんな偏見を打ち破り道を切り開いたミルクという人物は確かに凄い人物だと思った。しかし彼はカトリック系保守派だったホワイト元市政執行委員に射殺されてしまう。映画では、冒頭でその事件と暗殺に備えて遺言を残すミルクの姿が映され、観客はどうなって射殺に至るのか?というサスペンスも味わうわけだけど、そのあたりの構成が上手い。
俺はストレートなのでゲイの感覚はよく分からないけど、それでも自分の個性が認められないという不条理な抑圧感に対する怒りは分かる。そういう面で彼らが立ち上がるパワーには共感するし、感情移入できた。演じるショーン・ペンは迫真のゲイっぷりで…いやはやすごいがw ミルクを射殺したホワイト元市政委員は完全な悪役であるけど、彼を追い込んだのはミルク自身であったりもするわけでそのあたりは複雑な感じがするなあ。ホワイト役のジョシュ・ブローリンが良かったね。
ミレニアム
ドラゴン・タトゥーの女

(2009年制作)
7
スティーグ・ラーソンの小説を映画化したスウェーデンのミステリー・サスペンス作品。ジャーナリストの主人公に、ある財閥の前会長から40年前に失踪した姪の迷宮入り事件を再調査してほしいと依頼が来るが…。
話としては導入の失踪事件調査から、別の連続殺人の手掛かりにつながる展開。プロット自体はどこかで見たようなものの組み合わせだけど、主人公であるミカエルとリスベットというタイプの違うコンビのバディ・ムービーとしての構成は良いね。
原題は「女を憎む男」という意で、本作の事件に関連したタイトルになっている。女性が虐待・レイプ・快楽殺人などの被害者として描かれるテーマはなかなかハードだけれど、作品としてみると素直にミステリーとして楽しめる方が先に来ていると思う。まあリスベットの後見人のくだりは、あまりに絵に描いたようなゲス野郎の話なのでちょっと強調しすぎなような気がしなくもないが。
2時間半の作品なので、時間的には少々長め。でもテンポよく話が進むので長さを感じる様な間延びした部分は無いかな。むしろリスベットについては、後見人の話よりも、出自やどうやって今のスキルを手に入れたかとかをもう少し見せてほしかったかも?
ミレニアム2
火と戯れる女

(2009年制作)
6
スティーグ・ラーソン原作小説の2作目の映画化作品。次第に明らかになるリスベットの過去を描く。
前作で少し提示されたリスベットの過去。父親を焼殺しようとしたという部分が掘り下げられるけど、導入となった事件…東欧の人身売買がらみの話がうやむやな感じなので、どうにも消化不良気味な印象。主人公であるリスベットに無実の罪が被せられ、もう一人の主人公が無実を信じてその真相を明らかにしようとするプロットもありきたり。リスベットの技能であるハッカー能力や情景記憶がもう少し話に使えていれば良かったけど、ちょっとだけしか使わなかったのが物足りない部分かも。
終盤、黒幕の正体が判明するもさほど驚きもなく、そこに襲撃するリスベットも、血まみれで大変そうだけれどなんか違う気がして…。アサシンじゃなくてハッカーなんだからw 生き埋めされたのに掘って出てきたところは笑った。さすがに、タバコケース1つで「それかー!」とは納得できませんぜ。
ミレニアム3
眠れる女と狂卓の騎士

(2009年制作)
7
スティーグ・ラーソン原作小説の3作目の映画化作品。2作目で提示された陰謀の決着を描く。
2作目の直後から話が始まり、リスベットの父親絡みの陰謀を描いたサスペンス、そして後半は法廷劇といった展開に。リスベットの無実を勝ち取るためにミカエルが頑張るわけだけど、相手が巨悪風な割には詰めが甘いのでどうも緊迫感には欠けるかな。作風としては安定しているものの、リスベットはずっと病院で治療中だし上映時間は2時間半だしで、前半部分は少し退屈気味。法廷劇が始まると多少盛り上がっては来るけど、地味ではあるw まあ、精神科医の偽造を暴いてニヤリとするリスベットの表情がこの作品の全てだと思うし、動と言うよりは静な作品だから仕方がないか。
1作目のようなミステリーやサイコな作品としての面白さがなくなってしまったのは物足りないけど、一応色々なことに決着がついたのでそれなりに良かったか。ニーダーマン(リスベットの兄である殺人者)との決着のつけ方は引っ張り過ぎな気もしたが。
民族の祭典

(1938年制作)
8
1936年に開催された第11回オリンピック・ベルリン大会の記録映画(前編)。後編は「美の祭典」。
冒頭、ギリシャ神殿や彫刻のオーバーラップから古代オリンピック陸上競技の肉体運動へとすり替わるシーン。この時点でこの映画が何を目指しているのかが提示されている気がする。古代人が肉体の躍動を彫刻にとどめようとしたように、監督のレニ・リーフェンシュタールはそれを映像にとどめようとしたのではないだろうか。この映画はどの競技がどのような記録だったかという事実以上に、俺にはその競技に挑んだ肉体の瞬間を切り取った芸術作品という様に見えたし、特に三段跳びや走り高跳びのスロー表現で特に顕著だったと思う。
構成として、ポストプロダクションでの追加撮影や観客席のモンタージュ的演出があるので、それが客観的事実を伴うかといえば微妙だとは思う。でも、映画表現としての効果は最大限に生んでいるし、だからこそこの作品がただの記録映画以上のものとして歴史に残る作品になったのだろうね。
ナチ政権のバックアップで作られた本作は、ナチスドイツの威容を示すという意味ではプロパガンダ的要素がないとは言えない。確かに入場行進のシーンではドイツの入場シーンでひときわ盛り上がる興奮は観る者に伝わってきたしね。でも全体的に観れば各国の選手が競い合う姿の描写に、ナチスが掲げるような偏見の意図はあまり感じられなかった。様々な人種・民族の代表が全力で競い合う姿を、監督は政治的意図とは別に芸術として表現したかったのだと思う。
劇場版 ムーミン
南の海で楽しいバカンス

(2014年制作)
7
トーベ・ヤンソン原作の「ムーミン」の一篇から、作者の母国フィンランドで製作された長編アニメーション。
吹替え版で鑑賞したのだけれど、23年前の日本のTVアニメ版と同じキャスティングであることが、素直にうれしい。ムーミン一家もスナフキンもミイもミムラ姉さんも!スニフが台詞なしのモブだったのはちょっと寂しかったけど、致し方なし。
ストーリーは原作の一編「南の島へくりだそう」からだそうだけど、自分が大人になったからか、ムーミンたちの行為の端々に驚かされた。冒頭、座礁した海賊船から一家で積み荷を持ち出したり(いくら海賊のものとはいえ…)、後半なんてムーミンパパが知事の像を水路に沈めて別の像を置いたり(器物損壊やで!)w 全体的にムーミン谷の住人と、一家が海を越えてやってきたセレブの街・リビエラでの価値観の違いを描いたドタバタ劇なわけだけれど、むしろムーミン一家が非常識人に見えてしまうのはちょっと複雑な気分ではある。まあ最後には「ムーミン谷がいちばん」となるわけで、観ている方も安心ではあるのですが。
一方で、公式でそんなネタを入れるんだ…といったセリフもあり、そこは笑わせてもらった。「調べてもらったが、我々はカバではない」とかをムーミンパパが言うとはねえ。フローレンの口紅の位置も(意図的に)おかしい。一番驚いたのは、ビキニを着たフローレンに対してムーミンが「まるで何も着てないみたいじゃないか!」と苦言を呈すところだが、「君たち…普段は素っ裸じゃないか!」とツッコまずにはいられないw いや、これは狙ってる。絶対狙ってやってる。笑った自分がなんか悔しい。
ムーラン

(1998年制作)
8
老病の父に代わり、男装して従軍した娘の姿を描いた中国の伝説「花木蘭」。そのストーリーを基にしたディズニーアニメ作品。
ディズニーが描く東洋の伝説というのは珍しい気もするが、昔から欧州の童話をアニメ化しているのだからその範囲がより広がったのだと思えばそうか。舞台としては古代中国という男社会の時代の話だけど、主人公ムーランの"女らしく”というよりは"ありのままの自分"として生きるとするテーマは、20世紀も終わりに近づいた時代の空気を反映している感じもする。
ストーリー的には親思いの娘の孝行が動機なので感情移入しやすいけど、他民族からの侵略と戦うという戦争モノの側面もあるので、そのあたりの設定はシリアス風味かな。(直接的な戦死を描かないのはディズニーらしいが。) けど、狂言回しの小ドラゴンとコオロギのコンビがそんなシリアスさを和らげているし、アニメらしい動きの楽しさを演出するあたりもバランス感覚が上手い。"コオロギのタイプライター"は興味深いアイデアだ。訓練兵となったムーランたちが鍛えられていく過程をミュージカル一曲で一気に見せてしまうというのもセンスもよかったなあ。
アニメーションとしてのクオリティはもちろん一級品。雪山のフン族の大群と雪崩のシーンは、CG演出の効果を抜群に発揮させて見ごたえのある迫力を出してましたね。東洋人のキャラは"切れ長の目"といういかにも記号的な感じだけど、これは京劇的な表情のイメージもあるのだろうか? それでもムーランの女性っぽさと男装した時の男に見えなくもない感じ、それを両立させたデザインや動きがいいね。
ムーラン・ルージュ

(2001年制作)
7
19世紀末のパリ。キャバレーのムーラン・ルージュを舞台に、踊り子と駆け出しの作家の愛を描いたミュージカル作品。
オープニングは白黒にノイズの乗ったフィルム調で「19世紀末の映画っぽい幕開けでおしゃれですなあ」と思っていたら、本編が始まるや否や原色バリバリ、チャカチャカとした早回しや目まぐるしいカット数など、とても現代的なセンスで描かれるビジュアルに目が奪われた。(目も回るが。) 100年前が舞台なのに劇中で使われる楽曲の多くが20世紀のポップソングというのも面白いし、主演のニコール・キッドマンとユアン・マクレガーの歌唱がなかなか上手くて聴いていられるのが良い。「サウンド・オブ・ミュージック」のワンフレーズが出てくるのは20世紀FOXらしい手前味噌さではあるw
悲劇で終わりそう…という予感はオープニング提示されるし、観る側はそれを覚悟しながら観ることになるけれど、2人の純愛を割こうとする金持ちという構図はだいぶベタなので別に勿体つけなくても先が読めるとも言える。まあ歌って踊ってを楽しむ作品だと思えば、話はそれくらいわかりやすい方が良いわな。多人数を動員してのミュージカルシーンなどは、80年代以降に下火になったジャンルの復活を宣言するにはとてもインパクトのあるものだったし、それだけでも意味はあるだろう。その一方でエピローグからエンディングへの入りは、作中大半の騒々しさからから考えるとちょっと意外なくらいなんかしんみりとしていたけど、冒頭の場面にエンディングで再び帰ってくる構造は良いと思う。
ムーンフォール

(2022年制作)
7
突如として月がその公転軌道を外れ地球への落下を開始。3週間前後で地球へ衝突することが判明するが…。
天体が地球に衝突する系の映画は多々あるけれど、本作は金のかかったB級映画の部類。アクティブな陰謀論車の言うことが正しく、巨大機関のやることが上手く行かず、最後は愚連隊の様なチームの孤軍奮闘で解決…ってある意味でお約束みたいな展開だよねw VFXは派手だけれど、状況が突飛すぎてリアルでもなくなってしまっているのが皮肉なところだなあ。まあ規模感だけで言えばA級なのは間違いないけれど、ローランド・エメリッヒ監督作品でなければ相手にされないような感じの風呂敷の広げ方だなとは思った。終盤の地上の家族の方の危機は取ってつけた様な展開で、ちょっと話の脇道感が強かったのが残念。
月の落下を止めるという難事業を爆弾一つで解決させるために、「月はエンジンを内蔵した人工構造物だった」という設定を用意したのは割りと感心した部分。これでEMP一発で月が回復すれば元の軌道に戻っていくという無茶な設定を押し通すことができてる。でもそれがためにリアリティ的な緊張感は無くなっているのだけど、まあそれならそれで話をどう大団円にもっていくのかだけを楽しみに最後まで観ました。そういう意味ではみんなからバカにされ続けていた陰謀論者のKC(ジョン・ブラッドリーの憎めない感じが良い)が最後に身を挺して起爆するという展開はベタだけど熱い。でもなんだか既視感があるというか、ここまで来ると全体的に「インデペンデンス・デイ」の構造を“天体落下”に焼き直しただけのようにも思えなくない感じ(苦笑) まあエメリッヒ監督も開き直っているのかもしれないけれど、これが彼の中での王道ってことなんでしょうか。
そうそう、中盤の打ち上げであえて博物館のスペースシャトルを引っ張り出してくるあたりは「いかにもアメリカだなあ」と思った。全機退役したとはいえ、いまだにそこに宇宙へのロマンを見出すのはわかる。
ムーンライズ・キングダム

(2012年制作)
8
1965年の米国ニューイングランドにある小さな島。その島に住む少女とボーイスカウトの少年の駆け落ちから始まる騒動を描いた、ウェス・アンダーソン監督のコメディ・ドラマ。
コメディとは言っても大笑いするようなものではなく、アンダーソン監督らしいクスッとする描写のある大人のメルヘン映画といった趣。対象物を真正面に捕え、ドリーやパンでひたすら描き続ける画作りからして、どことなく作り物めいた雰囲気を漂わせるのだけど、それがノスタルジックな世界観と併せてすごくいい。まさに愛すべき小品といった感じ。
駆け落ちする少年少女は12歳くらい。大人びているというよりは、環境の息苦しさに共感した二人の逃避行ってとこだけど、すぐに見つかるあたりの世界の狭さが子供らしくてw それらに翻弄される大人たちも優しさが見え隠れして良いよね。そこがファンタジーというかメルヘンなところだけども。
それにしても配役が豪華。ブルース・ウィリス、エドワード・ノートン、フランシス・マクドーマンドとティルダ・スウィントン。監督作の常連ビル・マーレイに、目立つチョイ役がハーヴェイ・カイテルw
ムーンライト

(2016年制作)
8
主人公の少年期から青年期にかけてに3つの時期を切り取り、彼のアイデンティティを見つめ、描いた人間ドラマ。
主人公は口数が少ないし、観客に空気を読ませるような場面もあるので、そういう演出に対する観客のリテラシーもある程度求められるような気はした。いかにも文芸映画的とでもいうか、地味な感じもする。でも、主人公とその彼に影響を与えた3人の人物との関わりを中心に、主人公という一個の人間が形作られ、またその内面を浮き彫りにするドラマツルギーはとても力強い。
劇中のチャプターごとのタイトルに出てくる“リトル”、“シャロン”、“ブラック”はいずれも主人公の事であるが、一個の人間に3つの名前、3つの時代、しかし一つのアイデンティティである。ここには意味があるんだろう。全体的には主人公が本当の自分を見せられる相手…受け入れてくれる相手を得るという話なわけだから、きっと呼び名は彼の本質ではないはずだと感じた。もっと根本的に彼という本質を描こうとしているのだから、名前どころか3つの時代で主人公を演じる役者が全部違っていても問題ない。3人とも同じ魂を持つ人に見えたのは…すごいな。
少年期のリトルに影響を与えたフアンを演じたマハーシャラ・アリはこの役でアカデミー助演男優賞を受賞したが、これは納得の存在感。ヤクの売人であるフアンの内面は多くは語られないけど、第1章のラストで主人公に言われたセリフに肩を震わせていた(泣きそうな?)様子は印象深い。第3章で主人公がケヴィンに「ヤクの売人なんかを?お前はそんな奴じゃない」と言われた時の内面と対になっているのだと思うけど、本人にしか分からない複雑な思いをオーバーラップさせる場面だったな。
果たして主人公はケヴィンという相手を得た。いや、得たというよりは、少年時代からずっとケヴィンはありのままの主人公を受け入れていた。これは主人公が自分自身の事をケヴィンに伝えるまでの物語。フアンが「自分の道は自分で決めろ」と指し示した道の話。
ムカデ人間

(2010年制作)
7
夜道で車がパンクし、近くの邸宅に助けを求めた女性二人。しかしそこは、ムカデ人間を生み出すことを目論む狂気の外科医の家だった。
人間の肛門と口を外科手術で接合し、3人の数珠つなぎでムカデ人間とする。どうやったらそんな悪趣味なアイデアが出てくるのかw そんなアイデア一発で映画にしてしまうという事実にも感心する…。ジャンル的には「ホステル」的なB級ホラーということになるか。ただ、ムカデ人間というシュールな状況が突っ走っているので、細かいことを気にしだすと止まらない。特に地下室と地上の行き来がどうなっているのか…、クライマックスで螺旋階段がかなりの障害になっていることを考えると、それまでどうしてたのよ、と。まあそこを気にしてはいけない作品なんだけど、気にはなるw
先頭の人間が日本人のヤクザで、画としてはとてもシュール。日本人が観ると、言っていることが分かるので逆に滑稽に見えるなあ。これは監督の意図と違うような気もするw 最後は人間として死ぬことを選ぶところも、少し唐突だったかと。ハイター博士を演じるディーター・ラーザーの雰囲気はマッドな感じで良いが、行動の詰めが甘くてキャラクターの怖さとしてはもう一歩だし。警察もいまいち無能。
それにしても、主人公は真ん中につながれた上に最後はあの状況とは…。俺は絶対にあんな状態になるのだけは嫌だ、そういう嫌悪感だけは十二分に伝わってくる映画でした。
麦の穂をゆらす風
9
1920年代のアイルランドを舞台に、IRAの一員として英国からの独立を目指した兄弟の運命を描いたドラマ。
何とも力強く骨太なドラマか。もちろん事前にアイルランドの歴史をかじっておくことは必須の作品だけど、独立時の闘争や内戦を兄弟の物語と重ねたことで、単なる歴史物よりもグッと感情移入しやすくなっている。
冒頭の“英国の鎮圧部隊”(ブラック・アンド・タンズ)の、特高やSSを思わせるような横暴な行為。それに怒り、独立闘争を仕掛ける主人公達の姿を描いた物語の序盤は、自由への戦いとして観ている方も分かりやすい。でも後半の展開は観ていても辛い。兄弟でアイルランド自由軍とIRAに別れ、戦い、終わる。主人公が友人のクリスにしたことを、兄が弟に対して反復する展開。次第にすり替わっていく大義と、お互いの主張の埋まらない溝の話の持って行き方はさすがだけど、重い話だわ…。
そして、“立場によって変わる正義”、“独立闘争から内戦へ”という姿は、人間にとって本当に普遍的なテーマであるのだということを痛感した作品です。
ムタフカズ

(2018年制作)
6
フランスのバンド・デシネを原作にした日仏合作のアニメ映画。ギャングとスラムの街・DMC(ダーク・ミート・シティ)を舞台に、3人の若者が巻き込まれるある陰謀を描く。
主人公の出自が原因で何かの組織に追われたり、人間に擬態した宇宙生物がはびこるなど…どこかステレオタイプな物語にも感じるのだけど、リアルさとコミックさの境目が微妙に溶けてないようなところもあって、個人的には微妙だったかな。展開的には追われる側の緊迫感があるはずなんだけど、(こう書くとなんだけど)主人公のリノを演じた草g剛の演技がどうも淡泊な感じに思われてしまったのだよね。ここまでデフォルメされたキャラならもっと大げさなくらいの方が好み。他方、プロレスラー役を格闘家にさせるのも別に良いんだけど、明らかに棒読みな人もいてその辺が物語への感情移入の妨げになっていたのも事実。
アニメーションの制作は日本のSTUDIO 4℃。絵作りに関してはさすがのクオリティでアクションシーンは良く動くし、特に背景画の情報量はかなりのもの。いかにも「スラム街」という感じの汚れ感が伝わってくるのが良いね。リアルな頭身の人間キャラと、主人公たちの"黒いチビ"、"ガイコツ頭"、"動物"?っぽい3頭身キャラが同居している世界観は少し不思議。殺伐とした世界観や宇宙生物の侵略話、大量のゴキブリと主人公の関係も相まって、物語として何か意味を持たせようとしている感じはするものの…そのへんはいまいちハッキリとは分からなかったかなあ。
名探偵登場
8
ピーター・フォーク、ピーター・セラーズ、アレック・ギネス、マギー・スミスにデヴィッド・ニーヴン。豪華キャスト勢揃いの探偵コメディ。しかしまあベタなギャグの数々には笑った。特に序盤の盲目の執事の使い方が上手いなあ。アレック・ギネスがこの執事役をやっていること自体がギャグです。中国人探偵ワン役がセラーズというのも妙にはまってるし。クルーゾー警部役といい、この中国人ワンといい、胡散臭さ最高w ピーター・フォークは格好いいけどやけにヒゲが青いのが気になったw まあ、謎解きオチ云々は別にして、このコメディ映画はかなりイケてます。笑わせてもらいましたw ちなみに運転手役で若き日のジェームズ・クロムウェルが出てます。今作が映画デビューだそうで、初々しいですなあ。
名探偵再登場
7
邦題はまるで「名探偵登場」の続編のように銘打ってるけど、共通点はピーター・フォークが探偵の役をやっていることだけで、全くの別作品です。まあ、コメディという点も同じかな。基本的にハンフリー・ボガード映画のパロディなんだけど、俺は「カサブランカ」しか観ていないので少々パロディ部分は厳しかった。でも元の映画が分かって無くても笑えますw そこかしこにある言葉遊びとか、シチュエーション・コメディぶりが面白い。ストーリーはサスペンス風な謎解きだけど、そんなに深く考えても始まらないので、俺は全く勘ぐらずに観てました。その分、笑いに集中出来て良かったかも。
名探偵ピカチュウ

(2019年制作)
7
米国でも人気のゲーム「ポケットモンスター」。その派生作品である「名探偵ピカチュウ」を基にした実写映画作品。
ゲームのポケモンシリーズは今までやってこなかったので、キャラクターの存在や一般的な設定以上のものは詳しくないのだけど、この映画はニュートラルに映画作品として楽しめました。もちろんゲームをやっていればもっと楽しめた部分もあるのかもしれないけど、おっさん声のピカチュウとの軽い掛け合いをしながら進行するストーリーはテンポ良いね。まあ犯人が誰だとか実は父親は生きてるんじゃないのとかって話は、ハッキリ言って予定調和の枠からはみ出さないのだけど、おそらくターゲットとなっている10代前半より下の層の事を考えればちょうどいい感じかなとも思ったりします。
主人公が黒人なのに対してピカチュウの声をライアン・レイノルズにすることで、観客には「ピカチュウ≠主人公の父親」という思い込みをさせる作りになっている。これがどんでん返し的な要素としては機能しているものの、ハーフか養子かはともかく、その捻りって「スパイダーマン:ホーム・カミング」でも観た様な気がするので正直驚きは少なかったかな。まあでもレイノルズが演じるピカチュウは、毒気のないテッドやデッドプールって感じで良いキャラだったと思いますw
名探偵ポアロ
ベネチアの亡霊

(2023年制作)
8
アガサ・クリスティの名作小説をケネス・ブラナーが監督したミステリー映画の第3作。
「オリエント急行殺人事件」「ナイル殺人事件」と来ての本作。スケール感は前2作に比べるとやや小さくなったかも。その一方で作風はホラーテイストが強くなって、作品毎の作り分けは上手く出来ているように思う。特に本作は嵐の夜の屋敷の中が舞台なので、明るさや雰囲気が前作とは全然違うね。
原作は「ハロウィーン・パーティ」。ブラナー版のポアロ像はアレンジが強めだと思うけど、そのキャラクターイメージもだいぶ定着してきた感じ。前作で剃り落としたヒゲが復活していることに説明がないのは引っかかるけど、まあいいか。オカルト否定のポワロが降霊会の仕掛けを見破るために参加…というのが導入で、そこで起きる殺人が過去の事件と繋がって…というのが本筋。ミステリー部分は安心感のある展開で興味深く観られますよ。
一方で味付けとなるホラー風味は雰囲気とマッチして悪くないものの、ややそっちに寄りすぎている面はあったかも。まあポアロが観た幽霊や声は幻覚だったという筋書きではあるが、クライマックスでもガッツリ出てくるのは、さすがにミステリー作品にしてはオカルト側にちょっと踏み込みすぎかもね? それでも一夜の出来事をテンポよくスリリングに見せてくれたので楽しめました。
メイフィールドの怪人たち

(1989年制作)
7
不審でホラーな雰囲気漂う隣人の正体を調査すべく、騒動を巻き起こすご近所の住人を描いたコメディ。
監督は「グレムリン」のジョー・ダンテ。繰り出されるギャグは微妙で下らない陳腐な笑いながら、それはそれで気楽にニヤニヤ出来るので楽しくはある。今ではすっかり大俳優のトム・ハンクスも、この作品に出た時期はまだコメディ俳優のイメージが強い頃。若くて細い(w)が、こういうバカ映画に出ている彼も良いね。一方、バカ映画でありながらも“恐れるべき隣人はいったい誰なのか”といったテーマで、最後に価値観の逆転を放り込んでくるあたり、ちょっとしたヒネリが良かったと思う。まあその後のオチは安直だったけど、ある意味で予定調和かな。
しかし出てくるキャラにまともなヤツがいないよなあ。どいつもこいつもひとクセあってまともじゃないw 絶妙な雰囲気を漂わすヘンリー・ギブソンは良いね。ブルース・ダーンもこういうコメディをするんだと今更ながらに興味をそそる。まともな登場人物って主人公の奥さん(キャリー・フィッシャー!)ぐらいかと思うけど…俺にはとても「この町は最高!」なんて言えないわい。この作品の邦題センスはなかなか良いよ。
女神の見えざる手

(2016年制作)
7
米国の女性ロビイストである主人公・エリザベス・スローンに銃規制反対法案を阻止して欲しいという依頼が来るが、彼女はそれを断り、逆に賛成側の会社に移籍して真っ向から闘う道を選ぶ。
まさに蛇の道は蛇って感じの、勝つためには手段を選ばないという主人公のプロっぷりには感心する。というか、「あなたはまるで男」というセリフをフェミニスト団体の長から言われるシーンがあるけども、ああいうプロに徹するバイタリティってのは自己への強迫めいたものも感じるな。序盤はとにかく彼女の有能さを意識づけるために勢いよく言葉が飛び交って展開するけれど、主人公を演じたジェシカ・チャステインの説得力ある演技がこの映画のすべてと言ってもいい感じ。
後々の展開については序盤で伏線が張ってあって、特に「切り札」の出し方について冒頭でハッキリ言ってしまっているので、勘が良い人は最後の逆転劇があることは察しがついてしまうかも。まあその中身までは予想しにくいところではあるけど、ある程度「密偵」の存在に予想がついてしまうくらいには前振りが丁寧過ぎたかな。そこはちょっと気になったところ。それでも見応えを感じるのは、先にも述べた主役の演技や、セリフの多さをものともしない展開のテンポの良さ、そして最後の最後に大逆転という構成に面白さがあるからだろうか。
序盤で出た「ルカによる福音書 第14章10節」の引用は笑える。無知によるチャンスの喪失の例え話だが、神父の倫理違反をほのめかす例え話と考えると、彼女の行動ともマッチしていて興味深い。そのあと“勉強しておけ”の強烈な意訳で「エスペラント語で暗記しろ」などと言ったり、ああ俺ならこんな人の部下は無理!と思った次第w
MEG ザ・モンスター

(2018年制作)
7
未知の深海探査に向かった潜水艇が何かに攻撃され海底に沈む。半ば引退していたレスキューダイバーの主人公テイラーに声がかかり海底へと救出に向かうが、そこで目撃したのは太古の巨大ザメ・メガロドンだった。
ハリウッド映画だけど中国資本がたっぷりと入ってそう。「ジョーズ」や「ディープ・ブルー」に「オープン・ウォーター」っぽい場面もあり、色々と「どこかで観た様な」が積み重ねられた印象もあるので、ある意味で平凡な感じもする。人間関係の設定もありがちなやつだし。でもB級っぽいバカな描写はほとんどなく、それなりにちゃんと作られた視覚効果や主人公を演じたジェイソン・ステイサムの存在感によって大作の雰囲気も出ているよね。例え「どこかで観た様な」シチュエーションが色々あったとしても、作品内での色々な状況変化にもつながっていて飽きさせないのは良いと思う。
メガロドン自体を現代の海によみがえらせる設定として、マリアナ海溝の海底と思われていた場所よりさらに深い未知の海があり、そこにそのサメはいたのだという設定がなかなかよく考えたなと感心した次第。タイムスリップでもバイオテクノロジーで蘇らされたわけでもなく、水温躍層によってこちらの海とは隔絶した世界というのは、「失われた世界」や「地底旅行」じゃないけど古典SFチックな匂いがして結構好きですよw まあ設定上の水圧に関してはかなり省いている感はあるのだけど、娯楽映画なのでそのへんはいいや。
MEG ザ・モンスターズ2

(2023年制作)
7
深海探査に向かう主人公たちだったが、そこで何者かの爆破操作で起きた地すべりによって潜水艇が沈んでしまう。辛くも脱出し、海底ステーションへ向かう一行だったが…。
前作から5年経って、記憶もおぼろげながら主人公のジェイソン・ステイサムはサメ相手でも強かったよなあという印象だけが残ってたけれど、本作でも相変わらず強かった…。というかもう超人だよな、ステイサム。深海7,000メートルで素潜りとか信じられんw 何が起こっても「こいつだけは死なない」オーラが強すぎるあたり、全編ステイサムのステイサム映画になっていて、正直メガロドンよりも存在感がありますよ。でもそれが良い。
深海はリアルというよりはアクションのためのフィクション世界になっていて、そこは割り切って観ないとだめですね。まあ終盤に畳み掛けるモンスターパニックの様子などはもはやシリアスさなんてどこかへ行ってしまっているし、B級映画として開き直っている感もあるのである意味清々しさはあります。細かいところにツッコミ要素はいっぱいあるんだけど、どうでもいいか。
製作資本としては前作同様中国資本がたっぷり入っているようで、映画の雰囲気も半分中国映画。そういう事もあってメインキャラの一人であるウー・ジン演じるジウミンも大活躍。ステイサムのせいで霞んでしまっているけど、彼も大概超人ぽい活躍を見せていた気がする。
めぐりあう時間たち
8
3つのストーリーが並行して進み、次第にそれぞれがヴァージニア・ウルフの著書、「ダロウェイ夫人」によって密接に繋がっていることに気がついていく。ストーリーテリングは上手いと思った。著者がストーリー進行について語れば、こっち(観客)としてはそこから先読みするので「気が変わった」の一言で見事にミスディレクションされるw ニコール・キッドマン演じるヴァージニア・ウルフは自殺するが、それがエド・ハリス演じるリチャードと交差する。根底に流れるテーマの重さはなんとも言いがたい。人それぞれの幸せ、人生、生と死を考える良い機会になった。
メジャーリーグ

(1989年制作)
8
長らく優勝から遠ざかっている弱小球団クリーブランド・インディアンス。動員減による本拠地移転の許可を目論む新オーナーは、クセのあるメンバーを集めてシーズン最下位を狙うが…。
ピークの過ぎたベテランやムショ帰りの剛腕(ノーコン)、キャンプに勝手にもぐりこんだ俊足、とクセのあるメンバーばかりだが、冒頭の状況説明からキャンプ開始までの手際の良い展開は上手い。コメディはテンポが命だよね。オーナーの悪だくみを自分たちの成績で跳ね返すという主軸から、話が基本的にブレないのが良い。もちろんジェイク(トム・ベレンジャー)と恋人(レネ・ルッソ)のエピソードや、リッキー(チャーリー・シーン)とロジャー(コービン・バーンセン)の確執なども描かれるが、あくまで脇道として本筋に添える程度の踏込みだと思う。メンバーの話を淡泊なくらいアッサリにすることで、逆に“チーム全体というキャラクター”として受け入れられる感じかな。主役級はトム・ベレンジャーやチャーリー・シーンに間違いないが、あくまで主役はインディアンスというチーム。
しかしクライマックスでの球場全体に響き渡る“Wild Thing”の歌声は興奮するなあ。「メジャーリーグ」のイメージとして強烈に残る名シーン。でも話としてはリッキーが抑えて終わりではなく、延長戦でジェイクが決勝点を演出して逆転勝ちという展開。しかも長打ではなくウィリー(ウェズリー・スナイプス)の俊足を信じたバント作戦というところが、やはりチームとして勝ったと感じさせる良い展開だ。
メジャーリーグ2

(1994年制作)
6
シリーズ2作目。前作で優勝したものの、翌年にはチームの様相も変わって連敗続き。ファンも愛想を尽かし始める始末。
話の構造は前作と似たようなもので、低迷した成績からいかに優勝するかという話。チームの成績以外では今作ではリッキー(チャーリー・シーン)の恋路がメインに描かれる。が、全体的に予定調和中の予定調和。まあそういう展開自体は良いのだけど…どうも微妙に話の緊張感がない気がする。前作の様に全員が奮闘して逆境を跳ね除けるというよりは、リッキーをはじめ、個人個人の問題が蓄積してチームが低迷している方が目立つので、俺には話に乗れなかったのかもしれないね。クライマックスでリッキーが稲妻カットになっただけでそれまでの不振を帳消しにするくらいの盛り上がりになる流れは、ちょっと強引さを感じた。
日本人としてはやはりタナカ役で石橋貴明が出ているのが気になるところだが…正直言ってジャイアンツ違いっていうだけの出オチ要因だよね?w 一応その後も目立つ行動はしているけど脇の方で日本ネタを使ってバタバタしているだけというイメージ。でもタナカが選手としての能力自体はあるように描かれてるのは、悪い気はしないよ。
メジャーリーグ3

(1998年制作)
6
ミネソタ・ツインズ傘下の3Aチーム・バズの監督になった主人公は、クセのある選手たちを何とかまとめ上げて成績を上げていくが…。
正直言って、邦題が悪い。「メジャーリーグ3」と聞いたら、そりゃ再びリッキーの活躍か、それでなくてもインディアンズのその後が観られると思ってしまうわな。なのにいざ話が始まるとマイナーリーグ、しかもミネソタ・ツインズの話って「なんじゃそら」ってなりますわ。でも原題は“MAJOR LEAGUE: BACK TO MINORS”なわけで、「3」とは言ってないんだよね。(「2」の原題は“MAJOR LEAGUE II”だった。)なので現実にはシリーズのスピンオフに近い立ち位置だと思う。確かにロジャー(コービン・バーンセン)がオーナーだったり、セラノ(デニス・ヘイスバート)やタナカ(石橋貴明)が出ているので関連性はあるけど、ロジャー以外はゲストに近い扱いかな。実況のハリーも引き続き名実況(?)だが…ちょっとクドすぎない?
主役のガスが指導者としては良い人物で、対するツインズの監督が人徳のない小物。その上で、マイナーチームがメジャーチームをやっつけるのだから、そこにカタルシスが生まれるはずが、何故かいまいち盛り上がらないのが難点。小さくまとまりすぎてるのかなあ?前作までの感じを期待すると間違いなくガッカリするが、「ビデオスルーの映画なんだ」というくらい気楽に観ればそこまでヒドくはないかも…?
メッセージ

(2016年制作)
9
世界の12か所に同時に現れた、巨大な宇宙船と思われる謎の構造物。言語学者の主人公は、軍の要請によって彼らとのコミュニケーションを試みる。
未知の知的生命体といかにコミュニケーションを図るか。幾度となくSFで取り上げられるテーマだけども、その点に対するアプローチはとても地に足ついたもので、それによってSF作品としての説得力の土台ができている。意思疎通を行うには言葉か文字か、文字であればその形は音なのか意味なのか。段階的な解析が論理的でとても面白かった。「なぜそれが必要か」に対する例え話も興味深いよね。“カンガルーの都市伝説”は有名な話だけど、確かにここでは効果的。
でもここまでの接近遭遇の話だけで終わっていたら、アプローチの面白さはあれど普通のSF作品止まりだったとは思う。もう一段階のSF要素、「サピア=ウォーフの仮説」と「時制の超越という概念」を組み合わせた仕掛けこそがこの作品のキモですな。言語と概念思考の関係性によって、主人公は“彼ら”の言語を理解する度に時制を伴わない概念を習得するわけだ。冒頭、主人公の人となりを表現する娘への愛と別れを一気に見せる演出。その過去の出来事かと思わせるミスディレクションにはやられたなあ。途中に挟まるフラッシュバックにしてもそう。実は“バック”じゃなかったと気づいた時には本気でゾクゾクしたw 観客も次第にそれに気づいていくわけだけど、パズルのピースが埋まっていくように気づかされていく過程はとても良かったです。
考えてみればデザインも秀逸。宇宙船の「よく分からないが地球のものではないことは確か」と思える形もいいけれど、やはり文字のデザインだよね。既成の文字とは違うということ以上に、円で描かれるという事自体に彼らの「始まりや終わりという概念がない」ことをイメージとして納得させる力がある。
めまい

(1958年制作)
8
高所恐怖症の元刑事が、友人からその妻の尾行を依頼たことで起きる事件を描いたヒッチコック作品を代表するサスペンス。
オカルトっぽかったり、メロドラマだったり、サスペンスだったりと目まぐるしいドラマ。個人的には後半に入ったあたりの主人公が偏執気味過ぎて、少々引きながらも「話の攻守が入れ替わって面白いなあ」なんて思ったりもしました。やはりヒッチコック作品は一筋縄ではいかない筋書がいいね。ただ、この話で言うと友人の妻(実際は別人)に恋したり、好いてくれてる女を無下にしたりする主人公はあんまり好かんけどw
ストーリー以外ではカメラワークも凝っていて面白い。高所恐怖症の目眩感の表現である“逆ズーム”(この映画で初めて使われた)の効果は抜群。ドリーで役者の周りを回るカメラにしても、オープニングのCGにしても、そういう新しい効果を積極的に取り入れて成功させている点でも、見るべき所のある映画と思います。
メメント
9
映画は編集次第で前向性健忘まで疑似体験させてくれる。これはもう演出の妙ですな! 記憶できない男の話を観るのに、こんなにも記憶が必要とされるとは思わなかったなあ…w 基本的に筋はただただ哀れな男の話。ただ、時間を遡って見せることで先の読めない…、いや“過去の読めない”非常に面白い展開になった。ただ、ほんと、オチとして救いが無いというかコワイというか…。結局テディが真犯人だったかどうかは分からない。彼もレニーを利用してただけの可能性は十分にあるからね。テーマは良いと思う。“記憶とは何か”、自己の探求。「目をつぶっても世界はある」という台詞も好き。アインシュタインに通じるものがあるねw
メランコリア

(2011年制作)
9
姉夫婦の邸宅で行われる妹ジャスティンの披露宴。そして、巨大惑星が地球に近づいていた。
映画の冒頭で提示されるイメージ。ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」と共にスローモーションで描かれるそれは、まるで絵画の様に印象的で脳裏に焼き付く映像だった。星がぶつかること以外は(その時点で)何を意味した映像はハッキリとしないのだけど、続く第一部、第二部を見るとそれがつながっていく。つながっていくだけじゃなく、はっきりとした啓示として最後に何が起こるのかを認識させてしまうパワーがある。何と言ってもその冒頭のイメージが強烈だったからね。この終焉に対する絶望と達観は登場人物たちが感じているもの、まさにそれであって、終焉を登場人物が認識した次点で「ああ、あの見た通りに世界は終わるのか」と完全にリンクし話に入り込んでしまった。この感覚に持っていく作劇はなかなか。
究極的には地球は避けられようもなく消滅してしまう。その瞬間に至り、第一部の主人公ジャスティンは何もかも失って絶望していた魂が解放され、救済されるという描かれ方、そして第二部の主人公・姉のクレアは、未来を知り子供の将来を思い絶望する。この二者の対比がまさに"人間"の心理を描けているとも思うし、同時に未来に対しての希望を完全に否定している様にも…。やはりトリアー監督は人間を信じていないのかな。
メランコリアとは惑星の名前でもあるけれど、第一部でのジャスティンの披露宴での鬱状態、そして第二部での終末におびえるクレアの憂鬱を指していて、やはり惑星云々という話は状態を演出するためのものでしかないかと思う。それにしては圧倒的に存在感はあるが、でもその邸宅のみが舞台だし外界の情報はほとんどわからない。やはりパーソナルな心理の映画だよね。これがもしハリウッドなら星を破壊する勢いで宇宙に飛び出すだろうがw
メリー・ポピンズ

(1964年制作)
7
魔法の様なことが出来るナニーのメリー・ポピンズと、子供たちとの交流を描いたディズニーのミュージカル作品。
雲に乗ったり絵の中に入ったりという、子供にとっての夢の世界を実現してくれるメリー・ポピンズ。アニメとの合成が印象に残るけど、かなりの部分で実写による特殊効果も効果的に使ってるね。フワフワと人が浮かぶという表現がよくできていると思った。童心に帰って観れば、あのように宙に浮かんでみたいという気持ちを具現化してくれているわけで、実に夢のある描写だと思う。一方で銀行システムの話であったり、鳩に餌をやる老婆の話であったり、どこかしら社会風刺めいたものもある。単純に明るく楽しいファンタジーでないのがイギリス的という感じなのかな。
メリー役のジュリー・アンドリュースは安心して観られるが、バート役のディック・ヴァン・ダイクも歌って踊って楽しげな活躍ですな。エンタメ指向の煙突掃除のダンスはまるでMGMミュージカルの様、というかこれはワザとやってるよね?w 前半の絵の中の描写の様に、ディズニーならではの部分が後半には薄くなってしまった気もするけど、50年前にこのように夢を見せた作品という面で名作として残る映画というのは分かる。そして音楽面でも「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」と「チム・チム・チェリー」は耳に残る名曲。
メリー・ポピンズ
リターンズ

(2018年制作)
8
1964年に公開されたディズニーのミュージカル映画の54年ぶりに製作された続編。前作から25年後のロンドンを舞台に、再びバンクス一家の前に現れたナニーのメリー・ポピンズと一家の交流を描く。
正直、今さら続編だなんて…と斜に構えて観た部分はあるんだけど、想像以上に正当続編だったので観終わるころにはすっかり満足してしまいましたw メリー・ポピンズというキャラクターがブレていないところが重要だけど、それを見事に演じたエミリー・ブラントが良かった。それに本作で相方として歌って踊る点灯夫ジャックを演じたリン=マヌエル・ミランダが上手い。60年代の映画と地続きの世界観や楽曲の雰囲気といった部分はオリジナルへのリスペクトに溢れているけれど、基本的に新曲ばかりでオリジナルの名曲に頼っていないので気合が入っているなあと思ったね。ちなみに家の差し押さえのくだりはサブプライムの風刺だったりするんだろうか…?これは今更だし、考えすぎかなw
21世紀の映画はCGで何でも映像化できる時代。そういう意味では驚くような映像を見せるのは簡単じゃないけど、ワクワクするような世界という方向性でバスタブの中であったり風船で空を飛んだりと、絶妙に子供の想像力をくすぐるような感じがいいと思う。手描きアニメとの共演についてはオリジナルへのオマージュでもあるんだろうけど、この映画ために退職していたアニメーターも現役復帰したというのだから、それだけでも価値はあるな。
そして最大のオマージュは、終盤に登場したミスター・ドースJr.の役者だよね。ディック・ヴァン・ダイクが出てきて歌って踊るとは!w
メリダとおそろしの森

(2012年制作)
8
ディズニー/ピクサーのCGアニメーション。中世スコットランドのとある国。お転婆で弓の名手の王女は、気の乗らない結婚話に母親とケンカをするが、意図せず魔法で母親を熊にしてしまう。
反発から和解に至るまでのキーに魔法があり、時間制限の中で相互理解が深まっていく…という極めて王道な展開を見せる。親が考える人生のレールに対する反発。自分らしく生きたいという感覚自体は現代的な気分ですな。でも舞台になっている中世の雰囲気や、弓に剣に魔法といったアイテムがディズニーらしいおとぎ話として良い感じ。話もよく纏まっているけど、父王が蚊帳の外で暴れているだけといった感じなので、特にラストの闘いではもうちょっと中心で活躍できれば…とは思った。王妃熊の格闘には燃えたがw
CGはピクサーらしく恐ろしく精緻。森の鬱蒼とした感じや場内の雰囲気。主人公の頭髪のボリューム感はすごいw 主人公のビジュアル的にはあまりなじみのないお姫様像なので、最初はちょっととっつきにくかったけれど、その行動力は次第にかっこよく見えてきたかもね。
メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬
7
トミー・リー・ジョーンズ初監督作品。友人だったメキシコ人との約束を果たすため、主人公は彼を殺した国境警備隊員と彼の遺体と共に、埋葬のためにメキシコへと向かう。
非常に淡々とテキサスの田舎町やメキシコの風景、そしてそこで生きる人々を映し出す。なので国境警備隊に追われようともどこか緊迫感はないのだけど、ジョーンズのその舞台に対する優しい目線が伝わってくる気がしたね。
カウボーイ姿のT・L・ジョーンズはさすがに所作も雰囲気もバッチリキマってた。彼が演じるピートの行動は確かにやり過ぎな感も否めないけど、でも俺は彼のカウボーイとしての仁義は理解する。メキシコ人を殺しても処分すらされない国境警備隊員に対する怒りもあったんだろう。だからこそ、その隊員を拉致してまで埋葬地で贖罪させるといった行動に出たんだ。
拉致された隊員は、そこで良心の呵責という心情を吐露したことで何かが変わった。最後の台詞で特にそれが見て取れるけど、最後まで監督の目線は優しく、良かった。
メル・ブルックス
珍説世界史パートI
6
メル・ブルックスが歴史劇をパロディ化し、人類誕生からフランス革命までをドタバタ喜劇で描いた作品。
いかにもメル・ブルックスの作品らしく、下ネタ、ユダヤネタが満載。それが笑えるかは観る側の感性にも左右されるんだろうけど、俺は大笑いする場面は少なかったかなあ。「きっと外国人にはウケるんだろうなあ」と思うような場面は多かったけど、知識不足もあって全部が全部笑えたかというとそうでもない。個人的にはローマ編や宗教裁判編の様に力を入れて長く撮った場面よりも、旧約聖書編や、(実際には存在しない)パートUの予告編といった小ネタの方がメッチャ笑えたw 直感的に分かるネタだからなんだろうね。
メン・イン・ブラック

(1997年制作)
7
90分映画なので、テンポはいいけど、コメディ映画のためか危機的な状況もさっぱり緊迫感がない。トミー・リー・ジョーンズがベタベタなギャグするのは新鮮な気はするけども、かといって抱腹絶倒という言葉は当てはまらない。SFアクションだ!と思いこんで観るとガッカリする。まぁ、バカ映画と割り切ってみればそこそこ楽しめるかな?しかしKがわざと食われるのはあまりに無謀では?胃酸が強かったらどうしたんだろう?
メン・イン・ブラック2

(2002年制作)
6
前作の延長上にあるとはいえ、少し納得できないところがあった。K!そういう重大な事を知っているなら、ちゃんと伝えてから引退しろよな!ロッカーの王国とスーパーカーのダミー運転手は面白かったけど、それ以外では特に笑うところもなかった。そういう点では前作の方が面白かったかも。小ネタだけど、マイケル・ジャクソンがエージェントMになりたがってるのは良かったかも。宇宙人なのね、あの人は。オチはいまいちな気がする。
メン・イン・ブラック3

(2012年制作)
6
前作から10年後のシリーズ3作目。突如姿を消したK。過去改変によってKが存在ごと消されたことを知ったJは、1969年へとタイムジャンプする。
Jが過去に戻って若き日のKと会う…というアイデアは良い。若いKを演じるジョシュ・ブローリンも上手いし。ただ話のつじつまに結構無理があって、どうも釈然としない。タイムジャンプの設定が過去に移動してる場面と、記憶だけ過去に戻っている場面とでブレているし…。全編にあるジョークにしてもパーツとしてはニヤリとする場面があっても、それがどこかにつながるわけでもなく。強引には纏めてあるけど、行き当たりばったり感が強いんだよね。
聞けば撮影中に脚本がいろいろ変更されたという話もあるし、そういう弊害が如実に感じられる作品でした。まあ勢い重視のコメディ映画とは言え、10年ぶりの新作だったからもう少しは…と期待していたのだけれど。
メン・イン・ブラック
インターナショナル

(2019年制作)
7
登場人物を一新したシリーズ4作目。新米エージェントのMはロンドン支部の“英雄”Hと組んで、あるエイリアンの護衛にあたるが…。
本来このシリーズは若造とおっさんという組み合わせのバディムービーだったけど、本作からはにーちゃんとねーちゃんという若い男女のバディムービーに。新米とベテランという組み合わせは同じだけど、女性が目立つようになるってのは時代の変化ですな。でもそもそも「黒づくめの男」という都市伝説が元ネタと考えれば、そこから離れていってるんだが…。まあもはや元ネタとは関係なく、独り歩きしてる映画の世界観の一つってとこなんだろうけどね。
個人的にはタイムジャンプまで持ち出した前作よりは、本作の方が分かりやすくまとまっていて好感は持てたと思う。序盤の伏線が取って付けたかのようだったり、黒幕が誰かという部分はひねりがストレートすぎてひねりになってはいないけどw でもこのシリーズならそれくらい予定調和というか単純な方がいいと思うし、そのおかげで安心して楽しめた部分はあるかな。
クリス・ヘムズワースのハンサムだけどどこか抜けている感じのキャラは…。ソーとかゴーストバスターズのケヴィンとかのイメージと若干被るけど、まあこれが彼のハマり役なんだろうな。せっかくリブートしたのだし、このコンビで数作は続けてほしいとは思うくらいには楽しめましたぜ。
メンフィス・ベル

(1990年制作)
8
1943年のイギリスに展開中の米国空軍。昼間爆撃に24回出撃し無傷で帰還し続けているB-17“メンフィス・ベル”の最後の出撃を描いた物語。
「この出撃が終われば国に帰れる」という若者達の群像劇な訳だけど、しっかり任務を果たして生きて帰ってくるところが米国の映画っぽい。まあ実話なんだけどw 「爆撃は軍事施設だけ」という綺麗事を言うのも米国映画らしいね。
ストーリーは捻りはないが分かりやすく、素直に観れば十分な佳作として楽しめた。搭乗員だけで10人もいるので、それぞれのキャラの描き込みが浅くなってしまうのは仕方がないけど、100分強の作品にしてはよく纏めていると思う。個人的には兵士の気持ちに感心のない広報幹部がイヤな人物として描かれている割にオチがハッキリしていなかったので不満。
実機を使った飛行シーンはなかなかのリアリティ。さすがに高射砲のシーン辺りから合成が見え見えにはなるけど、なかなか頑張ってます。ただ、撃墜した敵機が僚機に激突して墜落とか、もしギャグだとしたらちょっと悪趣味な印象を受けたシーンもあった。無線から消えゆく断末魔自体は悲劇性の表れなのでまあ良いけど、その直後に撃墜させた当の副機長が、機長に対して「全部言うことを聞くよ」と言うのは明らかにギャグじゃないか?
モアナと伝説の海

(2016年制作)
8
海に選ばれた少女・モアナ。村長の娘として島のことを考え暮らしていたある日、その島に不穏な闇が忍び寄る。島を救うためモアナは一人大海原へと漕ぎ出すが…。
ミュージカル冒険映画! 主人公のモアナのまっすぐで嫌味のない感じはなかなか良かったな。対する“王子ポジション”は半神半人のマウイ。マウイはかなりゴツいビジュアルで他のディズニー王子像とは一線を画しているけど、最初はそりが合わないとこから始まって…しだいに認め合う仲になっていくあたりの話運びは割と類型的かも。でも“いかにも”なディズニー・プリンセスの構成だとしても、全体にポリネシア的世界観や大海原を駆け巡るビジュアルがうまくハマっていて素直に楽しかったな。ミュージカルな見せ方もさすがディズニーという感じ。
3DCGの海の描写はすさまじいね。海が割れたり意思を持った動きをしたりなんてのは、全くリアルな出来事ではないはずなのに水の質感がリアルすぎて本物に見えてしまう。恐ろしい。そんな風に背景美術ではとことんリアルな描写がありながらも、キャラ造形や演出はマンガ的だったりしてバランスはなかなか。頭のおかしい鶏のヘイヘイはコメディリリーフとしていい仕事してたねw 序盤ではてっきり子豚のプアの方が航海のお供になるのかと思ってたので、実際にはヘイヘイがお供になったのはちょっと意外だったかな。
アクションシーンのカメラワークは3DCGらしいダイナミックさだった。中盤に現れる海賊カカモラは、動きが若干クレイアニメチックな動きなのがニクイ。しかしあの襲撃シーンだけ観たら、完全に「マッドマックス 怒りのデスロード」と思い浮かべてしまいますわw
モータルコンバット

(2021年制作)
7
格闘ゲーム「モータルコンバット」シリーズを原作にした実写映画版。
原作ゲームは(特に描写が残酷だという点で)存在を知っている程度でプレイしたことはないし、1995年の実写映画も未見。ということで割とニュートラルな気持ちで観たけれど、魔界対人間界の支配権を賭けた格闘戦という実にゲームらしい世界観や、予定調和を外さない展開(修行→覚醒→勝利)になんとも懐かしい格闘アクション映画の雰囲気を感じる。その点ではストーリーはある意味ベタな印象だよね。ただ2つの勢力に多数のキャラクターがいる状況でも終盤でちゃんと1対1の格闘を用意して決着をつけていく流れにするのだから、そこは格闘ゲームが原作だという部分のこだわりかな。
正直、真田広之演じるハンゾウのキャラクター性が一番目を引く内容でもあったので、逆にルイス・タン演じる主人公・コールの家族の話や修行の話は取ってつけた風に思えてしまうのが皮肉。それでも他のキャラ達の格闘アクションシーンを繋いでいくための縦軸としては必要なわけで、そこをハンゾウの血統としてまとめた部分はストーリー上の工夫としては分かる。
割と普通な印象のストーリーに対して、アクションシーンの見せ方は十分にかっこよく楽しかった。“モータルコンバット”と聞いて思い浮かべる残虐描写は、思ったよりはおとなしいというか、確かに人体損壊の場面は色々あるのだけど、悪趣味という感じの手前で踏みとどまってはいるのである意味安心(?)。一番エグかったのは“鋼鉄ギロチンン帽子で頭から真っ二つ!”のシーンかな?w まあ、日本人的にはそういう奇抜な部分よりもハンゾウのアクション描写が冴えわたっていたところが最高でした。映画としても冒頭とトリを飾っているのだから、もうこれは真田広之が実質主役ですよ!
モービウス

(2022年制作)
7
生まれつき血液の病気を持った主人公マイケル・モービウスは、ノーベル賞も受賞するような天才的な医師。その彼が自身と親友の治療のために、吸血コウモリと人間のDNAを混合した治療薬を開発するが…。
「ヴェノム」の2作に続いて公開された「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)」の第3弾。内容的にはタイトルロールであるモービウスのオリジンの物語ですね。観終わっての第一印象は「20年前の超人映画みたい…」でした。どこかで観たり聞いたりしたようなスーパーヒーロー映画を垣間見せされているというか、出自の言及にしてもアクションにしても、なんかセンスが一昔前の映画のように感じる。別に「こういう見せ方って前にあったような気がするな」というものがあってもいいとは思うんだけど、それがオマージュなのかオリジナルとしてやっているのか、観ている側として判然としなかったのがモヤモヤするというか。アクション中に「マトリックス」シリーズっぽい感じで一瞬スローになるシーンももう少しオリジナリティを出しても良いのではと思ったし、大量のコウモリがキャラの周囲を飛び交う「バットマン ビギンズ」っぽいシーンももはやそれにしか見えなくて…。このクオリティで20年前に観てたら「すげー!」と思ったんだろうなとは思うけど、散々大量生産されて寡占状態となった今のヒーロー映画の中にあっては、かなりオーソドックスな感じという印象は拭えないかな。特にVFXに関しては観る側の目が肥えすぎてしまったね。
ラストにはマルチバースから飛ばされてきたバルチャーが登場。MCUのバルチャーのコスチュームデザインはマジで格好いいので好きです。というかこの映画に出てきた中で一番かっこいいと思ってしまったのがなんとも皮肉だなあ。とりあえず今後のSSUの展開に期待…。
モールス

(2010年制作)
7
スウェーデン映画「ぼくのエリ 200歳の少女」をハリウッドでリメイクした作品。母子家庭で暮らし、学校ではイジメに遭っている少年オーウェン。ある日彼はアビーという名の少女と出会う。
もう少し際どい設定のオリジナル版とは違い、ハリウッド版である今作は少年少女の恋にフォーカスし、人間とヴァンパイアという結ばれぬ運命の切なさを描いた恋愛ホラー映画になった。全体的にも上手く纏まっているのだけど、ただこれだけでは設定がありきたりな印象も。
その上で飽きさせない作りになっているのは、展開がオーウェンの感情に寄り添っているからだろう。彼に感情移入できれば、彼の孤独を癒してくれたアビーとの関係が切なくて仕方ない。これはこれで思春期の感情を描いた直球な映画(ジャンルはホラーだが)としては悪くないと思う。
しかしアビーとの生活について、金銭面や事件性としてのリアリティがイマイチ伴わないのが少々気になるかなあ。それでもラストシーンはこの映画の象徴としてよくできていると思うのだけれど。
燃えよドラゴン
7
かつて少林寺の同門だったという麻薬王の手下に妹を殺されたことを知った主人公リーは、その復讐を胸の内に秘め、麻薬王の島で開催されるという武道会に参加する。
言わずと知れたクンフー映画の金字塔であり、その後のアクション映画に大きな影響を与えた作品。制作から35年経った今観ると、さすがに007の影響下にあると思しきストーリーのチープ感は否めないんだけども、その魅せるクンフーアクションの凄さには目を見張る。怪鳥音と共に繰り出されるキック、ビュンビュン音を立てて振り回されるヌンチャク、力の漲った肉体が繰り出す打撃、当時多くの人がこのアクションに魅了されたというのはよく分かる気がする。「考えるな、感じるんだ」、名ゼリフだw ラストの鏡張りの部屋での闘いは、これ以上ないくらいの出来だねえ。
でもやっぱり個人的にはストーリー的な部分でちょっと物足りない。荒唐無稽なところは、古き良き時代の作品だからなんだとしてもね。
モダン・タイムス
8
喜劇ながら機械文明を批判した、チャップリンの代表作。初めてチャップリンの唄が流れたトーキー作品としても有名。
冒頭の流れ作業の場面からして、痛烈な大量生産や機械化に対する皮肉。そういった社会的なテーマでも、チャップリンに掛かれば見事な喜劇になる。しかもほとんどがサイレントなんだよなあ。“動きによる”笑いに対するこだわりが凄いわ。
個人的に気に入ってるシーンは、赤旗のせいで共産党員と間違われた場面、目隠しローラースケート、終盤の給仕係のシーン。“赤旗〜”は話の持って行き方がいかにも彼の喜劇らしく面白い。“目隠し〜”はマット合成なんだろうか、そうだとしてもあのシーンは見事w そして“給仕”は、なんと言ってもやっぱり彼の唄「ティティナ」。カンニング用の歌詞が書いてある袖がすっ飛んでいったときは吹いたw
そしてエンディングでは“人の幸せとは何か?”を感じさせるしんみりたカット。彼の作劇法はホント見事。
ものすごくうるさくて、
ありえないほど近い

(2011年制作)
7
9.11で父親を亡くした少年が、遺品の中から見つけた鍵の意味を捜し回る姿を描いたドラマ。
喪失を乗り越えていく前向きな話は良いと思う。主人公と言葉をなくした老人(間借り人)とのやり取りも、見ていて温かくもなった。だけどアスペルガー症候群ぽい主人公の少年の振る舞いには、正直イラつくこともしばしば。それはそういう行動をしてしまうものだから仕方がないのだけどね。それだけに、そういう主人公を温かく見守って導こうとしていた父親の存在はデカかったのだろう。そしてその喪失もものすごく大きい。その突然の喪失を受け入れるという気持ちの切り替えを、このように描くのに9.11から10年かかったかと思うと感慨深くあるか。
タイトル"EXTREMELY LOUD & INCREDIBLY CLOSE"は、彼が終盤で気づく彼を見守っている存在について言ったものかな。"実は母親が見守っていた"という事実は感動する場面ではあるのだけど、いささか伏線が弱いので少し勿体ない気も。
トム・ハンクスやサンドラ・ブロックという名優がでているけれど、今作で一番目を引くのは間借り人役のマックス・フォン・シドーでしたね。
森のリトル・ギャング
7
人間の食料を奪いに森の動物たちがやってくる。ドリームワークス制作のCGアニメ。
主人公のアライグマの声ってブルース・ウィリスなんですね。意識的に聞かないとあんまり分からない感じ。しかし向こうの役者は声優をさせても上手いよなあ。
ストーリーは人間の飽食に対する皮肉を込めた内容。ゴミを荒らすアライグマのニュースは聞いたことがあるので、主人公がこの動物になっているのは頷ける。しかし死んだふりをするオポッサムは日本ではどこまで通じるだろう?今際の際(のフリ)の場面で「バラのつぼみ…」と言うところはウケたけどw アメリカでは「市民ケーン」は一般常識なんだろうね。
主人公の言うことを信用していないカメのヴァーンが「奴は水の上を歩ける訳じゃない」と他の連中に言ったのはキリストになぞらえてこと。でも聖書の知識がないとその言い回しの面白さは分からないわけで、ファミリー向けのアニメなのにやけに文化の違いを体感してしまう内容でした。
全体的には、普通にこの手のファミリーアニメらしい作品です。
モンキー・ビジネス

(1952年制作)
8
偶然出来た若返りの薬によって引き起こされるドタバタを描いたコメディ映画。
“若返りの薬”と言っても肉体が若返るのではなくて、実は精神が若返る(退行してしまう)というのが騒動の原因に。冒頭、部屋から出てくるケイリー・グラントに「まだだよケイリー(出番ではないよ)」と声がかかるところからして、コメディのノリが感じられてニヤリとするところだが、主演のケイリー・グラント演じる博士とジンジャー・ロジャース演じる妻の精神だけ若返った様子がとても面白い。
ホテルでの痴話ゲンカは最高だったなあw ケイリー・グラントが部屋から閉め出されたあげくに(これはホテルの定番ネタか)最後にはリネン室のシューターから落ちていくとか…。彼のスラプスティック・コメディぶりには大笑いしてしまったw ビン底眼鏡がないと「メガネメガネ…」となるのもベタだけど、ケイリー・グラントがやるとなんだか可笑しい。ジンジャー・ロジャースの往年のダンスステップをチラ見せするシーンも好きだな。マリリン・モンローも脇役ではあるものの目立っていて、後年の活躍の気配を感じさせる。
主役二人の若返り演技は後半になるとさらにエスカレートして10歳くらいに退行…。さすがにここまでくるとやりすぎというかナンセンスな感じもしてくるけど、その後本当に赤ん坊になったと勘違いするくだりも含めて飽きさせはしない。インディアンごっこの様子が時代を感じさせるけど、「頭の皮をはぐんだ!」なんて、ごっこ遊びだとしても今じゃネタにできないよなあ。ただただその犠牲(モヒカンにされた)になった博士の友人・ハンクが気の毒である(苦笑)
モンゴル
7
チンギス・ハーンがモンゴル統一に動き出すまでの半生を描いた歴史大作。
全編モンゴル語の作品ながら、主演を張った浅野忠信の演技は見事。壮大なモンゴルの風景も相まって、実にスケールの大きい作品になってるね。
観る前はチンギス・ハーンの伝記映画なのかとも思ってたんだけど、枷を付けたまま敵から逃げた少年テムジンが、天に祈った次の瞬間に枷が外れていたのを見て「ああ、これは神話や伝説の類なんだな」と納得。そう思えば、天に見守られたテムジンが、何度敵の手に落ちようとその度に窮地を脱していく姿も違和感なく観られました。雷を背負う姿なぞ、まさに天を味方につけた者の姿だもんね。
そんな感じでテムジンの伝説(?)にクローズアップした構成なので、囚われの身から脱して再び勢力を得ていく部分は割愛され気味。特に西夏から脱出してジャムカとの戦いになる場面までの飛ばし方は少々驚いた。いきなりものすごい大軍勢を率いてるんだもんなあw でもドラマとしては特にそこが無くても成立はするので、まあこういうのもアリかとは思ったけどね。
モンスター

(2003年制作)
8
娼婦のアイリーン・ウォーノスが1989年から1990年に犯した連続殺人事件の経緯と顛末を描いたドラマ。
シリアルキラーの内面を描いているけれど、理解不能な異常者か、同情すべき境遇の人物かと言えば後者として描かれている作品。要するに快楽殺人ではなく、虐げられてきた人生の中で見出した希望を繋ぎ止めるために行動がエスカレートしていった…という流れかな。アイリーンとセルビーとは共依存の関係だけど、個人的にはセルビーの“養ってもらって当たり前”というかのような態度にはとてもストレスがたまった。前半こそ「手の怪我もあるし働かないのも仕方ないのか…?」という感じだが、手が治ってもその態度が変わるわけではないので、それでも見限れないアイリーンは完全に依存してるんだなあ…と哀しくもなる。それが彼女を泥沼に追い込んだという話だからね。
結局のところ「生きるにはそれしか手段がなかった」という彼女の娼婦としての境遇がそうだったとしても、「セルビーと一緒にいるため」は殺人の理由として正当化出来ないし全く同意もできない。しかしセルビーという存在にしか逃げ先がなかった彼女の境遇には、同情心がわいてしまう部分もあって複雑な思いはある。そういった感情を引き起こす筋立ては多分に“ドラマとしての”脚色もあるだろうが、実際の事件とその犯人・アイリーンの人物像を基に観る者に感情の綱渡りさせる物語の構造はとてもよくできていると思った。最初の殺人は正当防衛として描き、その後の殺人も小児性愛者に対する天誅的な云々であったりという流れを見せておいて、最後は銃を見られたという理由だけで善良な男性を射殺させてアイリーンを良心の呵責に追い込む。この流れも上手いよね。アイリーンの主観としての自己正当化を、最後の殺人でまさに打ち砕いたわけだ。
アイリーンを演じたシャーリーズ・セロンは本作でアカデミー主演女優賞を受賞したわけだけど、それも納得の演技だった。肉体改造はオマケであってやっぱり演技に迫真性がないとこれは観る者に訴えかけてこないからね。そこがすごい。一方でセルビーを演じたクリスティーナ・リッチも、アイリーンが依存の対象とするだけの魅力がないといけないわけで、そういう意味ではとても説得力があったな。
モンスター上司

(2011年制作)
7
それぞれ上司に悩まされている3人の友人同士が、遂に耐えかねて上司の殺人を計画するブラック・コメディ。
主演の3人はあまり知らない人たちだけど、パワハラ・セクハラ・バカハラな上司を嬉々として演じている役者が実に豪華。ケヴィン・スペイシーにジェニファー・アニストンにコリン・ファレルってw 特にコリン・ファレルはバーコード頭の面まで被って、二枚目俳優だったキャラはいずこw 米国のコメディらしく下ネタが多いのはご愛嬌だけど、ドタバタな展開は楽しかったな。
正直、本当の殺人が起こる展開は予想してなかったのでそこは驚いたけど、そのあとDNAで窮地に陥る状況にまた笑わせてもらった。バカだよなあと思う一方で、まさかそういう伏線になるとは、なかなか面白い。カーナビの描写もちゃんと上手く使っているし、構成は上手いよね。やたらと映画を引用しているあたりも、作り手が楽しんでいるようには感じた。"映画を撮る"のが生業の彼が、また最後にいい笑顔を見せるんだよなあ。
モンスターズ
地球外生命体

(2010年制作)
8
地球外生命体の出現によって国の北半分が隔離地域となったメキシコ。カメラマンを生業にする主人公は、現地で怪我をした上司の娘を米国まで送り届けるよう命じられるが…。
“低予算怪獣映画”と一言で表すならそれだが、バジェットの少なさを逆手に取った見せ方で最後まで引き込まれる。獣をあまり見せないという手段は常套だけど、後半になってからオープニングシークエンスに繋がる構成に気づいた瞬間はちょっとゾクっとした。映画のラストシーン…暗転のタイミングは絶妙。観客はその後どうなるか分かっているのだから。
ストーリーは地球外生命体をどうするのかという話ではなくて、その状況からどう脱出するのかというサバイバルものに近く、似たような映画を挙げるなら「クローバーフィールド」になるかな。でも怪獣に追われるのではなくて、広範囲にメキシコ横断をすることがメインプロットになっているのでロードムービー的な印象の方が強いかも。主役の男女2人が共感していく様子は、一観客としてはヤキモキするが、まあ「特殊な状況で結ばれた二人は〜」云々という「スピード」のセリフも思い出すw
主人公が巨大な壁を眺めながら、「アメリカは外からだと違って見える」と言うセリフが印象的。
モンスターズ
新種襲来

(2014年制作)
6
「モンスターズ/地球外生命体」の続編。中東での作戦に参加した米軍新兵の過酷な体験を描く。
前作の男女のロードムービー的な雰囲気から一転、しかもタイトルから想像するような怪獣映画ではなく、完全に戦場映画。“モンスター”はただの背景にしかすぎず、監督が撮りたかったものは“兵士が経験する不条理な戦場”だったとしか思えない作り。特にイラク戦争以降の米軍兵士の戦場にフォーカスしようとしている感じだけど、これって英国映画なんだよね。まあ戦場映画としては一貫した演出を見せるものの、極端なことを言うと“モンスター”が存在しなくても成立してしまう流れでもあり、「この企画を通すために無理やり『モンスターズ』の続編ってことにしたんじゃ?」などと勘繰ってしまう。
筋としては、地元の閉塞した空気から戦場に逃げてきた若者がそこで理不尽な現実に直面するという…、割とよくあるプロットに収まってしまっている感じ。死んでいく仲間たちとの関係性も序盤でざっと流すだけなので、それぞれの戦死の場面も感情移入するにはいささか踏み込みが浅いかなあ。結局映画の後半は上官の軍曹との二人旅だし、“地元の友人”という前振りと、“モンスター”という背景と、戦場に理不尽を背負って死んだ上官の話がちょっとずつチグハグな印象のまま話が終わってしまった気がする映画。
モンスターズ・インク
8
この映画は今までのピクサーと違って、ちょっとクレイアニメのような、ストップモーションのような動きをしているように思った。この動きはワザとやっているのか、それともそう見えるだけなのか半信半疑だったけど、前半に「ハリーハウゼン」と言う名前が出てきたので、恐らくワザとストップモーション風にしてたのかもしれない。レイ・ハリーハウゼンはストップモーションの巨匠だから、リスペクトしたのかも。しかしやはりCGの美しさ、話の分かりやすさは一級品。ハリーとマイクのコンビもバッチリだし、なによりブーの動きが可愛い。最後にちょっとしたどんでん返しもあったし、素直に楽しめました。ラストシーンがしっとりしてて好き。
モンスターズ・ユニバーシティ

(2013年制作)
7
モンスターズ・インクでの事件より以前、サリーとマイクが初めて出会った大学での物語。
夢を実現させるために念願の大学に入った努力家のマイク。一方で才能と親の名声だけで上手くやってきた節のあるサリー。どちらかというとそりの合わない二人が認め合うまでの話は、お互いの感情面の変化なども含めてしっかり作ってあって物語として破綻がない。さすがピクサーは優等生な作品を作る…とは思うものの、如何せん予定調和な話なので何か物足りなく感じてしまった部分も。冒険成分かなあ?ハラハラ感?
優勝がサリーの細工だったくだりは、思いやりのすれ違いが良い表現になってたし、二人で協力して人間世界から脱出する話も、名コンビ誕生のいい場面だとは思ったけども。個人的には、移動するドアに掴まりながら次々に飛び移った「〜インク」の様な見せ場がもう一つ欲しかった感じ。ところで、メインの話はサリーとマイクだけど、前作の悪役・ランドールがマイクとの出会いで何とも良い奴っぽいのはニヤッとした。在学中に性格がゆがんでしまったのねw
モンスターVSエイリアン

(2009年制作)
8
謎の隕石のエネルギーを吸収し、巨大化してしまった主人公のスーザン。彼女はモンスター“ジャイノミカ”として政府に捕獲されるが、突如襲来したエイリアンへの対抗策として、他のモンスター仲間と共にエイリアンと戦うことになる。
「カンフー・パンダ」('07年)が往年のカンフー映画に対するオマージュ作品なら、こちらは往年のモンスター映画への敬愛に満ちた素晴らしいオマージュ映画になっている。この辺のセンス、制作のドリームワークスのそれは侮れないわ。蝿男ならぬコックローチ博士、人食いアメーバ、半漁人、姿こそ違えど完全にモスラなムシザウルス。モンスターのチョイスもタマランw(会議室で流されるモンスターの紹介映像がまた良いんだわ!) そしてヒロインがジャイアントウーマンだもんなあ。
タイトル通りのストーリーが展開される中で繰り広げられるアクションとオマージュの連続は、子供にも大人にも嬉しいものじゃないだろうか。子供は単純にSFアクションを。そして大人は小ネタを拾ってウケる。明らかな「未知との遭遇」や「博士の異常な愛情」のオマージュに、一瞬だけ流れる「E.T.」のテーマ(映像は“E.T. GO HOME !!”と書かれたミサイルとは!w)。ほんと、分かる人には分かる様になっているその愛情の表現っぷりが楽しい。
モンスター・ハウス
7
近づくものを食べる“向かいの家”に立ち向かう少年少女の姿を描いたソニー・ピクチャーズのフルCGアニメ。
少年少女のちょっとした冒険譚なので観賞後の印象は「グーニーズ」に近い。まあ、スピルバーグにゼメキスが制作しているし、元々そういう企画なんだろう。ただ化け物家屋になった裏話は結構ハードな話じゃないか。そのあたり、突き抜けて明るくならないところは大人が観ても案外受け入れてしまう設定ですね。
クライマックスの暴れ回る家は迫力満点。しかしそれだけ暴れたら他の住民も気づくのでは…。でも一切そういう描写がないのが子供が認識する狭い空間らしさなのか。今そこにある出来事だけが世界、みたいな感じ?
ネバークラッカー氏は気の毒な人だ…。でも悪そうに見えるけど、すぐに悪い人じゃないのは分かってしまった。まあ、得てしてこういう描かれ方をする人の、実は良い人だったってのは王道ですな。声を演じたスティーヴ・ブシェミは上手い。
オープニングの空中を舞う紅葉は「フォレスト・ガンプ」のセルフ(?)パロディだよね、きっと。
モンスターハンター

(2020年制作)
7
同名の人気テレビゲームを題材にした実写アクション映画。荒野で嵐に遭遇し、気づくと見知らぬ砂漠に放り出された特殊部隊員たち。そこに突如巨大なモンスターが襲い掛かる。
現代の兵装の軍人が異世界に迷い込み、そこで戦闘することになるという状況自体は“異世界モノ”ではベタな設定。とはいえゲームを知らない観客もいることを前提にすれば、そういう設定も理解はするし、それなりに目的の機能も果たしていたとは思う。監督はインタビューで「メタルギアソリッド ピースウォーカー」でスネークがリオレウスと戦うコラボコンテンツに影響を受けたとも言っていたけど、現代の軍人がモンスターにマシンガンやRPGをぶっ放している様な描写を観ていると、確かにそのへんの影響はもろに出ている感じだね。
しかし、ストーリー自体はかなり大味だった。というか、もうこれって旦那であるアンダーソン監督が奥さんであるミラ・ジョボビッチをいかに強く格好よく撮るかっていうPVなんだと思う。そう考えれば、どんなにストーリーが大味でも「まあいいか」って許せてしまうのがアンダーソン作品の強いところ(苦笑) ほんと、この監督は奥さんを撮るのが好きなんだってことだけは凄く伝わってくるわ。まあそんな感じの内容ですが、それでもモンハンのビジュアルを実写で再現したという意味ではイメージそのままのディアブロス亜種やリオレウスはかなりよく出来ていたし、それらが大画面で暴れまわる様には正直興奮しました。
しかし続きを作る気満々の終わり方だったなあ。映画の「バイオハザード」みたいに独自に発展していけるかな?
このコーナーは暇ができないと更新できないので、不定期に更新しています。


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